- 目次
- 事件が起こりまくりの「10月31日」
- なぜ投票所に行かなければいけないのか
- IT化されない各プロセス
- 周辺作業はIT化、そしてマッチングサイト
- 派遣さんの人海戦術でのヒヤリハット
- 「ニューノーマルな」選挙(投票)とは
事件が起こりまくりの「10月31日」
みなさま、投票に行きましたか? 2021年10月31日(*1)は衆議院選挙でした。ついでに、裁判官の国民審査の投票もありました。川崎市では川崎市長選挙もあり、投票所はたいへんだったと思います。
最終的な投票率は、55.93%で、前回平成29年の選挙より2ポイント余り上回ったものの、戦後3番目に低い投票率です。その理由として、政治に興味がないとか選挙で投票したい人がいない、などいろいろと言われていますが、本当でしょうか?
今回は、選挙について語ってみたいと思います。
なぜ投票所に行かなければいけないのか
毎回毎回思うのですが、なぜわざわざ投票所まで足を運ばないといけないのでしょうか?「はよ、ネットで投票できるようにせい」などとネットでは毎回のように騒がれています。アメリカのカリフォルニア州では、投票所での投票か郵送かを選べることになっています。何で日本は、わざわざ投票所にまで足を運ばないといけないのか? これは、しっかりと法律「公職選挙法」で明記されているからです。
【参考】公職選挙法
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100_20201212_502AC0000000045)
第四十四条 選挙人は、選挙の当日、自ら投票所に行き、投票をしなければならない
第四十五条 投票用紙は、選挙の当日、投票所において選挙人に交付しなければならない
上記のように、自ら投票所に行き、投票用紙をもらって、投票することが明記されています。とはいうものの、以下のように期日前投票など(*2)も規定されていて、選挙の当日自体は緩やかになっています。
第四十八条の二 選挙の当日に次の各号に掲げる事由のいずれかに該当すると見込まれる選挙人の投票については、第四十四条第一項の規定にかかわらず、当該選挙の期日の公示又は告示があつた日の翌日から選挙の期日の前日までの間、期日前投票所において、行わせることができる。
日本は法治国家で、法律に基づいて選挙が実施されます。なので、ニューノーマル下でもこの法律通りに選挙はしっかり実施されなくてはいけないのです。決して、お役人が役立たずだからではありません。
IT化されない各プロセス
以下に「明るい選挙推進協会」に掲載されていた投票所のイメージ図
(http://www.akaruisenkyo.or.jp/2013sangi/vote/2340/)
を提示します。
図表14-1 投票所イメージ
最近、私は当日投票ではなく、事前に期日前投票するので、当日の投票所のイメージがわからないのですが、期日前投票の投票所はこんな感じでした。
まず、名簿対照の後、小選挙区投票で個人名を記入し、投票。そして、比例区と国民審査の投票用紙をもらって、投票。なんで比例と国民審査を一緒のタイミングで投票するのか、よくわからないですが。そして、IT屋さん的な「ロックオン」(*3)ですが、「名簿対照」のところで、登録されている選挙権のある住民かどうかのチェックがなされます。投票券・宣誓書(*4)などに記載されているQRコードを読み取って、本人情報をPCに表示、口頭での本人確認(持参している人=本人、という判断)の後に、投票用紙を配布されます。基本的な名簿検索システムですね。入社1年目というか新人研修での課題で作らせるレベルのシステムです。検索機能や集計機能はありそうです。
そして、その後、小選挙区の投票や比例の投票などをして退出。システムってこんだけ? 思いっきり手作業やん。あ、小選挙区と比例区の投票用紙の排出は、機器を使用しています。1枚ずつ排出する機械ですね。投票用紙交付機というらしいです。でも、国民審査の用紙は手渡しでした。
