概要
デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。
あっという間に今年、2019年も終わりを迎えようとしています。年を取るとますます1年が早く感じるようになります。来年は東京オリンピック。私は前回の東京オリンピックの年に生まれたのですが、生まれたばかりだったので記憶にありません。来年の東京オリンピックイヤーはしっかりと記憶に残る1年にしたいと思っています。
さて、「来年の事を言えば鬼が笑う」と言いますが、Oracleライセンス監査の結果は、予測が可能です。
「100倍なんて、想定外の金額を請求された!」
「SIer を訴えることはできますか?」
請求額が跳ね上がるには理由があります。
SIerは契約上コンプライアンス責任が明文化されていなければ、まったく責任を負いません。
「でも、SIerが大丈夫と言ったのに」
この契約社会では、口約束は何の役にも立ちません。したがって「契約」をコントロールすることが重要なのです。ということで、今回はなぜ、Oracle監査請求額が100倍、いや、簡単に数100倍になるのかと、それを防ぐ方法を解説したいと思います。
仮想環境で使用不可能なOracle スタンダード版
典型的な100倍請求の原因は、「スタンダード版をVMWare で構成した仮想環境で運用している」というケースです。そもそも、スタンダード版は、さまざまな制限があります。スタンダード版を運用可能な物理サーバーのスペックは、2ソケット(2CPU最大搭載)のサーバーです。そして、仮想環境は一切認められていません。Oracleは、ソフトパーティショニング技術(Soft Partitioning )を、ライセンス消費を左右するテクノロジーとして一切認めないという文書も発行しています。ただし、契約書中には明文化されていません。しかし、Oracle社の監査では、スタンダード版が2CPU以上の物理サーバー上や、仮想環境で運用されている場合は、すべてエンタープライズ版を買い直さなければなりません。
さて、以下の単純なシナリオで考えてみましょう。
スタンダード版2ライセンスを、2CPU に割り当てて運用しているつもりでした。
ところがスタンダード版を運用している物理サーバーには4CPU搭載されていました。
さらに、環境はすでにVMWare6.0 で仮想化されていました。
購入したスタンダード版をStandard Edition ONE (SEO)と仮定し、約70万円+サポートを支払っているとします。2ライセンスですので×2 で、140万円+サポート(約22%)。
スタンダード版は、1CPUに対して1ライセンスを消費します。
エンタープライズ版は、1コアに対して1ライセンスを消費します。
使用しているCPUは、クアッドコア(4コア)とします。
エンタープライズ版は、570万円+サポートとします。単純にライセンス価格だけでSEOの約8倍。
さらに、4コアのCPUであれば×4で、32倍。
そしてクラスタ構成が4CPU ×5サーバーで、20CPU を32倍すると、640倍。
ところが、VMWare 6.0 は、複数クラスタを構成する、複数vCenter をまたいでインスタンスが移動可能なことから、対象はすべてのCPU となります。御社のCPU数×32倍で考えてみてください。
簡単に数百倍に膨れ上がる監査請求額
「スタンダード版の制限をよく理解できていなかった・・・」
原因は、「プロジェクト―調達―VMO:ベンダーマネージャ―インフラ―Oracle技術者―運用」という組織横断の取り組みやプロセス、契約における責任の所在や役割が「あいまい」なことです。
Oracle監査に苦しむ多くの組織で、契約におけるライセンスの条件や制限を理解し、運用環境でライセンスコンプライアンスをコントロールする仕組みが「欠落」しています。
「契約」を交渉するためには、契約条件を正確に理解し、自社の運用環境におけるライセンス運用の実態を把握しなければなりません。
「どのような契約をしたのか、運用現場では具体的に理解できていません」
「どのようなライセンスに仮想環境における制限があるのか、仮想環境の運用者には理解できていません」
このような状況では、監査請求の妥当性検証ができるわけもありません。
複雑化した今日の環境では、契約で与えられた条件や制限を適用してライセンスをコントロールするケイパビリティが求められます。そして、それは組織横断的に取り組まれなければならないのです。
そのためには、まずは「Oracleライセンスたな卸し」(契約、Ordering Document (発注情報)のたな卸し、運用インスタンスのインベントリたな卸し)の実施が必要です。
そして、たな卸しした結果を分析し、コンプライアンスと運用計画を見直し、運用環境の是正をし、契約の継続的改善を実施することが大切です。
いつ取り組みを開始するべきでしょうか?「今です!」
ベンダーマネージャの社内育成とアウトソーシング
グローバル市場では、特定のベンダーに特化したベンダーマネージャのアウトソーシングサービスやコンサルテーションなどが多数存在しています。特にOracle社の契約は複雑で、専門的知識が要求されますので、この分野の専門コンサルティング会社の増加が顕著です。しかし、サービスの品質はまちまちですので注意も必要です。
これらの課題を経営層に対して理解を促し、現場の取り組みを支援する組織としてベンダーマネジメントの啓蒙から教育、ベンダーマネージャ同士の横の繋がりをもって、より良いベンダーとの関係性を構築するためのパートナー戦略や、契約交渉力を身に着けるために「一般社団法人 日本ベンダーマネジメント協会」(https://www.vmaj.or.jp)が発足されました。
日本ベンダーマネジメント協会では「Oracleライセンスたな卸しサービス」などもグローバル市場のOracle専門コンサルティング会社との連携サービスなどをご紹介しています。自社のOracleライセンス契約の状態に不安がある方は、日本ベンダーマネジメント協会に問い合わせることをお勧めします。
日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。
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筆者紹介
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師
IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。
【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)
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