テレワーク・コミュニケーション
「運命共同体のようなクレージー・バスの中では、ひとりでも戒律を破ればどのような災難がふりかかるかはわからない」 / 沢木耕太郎著 深夜特急
(次号から)
何をしていた? 何を次へと考えていた?
幾度も先人達が表現した常套句以上の表現が見つからない青空は緊急事態宣言には似合わないほど清々しい。
4月11日(土)午前の東京駅丸の内南口から見上げた時の最初の感想だった。
緊急事態宣言で不要不急の中、プライベートで急を要し東京中央郵便局に行き速達を出した後、やっとホッと一息ついて空を見上げ、そのまま視線を下ろした東京駅丸の内は全く人がいない。
不謹慎だとは思ったが、記念にその風景を写真に撮った。
週末、誰もいない、空が青い、その風景を東京中央郵便局から丸の内のビル群に向けて。
すぐさま、家路へと電車で帰る。
ほとんど人が乗っていない。
かろうじて最低限の交通インフラを保っているだけと思うほどでもある。
さて、これから何をしよう?
英単語帳のように車窓が変わる中でいろいろ考える、感じる。
もちろん心身休むことも必要だが、何か悔しい。
価値観の変容、生活様式の見直し、無機質な非接触社会での立ち振る舞いや態度、一体何をしたというんだ?
相変わらずトイレットペーパーは不足し、マスクも品薄。
帰宅し、手洗いとうがいをし、あらためて鏡に映る自分の顔は生気がない。
新型コロナウイルスに直接的に、たとえ原始的な方法でも反発したい、反撃したい、パンチを食らわしたい。
もし自分が生物学者だったら白衣を着てフラスコとビーカーでかき混ぜて、顕微鏡でのぞき新型コロナウイルスに直接、鉄拳をくだしたい。
では、ITエンジニアとしてのその直接的鉄拳とは? まずはそこから考えてみた。
何気に「IT コロナ」と検索していたら、興味あるサイト情報があった。
それは直接的鉄拳を新型コロナウイルスにくだせるようなプロジェクトだった。
そのプロジェクトの名前はFolding@home。
分散コンピューティングの手法で新型コロナウイルスを解析し、その新しい治療に役立てられるという。
サイトの内容を熟読し、分散コンピューティングのクライアントセットアップデータを自分のPCへダウンロード、インストール、各種設定をし、早速新型コロナウイルスの解析に取り掛かった。
「これが俺の新型コロナウイルスに対する最初のカウンターパンチだ、どうだ? ジャブ程度でもやがてはじわじわ効いてくるんだ。やられているだけだと思ったら大間違いだぜ」と、年甲斐もなく上気分だった。
そしてこれが、後々の新型コロナウイルスをきっかけとしての、ボランティア活動への第一歩でもあった。
週が明けて4月13日(月)。
クライアント先へ行き作業を行わなければならない依頼以外はテレワークを基本とした仕事スタイルをとった。
概ね、ある1点を除けば想定内であった。
想定内としては例えばパスワードの同期、MFAの実装等の問題対処、相談等であった。
しかし、このニューノーマルのスタイルへの変化とは最終的には使用者、つまりユーザが変化を受け入れ、理解しなければならないということだけは痛切に感じた。
たった一人のユーザのために一日の大半を作業として費やすというは、顧客側から見ればそれだけ余分にITへお金を支払っていることとなる。
手を替え品を替え、あの手この手の方法でユーザを教育しなくてはならないITを生業とする我々はITリテラシーの下、否が応でも「コミュニケーションをとる」ということを意識しなければならい。
そして、その意識は先に言った想定外の要素をはらんでいた。
それは、自分の会社、組織、チーム、そうした社内でのコミュニケーションの取り方の難しさに直面したという事実だった。
その事実に対しもやもやした気持ちは、5月25日(月) に1カ月半の緊急事態宣言が全国で解除されてからも続いていた。
普段、社内で何気のない雑談から面白いアイデアが出たことはある。
そこまで大げさでなくとも、そのちょっとした会話で気分が楽になったこともある。
そんな無意識で行っていた事柄が、このテレワークでは意識しなければならない。
まるでノックをしなくても入っていけるドアを、今度はノックするという意識への変化。
ちょうどその頃、ZoomやTeamsでは自分の背景をぼかす、あるいは他の用意した絵に変えるなど技術的アプローチでオンライン会議の”まずい”部分を解消してくれていっていた。
時は6月中旬。
オンライン会議の場は整った、技術的にも整った、道具としてのオンラインツールも整った。
そうしたら、コミュニケーションをするきっかけを作ろう、あの子供時代に使っていた「この指とまれ」のニューノーマル版を作ろうというアイデアが浮かんだ。
ただでさえ一匹狼的選択肢をも軽々と選択するITエンジニアは、会社の部屋の机という物理的設置でチームをまとめコミュニケーションをとっていたが、今度はオンライン、テレワークという条件下でのコミュニケーションのきっかけを意識して作ろうと。
分散しかけている知識をFolding@homeのようにまとめてみよう。
分散しかけている意識をまるで同じ方向へ向かうバスに乗車しているという感覚にしよう。
まずは自分のチームで初めてみた。
名前は10ミニッツ テックトーク。
