ニューノーマルで悩む管理者の夜

第弐拾一夜 番外編 働く女性で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
番外編 BookCafe 「Flowers for working women」
異世界版エンジニア、魔導具師が新製品を開発
戦国時代にタイムスリップした農業少女が富国強兵
次期女王の人材集め
王道少女文学の古典たち、アンとローラ
働く女性の今昔、男性社会との闘いは続く

番外編 BookCafe 「Flowers for working women」

今回も番外編です。番外編ではビジネス書以外の本を、ひとつのテーマで複数ピックアップして紹介します。当然、技術書も対象外です。そのような本は周りの新旧のエンジニアにどんな本が良いかを聞いてください。
過去の番外編では

第拾三夜 番外編 異世界で悩む管理者の夜

第拾七夜 番外編 三国志で悩む管理者の夜

と異世界もの、三国志をテーマに挙げてきました。そして、今回のテーマは「働く女性」です。この番外編では、読みやすさを考慮してラノベをピックアップすることが多いのですが、ラノベのなかでも女性が主人公の作品はかなりあります。代表的なものとしては上記「第拾三夜 番外編 異世界で悩む管理者の夜」でもあげたティアムーンシリーズ。でも、今回は「働く」女性です。偏見が多い男性社会で頑張っている女性(*1)が主人公の本、そして読みやすい本を複数選んでみたいと思います。

異世界版エンジニア、魔導具師が新製品を開発

まず紹介するのは、前世でメーカーのコールセンターに勤め、過労死したOLが主人公の話。異世界に転生して、「ものつくり」に目覚めて、ガンガン魔導具を作っていく「魔導具師ダリヤはうつむかない」シリーズ。ここで気になるのは、魔道具ではなく魔導具。そして、魔道具師ではなく魔導具師ということ。どうでもいいといえば、どうでもいいことです。どうして、「道」ではなく「導」の字を使っているんでしょうか。意外に深い意味があるのかもしれません。でも、筆者的に漢字変換が面倒です。
そして、このシリーズの主人公ダリヤは、過労死したこともあり、非常に残業にシビアです。また、前世で家電メーカーのコールセンターにいたこともあり、開発する魔導具は便利な家電もどきが多いのです。レインコート、ドライヤー、五本指靴下、乾燥中敷き、そして靴乾燥機にこたつ。一部、家電とは関係ない製品もありますが。サブタイトルに「今日から自由な職人ライフ」とあるように職人/開発者としての想いを思いっきり、魔導具開発で発散しています。それに、作った製品の「最小」と「最大」の検討、耐久性確認などもしっかりやる。非常に日本的なこだわりのある職人/開発者です。
最新刊8巻が2022年6月24日に発売されました。挑戦と前進の第八弾、らしいです。発売当日にkindleでダウンロードして朝までに読み切った猛者もいます。

<図表21-1 「魔導具師ダリヤはうつむかない ~今日から自由な職人ライフ~」 >

戦国時代にタイムスリップした農業少女が富国強兵

一時期よくあった戦国時代へのタイムスリップ(*2)ものである「戦国小町苦労譚」シリーズ。やや農業や工学に詳しい女子高生が戦国時代にタイムトリップして、織田上総介三郎平朝臣信長、つまり織田信長と出会います。そこから、尾張の国の農業改革、富国強兵へと進めていきます。

<図表21-2 「戦国小町苦労譚」>

主人公の静子は、最初の段階で前田慶次、可児才蔵 森長可の3人を配下にしています。この3人を配下って、ほんとによだれものです。そして、どのタイムトリップものでも最大のライバルとなっている武田信玄。この武田信玄を倒すまでが大きな山場です。必要な人材を死なせないように注意し、武田の騎馬軍団に対抗できる戦術の立案(当然、アレです)。武田軍が確実に史実通りに西上するようにもっていくための戦略(史実通りに進まないと、想定外の場所や陣形での戦いになる)。まさにプロマネです。計画書通りに実施し、想定外の事象は事前にチェックしてつぶしていく。
さて、さらに、この主人公の静子は、前述のダリヤと違って、かなりワーカホリックです。周りの戦国武将に止められるくらい働きます。暇していると働きます。「働き方改革」を推進する方々の天敵といえます。
武田信玄後は、養子を迎えての後継者教育や次世代の武将(真田兄弟や伊達藤次郎など)との交流や教育などがメインになってきていますが、なかなかウンチクある話が展開されています。

次期女王の人材集め

ラノベというより少女小説のカテゴリに入るかもしれませんが、石田リンネの「おこぼれ姫と円卓の騎士」。
「働く女性」とは少し異なるカテゴリかもしれません。主人公のレティーツィア(通称レティ)は優秀な兄2人を差し置いて、王候補となったために、次期女王としてしっかり働く女性をしなくてはならなくなりました。王位を継承するためには、即位式の前に(自分に仕えてくれる)騎士(ナイツオブラウンド)を12人集めないといけない。そのため優秀な人材集めやら、対抗勢力との抗争やら、と話が進んでいきます。
石田リンネさんの作品では「茉莉花官吏伝」(*3)のほうが、思いっきり「働く女性」なのですが、今回は男性も読みやすい人材集め系の「おこぼれ姫」シリーズを拾いました。

