番外編 BookCafe
今回は番外編ということで、「システム管理者のためのBookCafe」(*1)のように、各種の本をテーマにしたいと思います。とはいうものの、単なる感想だけでなく私の私見やその他のネタを混ぜ込みつつ、語っていきます。しかし、本やマンガ、アニメなどの感想って面倒なんですよ。書きすぎるとネタバレになりますし。先日の、某局のクイズ番組の「まどマギ」(*2)(*3)のように、それを書くとネタバレで面白さ半減という限界を見極めないといけないので。
さらに、BookCafeではビジネス書っぽい本がメインなんですが、それは避けていこうと思います。そもそも個人が書いたビジネス書って、その著者の経験に基づく本が多いです。マッチする状況や仕事の場合は良いのですが、そうでない場合は、このコラムの注意書きのように「本コラムに記載された内容を用いた運用などは、読者の責任と判断においておこなってください」になってしまいます。なので、思いっきり仕事とは関係のない世界、いま流行りの異世界ものを中心に、いくつか紹介したいと思います。
まずは「転スラ」で一発逆転
異世界もの、といったら「転生したらスライムだった件」略して「転スラ」が有名でしょうか。コミック化、スピンオフ(*4)、アニメ化という3つのヒット要素をクリアし、かつグッズ展開、ゲーム化などもされています。内容は、文字通り、「転生」したら、「スライム」という史上最弱の生物・魔物だったというところから始まるストーリーです。
<図表13-1 「転生したらスライムだった件」>
著者伏瀬氏によりますと、スライムといってもドラクエ(*5)風のスライムというよりは、昔のテーブルトークRPG(*6)に登場するスライムのイメージらしいです。でもアニメ版だと、可愛い水滴状スライムなんですが。そのスライムになってしまった主人公が、転生時に身に付けた「捕食者」「大賢者」というスキルを活かして、少しずつ強敵を倒し、立国→魔王化→強国化という立身出世をする話。
この本というかストーリーの秀逸な点は、やはり最弱かつやられキャラというイメージのスライムを主人公にして、それでもしっかり生き残っていくことなんでしょう。致命的な弱点を背負っても、それでも自らの武器をベースに上っていく点は、まるで「巨人の星」の星飛雄馬です。スライム界の星(*7)ともいえるでしょう。
うん、システム管理や教育、監査などのある意味システム開発から外れたIT職種になっても、しっかりと「運用管理」などのスキルを武器に、業界内の星を目指したいものです。
「無職転生」で学ぶもの
次の異世界ものとしては、「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」を挙げます。この作品も、コミック化、スピンオフ(*8)、アニメ化されていますね。「転スラ」よりも、主人公の性格がスケベなので、その性的嗜好(*9)というか行動がキモいという声もありますが。
<図表13-2 「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」>
ストーリーとしては、無職の駄目人間が転生して、異世界で生まれ変わり、異世界でやり直す、というものなのですが、ストーリー上、(男の子なら)感動できるシーンが多々あります。以下のシーンは、読み直すたびに、毎回泣いたり、燃えたりするシーンです。
- ・[21巻]神子がゼニスの記憶を語るシーン
- ・[15巻]主人公ルーデウスvs龍神との戦い、最後の最後にある人が現れるシーン
いやー、その場面だけでご飯がたくさん食べれます。
無職転生の主人公のポリシーは、「家族愛」。家族のために強敵と戦い、家族を守るために裏切る。全ての行動方針の基本が「家族」としている点が心揺さぶられます。「仕事と私、どちらが大切なの」というテンプレな質問には、主人公は絶対に「家族が大事」と答えること間違いない。そして、その揺るぎないポリシーに、家族や仲間も応えていきます。
このような考え方って、意外に共感しませんか? あなたは何のために仕事をしたり、ITスキルを学んだりしていますか? 「IT業界に革命を起こすため」「IT業界のトップになりたい」などという人よりも、「生活のため」「仕事で必要だから」などのやや生活臭溢れるケースの方が多いのでは。そして、その生きざまが周りから尊敬を浴びることに繋がったりするのではないでしょうか。
「ティアムーン帝国物語」で運命に抗う
最後に異世界ものというか、異世界でのタイムループものになりますが、「ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~ 」を紹介します。この作品も、コミック化がされていますし、なんと舞台化(*10)されています。