それは一日の中で10分という時間を共有してつくり、当番制で自分の知っているIT技術情報をオンライン上で交換するというものだ。
つまり、どんなに忙しくとも10分は集まろう、話をしよう、技術という言葉を借りたコミュニケーションの時間を取ろう、と。
何人かのチームメンバーへ根回しで以下のアイデアを話し、賛同を得た。
- 毎週 14:30 に10分だけ開催する
- ツールはTeamsを使用する
- 顔出しはしなくともよい
- 基本的には技術的な話をチームメンバーへ教える
- 自分の仕事と重なったら、仕事優先にしてもかまわない
- 話すことがなかったら、最近自分の身近に起きた出来事でもよい
そして6月下旬、初めての10ミニッツ テックトークが開催された。
この会を提唱した僕からはWindows10の既定実装されている クイックアシスト の使い方について話をした。
この記事をここまで読んでくれている人はWindows10のクイックアシストを知っている人がほとんどだろう。
しかし、最初から小難しい技術的な内容だと、次の発言者の話す内容の敷居を高くしてしまう。
これくらいのレベルでいいんだよ、という内容でクイックアシストをトピックとして挙げたのだが、チームメンバーの一人から「クイックアシスト内で、管理者権限実行する場合はどういう振る舞いがあるだろう」というフィードバックを得た。
このフィードバックは嬉しい、まるで音楽でいうところのコール アンド レスポンスだ。
クイックアシスト使用時の管理者権限実行の可能とする方法がすぐさま会議内で調べられ、その実行方法が確立されたことを知り、チーム参加者からは喜びの声が上がった。
その後、内容もCisco ASAの設定、マイクロソフト365障害情報の取得方法、Macのセキュリティとプライバシーの設定など、Windowsに限らず幅広い内容になっていった。
それに比例して、テレワークで他は何をしているんだ?という疑心暗儀が薄れていった。
その後、弊社エンジニア部門を統括しているマネジャーから電話が鳴った。
「君のチーム、なんか面白いことをしているんだって?」と10ミニッツ テックトークの問い合わせだった。
ルールやその背景を説明したところ、直属の上司を飛び越えてメールで正式にその説明がほしいと、それをマネジャー会議に諮るということで、以下のメールを送信した。
時は既に7月の終わりだった。
Aさん
お疲れ様です。
まずこのメールを代表してAさんへメールしました。
自分のチーム内技術情報を他のチームのエンジニアへ情報共有についてお伺いについてです。
時間が許しましたら説明、お願い・お伺いを読んで頂けますと幸いです。
(直属のマネジャーをジャンプしAさんへ直接メールすることをご容赦ください)
(説明)
時間が許しましたら、下記リンク先の動画を観てください。
昨日、チームメンバーのLさんがSの基本的使用方法についての説明した動画です。
直属のマネジャーが務める自分のチームは今月から平日午後に“10 min tech talk”というお題で、Teams上で、みんなで集まり10分くらいの技術談義を開催しています。
その会議の趣旨を一言で言えばテレワークになったことで、社内で技術談義等ができなくなったことに対する、自分のチームなりの情報共有方法となります。
加えて、途中の回からですが録画も行い、会議に出られなかったとしても後でもその会議動画を観ることができる方法をとっています。
昨日のLさん動画について自分のチームメンバーから、我々自分のチームだけではなく他のエンジニアや、これから新しく入ってくるであろうエンジニアへのレクチャー用に使用できるのでは? という建設的な意見がでました。
その意見を経て、Hさんが編集したものが上記動画となります。
(お願い・お伺い)
昨日のLさんの動画の情報共有方法について、Aさんの意見を聞かせて頂けますと幸いです。
その背景は、いうまでもなく良いもの・必要なものは共有しようという態度から、単純にエンジニア全員にただリンクを送るだけかもしれません。
しかし、初めて他のエンジニアへ情報共有をしようと試みているわけであり、その初めての分、”どう”この情報共有をスタートしようか?という点で統括マネジャーであるAさんの意見を聞かせて頂けたらというお願い・お伺いとなりました。
お忙しいところ恐縮ですが、上記、ご意見を頂けますと幸いです。
(当初自分のチーム内で自発的に始まったこの”10 min tech talk”の動画を他のエンジニアへ共有するまでに育ったというのは嬉しいことです)
よろしくお願いいたします。
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筆者紹介
1971 年生まれ。秋田県出身。
新卒後商社、情報処理会社を経て、2000 年9 月 都内SES会社に入社し、IT エンジニアとしての基礎を習得。
その後、主に法律事務所、金融、商社をメイン顧客にSLA を厳守したIT ソリューションの導入・構築・運用等で業務実績を有する。
現在、主にWindows 系サーバーの提案、設計、構築、導入、運用、保守、破棄など一連のサポート業務を担当。
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