アウトソーシングのポイント

第4回 アウトソーシング実施後に発生する諸問題 「カイゼン」事例

概要

ITシステム運用のアウトソーシングを検討、実施する上での課題、確認事項、留意点、そして実施したユーザ企業で問題となっている点等の情報を掲載いたします。

目次
アウトソーシング実施後に発生する諸問題 発注者側
アウトソーシング実施後に発生する諸問題 受注者側
アウトソーシング実施後に前向きな「カイゼン」事例
アウトソーソーシング 実施後のカイゼン事例

今回は、「アウトソーシングを実施するときのチェックポイント」実践編の第3回(最終回)として、基幹業務を外部にアウトソーシングした後に発生する諸問題を整理します。併せて、発生した問題を解決するために実施した事例をご紹介いたします。
この連載の第2回にも書きましたが、ITシステム運用のアウトソーシングに限らず、どのような契約の場合でも、実施前には、発注する側も受注する側も、「もの」をみる際に「薔薇色」のレンズを通した状態になり、実際の運用が始まった時には、

  • 「こんなはずじゃなかった・・・」
  • 「契約する前はいいことをばかりをいって・・・」
  • 「これなら、前の方がよかった・・・」
  • などといった、不満や愚痴がでるケースが多々あります。
    そんな、愚痴や不満を8つの項目に整理し、ご紹介します。
    皆さんにも思い当たる内容がありませんか??

アウトソーシング実施後に発生する諸問題 発注者側


[1]運用に関係する問題解決/業務カイゼン スピードの低下

  • 運用の主導権が委託先に移り、融通がまったくきかなくなった
  • アウトソーシング後、数年たつと運用がブラックボックス化された
  • 運用カイゼンが従来以上に進められなくなった
  • 現状の課題もわからなくなりつつある
  • 運用状況がわからなくなり、的確な指示ができなくなった
  • 媒体類の破壊があってもわからない(報告がないと)
  • 運用の効率化、省力化、自動化は人件費や資源で代替がきかず、発注者側と受注
  • 者側で利害関係が発生し、ことがすすまない

[2]利用部門へのサービスの低下

データの受け渡しのやり方が複雑になり、ターンアラウンド時間が増加した
当初、アウトソーシングセンターでの帳票出力に一本化したため、利用部門への受け渡しが従来より1日遅くなった(その後、急ぐ帳票はネットワークプリンタ出力に変更した)
他部門からの問い合わせ(ユーザ部門、開発等)についても、社内と委託先の間での通訳が必要となった
運用ルールにしばられる形になり、ユーザから融通性のある運用を求められてもこたえられなくなった
(特に例外処理、緊急処理等で)


[3]運用費用の増加

移行時には当初予想以上の整理、ドキュメント作成工数がかかり、移行費は大幅に増大した
カイゼンをするたびに当初契約以外の費用を請求される
機器の増設、レベルアップについて、言われるがままの状態におちいりつつある
委託当初は安いコストで提示されるが、徐々にコストアップされる(運用が複雑だ。作業が多い。ドキュメントがない。トラブルが多く人手がかかる。資源が多く必要 等)
チョットしたカイゼンに対しても費用を要求される


[4]運用部門(IT部門)の地位低下

運用状況やカイゼンポイントを的確に抑えていないといわれるがままの状態に陥る
運用を一旦、外に出すと戻せなくなる(運用状況がわからない。戻すためには多大な工数がかかる)
運用部門(IT部門)が縮小されて、業務が回らなくなった
要員の補充がなくなり、要員の高齢化が進んだ
ジョブローテーションがしにくくなり、業務がかえって属人化した


アウトソーシング実施後に発生する諸問題 受注者側


[1]ユーザ側業務の理解不足による運用障害の増加

業務を理解するまでに時間がかかる
指示には詳細かつ、しっかりとしたドキュメントが必要
運用要員が業務を理解していないと指示されたことが理解できず、ミスの要因になる
運用要員が未熟なためにミスを誘発する


[2]自社の標準運用方式の適用不足による個別運用の増加

受け入れた業務には、運用しにくいシステムが多数あり、カイゼンには多大な努力が必要
受け入れ先ごとに違う運用ツールが持ち込まれオペレーションの標準化がまったくできない
個別対応が増え、運用要員を貼り付けざるを得ない状況になり、属人化が進んだ。結果として人員の増加につながった


[3]契約外業務の発生

当初の契約外業務を「なんだかんだ」と理由をつけてやらされる(特にユーザ対応業務)
運用ミスのたびにチェック作業が増え、要員増加につながったが費用は請求できない


[4]処理パフォーマンス不足、リソース不足による業務遅延の増加

稼動状況、リソース状況の報告をしても直接運用カイゼンには結びつかない
共有区画を利用したケースの場合、他の業務に足をひっぱられて業務遅延を起こす
プリンタを共有した結果、作業ミスで自社の帳票が他社にいっていまった


