寝ている間もシステムは稼働する。
24時間365日稼働のクラウドとは、人々が寝ている間も稼働していることを暗に示している。
その際は基本的に、地球単位でお昼の地域が夜の地域もカバーをすることになっている。
しかし、ここで浮上する問題は「言語」。
お客様からポータルサイトへ日本語で書かれた要望も英語に訳され、そこで実施された作業履歴やハンドーオーバーする際の内容は全て英語で記入されている。
しかし、日本人以外、他の国々のユーザーは英語が得意であり文法も単語も慣用句も問題なく使用していると思っていたが、実はそうではなかった。
あるヨーロッパの顧客との電話のやりとり内容をまとめた資料を読んだ時、「顧客は英語での会話が不得意と認識したので、会話される際にはその点を注意してください」という情報が書かれていた。
確かにテキストベースで日本語から外国語に翻訳するサイト等はあるが、それもまだ完璧ではなく、ましてや仕事の会話における同時通訳となれば実現するのにはまだ時間を要するだろう。
「…というわけで、日本の深夜という時間帯に作業できませんか?」とマネージャーから打診された。
この会社に入社しておよそ一年、自分の仕事における不甲斐なさを反省している最中にマネージャーから、仕事が終わってから話したいことがあるということで話を聞いていた際、この深夜チームへの参加要請があった。
深夜チームは特に日本語サポートをメインとしているとのことだった。
「日本が寝ている時は、昼の国のチームが代わって作業をしていると認識していたが、なぜ?」という質問をストレートにぶつけてみた。
すると、最終的には会社都合ではあったが、このコロナ禍でのビジネスモデル、スタイルの変更をきっかけに、ITエンジニアの取り合いやら、リソースの再配置を経ていることがわかった。
一見、遠くの世界で起きている事柄だと感じることがあったが、影響を受けるくらい身近なものだと認識すると、今一度、背筋を伸ばす自分がいる。
「正式返答をするために2,3日の時間がほしい」とマネージャーに伝え、何人かの人々に相談をし、自分のこの仕事の能力やこれからのチャンス、そして仕事ではないプライベートな時間も比較し、最終的に深夜チームへの参加要請に対し「YES」の返答をマネージャーへ送った。
早速、シフト表がアップデート後、2022年後半、深夜チームのメンバーとなった。
「いやぁ、待っていたけど、まさか「YES」と言ってくれるとは思っていなかったよ」と深夜チームのリーダーから言われた。
この歳にして新人という立場をわきまえ、まるで学校を卒業して初めて配属された部署で挨拶するかのように「よろしくお願いします」と、挨拶だけはちゃんとしようと思った。
この深夜チームは、お昼のチームがさばききれなかった作業も行うことがわかったが、提供サービスにおいて上位レベルの金額を支払ってくれ、かつ、極めて緊急度の高い内容以外は対応しなくてもよい、とのことだった。
この少ないリソースで、その対応ボリュームに対する生の声を聞いたとき、「実際に顧客とのやりとりは少ないにせよ、顧客とのやりとりが生じる際、それはあまりにも緊急度の高い内容、つまりは自分のこの能力では解決できない内容である」とも認識した。
そうなると、やはり怖くなってしまい、そのことを正直に深夜チームのリーダーに話すと「大丈夫、大丈夫、慣れだよ、慣れ」と、これまたどこかで聞いた、自分でも吐いたことのあるセリフを発されてしまった。
この深夜チームは日本時間の深夜に仕事をする、それぞれのプロダクトから選出されたエンジニアの集まりだ。
お昼のチームだった時は、他のプロダクトのエンジニアを意識することはなかった。
しかし、ここではプロダクトの垣根を越えなければならない。
例えば、深夜時間帯に他のプロダクトに対して、緊急度の高い内容の要請があった場合、一番初めの対応、つまりは他のプロダクトが反応しなかった場合には、たとえ担当ではないプロダクトだったとしても、「承った」という趣旨の内容を送信しなければならない。
この「送信する」ということを怠ると、契約違反となり、それは顧客へ多大な迷惑をかけてしまう。
そのため、プロダクトの担当か否かという概念は取っ払ったうえで、深夜の日本語緊急度高の案件がやってこないかをモニタリングするという作業が生じる。
深夜チームリーダーが休みの際はサブリーダーが取り仕切る。