そして、開票。選挙の投票後の集計作業に「ロックオン」。場所は、某体育館。人ばっかりですね。投票箱を大きな机にがばーとぶちまけて、たくさんの人手で仕分け。そして、束になった投票用紙を投票計数機で数を数える。「そんだけ~」です。
少し調べますと、この手の選挙システムの機器は、ムサシとグローリーが国内シェアをほぼ二分しているらしいです。
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・株式会社ムサシ
(https://www.musashinet.co.jp/department/election/) -
・グローリー株式会社
(https://www.glory.co.jp/product/bcategory/kankoutyou/)
読み取りの自動化(つまり文字自動認識)とか今後AIなどの活用を期待できそうな領域なのですが、課題は山積みです。新しい機器やシステムを導入しようとしても、その使い方などに手慣れておらず、習熟に時間がかかったりするため、導入しきれないという事情もあるらしいです。まあ、国政選挙や地方選挙は日常的にあるわけではないので、費用対効果という点では難しいこともあるでしょう。それに、お役所って本当にITに弱い方が多いですから。
周辺作業はIT化、そしてマッチングサイト
さて、投票・集計プロセスだけでなく、それ以外の周辺系にも注目してみます。例えば、出口調査とかはタブレットなどへの入力になっています。集計所で、投票用紙束を確認して速報を入れるのはスマホになっています。そして、今回のIT化/IT利用の注目でいいますと「政党マッチング」サイトの登場。最初に書いたように、「どの候補者に投票していいかわかんない」「政党が多すぎ(*5)て差がわからない」などの要求に応えた、質問に答えていくと、自分と合った候補者や政党がピックアップされる優れもの。
図表14-2 投票ナビ
図表14-3 朝日新聞ボートマッチ
さくっと見てみると、以下のように複数あります。いままでは、テレビの深夜に放送される政見放送という1人会や、文字ばっかりの選挙公報、そして駅前でガナリたてる選挙演説くらいしか「何を述べているのか」を知る機会がなく、広く比較対象とすることもできなかったものです。まさにITをうまく利活用している事例といえるかもしれません。情報の収集・分析・処理こそがITの本質ですから。
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・2021衆院選 投票ナビ
(https://japanchoice.jp/vote-navi/) -
・2021衆院選朝日新聞ボートマッチ
(https://www.asahi.com/senkyo/shuinsen/2021/votematch/#/) -
・選挙ドットコム
(https://shugiin.go2senkyo.com/votematches/)
できることならば、候補者や政党の過去の公約の履歴などが一発でわかるようにして欲しいです。意見を毎回のように変えている政治家や、20年位前からずっと同じことを言い続けている政治家、他の候補者をディスっているだけの政治家なんかをしっかり排除したいですから。あ、まさか毎回同じことを言っているのって、公約の「コピペ」というIT化のアピールなのでしょうか?
また、開票当日のテレビでの選挙速報。 TBSでは、開票特別番組「選挙の日2021」の放送(*6)で、富士通のAI技術「Wide Learning」を活用したらしいです。過去の国政選挙の結果や選挙直近の政党支持率など、さまざまなデータをもとに候補者の特徴を分析し、AIが提示する当落情勢の説明をもとに解説らしいです。私は、当日リアルタイムで視聴できなかったのですが、結果はどうだったのでしょうか?
【参考】富士通研究所のWide Learningとは?