アウトソーシング実施後に前向きな「カイゼン」事例

次に、このような問題を前向きに受け止め、自社の「業務カイゼン」を実施した事例を5つご紹介します。
「災い転じて福となる」ということわざがありますが、まさに、今回ご紹介する事例には、ぴったりの言葉かと思います。問題をたくさん抱えている方々のヒントになれば幸いです。
なお、この事例の詳細内容につきましては、今後、当「カイゼン活かす」サイトの別ページにて情報提供を行う予定です。


アウトソーソーシング 実施後のカイゼン事例


[1](発注者側 事例1) 「IT部門のミッション」変革

~社内の業務改革部門に変革、 要員の資格取得を推進しコンサルテイング業務も開始~ 
化学系製造業A社は、3年前にメインフレームを利用するメーカー系のアウトソーサーにアウトソーシングを実施し、運用業務と既存システムの保守業務を業務委託しました。A社のIT部門に残されたミッションは、新規システムの企画と開発業務となり、IT部門の要員は、30名から15名に削減される予定でした。
アウトソーシング後にこのような人員削減を実施する事例が多数あり、その後に様々な問題が多発するケースを耳にしていたIT担当役員は、単なる人員削減ではなく、

ITを通して社内業務に精通しているベテラン要員の有効活用をはかること
社内の業務全般の刷新を実施するための組織つくりをはかること
を念頭に、IT部門の名称を従来の「情報システム部」から「業務改革推進部」に変更し、部内を
業務改革推進を担当するチーム
今後のITシステム化を実施するチーム
アウトソーシング管理をするチーム
に再編しました。こうした体制を確立することにより、部門内のモチベーションは向上し、要員の中から、公的な資格取得を目指す(ITコーデイネータや中小企業診断士等)メンバも現れ、IT経験を通して社内業務のコンサルテーションを実施できるようになりました。今後は、業務の幅を広げ、社外に向けた業務改革コンサルテイングを視野にいれた活動も期待されています。


[2](受注者側 事例1) 「アウトソーシング時の受け入れ基準の明確化」

~キーポイントである、監視・バッチ運用・レポート出力運用の標準化による業務効率のカイゼン実施~
アウトソーサーB社は、アウトソーシング受託時に、先方の業務形態に併せて受け入れを実施していたため、受託先別に「バラバラ」な運用を強いられていました。その結果、運用要員は、顧客ごとに固定化されてしまい、人員にローテーションがはかれず、横の連絡・連携がないため、他の顧客では、問題解決しているような事項でも、「カイゼン」が実施もできない状況でした。同時に業務トラブルも多発してきましたが、直接の担当者が対応しないと問題解決できないような事態になっていました。
このような事態を、「カイゼン」すべく、B社の現場マネジャークラス数名が集まり、「社内業務改革プロジェクト」を立ち上げ、

トラブルの削減(件数・対応時間ともに)
社内ローテーション体制の確立のためのスキル向上
効率化によりコスト削減
を目的に「カイゼン」に着手しました。
ミーテイングを重ねた結果、
会社としてのアウトソーシング受託時の受け入れ基準がないこと
運用ツール(時にキーポイントの監視・バッチ運用・レポート出力)がバラバラで統一性がないこと
短期での成約、移行に営業の目が行きすぎ、顧客の本来の目的達成にむけた移行設計、作業ができていないこと
が原因であることが明確になりました。
B社は、「カイゼン」の第一歩として、
受け入れ基準の明確化(顧客への提示から)
運用ツールを(自社の費用でもよいので、)導入し統一化をはかる
ことを開始しました。
B社では、2年先くらいに成果が明確になるとして計画を進めています。


