さて、第7回は、「組織や環境により異なるライセンス管理の自動化アプローチ(後編)」と題して、混在するエディション、サブキャパシティモデルなど、複雑な管理メトリクスをコントロールするための正台帳とインベントリ情報の突合を自動化するために理解するべき管理メトリクスとしてのCI(構成アイテム)とCIの関係性、さらに、SLO(ソフトウェアライセンス最適化)自動化ツールの要件と機能を解説します。
これらの契約条件を理解すると、ライセンス契約、購入情報/発注情報、ライセンス(ライセンス契約条件/エディションなどライセンスモデルの条件を含む)そしてライセンスエンタイトルメント(使用権としてのライセンス数)の管理義務が理解できます。
これらは構成管理における対象CI(構成アイテム)と考えることができますので、CMDB(構成管理DB)で実現できそうですが、実際にはどうでしょう。 欧米の組織も構成管理に取り組んだ当初はライセンスを含めてCMDB をカスタマイズして対応しようとした取り組みがありましが、ライセンス契約の条件がこの10年間ぐらいで仮想化やクラウド化に伴い複雑化したことで、特に商用ライセンスのライセンス最適化という取り組みに要求されるケイパビリティが年々難しくなり、その取り組みを支援する自動化ツールとして2016年にはガートナーがSLO(ソフトウェアライセンス最適化)自動化ツールというセグメントを識別するに至りました。
ガートナーが識別するSLOツールセグメントのツールベンダーの例
- Flexera Software (フレクセラ・ソフトウェア)
- Aspera Technologies (アスペラ・テクノロジーズ)
- Snow Software (スノー・ソフトウェア)
これらSLOツールの特徴は、IBM、Oracle、SAP、Microsoft などの複雑化するライセンス契約を体系的にひもづけて管理することができることと、ライセンス条件をライブラリ化し、ライセンスエンティティがライブラリ化されたライセンス条件を基に管理メトリクスを提供し、収集されたインベントリ情報を用いてライセンス割り当てと現状を突合し、コンプライアンスの状態の管理をある程度、自動化してくれるということです。
以下図に、フレクセラのツールを例にして、単純化した管理項目(CI)とCIの関係をひもづけた管理体系を示します。
ライセンスのエディションやバージョン情報は運用環境におけるコンプライアンスに大きく関係しますので、ライセンスは適切なエディションとバージョン情報と、それらの情報を基にひもづけたライセンスの管理メトリクスとなるライセンス条件のライブラリにひもづけられます。ライセンスエンティティはあくまでライセンス条件を管理しており、ライセンスエンティティに対してエンタイトルメントとしての使用権の数、つまりライセンス数がひもづけられます。このエンタイトルメントを実際に運用するVMに割り当てることで、VMのインベントリ情報と突合し、VMに割り当たっているハードウェアリソースの状態からライセンス違反がないかを判別する仕組みが提供されています。
これらのSLOツールのもう一つの特筆すべき特徴としてさまざまなインベントリツールに対応して直接的に連携ができる機能をサポートしていることが挙げられます。欧米の大手組織の約80%がWindows環境のインベントリ収集ツールとしてMicrosoft 社のSCCM(System Center Configuration Manager)を用いてインベントリ収集、メータリング、ソフトウェア配布を行っています。SLOツールの多くがSCCMとの直接的な連携をサポートしています。さらに、IBM ILMTやBigFix 、SAP Solution Manager、vCenter などとも直接連携をサポートしています。そのほか、フレクセラなどは独自のインベントリツールも提供し、IBM ILMT の代替製品としてIBMの承認を受けて登録することで、ILMT を使用せずにフレクセラ社が提供するインベントリツールにより全てのLinux、UNIX環境のインベントリやVMのインベントリを収集することも可能となっています。製品ごとに提供されるインベントリツールを使用するとデータセンターでは20種類以上も存在するインベントリツールに対応しなければならないことにもなり、選択肢としてインベントリツールを統合することも昨今のトレンドとなっています。混在環境のインベントリ収集に対応したツールとしてはEracent社などもツールを提供しています。 そして変更管理の側面での支援機能としてBIA(ビジネス影響分析)の観点から、割り当てたライセンスを異なる環境に移行する際に利用できる分析機能(What-If分析など)が提供されています。これは、VMに割り当たっているライセンスへの影響を、VMの移行先の環境と現在の状態を仮定で比較し、ライセンスの消費にどのような影響があるのかを事前に計算できる機能で、変更管理におけるリリース管理で事前にライセンス消費の変化を計算し追加のライセンスが必要になるかなどの情報を提供してくれるのでライセンスの運用管理者にとっては非常にありがたい機能です。
SLOツールを使うことで商用ソフトウェアで複雑なライセンス条件を持つ、異なるエディションやサブキャパシティやユーザーモデルのライセンスを管理することはある程度、自動化し、レポートを作成し、契約交渉に利用することが可能となります。しかし、構成管理をSLOツールでは網羅的に対応することはできません。システムとサブシステムの関係や、システムを構成するサーバーハードウェアの構成や、自社開発したアプリケーションの構成管理はCMDB が必要です。また、SLOツールでベースラインを構築する際に、ライセンス契約の構成は、ライセンス契約の構成や関係性を理解する人が関係性をひもづける作業などをマニュアルまたはバッチでデータを入力して処理する必要があります。そして、ライセンスの割り当て情報なども同様に、どのエディションをどの物理サーバー、あるいはどのVMに割り当てるのかを理解した状態で割り当てる作業が必要です。つまり、全自動にはならないので、これらのナレッジが求められるということになります。 ライセンス契約やライセンス条件など特定のベンダーのサービスや製品情報はVMO(Vendor Management Office)に集約するなどして、それらの情報をSLOツールを運用するチームと知識管理と共有や、教育により情報を共有する必要がでてきます。 IT組織の中にVMOやSLO運用管理チームなど専門的な知識を持つチームを育成するか、または、ライセンス条件や割り当て情報の提供を受けて運用を支援することができるような専門的なサービスを提供するアウトソーシングのパートナーを獲得するか選択肢はあります。ただし、アウトソーシングする場合は、ライセンスを管理するために十分なライセンス契約条件などの知識や、契約情報、購入・発注情報、割り当て情報などを提供されてSLOツールを用いてひもづけ処理を実施するために十分な知識やスキルセットを持ったパートナーであるかをしっかりと評価し、コントロールする能力(ケイパビリティ)だけは必要となるでしょう。
さて次回は、IBM ミドルウェア製品のPVU(プロセッサ・バリュー・ユニット)に代表されるサブキャパシティライセンスの管理のポイントを解説します。
以下に、IT資産管理システムのRFI/RFP のポイントをまとめた資料ダウンロードサイトをご紹介しますので参照してください。 再配布の際は出典を「国際IT資産管理者協会:IAITAMより」と明示して利用してください。
IT資産管理システム RFP たたき台 基本要求事項
http://files.iaitam.jp/2017ITAMAutomationSystemRequirement.pdf
IT資産管理システム RFP項目と機能項目概要
http://files.iaitam.jp/2017RFPItemAndDescription.xlsx
国際IT資産管理者協会 フォーラムサイト
メール会員登録だけでフォーラムサイトのホワイトペーパー、プロセステンプレート、アセスメントシートなどダウンロードが可能!
http://jp.member.iaitam.jp/
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筆者紹介
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師
IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。
【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)
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