独走する日本のグリーンIT

第4回 スマート・コミュニティ構想に580社余が参加

概要

この連載企画は、日本のグリーンITが世界最先端を走っている事実を紹介するものだ。グリーンITと言っても二種類ある。“グリーンofIT”と“グリーンbyIT”である。前者がIT機器自体の二酸化炭素排出の削減を目指すもの。後者はIT機器利用による二酸化炭素排出の削減である。この連載では後者の“グリーン by IT”を取り上げる。

3月11日午後3時前、マグニチュ-ド9.0というわが国では、過去最大規模の東北関東大震災が起こった。1万人以上の死者・行方不明者という大惨事である。物的損害だけでも10兆円を下るまいと予想されている。これに追い打ちをかけたのが、東京電力福島原子力発電所の事故発生である。大幅な電力供給削減をもたらしている。これを受けて東京電力管内では、3月14日から「計画停電」が実施されている。基幹発電所の事故が「計画停電」を生むという「集中電源」のリスクが表面化したものだ。この原稿を執筆している過程でも停電に出会っており、改めて電力の「地産地消」を目的とする「スマート・コミュニティ」の必要性を実感させられた。

 

スマート・コミュニティ構想に580社余が参加

今回のような大規模な「電力危機」が発生すると、これが必ず、電力の「地産地消」を目指す「スマート・コミュニティ」実現への推進力として働くはずである。例えば、米国で2003年、大停電事故が発生してから「スマート・グリッド」(次世代電力網)構想が持ち上がった。米国では日本と比べて電力網への信頼性がなく、停電発生率は日本の5倍と言われるほどだ。この結果、「スマート・グリッド」構想が米国で生まれても、日本では「我関せず」という態度であった。「スマート・グリッド」と言う言葉自体が、良く理解できない代物である。「次世代電力網」という訳語もピンとこないのだ。

 

そこで、わかりやすくもう一度説明することにする。火力・原子力発電などの「集中型発電」と、需要地の近くに分散配置して発電を行う再生可能型エネルギーの「分散型発電」を、最新のIT技術を駆使し効率的に管理する次世代送電システムである。「賢い(スマート)」「電力網(グリッド)」を掛け合わせた造語である。地域ごとに電力の供給と需要を最適化し、省エネルギー化社会を実現する有力な手段として注目されている。東京電力の「計画停電」は、日本で「スマート・グリッド」が実現していれば避けられた問題である。むろんこれには、再生可能型エネルギーの普及が前提になる。あと10年程度遅れて、今回の発電所事故が起こったとすれば、「スマート・グリッド」システムが作動して、「計画停電」を回避することは十分にあり得たのである。

 

わが国での「スマート・グリッド」導入目的は、2003年当時の米国とは異なっている。低炭素社会実現への切り札として「スマート・グリッド」が認識されているのだ。米国では、不安定な電力供給の解消と低炭素社会実現への役割を担っている。一般に、再生可能型エネルギーは、質の面で固有の欠陥を持っている。それは、天候しだいで発電量が左右される結果、電圧変動や周波数が不安定となるからである。

 

日本の電力は電圧変動がほとんどなく、コンピュータや医療機器など精密機器に使用される「高品質」な電力とされている。これが、一般家庭にも使われるという「贅沢な」電力消費である。そこに、電圧変動や周波数の不安定な再生可能型エネルギーが加わってくる。「スマート・グリッド」ではこうした「低品質」な電気の供給が、基幹電力(電力会社による系統電力)への影響を可能な限り排除するという役割も課されている。日本の「高品質」電力を生み出す技術は、「スマート・グリッド」でも存分に発揮されるという期待もあるのだ。

 

「スマート・グリッド」が、どのような機能を果たすのか見ておきたい。各家庭やビル、工場などに通信機能を持たせた電力量測定器の「スマート・メーター」を設置する。これによって電力量の遠隔測定のほか、発電や蓄電の制御が可能となる。具体的には、この「スマート・メーター」を仲立ちにして、①各家庭や事業所などのオフィスに設置された太陽光発電や風力発電などの「発電システム」と、②蓄電機能を持つ電気自動車(EV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)、家電までがネットワーク化される。こうして、電力の供給から需要までが「スマート・メーター」で一本化されるのである。

 

