「Excellent」
次の日、最初に割り当てられたケースのソリューションを実施後、問題を直したお客様からのフィードバックを受け取った。
まんざら、悪い気もしてはいない。
でも、どこか冷めた自分が心の中に居るのもわかる。
これから、この仕事をしていくにあたり、このようなことで喜んではいられない。
たまたまのビギナーズラック、そう自分に言い聞かせた。
そうこうしているうちに、チャットでもチームリーダーから、次のケースを割り当てるという指示が来た。
「noted it and Thanks.」と打ち送信したあと、また割り当てがされたケースがやってきた。
「また英語のケース?」と思いながら作業を進めていく。
一通りドラフトを書き上げ、チームリーダーへドラフトチェックをお願いした。
ダメ出しの連発だった。
英語の不出来はしょうがないにしても、お客様は何を望んでいるのか? 何を根拠にそのソリューションを提出したのか? なぜ、我々が管轄していない第三者のホームページ情報を提出したのか?と。
言い訳がましい説明をせざるを得なかった。
テストでいう赤点の評価でもあったため、再度、ドラフトの作成をするようにと、それにはまだまだ調査が足りないという指摘までいただいた。
しかし、そこにハラスメント的な要素は、まったくもって、無い。
ただ、自分の耳が痛く、自分の力量の無さを嘆くしかない。
「すみませんでした。早急にドラフトを書き直します。より詳しく調査します。」というのが精一杯だった。
その時、チームリーダーからフォローを受けた。
曰く「最初のケース処理で一番良い評価を受けていましたね。直ぐにそういう評価はもらえないので、良いことです」
曰く「今は英語のケースを裁いてもらいます。実は日本語ケースのほうが難しいからです」
最初の言ったことはわかるが、しかし、英語が苦手だと思っている筆者に、日本語のほうが難しいとは?と。
いずれ、その洗礼を受けるのであろうと思えば、今はその疑問に対してすぐに答えを出さず、今ある目の前のケースをさばいていこう、そう決めたのであった。
何回も注意を受けた。
その根拠は? 調べ切ったのか? と。
チームリーダーは、筆者だけではなくその他のチームメンバーへのケア、ヘルプ、サポート、はたまた面接までもしなければならず、忙しいことを意識し理解しなければならない。
お客様というより、チームリーダーへ負担をかけてはいけない、と思うくらい。
まだまだ英語のケースを裁いている10月、奇妙なケースが割り当てられた。
どう考えても、それは我々が提供しているサービスではなく、他の会社のアプリケーションについての問い合わせである。
確かチームリーダーはこういう場合において、責任の所在を明らかにして(=責任は我々にはない)、あくまでもベストエフォートという形で、情報提供に努めると言っていたことを思い出してドラフトを書き上げた。
ドラフトのチェックがチームリーダーでされ、そのソリューションも理由もちゃんと筆者から説明をし、承諾を得てからの送信でもあった。
そう、ここまでは何のことはない、普通のケース処理。
次の日の朝、そのケースに対する返信が来ていたので、早速、読んでみた。
英語が苦手な筆者でも、目を疑いたくなる返答であった。
すぐさま、念のためとも思い、翻訳ソフトで翻訳をしてみた。
罵声の嵐とはこういうことかと、「Shame on you!」とまで書かれている。
一体、何が起きたのだと朝から慌てふためいているが、オフィスではない分、そして朝という時間帯で誰もがメールやメッセージ、それまでのケース処理について戦略を練る時間、直ぐには誰かに相談できない。
ふと、独りぼっちになっていたことに気づいた。
チームリーダー以外、朝の会議での形式的な挨拶以外、誰とも談笑すらしていない。
確かにお客様からのケースを処理する、それは当たり前だ。
しかし、転職をし、OJTを経て、初心者マークで仕事に就いた。
気が付いたら、問題があった時に誰にも相談できない。
その現実を実感した時、精神的な疲れに襲われた。
一方、冷静に努めようとしている自分がいるのは救いだった。
なんとか、この時間を耐えて10時の会議の時に話してみよう。
その罵声の返信を横に、努めて冷静になりながら朝のメールチェック等をしている。
その時、注意喚起のメールをチームマネージャーから受け取っていたことに気づいた。
「ビジネスマナーを疑う内容、そして、幾度も失礼かつ、同じリクエストをしている顧客のケースやメールを受け取ったら、私まで教えてください。その会社名は“A“。 アカウントは“B“です。これは世界中のエンジニアで受け取っている内容で、我々の地域も例外ではありません」という内容だった。
あまりにもタイムリーな内容であったため、もう一度、「Shame on you!」と書いてきた会社名とアカウント確認をしたら、まさしく同一人物だった。
朝の10時まで少し時間があったので、社内のケース処理を司るシステムで、その問題あるアカウントがどれくらいのケースを乱発し、どんな悪い内容をかいているのか?と調べてみた。
まだ自分は良いほうだったことがわかった。
Fから始まる到底、ビジネス英語では使ってはいけない4文字熟語、人種差別、なだめに入った心優しいとある海外エンジニアへの罵声、もうここまでくると枚挙にいとまがない。
朝の10時の会議が始まり、その問題あるアカウントからのケース処理をしていることを伝えた。
その対象のケース番号を伝えたところ、あとは「そういう人・会社」選任のエンジニアが対応するとのことだった。
会議が終わり、チームリーダーからフォローの会議招待があり、二人で会議が始まった。
聞けば、日本だけではなく世界でも「問題ある」会社、アカウントを持つ顧客がいるとのこと。
そして、警告等が経て、おそらくはその会社との取引はなくなるであろうとのこと。
そしてなによりびっくりしたのが、こうしたことを乱発する場合には、ルールブックが存在するということだった。
早速、そのルールブックを調べていくと、我々エンジニアの不要な負担があった場合、会社として我々エンジニアへのケアが丁寧に書かれていた。
そして、お客様だったとしても失礼極まりない内容であった場合、契約を打ち切ることも視野にいれていることが書かれていた。
ここまで、徹底してエンジニアを守ってくれる、それもルールブック化されてまで、という驚きがあった。
「守られていると知り、なんかうれしいです」とホッと一息ついての感想を言った。
そして、他のエンジニアとも話がしたいことをチームリーダーに伝えた。
「その通りです。話す機会を設けましょう」と曇り空の隙間から除く日光のようなセリフをチームリーダーが言ってくれた。
クラウドエンジニアもまた、一人では何もできない。
技術的にも精神的にも。
ビギナーズラックの洗礼も、ビジネスマナーに引っ掛かる洗礼も経るのは、誰もが通る道と思いながら、やがてやってくる日本語のケースに対する準備をしていた。
2022年6月吉日
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