主流であるクラウドの内側で働くエンジニアの声

あるクラウドエンジニアからの私信 第六便

概要

クラウドの内側では、どのようなことが繰り広げられているのかという点をわかりやすく説明することで、ITエンジニア同士の架け橋となることをテーマとして掲げております。

一番低い評価を受けとるのは非常に辛い。
たとえ、雲の中で仕事をしていても所詮、こちらも人である。
「なぜ低いのか?」と、対応した内容を調査する部門が作業を開始する。
いつの間にか上司にその報告が渡り、ほどなくして一対一のミーティングが始まる。
上司の口調こそ優しいが、その内容は鋭い。
弁解の余地はなく、ただただ謝ることと再発防止でどうしようかとあぐねている。
聞くと、こうした時間はこの作業をするエンジニアは必ず体験するものだと。
他のエンジニアに聞けば「いやぁ、俺もね…」というくらい、経験を経てきているのがわかる。
その時に面白いのは、必ず「お客さんは日本人? 海外?」と聞き返されることである。
やはり日本人の評価は辛口であることが、ここでも話題として挙がってくる。

 

評価といえば、お客様から何かしらのリクエストがきて処理をし、作業完了するまでの間、その作業内容についての品質もチェックされてしまうことに最初は驚いた。
つまり、その作業の内容、書き方、他のエンジニアが途中から介入したとしてもわかりやすく書かれているか、お客様の要望に添った作業をしているか、等だ。
1日に何千、何万もあるリクエストからどうやって評価をしているのか?と思い聞いてみると、ここではどうもAIが使用されているとのことらしい。
AIで処理され、人間はその中から任意のリクエスト内容を取り出して「品質」を評価する。
笑い話で「昔は「社長を出せ」が、だんだんと「人間を出せ」になるだろうね」と。
この仕事、いつかはAIにとってかわるかもしれない。
それまでは、なんとかしがみつくにしても、対人間で生じる摩擦、そこに対する喜怒哀楽をAIは奪い去ることができるのだろうか?
人間でありながら、均一した品質を暗黙の了解として保証しなければならない。
一方、ムラができてしまう人間として、お客様に寄り添うことも強みとして挙がるであろう。
クラウドサービスとて、お客様に寄り添うことは、最前線で仕事をしているものにとっては強みでもあり弱みでもあろう。
例えば、日本語でメッセージを返さなければならないとき、海外エンジニアが書いた日本語のレビューを頼まれることが多い。
日本語チェックぐらいであれば、断ることもない。
逆にこちらがその取り組んでいる内容について勉強をさせてもらうというくらいの気持ちで日本語レビューをする。
その際、ちょっとした会話をするが、「お客様へちゃんとした日本語で提出したい」という理由が必ず説明される。
もちろん逆にしかりで、英語対応の場合英語のレビューをしてもらうこともあり、お互いさまであることは承知している。

 

ある日のこと、お客様からのリクエストを裁いていた際、急にチャットで別の日本人エンジニアからメッセージが入った。
どうも、そのメッセージは筆者に怒っている内容と判断でき、チャットのコミュニケーションだと誤解が生じるとも思い、音声での会話を始めた。
聞くと「先ほど(筆者が)裁いたお客様からのリクエストは、私が担当だったにもかかわらず、なぜ作業したのか?」と。
そこで、筆者からちゃんと証拠となる説明等をし、その甲斐あってその日本人エンジニアの誤解であったことを理解してもらった。
安堵しつつも、筆者から「このように「お客様からのリクエスト」がバッティングすることは多いのか?」と質問をしたところ、そこからいくつかの話題に膨れ上がっていった。
その中でもやはりポイントとなったのは、日本人からの評価についてだった。
聞けば、その日本人エンジニアは、他のエンジニアが日本語を使用してやりとりしている内容をチェックする係であったとのこと。
意外にもそうした業務もしているのか、と初めてそこで知ることとなったのと同時に、その日本語チェックは日本人に対しても否が応でもしているということがわかった。
つまり、筆者のお客様とのやり取りの内容も読まれてしまっていることとなる。
ちょうどよい機会とも思い、恐る恐る筆者の日本語対応についてその日本人エンジニアに質問をぶつけてみた。
「どうでしょうか? 僕の内容等は。」
思いがけない返答を貰った
「あのケースを覚えていますか? あの書き方をされると、私がお客さんだったら泣きますね。寄り添ってもらっているなって。」
覚えているフリをしつつ、感謝の言葉を言い、音声での会話が終了した。
すぐさま、いつの間にか寄り添っていたという「あのケース」を探しだし、既に終了扱いの内容を読んでみた。
それは、クラウドサービスとエンドユーザー様との間に立ち作業をしていただいている、認定企業様に当たるエンジニアとのやりとりであった。
その内容はエンドユーザー様が、どうも「ご無理」な内容で要望されたらしく、泣く泣く、弊社に挙がってきた案件である。
なぜ「ご無理」な内容なのか、その代替え案のやり取りをした内容であった。
きっと「開発者を出してこい」ということまで言われてしまっているのではという悲壮感を感じながら、どう終了までもっていったかを自分が書いた内容とはいえ、読み進めていった。
「…○○様は弊社とエンドユーザー様との間に立っておられることから、難しい立場で本件について対応されていることを十分承知をしております。承知しているからこそ恐縮ではございますが…」と書いた内容を最後に、「あのケース」は終了となっていた。
そして、気づけばいつの間にか「あのケース」に対して、一番高い評価を貰っていた。
見ていてくれる人はいるなと。
評価をしてくれる人はいるなと。
そんなことを今まで何度も思った人がここにいるなと。

新人でもあるため、全ての指示に「Yes」という態度でもあったため、24時間365日稼働のクラウドにおいて大晦日も仕事をせよ、という指示をもらった。
いつもより人は少なく、だからこそ大きな、難しい、緊急を要するリクエストはやってきてほしくはないと。
午前中はそんな緊張を感じてはいたが、午後はだんだんと大晦日の気分になっていくのがチャット上からも伝わってくる。
だんだん、仕事とは関係のない内容がチャットの中を賑わす。
だんだん、誰かが年末の挨拶を行っていき、誰もが来年への希望を述べあっている。
そして、作業終了の時間になり感謝の言葉が飛び交い、2021年の仕事が終わった。
クラウドの中でも、誰もがみな、労をねぎらっていた。

 

 

2022年8月吉日

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コメント

筆者紹介

藤原隆幸(ふじわら たかゆき)
1971 年生まれ。秋田県出身。
新卒後、商社、情報処理会社を経て、2000 年9月 都内SES会社に入社し、主に法律事務所、金融、商社をメイン顧客にSLA を厳守したIT ソリューションの導入・構築・運用等で業務実績を有する。
現在、某大手クラウド運用会社の基盤側でサポート業務に従事。

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