新・玄マンダラ

第4回 エコポイントにみる日本のIT革命

概要

これまで一年半にわたり、「玄マンダラ」をお読みいただき感謝申し上げます。 平成21年7月から、装いを改め、「新・玄マンダラ」として、新しい玄マンダラをお届けすることになりました。 ITの世界に捕らわれず、日々に起きている事件や、問題や、話題の中から、小生なりの「気づき」を、随筆風のコラムにしてお届けします。 執筆の視点は、従来の玄マンダラの発想を継承し、現在及び将来、経営者として、リーダーとして、心がけて欲しい「発見」を綴ってみたいと思います。 引き続き、お付き合いを御願いします。 職場で、あるいは、ご家庭での話題の一つとしてお読みください。

2011年にアナログTV放送が終了する。 なかなか地上波デジタルの準備が進まない政府は、様々な買い換え促進を図ってきた。 企業収益の低迷に喘ぐ家電業界はこの機会を最大限に活用して国内でも1億台ともいわれるアナログTVをデジタルTVに切り換えるべく活気づいている。 一方では、政府は、気候温暖化対策のために6%のCO2削減を京都議定書でコミットしたのでその実現に必死である。 その鍵は、家庭での省エネとなる。 そこで、「エコポイント」なる施策を実施することを決め、詳細は未決定のままに、今年の春から実施を開始した。 対象となる家電に電力削減のレベルに応じて購入価格の一定割合をポイントとして購入者に還元するシステムである。 量販店などは政府がどのように具体的に購入者に還元するのかを知らないままに、エコポイントを付加して販売促進をした。 詳細が決まったら政府から連絡があるので、それまでレシートを各自が保管して置くというやり方であった。 そして。。。

 

エコポイント申請始まる

 7月1日からエコポイントの申請が始まった。 さて、どんな仕組みか体験してみることにした。 というもののどうしてよいのか殆どの人は判らないであろう。 小生も判らないので、購入した量販店へ行った。 どのように申請すればよいのかと質問すると、指定のカウンターがあるのでそこで説明を受けて欲しいという。 指定のカウンターにいくと、正式に印刷された用紙やパンフレットがあるのかと思うと、ゼロックス・コピーした二つの書類を渡された。 

エコポイント登録・交換・申請書の記入例(1枚)
エコポイント登録・交換・申請書(3枚綴り)

方法は、この用紙に記入して、「必要な書類」を同封して、JPの局留めで「グリーン家電エコポイント申請係」へ送るか、あるいは、ネットで申請した上で、「同じ書類」を郵送するかの二つであるという。 どちらの場合でも、「必要な書類」を郵送する必要がある。 店員の説明によれば、用紙に記入するよりは、ネットで送り、あとから「必要な書類」を送付した方が早く支給されるので、そうした方がよいという。 とりあえずはこれを持ち帰り読んでから手続きをすることにした。 量販店はエコポイントの処理は関与しない、あとは顧客と国の間のビジネスであるということである。 全体のプロセスが判りにくい。 要は次のようになる。

量販店などでエコポイント対象商品を購入し、領収書、保証書、リサイクル票を貰う。
エコポイント登録・交換・申請書に必要事項を記入し、量販店が発行した、上述の3つの書類を添付し、指定の政府の窓口に郵送する。あるいはネットで申請して書類を郵送する。 この時、ネット上のカタログで交換して欲しい「商品」を保持ポイント内で指定する。
後日、申請書で希望した「商品」が申請者に直接届く。

つまり、

エコポイントという「金券」を使って、政府がカタログショッピングの業者作業をするというビジネスモデルである。

下品な例えをすれば政府版の「円天」というところである。 政府が発行した金券であるエコポイントは、ポイント数に相当する金額が税金から商品を販売する業者に支払われるということになる。 国民は一端納めた税金を商品購買を通じて還付して貰っているという仕組みである。 今後、政府が、景気刺激策などの施策をするときの実験をしているかのような錯覚となる。 最近、「藩札」もどきの紙幣を発行するという議論が出て消えたが、穿ってみれば、なにか、その実験かのようにも見える。

そこで、指定されたサイトを開く、下記のスクリーンがそのサイトである。 全体の手続きがよく判らないので何度か手戻りすることになる。 ネットは、お年寄りは絶望的に無理である。 簡単にプロセスを説明する。