そのサブリーダーからは「この深夜チームは、みんなで助け合っていきます。その案件をどう処理するかといった、わからないことがあったらいつでも、直ぐに話し合いましょう」と、心理的に安全な場所にいると感じることができるコメントを貰った。
この深夜チームの”売り”は「チームワーク」だった。
それがわかった時、たとえ深夜帯で眠くても参加してよかったと安堵する自分がいた。
仕事をする日の昼夜逆転の生活スタイルがなんとか慣れてきたときのこと。
日本語緊急度高の案件がやってきたため、否が応でも対応しなければならなくなった。
しかし、その内容から自分の能力では解決できない、と判断後、ルールブックに沿った作業を行うことに決めた。
それは、海外にいる上位レベルのエンジニアへサポート依頼をすることだった。
もちろん、使用言語は日本語であるため、まるでエンジニアから翻訳者に転職したのかと思うがごとく、英語にまとめた上でのサポート依頼だった。
最終的にそのサポート依頼の問題は解決され、顧客からも満足したというフィードバックを得たが、そのサポート依頼の過程でちょっとした問題が起きていた。
それは、日本語というローカル言語に対して怖がっている海外エンジニアがいるということだった。
たとえ筆者が間に入るからと念押ししても、その怖さは払しょくできなかった。
しかし、考えてみれば、逆であればその気持ちがわからないわけでもない。
まして、日本人の顧客はその案件が終わってからのフィードバックに対する評価が厳しすぎる、ということも伝わってきているであろう。
やっと見つけた上位レベルのエンジニアとやり取りを発生させ、英語にまとめたものを提示し、解決への糸口を探っていき、最終的には解決にこぎつけた。
じつは、この筆者の作業問題、つまりはルールブックに載っているにもかかわらずそれが機能しないということについて、会社の上位レベルで審議されたとお昼のチームリーダーから聞いた。
日本の深夜時間帯における日本語緊急度高の案件の海外エンジニア対応について、詳細を期していた筆者のメモが証拠として取り上げられたとのことだった。
「よく、この問題提起をしてくれました」とチームリーダーから賞賛の声を頂いた。
しかし、悦に浸らず「顧客のため」と思うと、いや、自分やこの深夜チームのことを思うと、その問題存在の認識と解決へ模索する会社の態度は希望が持てるなと思いつつ、朝日を浴びながら帰宅する自分がいた。
クラウドという雲の中には、義理も人情もAIもプログラミングで生成されたバグも存在する。
しかし、そのクラウドを使用するのは我々、人間である、という点だけは譲ってはならない。
昨今、Web3.0がいろんなところで話題になっている。
Web3.0の定義はちゃんとした権威ある人に任せるとして、Web3.0もまた使用するのは我々、人間であることだけは間違いない。
クラウドという雲にユーザーがアクセスしサービスを受けるとき、そこに人間くささを意識させなければさせないほど、我々クラウド系のエンジニアは嬉しいものであろう。
一方、クラウドを裏で支えているエンジニアは、日々アップデートされる技術を自身の血と肉とし、そこにコミュニケーションが発生する場合は互いを尊重しながら、一緒に作業を進めていくことが大切だろう。
結果、クラウドとてただの技術。
そこに人が介在する限り、尊重も謙遜もユーモアも介在する。
2022年10月吉日
(後記)
この度もわたくしのコラムを読んでいただきましてありがとうございました。
開示できる・できない内容等も存在していたため、抽象的な表現になってしまっていることを、誤字脱字があったことも含めてお詫びいたします。
一方、このITという仕事の面白さを再発見しているのも事実です。
日々、アップデートされるこの分野でITエンジニアの一人として、その難しさも楽しさも感じながら、来る2023年のITの分野を盛り上げていきましょう。
ありがとうございました。
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筆者紹介
1971 年生まれ。秋田県出身。
新卒後、商社、情報処理会社を経て、2000 年9月 都内SES会社に入社し、主に法律事務所、金融、商社をメイン顧客にSLA を厳守したIT ソリューションの導入・構築・運用等で業務実績を有する。
現在、某大手クラウド運用会社の基盤側でサポート業務に従事。
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