強いチームを育てる

第4回 チームを育てる三つの学習 ~自律的なプライオリティ設定の場~

概要

組織の「タテのマネジメント」に対し、チームマネジメントは「ヨコのマネジメント」と言えます。タテのマネジメントについては世の中で様々に謳われていますが、実際の職場で働いているのは人であり、各々の職場の「チーム」です。知的で快活なチームは、解くべき課題を正しく見つけ出し、集合知を発揮します。知恵とノウハウは自然に伝承され、応用進化を繰り返し、ひいては事業の発展に貢献することができます。チーム本来の力を取り戻す、チームマネジメントの方法論をご紹介します。

 前回は「チームを育てる三つの学習」のうち「集合知発揮の場」についてお話ししました。 アウトプットイメージ:集合知を発揮するには、まず得たい答え、つまりアウトプットイメージを共有することが必要。絵にすることで新しい表現が入り、新しい視点や認識を喚起することが可能となる。 課題バラシ:アウトプットイメージの実現に向けて「まだ出来ていないこと」「決まっていないこと」「未知の技術」「心配事」「懸念」を挙げる。課題バラシのときには解決策の議論はしない。挙げた課題に都度解決策をつけてしまうと、見かけは全ての課題が解決されたかの様な錯覚を起こす。 作戦ストーリー:解決までの道のりを行程として展開するもの。策と行動をセットにしたストーリー。つくられた作戦ストーリーは中日程計画に落とし込む。 今回は自律的なプライオリティ設定についてお話しします。

目次
3、チームを育てる三つの学習

3、チームを育てる三つの学習

3)自律的なプライオリティ設定
 
【近道を探すことは、落胆とフラストレーションを生むだけ】

成長という自然のプロセスにおいて近道をしようとすればどうするだろうか。たとえば、テニスの初心者であるにも関わらず、人に格好良く見せるために上級者のように振舞ったらどうなるだろうか。答えは明白である。こうした成長のプロセスを無視したり、近道したりすることは絶対に不可能なのだ。近道を探すことは結局、落胆とフラストレーションをもたらすだけである。

 
【収穫の法則に従って生きる】

収穫の法則というものがある。蒔かれたものを刈り取ることができるということであって、それ以上でも、それ以下でもない。自然の法則は不変であり、正しい原則に生活を合わせれば合わせるほど、我々の分別は高まり、世界の本当の構造を理解でき、パラダイムは正確なものになってくる。


スティーブン・R・コヴィー

 
何れも、スティーブン・R・コヴィーの名言・格言です。「7つの習慣」が有名なのでご存じの方も多いでしょう。
 
ⅰ)テーマがあふれている
 中期テーマ、半期テーマ、PJ、日常業務、突発的な依頼・・・・。とにかく忙しいし、納期に迫られて仕事をするしかない、優先順位と言われても・・・、というのが多くの皆さんの現状なのでしょう。私はコンサルタント業に25年間従事していますが、技術者が暇な会社を見たことがありませんし、そもそもエンジニアが暇な会社は先行きが危ないかもしれません。
 忙しいのは致し方ないとして、将来につながること、いわゆる前向きなテーマにどれほど取り組めているかが大切です。重要なことをしっかりやっていれば、事業もチームも個人も成長し続けることができるでしょう。しかし、もし閉塞感があるとしたならば、重要な事に取り組めず、本質的な課題が解決できていないのではないでしょうか。 例えば、人手が足りない→人を育てる暇がない→若手が放置される→若手がベテランなら起こさないようなトラブルを起こす→対応に追われる→工数がひっ迫する→人手が足りなくなる・・・、などは、後ろ向きな対応の最たるものでしょう。
 リソース不足を感じるときは、むしろ仕事や課題のプライオリティが歪んでいることがほとんどです。リソース不足の対策を考えるときに最も即効性があるのは、課題を絞り込んで重要でないことをやめることです。重要度が最も低いことを中断するのであれば、全体への影響は出ないことになりますが、これが出来ていません。 急がば回れではありませんが、本当に大切なことに注目し確実に解決していくことが成長や事業の発展に繋がります。
 