(https://widelearning.labs.fujitsu.com/ja/whatsWL/c001.html)
派遣さんの人海戦術でのヒヤリハット
今回の選挙では、期日前投票での投票ミスがいくつか発生しています。例えば、30日に北海道函館市のショッピングセンターにある投票所で、12歳の少年に投票用紙を渡した事案(母親の入場券で入場して、そのまま投票用紙を入手)、また配偶者の分を含めて1人に2枚渡したり、「まだ投票用紙を貰っていない」と申告を信じて、投票用紙を余分に配布したり。うーん、投票用紙の配布チェックとか本人確認(性別確認もあるよね)のミスなのですが、明らかにヒューマンミスです。この手の作業を行う職員は、ほとんどが派遣の方々(*7)なのですが、どう見ても手を抜いている気がします。12歳が投票用紙を持っていたら、おかしいだろ、1枚投票用紙を渡したら、チェックを記入するだろ。本当にいい加減ですよね、混雑のためとか言ってますが、言い訳です。ちなみに、12歳の投票は、他の票との区別ができないため、有効票となったらしいです、チーン。こういう人海戦術のところは、本当にIT化しないといけないところですよね。
【参考】12歳が投票 選管が投票用紙を誤交付 北海道函館市
(https://www.asahi.com/articles/ASPB04W7YPB0IIPE004.html
「ニューノーマルな」選挙(投票)とは
そして、選挙後の官房長官のお言葉です。
松野官房長官は1日午後の記者会見で「国政選挙において投票率が低いことは残念で、総選挙によって示される国民の意思は今後の政府の方向性を決めるものであることから、できるだけ多くの有権者の皆様に投票に参画していただくことが重要だと考えている。総務省や選挙管理委員会において、ショッピングセンターや駅構内に期日前投票所を設置するなど、有権者の投票しやすい環境を確保するとともに、若者などへの啓発に努めている」
期日前投票所の設置については、岩手県八幡平市ではバスに期日前投票の投票箱を積み込んで巡回したり、金沢市では路線バスの車両を利用した移動型の期日前投票所の運営(ターゲットは大学生)など工夫が見られます。けど、非ITですよね。また、投票率の低下はどうみても、投票所にいかなくてはいけない仕組みが主要因ではないかと思います。このコロナ禍の時代に、特定の場所に集結させるのはかなり無理ゲーなんですが、それを理解しているのでしょうか。
では良き眠りを(合掌)。
「睡眠は最高の瞑想である」 by ダライ・ラマ14世
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*1 2021年10月31日は、もうひとつの重大事件、あの京王線ナイフ男事件が発生した日です。その波及なんかについても、別コラムで書きたいテーマです。
*2 期日前投票と不在者投票(*8)、文字面は似ていますが、全く異なります。期日前投票は、「投票する人」が「投票所」へ行き、「選挙日前」に投票します。不在者投票は例えば名簿登録地以外の場所での投票、郵便などによる投票(但し、それが可能なのは身体障害者手帳か戦傷病者手帳を持っている選挙人などの一定の条件があります)、洋上投票(船舶からFAX)、南極投票(FAXで投票)などです。つまり、「選挙期間中に、該当する投票所に、本人が行けないときの投票制度」です。公職選挙法的には、投票者をなんとか一カ所(投票所)に集めたいらしいです。ニューノーマルに逆行していますね、公職選挙法。
*3 「ロックオン」。フジテレビ系「突然ですが占ってもいいですか?」で占い師がピンポイントで占いを的中されたときのBGM。ですが、この音、スチャダラパーとEGO-WRAPPIN’の「ミクロボーイとマクロガール」の楽曲から取っています。でも、「ロックオン」という言葉ではなく、そのように聞こえるというものです。
*4 「宣誓書」。基本、理由がないと期日前に投票はできないのです。なので、氏名、生年月日、住所と「投票日当日に投票できない事由」を選択する欄を記載します。
*5 政党数が一時期よりは減っていると思いますが、「民主」の文字がついている政党が多いです。「自由民主党」「国民民主党」「立憲民主党」と3つあります。「社民党」もかな。「民主党」と投票したら、どうなるんでしょうか? 公職選挙法第六十八条は無効投票についての規定なのですが、2-八に「衆議院名簿届出政党等のいずれを記載したかを確認し難いもの」とあるので、無効なのでしょう。
*6 TBS系の選挙特番「選挙の日2021」ですが、MCの太田光の印象だけが残ったみたいです。
*7 あるタイミングでのみ人手が欲しいタスクは、ほぼ派遣さんの雇用で対処することが多いですね。だけど、妙にえらそうだったり(=リタイアした高齢者軍団)、おしゃべりに夢中で行列ができてしまっていたり(=パートタイマー的な専業主婦層)、もうちょっと事前トレーニングをして欲しい気がします。
*8 「不在者投票」は、実はかなり面倒な手続きを必要とします。まず、選挙管理委員会に不在者投票証明書を請求し、投票用紙や投票用封筒を入手、その投票用紙を封筒に入れて、代理人が持参みたいな感じ。請求はオンラインでもできる市区町村があるらしいですが。投票用紙を入手するためのあれこれの時間がかかります。
連載一覧
筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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