<図表21-3 「おこぼれ姫と円卓の騎士」>

主人公のレティは、癖のある騎士候補(左遷されていたベテラン将軍、ロリコンな伯爵令息やらニートな軍師)に対し、自分に仕えさせるために手練手管を使います。このような状況、システム開発プロジェクトでのプロマネにアサインされた状況とかなり似ています。スキルはあるがコミュ下手なエンジニアやベテランの外注さん、くせが凄すぎるステークホルダーたち。男性のプロマネでも苦労する状況です。さらに、女性という色眼鏡で観られる立場。単なる一介の女性エンジニアであれば、周りにちやほやされて終わりなんですが、プロマネです。うまくメンバーを配置し、働かせて、特には課題管理も必要です。筆者も複数の女性プロマネと一緒に仕事をしてきましたが、(人にもよりますが)男性よりも感情的に判断することが多く、少ししゃべりすぎるのが特徴です。「妻のトリセツ」などで有名な黒川伊保子氏(*4)によりますと、女性がかっこよく働くには、「男に混じらずに『上品な異質になる』ことがコツらしいです。男性のようになるのではなく、異質なモノになることが成功する/失敗しないことなのでしょう。

王道少女文学の古典たち、アンとローラ

ラノベ系ばかりピックアップしましたが、当然普通の少女小説にも「働く女性」がいます。名作「赤毛のアン」のシリーズからは、「アンの幸福」(原題は”Anne of Windy Willows”)。赤毛のアンことアン・シャーリーが幸せな少女時代を送り、婚約が確定し、婚約者が医者になるまでの間に勤めていたサマーサイド高校の校長時代の話です(*5)。
そして、NHKのドラマ「大草原の小さな家」(原題は”Little House on the Prairie”)シリーズで有名なローラ・インガルス・ワイルダーの「小さな家」シリーズから「この楽しき日々」(原題は”These Happy Golden Years” )。ローラの婚約時代、教師時代の話になります。どちらの作品も、幸せな実家を離れ、孤独な生活、初めての仕事、でも婚約者や恋人との楽しい日々。大変なことは分かりますが、リア充爆発(*6)して欲しいです。現代よりもかなり男性が中心の社会で、懸命に働くアンやローラ、それを支える婚約者や家族。読んでいて心動かされ、共感できます。

働く女性の今昔、男性社会との闘いは続く

少女文学の古典でピックアップしたアンやローラは教師(+作家)となりました。昔は女性が働く=教師というモノが多かったように思えます。今のラノベ、ダリヤと静子とレティは、それぞれ職人、織田家の重鎮、次期女王です。人を育てる役割からメインとして表舞台で活躍する人物、サポート役からメインに移ったといえるかもしれません。いずれにせよ、男性優位の社会のなかで、優秀といえども女性が働くというのはとても難しいことです。男性のやっかみ、女性からの嫉妬、男尊女卑の旧弊な文化や偏見。それらは、現代の社会でもしっかり残っています。そのような社会で頑張る「働く女性」にエールを送りましょう。但し、ネカマ(*7)は除く。
では良き眠りを(合掌)。

「美しさは女性の『武器』であり、装いは『知恵』であり、謙虚さは『エレガント』である。」 by ココ・シャネル

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*1 近年、国際女性デー(International Women’s Day)が注目を浴びています。毎年3月8日が記念日とされ、女性の社会参加と地位向上を訴える日とされています。日本でも、「HAPPY WOMAN FESTA」(https://happywoman.online/)として、多くのイベントが開催されています。

*2 戦国時代へのタイムスリップといえば、半村良の「戦国自衛隊」。複数回映画化(*8)もされています。しかし、初回映画化1979年には、戦国時代+自衛隊という設定の面白さが理解されず、映画化の資金繰りに苦労し、映画会社に「分からないのはあなたがただけで、あなたがたの子供なら分かるよ」と言い切ったらしいです。(Wikiから)。
また近年では、ドラマ化もされた「信長協奏曲」、「信長のシェフ」、NHKでドラマ化された「アシガール」など多数あります。

*3 「茉莉花(まつりか)官吏伝」には、スピンオフとして「十三歳の誕生日、皇后になりました。 」があります。こちらの作品は、13歳で皇后になった女性が主人公なので、「働く幼女」となります。どちらも中華風ファンタジーな作品です。

*4 黒川伊保子氏は、「妻のトリセツ」「夫のトリセツ」などのトリセツシリーズの他に、「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」という楽しい本の著者です。富士通系の会社でAI研究の後、ことばの感性の研究を始めた方です。

*5 「アンの幸福」は、時系列ではアンシリーズの4作目に当たりますが、作品の発表は第5作目以降の作品(炉辺荘のアンを除く)が先に発行されています。さらに、形式が「あしながおじさん」(原題は”Daddy-Long-Legs”)のように婚約者への手紙を挟む形式になっています。

*6 爆発対象は当然、婚約者であるギルバートとアルマンゾ。

*7 ネットおかま。インターネット上で性別を偽装して、女性のように振舞う男性。パソコン通信時代からいました。ちなみに、行政処分を受けた出会い系サイトの女性メールは、ほとんどがネカマらしいです。
【参考】J-CASTニュース:行政処分受けた「出会い系サイト」「女性のメール」ほとんど男のサクラ
https://www.j-cast.com/2008/05/07019852.html

*8 「戦国自衛隊」関連は、以下のようにメディア化されています。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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