[3](受注者側 事例2) 「発注者側業務理解のための要員研修」

~業務理解のために運用担当者をユーザ先で研修実施~
アウトソーサーC社は、小売業(スーパーマーケット)D社の基幹業務をアウトシーシング受託しました。業務運用時間(特に、商品発注処理から物流センターへの納品時間のターンアラウンド)がタイトで、運用ミスによる業務遅延は、D社の業務だけではなく、D社の取引先約600社の業務に多大な影響を与えてしまいます。アウトソーシング受注直後は、C社側の業務理解不足による処理の遅延や遅延後のD社への連絡不備等がかさなり、D社からは業務遅延に伴う、ペナルテイ要求等の話がだされるくらいに関係が悪化しました。このような事態を打開するために、C社は業務運用の標準化や効率化をはかることをD社に申し入れましたが、D社の部長E氏は、C社の運用チームに当事者意識が欠けているのが一番の問題だと判断し、C社の営業担当責任者に以下の申し入れをしました。
D社の運用に関わるC社メンバにD社の店舗、物流センターでの業務を体験してもらう
C社メンバがD社の業務を体験することにより、日頃の自分たちの業務がどのように、顧客であるD社の業務に結びついているかを理解する(体験をレポートとして提出してもらう)
C社は、D社からの要求を受け、業務運用担当者、営業担当者 等が2週間の現場実習を実施しました。
その後、C社メンバは、コンピュータ処理の処理結果が多くのユーザ部門の業務を支えていることを理解した上で業務運用を行えるようになり、コンピュータ処理の名前でなく、ユーザ先の業務名で会話ができるように意識変革されました。
C社はこの体験を通して、D社での定期的な研修はもちろんのこと、他の発注先にも同様な体験研修を要求していくことにしました。


[4](発注者側、受注者側共同 事例1) 「アウトソーサーと共同で業務カイゼン」

~年間6テーマを設定し、業務カイゼンを実施し効率化を推進~
アウトソーサーF社は、食品メーカーG社のアウトソーシングを受託し、10年がたっていました。G社のシステムは、メインフレームメーカー2社のシステムと、オフコンで構成され、複雑な運用体制となっていました。2年前、G社の意思決定により、メインフレームを1社のシステムに統合することになりました。10年来、運用業務に、手が入ったことがなく、アウトソーシング受託時と同じ運用が行われていました。特にメーカー間での運用に違いがあり、システム統合にあたっての最大の障害となっていました。運用移行の検討会議でも、メーカー毎に組織された運用チームが自分たちの運用を正しい姿とするスタンスを崩さず、話し合いは難航しました。
アウトソーサーF社のベテラン管理者であるH氏は、このような事態を打開するために、両者のよい運用をひとつずつ取り上げ、それを相手方の運用に適用する形を提案しました。はじめは、渋っていた担当者が多くいましたが、H氏の熱心な説得により、作業を実施し本番への適用を行いました。
この経験がよい方向への転換を促し、「業務カイゼン」のアイデアをアウトソーサーサイドとユーザサイドで出し合い、年間に6テーマを設定した運用業務のカイゼンに取り組むことを1年前に宣言しました。
この間にメーカー統合が完了し、いよいよ、設定したテーマについてのカイゼンがスタートしました。


[5](発注者側、受注者側共同 事例2) 「前向きなSLA設定」

~ペナルテイ方式ではなく、成果達成によるインセンティブ方式のSLA設定~
一般的に「SLA」は、厳しい基準を設定し、受注者側のアウトソーサーは、成果達成のために多大な努力を強いられるはめに陥ります。成果が設定された基準に達しない場合は、ペナルテイが適用され、委託料金のカットや更なる厳しい目標設定を課せられるケースが多いのも実態です。
アウトソーサーⅠ社と家電系メーカーJ社は、数年前にアウトソーシング契約を開始し、2年前より、両社が合意した「SLA設定」を行っています。両社が設定した、SLA項目は多岐にわたりますが、その中で、特徴的な項目は、「運用監視業務」の削減目標についてです。「SLA設定」の前は、メインフレーム4台、サーバー系300台の業務監視を「4.5人/月」の体制で実施していました。「SLA設定」時に、1年間かけて「3人/月」に削減することを、目標にすることにしました。一般的にこのような場合、アウトソーサー側の人員削減が実施され、その分の費用の削減につながり、アウトソーサーには不利な「SLA設定」となります。
Ⅰ社は、J社に対して、目標達成後は、単なるコスト削減ではなく、削減されたコストを他の業務受託に向けることを提案しました。J社のIT部門担当役員K氏は、この前向きな提案を受け、運用カイゼンをさらに実施するための企画立案要員を置くことを条件にI社の提案を受け入れることにしました。このような目標設定をすることにより、発注者側にも受注者側にもメリットにある「SLA設定」が実現されます。


以上、発生した問題を、パッチワーク的に問題解決するのではなく、問題の本質にせまる「カイゼン」を実施した事例をご紹介いたしました。
是非、皆さんも参考にされてはいかがでしょうか。

今回で、運用テンプレート 「アウトソーシングのポイント」 ページの連載は終了となります。

なお、本稿に記載した情報をさらにブレークダウンした情報が必要な場合は、シスドック担当までお問い合わせください。

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筆者紹介

株式会社ビーエスピーソリューションズ

運用プロフェッショナルサービスグループ

佐藤陽一

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