<図表13-3 「ティアムーン帝国物語~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~ 」>
こことは異なる世界のティアムーン帝国で、将来断頭台の露と消える運命に抗うため、過去に戻った自分の行動やアクションを変えていく。その変化に伴い、周りの人々との関係や環境が良化していく。小説なので、かなり「それはないだろう」というツッコミ所は多いのですが、それでも面白い。
IT業界でも、赤字・残業・デスマーチに一直線な未来に抗って、なんとか努力や改善を行っていくことも多いでしょう。運命自体はやばい方向に進んでいるが、それでも少しずつ抗ってみる。やがて、(「無職転生」風な)ターニングポイントが現れ、そこをクリアして運命の舵を切り替えていく。でも、この「ティアムーン帝国物語」の主人公ミーアはそんな高度な考えは全くない「鈍感系」で、痛いのが嫌いで、食いしん坊で、チキンな少女なんですけどね。「痛いのはやだ」「美味しいキノコを食べたい」などの欲望のままに行動すると、なんとなくウマい方向に進んでいく、それもお約束です。でも、これをやると「断頭台行きじゃないか」といギリギリの線を見極めて、きっちり自分の意志(というか欲望やチキンハート)で回避していく点は素晴らしいです。
「なろう系」(*11)のカテゴリに入る作品なのでしょうが、美少女率はやや低め。逆に美少年、美青年率が非常に高い作品です、「乙女ゲー」(*12)ベースの作風といえるでしょう。そもそも最初の断頭台のシーンは、フランス革命、ベルサイユのばらの世界ですからね。
あと、近刊ではミーア姫の「キノコ好き」(*13)がプッシュされるようになってきています。しかし、キノコは毎年のように食中毒の事案が発生し、温暖化による影響で新種の毒キノコも発見されています。緊急事態宣言が解除され、かつ秋の行楽シーズンで、食欲の秋、外食はチカラになるプロジェクト(*14)も発足しました。しかし、外に生えているキノコのリアルもぐもぐはやめましょう。キノコの鑑定は非常に難しいらしいです。
リアルな異世界状況で役に立つ?
「転スラ」「無職転生」などでは、いきなり異世界に飛ばされ、今までの環境とは全く違う状況からの人生(スライム生)をさせられます。例えるならば、銀行で融資一筋ン十年の銀行マンが、いきなり情シスに異動になったり、腕のいい営業が突然開発部門へ異動したり、さらには会社の合併で組織がなくなり、開発部門から総務のおじさんになったり。いまのご時世ではかなりの確率で発生します。まさに、リアルの異世界、いままでの知識が通じない仕事や環境、言葉(専門用語)も通じないかもしれない。そのような状況に陥ったときに、この手の「異世界本」はあなたのバイブルとなる本かもしれない、ことは全くありません。
最後に秋の夜長に読書の勧め
さて、こんな感じで「異世界もの」を中心に、特に売れていそうなものをいくつか紹介してみました。個人的に面白いと思っている作品は、まだまだ多々ありますが、このような作品は個人の趣味嗜好にもよりますので、自分に合った作品を探すものアリかと思います。スローライフ系、悪役令嬢系、時代物、グルメ系、追放系、一般的に「なろう系」と呼ばれている作品は、はいて捨てるほどあります。機会があれば、また紹介したいものです。
ここで紹介した「転スラ」「無職転生」は、元のWEB連載は完結しています。また、2021年10月現在「転スラ」ノベルは18巻+設定集2巻(11月に19巻発売予定)、「無職転生」が25巻、「ティアムーン帝国物語」は8巻(2022年1月に9巻発売予定)まで発売されています。巻数が多いですが、さすがにヒット作だけあって飽きずに読めます。コラムに書いたようにしっかり深く読むのも一興、いろいろ考えて読むのも一興、だらだらと流して読むのも一興、たかが本です。楽しんで読んでみてください。
では良き眠りを(合掌)。
「ただ無心で剣を振れ。無心で剣を振って、疲れたら座って休んで考えろ。考えるのに疲れたら、また立ち上がって剣を振れ」 by 剣神の言葉(「無職転生」から)
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*1 ざっと、「システム管理者のためのBookCafe」を見ましたが、本当に真面目な本ばかりレビューしています。例外は、「なれる!SE」で、「なれる!SE」はラノベです。 この「なれる!SE」も、SEというよりネットワークのインフラエンジニアというかなり狭いエンジニアのお仕事です。SEというと圧倒的多数はプログラマ、業務SEのほうが多い気もします。あとはユーザー企業にも存在する情シスかな(プログラマなどは開発会社なので)。業界の開発系のお話であれば、やはり「観察系エンジニアの告白」を。
