(新)組織の活性化

第4回 活性化(変革)のハード的な要素

概要

組織タイプ、モチベーション(心理学の視点)、チーム力の強化、変革のリーダーシップ、社員のマネージメント等、キーワードの解説や組織の活性化をはかるための手法について、事例を交えながら理論や実践方法を述べていきます。

 前回までは、活性化について、企業組織文化、コミュニケーション、全員合意の仕組み、リーダーシップ等のソフト面を中心に論じてきた。しかも、ソフト面は企業組織や人間関係に深く根ざしているため、簡単に変えることができないことも分かった。こうしたソフト面は重要ではあるが、今まで、なおざりにしてきたハード面について述べることにする。  活性化に影響を及ぼすハード要因として、変革に要する時間、社員数、財務的業績などがある。こうしたハード面も変革されないと、変革(=活性化)に成功したとはいえない。ハード面に着目したボストン・コンサルティング・グループの調査結果を以下に紹介する。  様々な業界や団体の225社の変革プロジェクトを調査・分析した結果、変革プロジェクト成功の成否は、次の4つのハード要因と密接な相関関係にあることが判明した。
 
(1)期間
 変革の期間が長いと、当初の勢いは次第に衰え、変革のタイミングは失われていき、 問題が積み上り、目標は低くなり、失敗すると思われている。しかし、この調査結果 によれば、進捗状況を頻繁に評価している長期プロジェクトのほうが、進捗状況の評 価をなおざりにしている短期プロジェクトよりも成功確率が高いことが判明した。つ まり、プロジェクトの期間よりも評価期間の長さ(頻度)のほうが重要であった。進 捗評価の間隔が8週間を超えると、プロジェクトに問題が発生する可能性が高くなる。 複雑なプロジェクトや難しいプロジェクトでは、2週間以内の間隔で進捗を評価すべ きであるということが分かった。
 進捗評価の手法としては、事前にマイルストーンを設定して、PDCAを着実に実 践することが最善の方法であった。変革に関する手法をあれこれ考えることよりも、 シンプルなマイルストーン管理を徹底したほうが効果を発揮した。適切なマイルスト ーンは、リーダーが進捗状況を容易に確認・評価でき、かつ課題が完全に解決できる ものでなければならない。計画どおりにはいきそうも無いマイルストーンが設定され ている場合、プロジェクト・チームはその原因を把握して、何らかの是正措置や再発 を防止する手段を習得することが大事であった。進捗状況の評価においては、チーム 全体であらゆる角度からその成果を検討し、発生した課題とその対処方法等の議論を、 十分に時間をかけて実施することが重要であった。ここでチーム内の力関係、メンバ の意識変化、経営陣からのメッセージに注意を払うことが大切である。
 
(2)遂行能力の十分性
 遂行能力の十分性とは、変革チームの構成員の力量を示すものである。どんな変革 プロジェクトでも成功することが理想だが、その期待に応えられる優秀な社員を大勢 抱えられる企業は少ない。しかも、日常業務を犠牲にしてまで、変革プロジェクトに えり抜きの社員を差し出す部門長などめったにいない。こうしたプロジェクトは寄せ 集まりの部隊になるので、結束力とマネジメント・スキルが重要である。最低でも、 経営陣の責任者(担当役員)と優秀なリーダーが必要である。担当役員は、メンバと 自ら面談し、定期的にメンバの意見に耳を傾け、チームの業績評価項目と評価方法を 公開して、チームの結束力を促すように努力すべきである。
  プロジェクト・リーダーは人望の厚い管理職が相応しいと決めてかかると失敗する場合が意外と多かった。優秀な管理職が企業変革の適任者とは限らないのである。優れたチーム・リーダーの条件は下記の6項目が必要だ。
 
  • 問題解決力
  • 成果重視の姿勢
  • 柔軟かつ論理的な手法
  • 組織運営能力
  • 決断力と責任感
  • 謙虚さと積極性
(3)意欲(モチベーション)
 2つの社員層の関心を高めることが重要であった。1つは、社長と同等の影響力を持つ経営陣からの支援を取り付けることである。経営陣の意欲無しに、現場の意欲を引き出すことは出来ない。経営陣が支援しないプロジェクトに社員が関心を示すはずがない。社員に示すメッセージは、経営陣が思っている影響度よりも実際は小さい。成功した事例では、十分だと思っているレベルの3倍程度強いメッセージを訴えて、初めてその本意が管理職層に伝わるのが実態だった。時間短縮とミス減少によってコスト削減を図る業務改革プロジェクトの実例の場合、リストラを伴うという理由から経営陣はあまり乗り気ではなかった。しかも、有能な人材を育成して終身雇用を誇りにしていた企業だったために、リストラを敢行することに経営陣は躊躇していた。意を決した社長はリストラを覚悟して、雇用への影響やその対策を協議する場を設定する同時に、変革プロジェクトの責任者に人望の高い管理職を抜擢した。こうした熱意と温情を持って変革に取組むという姿勢を示したことで、社員の不安を抑えて、支持を得ることが出来た。このように思い切った強いメッセージが必要なのだ。
 2つ目は、業務上で新しいプロセスや手順に対応しなければならない社員の熱意を高揚させることである。管理職と社員が変革に果たす役割を過少評価する企業も多い。経営陣が社員とのコミュニケーションを怠ったり、そこに一貫性が欠けていたりすると、変革の影響を最も多く強く受ける層から背を向けられる。経営陣が良かれと思ったことが、社員に不評であったり、誤解されることもある。経営陣と社員の間の微妙な認識の相違を理解して、社員の支持を獲得する努力が重要でなのだ。
 
(4)負荷
 いざ変革に着手する段階になって、社員達が日常業務で手一杯という実態を認識しないばかりか、何の対策も講じない企業が多い。現場の多くの社員は100時間以上の残業をしている状況で、業務改革を強いられたプロジェクトもあった。こういうプロジェクトは現場社員からの反発は必死である。改革に伴う業務量を予め測定して、現状業務からの増加分が10%を超えないように対処すべきである。10%を超えた場合、通常業務か変革業務のどちらかでトラブルが発生すると、社員の士気が低下し、通常業務と改革業務の間で軋轢が生じることになりかねない。変革に成功したプロジェクトでは、こうした事態の回避策として、社員の視線で見た「業務負荷の増加率」という指標を作って、負荷の増加分を明確に示すとともに、通常業務の負担を減らす手立てを講じた。
 
 以上が変革の成否に密接に関係している4つのハード要因である。次回は、この4つの ハード要因を使ってプロジェクトを評価しながら、活性化(変革)の成功確率を向上させ る手法を紹介する。

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筆者紹介

佐野詔一(さのしょういち)

1945年生まれ。

富士通㈱(OSの開発&大規模ITシステム構築に従事)および(株)アイネット(大規模ITシステム構築&ITシステム運用に従事)において、大規模ITシステム構築&大規模ITシステム運用経験を経て、現在はITプロジェクト・マネジメント関係を専門とするITコンサルタント。産業能率大学の非常勤講師(ITプロジェクト・マネジメント関係)を兼任。当サイトには、「IT部門のプロジェクト・マネジメント」ついて研究レポートを12回にわたり掲載。

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