 
①最優先とする
事業や組織の成長に向けたテーマ。将来への種まき。緊急度が低いので先送りされがち。確実な取組みと早期達成でアドバンテージとなる。最もプライオリティが高いテーマ。
また以下の②~④が発生しないための事前策や未然防止策としてテーマ設定する領域で、②~④の発生を振り返り、課題形成し本質的な課題としてテーマ化すべき領域。
 
②見極めて取り下げる
試しに若手にやらせてみるけれどもフォローが薄い、なんとなくテーマアップされ、いつも途中で保留される、など完成度の低いまま放置されることもあるテーマ。本質的な必要性を見極め、不要ならば取り下げる。
 
③緊急度を見極め、準備を万全にする
軽く受け止めて着手し段取り不足で混乱をきたすなど、慌てて取組み二度手間にしてしまうことが多い。緊急度の見極めを行い、慌てて対応せず、必要な準備を行ってから取り組むことで混乱を防げる。よくよく確かめると緊急ではないこともある。
 
④なぜ発生しているのかを振り返る
発生した以上は対処せざるを得ない。しかし、重要なことが緊急であることそのものが問題である。早期着手や未然防止に向けた取り組みが必要となる。
対処するだけでなく、振り返りから本質的な課題を見いだせれば「成長に向けたテーマ」を見出す格好の機会である。
 

 

ⅲ)課題形成力を養う
 こうして、各テーマにプライオリティが設定され各々を解決していくこととなります。この過程で、本質的な課題は何だったのかという課題形成力を養う機会があります。
 
 
 つまり、課題や問題を解決するだけでなく、振り返りの中から「未然防止するには」「効果範囲や質を高めるためには何が必要なのか」などを考察しテーマを上げることです。
 これらのテーマはすぐに解決するというものではなく、いったんリスト化し半期や1年に一度、先のマトリクス上で考察し改めてプライオリティを設定することで年度や半期の計画に取り込むことが可能となります。
問題が発生してから対処するのではなく、問題を発見し未然に解決する力や、本質課題の形成によって成長につなげる力が養われます。
 

 

ⅳ)テーマも優先順位もチームのものである
 こうやって抽出された課題やテーマは、優先度の高いものについてチーム全体で分担を決めなければなりません。この時に大切なのは、さしあたって(半期くらいのスパンで)取り組むテーマにのみ人をアサインすることです。全テーマを個人に配分しきってしまったら、「あとは担当者が何とかする」という個人の問題となってしまい、個人の課題となります。課題やテーマはあくまでもチームのものですから、残課題、残テーマもチームとして共有することが大切です。
 

 

ⅴ)ANDの才能
 ORで考えず(ORの抑圧に負けない)、ANDで取り組む(ANDの才能)。このことは、「ビジョナリーカンパニー」(著者:ジム・コリンズ、ジェリー・I・ポラス、出版:日経BP社)で触れられていますので興味のあるかたはぜひ一読ください。
 二者択一というと、いかにも優先順位をつけている様に思えます。一方で、一挙両得という言葉があります。どちらかを選ぶという選択的な考え方ではなく、あることを通して他の何かも得るという考え方です。180度違うことを選ぶのは難しいでしょうが、90度の違いなら合わせることもできるものです。
 育成か業務遂行か→仕事を通して人を育てる。商品開発か技術開発か→難課題を解決しながらノウハウを身につける。顧客開拓かテーマ探索か→新規顧客を開拓しながら新しい技術を見出すなど、同時に実現していくことをチームとして宣言し、チーム全員の目標として捉えて進めていくことで、個人とチームの双方が成長し続けることができます。
 
参考文献:「7つの習慣」スィーブン・R・コヴィー。「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ、ジェリー・I・ポラス

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筆者紹介

宮澤 毅(みやざわ たけし) Future Management & Innovation Consulting Inc チーフコンサルタント 1961年生まれ、1985年千葉工業大学卒。

1990年電機メーカーの開発者を経て、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社 2011年JMACグループであるFMIC社へ移籍、現在に至る JMAC所属時から、プロジェクトマネジメント、開発効率化、商品戦略、商品企画、標準化など、 主に開発部門へのコンサルティングに従事し、50社以上のコンサルティング実績がある。 近年は、場のマネジメント(Ba+)による職場チームの知的生産性向上へ注力している。

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