*2 2021年9月25日の「超逆境クイズバトル!! 99人の壁」は、「アニメ知識王決定戦SP」でした。その番組内で、「まどマギ」のあるキャラクターの正体?を見事に暴露。「オチ」を最初に言ってしまうような事態になりました。ネットでは大炎上。まぁ、「まどマギ」自体は10年以上前の作品なので、オチもなにもないといってしまえばそれまでなのですが。
*3 「まどマギ」は「魔法少女まどか☆マギカ」のこと。2011年1月~4月まで毎日放送ほかで深夜アニメとして放送。その可愛い絵柄と真逆の展開で話題になった。「マミる」「僕と契約して、〇〇になってよ」「わけがわからないよ」など流行語を生んだ。
*4 「転スラ」のスピンオフは多いです。コミックスピンオフとしては、「転生したらスライムだった件 魔物の国の歩き方」、「転スラ日記 転生したらスライムだった件」、「転生しても社畜だった件」、「転ちゅら! 転生したらスライムだった件」、「転生したらスライムだった件 異聞 魔国暮らしのトリニティ」、「転生したら島耕作だった件」など。「転スラ日記」はスピンオフなのにしっかりアニメ化もされています。
*5 先日2021年9月30日、ドラクエ(ドラゴンクエスト)シリーズの音楽を手がけましたすぎやまこういちさんがお亡くなりになりました。ドラクエといえば、ゲームデザイナーの堀井雄二、キャラクター鳥山明、音楽すぎやまこういちの3点セットのイメージが強いです。最強の組み合わせですよね。
*6 グループSNEの「ソードワールド」、「ガープス」など。そういえば、エルフ=長耳は「ロードス島戦記」の影響ですよね。
*7 実際に、ストーリー上では、主人公リムルは「八星魔王(オクタグラム)」の新星(ニュービー)となるのですが。また、スライムが主人公というか重要なパートナーとなる本では、「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました」もあります。こちらは、可愛い系のスライムがテイムされています。
*8 「無職転生」のスピンオフとしては、コミックスピンオフとして「無職転生 ~ロキシーだって本気です~」があります。サブキャラのロキシーを主人公にしたものですが、本編をうまく埋めるものになっています。また、WEB版では「六面世界の物語」というカテゴリで、完結後の番外編やらを公開しています。意外に好きなんですよね、この「蛇足編」。本編に含めると「蛇足だ」という評価になりそうなストーリーなんですが。
*9 異性の下着を神棚に祭ったり、くんかくんかしたり、女性から見るとドン引きです。
*10 2020年9月9日~13日まで新宿村LIVEにて「ティアムーン帝国物語 THE STAGE」を上演。さらに2021年7月14日~19日まで東京・六行会ホールにて「ティアムーン帝国物語 THE STAGE II」が上演。ちらっと見ると、実写版セーラームーン(*15)のような絵です。そういうノリが好きな方はぜひ。 【参考】ティアムーン帝国物語 劇場版サイト
(http://www.tobooks.jp/tearmoon-stage/)
*11 「なろう」は、小説投稿サイト「小説家になろう」から取られたもので、「なろう系」とは、基本的に「小説家になろう」から生まれた一連の作品群のこと。広義では、そのような作品群と同じような小説を「なろう系」と称することが多い。昔のラノベと同じような意味と考えてもよい。
*12 乙女ゲーム。女性向けの恋愛をテーマにしたゲーム。1994年にコーエーから発売された「アンジェリーク」がその1作目と言われている。女性版の「ギャルゲー」と言えばわかりますか?
*13 キノコプリンセスとルビられることもあります。1986年発売のファミリーコンピュータディスクシステム「消えたプリンセス」を思い出します。さびの「She is gone, She is gone 消えたプリンセス」が頭のなかでリフレインします。歌は当然富田靖子。
*14 2021年10月14日から、外食企業がメインとなって行っている外食推進キャンペーン。(「#外食はチカラになる」プロジェクト)。参加企業28社、89ブランド、全国約9,400店舗で独自サービスを提供している。
*15 「実写版セーラームーン」は2003年10月4日~2004年9月25日まで放送。時間帯が月野うさぎ=沢井美優、火野レイ=北川景子、愛野美奈子=小松彩夏というキャスト。土曜の早朝7:30-8:00枠ながら、たくさんの大きなお友達が視聴したらしいです。
連載一覧
筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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