現状では、電力の供給も需要もバラバラである。いま行なわれている東京電力の「計画停電」では、強制的に「供給」の範囲内に「需要」を押さえ込んでいる。この操作を「スマート・メーター」が行なって、地域内での電力の過不足を自動調整するという夢のような役割を果たしてくれるのだ。地域内での電気の発電や使用状況を管理して、余剰電気を融通しあう「スマート・コミュニティ」が生まれるのである。

 

私は現状を「第二次産業革命」と認識している。第一産業革命は石炭という「化石燃料」を主要エネルギー源にしてきた。その後は、この延長線上で石油が石炭に取って代わったが、「化石燃料」であることに変わりない。これによって、二酸化炭素が地球全体に限りない悪影響を及ぼし始めている。今後は、低炭素社会を目指した「脱化石燃料」の再生可能型エネルギーに軸足を移さざるを得なくなっている。「第二次産業革命」という私の根拠はここにあるのだ。

 

21世紀が「第二次産業革命」期入りとすれば、ここで日本の産業界が「スタート・ダッシュ」をかけるのは当然である。世界の「第一次産業革命」は18世紀後半から始まって、これまで250年ほど続いてきた。それがついに、終焉を迎えて新段階にはいる。ここでつまずいて出遅れてしまえば、「ジ・エンド」である。経済産業省が音頭をとって設立した「スマートコミュニティ・アライアンス」には、581社(2011年3月16日現在)が加盟する、「オール・ジャパン」体制を確立しつつある。

 

「スマートコミュニティ・アライアンス」とはどんな内容か。「スマート・グリッド」による都市開発や社会システム構築を目的とした次世代電力網の官民連合である。重電機、電力、ガス、自動車、住宅、IT、商社、大学、シンクタンクなど一流の企業や大学が参加している。社名や大学名を見ただけで、力の入れ方が自ずと分かるほど「きら星」が名を連ねているのだ。企業単位では解決し難い標準化への対応や、社会システムの提言などに、共通の課題として取り組む。さらに、日本発の国際標準化へ臨む方針を明らかにしている。日本が国際標準化づくりに成功すれば、「第二次産業革命」の主導権を取れるにも等しいのである。これの正否は日本企業にとって大きな意味を持っている。この問題については、次回の連載で展開したい。

 

東京電力の「計画停電」は、後から振り返って「笑い種」になるだろう。それは、「スマート・グリッド」を基盤にした「エネルギー自給型住宅」が、技術的に確立されているからだ。「エネルギー自給型住宅」とは、高効率の太陽光発電システムや蓄電装置を備え、家庭で消費するエネルギーを自給自足できる住宅を指している。先にも指摘したが、太陽光発電は天候や時間によって出力が大きく変わるという欠点がある。そこでITによって電力の流れをきめ細かく制御する必要が出てくる。地域全体が「賢い(スマート)」「電力網(グリッド)」を必要とする理由がこれである。「エネルギー自給型住宅」は、蓄電装置を活かして家庭用電源で充電できるプラグイン・ハイブリッド車などに自動充電しやすくなる。ただ、蓄電装置の価格が高いので、現在では一般住宅よりも500万円以上のコストアップ要因になっている。日本の世界最先端技術による蓄電装置のコストダウンが、普及のカギを握っているのだ。

 

次回は、「グリーンITで世界標準を目指す」の予定である。

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筆者紹介

勝又壽良(かつまた ひさよし)


1961年 横浜市立大学商学部卒。同年、東洋経済新報社編集局入社。『週刊東洋経済』編集長、取締役編集局長をへて、1991年 東洋経済新報社主幹にて同社を退社。同年、東海大学教養学部教授、教養学部長をへて現在にいたる。当サイトには、「ITと経営(環境変化)」を6回、「ITの経営学」を6回、「CIOへの招待席」を8回、「成功するITマネジメント」を6回、「ITで儲ける企業、ITで儲からない企業」を8回にわたり掲載。

著書(単独執筆のみ)
『日本経済バブルの逆襲』(1992)、『「含み益立国」日本の終焉』(1993)、『日本企業の破壊的創造』(1994)、『戦後50年の日本経済』(1995)、『大企業体制の興亡』(1996)、『メインバンク制の歴史的生成過程と戦後日本の企業成長』(2003)

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