手もとに購入した製品の領収書、保証書、リサイクル伝票を用意する。
エコポイントサイトを訪問する
ネット上のカタログから、「交換したい商品」を先に選択しておく必要がある。 交換したい商品が決まれば、その事業者コードと、商品コードを控えておく、その時、その商品のポイント(価格に相当)も控えておく。 量販店の窓口には交換商品のカタログが整備されていないので、ネットで確認するしか方法はない。 そのうち、カタログが整備されるのであろうが、現在はネットで見るしかない。 その対象商品は全国から登録されたものであり、その選定の基準はまったく判らないが、ともかく、ありとあらゆる商品がある。 いわゆる政府の主催する出来の悪いネットショッピングの通販のイメージと思えばよい。 これではパソコンを扱えない人は絶望的に申請が出来ないことになる。
次に、申請書の作成にかかる、これは指定のボタンのところに単純に指定の項目を順次書き込んでいけばよい。そのときに、1の書類に記載されている、製品番号、製造番号、リサイクル番号、領収書が必要となる。 一度に一つの製品しか処理できないので、複数の製品を購入した場合には、製品毎にこの一連のプロセスをすべて繰り返すことになる。つまり、同じ、個人情報や、関連情報を繰り返し、記入することになる。 これは実に面倒である。 複数の製品が一度に登録できると便利である。 5個の製品があれば、5回このプロセスを回すことになる。 小生は2回これをやることになった。 同じ個人情報等を2度インプットすることになる。
必要項目が記載されると一度その情報がサイトに送信され、購入した製品がエコポイント対象として登録されている商品かどうかの確認が行われ、登録されていると、「獲得出来るエコポイント」が自動的に申請用紙に書き込まれる。 これで、自分の獲得したエコポイントが判る。リサイクルをした場合には、製品により一定のポイント(TVは3000点、冷蔵庫は7000点)が付加される。 これは量販店などですでにリサイクル料金を支払っているのでそれが戻ってくるという感覚となる。
続いて、「交換したい商品」を記入することになる。 このとき、獲得したエコポイント数以内であることを確認する必要がある。 交換したい商品を記入して送信すると、獲得エコポイントと、交換商品のポイントの差額が計算され、残があれば、それは次に使えるポイントなる。 この「残額」の使い方はいま一つ判らない。 そこで、小生はおつりのないように差がゼロになるように「JCBの商品券」を選択した。
そして、確認画面が出るので確認して、送信すると、これで申請書がサイトに登録されることになる。
続いて、印刷画面となり、印刷をクリックすると、4枚の申請用紙がプリントされる。 そこには、画面で作成されたものが印刷され、指定の用紙の指定の場所に、保証書(写し)、領収書(本紙)、リサイクル票(写し)をのり付けすることになる。一枚は手もとの控えとなる。
この申請書一式を、「グリーン家電エコポイント申請係」に封書にて郵送することで申請が完了する。 製品が5つあれば、5つの書類の作成が必要となる。領収書が合算されているので、領収書は原本と、あとは申請ごとにコピーを添付することになる。
これで、あとは、「ジャパネット・政府」から通販商品が手もとに届くのを待つことになる。 審査が終わると小生の場合は、メールで連絡があり、いつの日かJCBの商品券が送られてくるはずである、いつ到着するのか判らない通販商品の到着を待つことになる。 よもや、手作業とは思われないが、パソコン申請でない人も多いと思うので、政府が膨大なアルバイトを使って、紙を確認して手作業で、通販作業をやっている可能性も否定できない。申請する側も、学習時間、作業時間、コピーコスト、切手代金、投函の手間、などなどを合計すると、人数が多いだけに、一人1時間としても膨大なロスが発生する。 喜ぶのはJPだけであろうか。

以上が、申請書作成のプロセスである。 パソコンに慣れている人であれば、プロセスを理解して、書類を準備しておけば、簡単であるが、プロセスを理解していないままに、画面に向かうと結構面倒となる。 一つの書類を作成するのに、10-15分は懸かることになる。 多くの数字をインプットするので、送信したあとで間違いなどがあると、修正することは出来ない。 書類に手書きで修正すると無効になるという。 小さい数字など転記ミスが容易に起こるので、これは無理な注文というものであろう。 あとで、記入ミスに気づいても修正するプロセスはまるで判らない。 手書き、押印の修正を認めないと混乱することになろう。

さて、この作業を、日本中で一体どれだけの人がやるのであろうか? そして、役所の人間は、これを確認するのであるから、その確認と検証に、一体どれだけの労力が必要になるのであろうか? さらには、指定された商品の手配がある、そのコストもまた大変なものになるであろう。 エコ家電の買い換えで、CO2はどれだけ減少するか知らないが、この処理に係わる組織コストは膨大となり、処理のためにかなりの規模の組織と関連の組織活動が必要となり、一過性とはいえ、国家の生産性を大きく損ねることになろう。 このITの時代に、まったく馬鹿なシステムを作っているものである。 この仕組みには多くの人が関係するので、そのコストは膨大となることは予想に難くない、また、政府通販のカタログにどこの商品を登録するのかというところでは、利益誘導が必ず起こっているはずである。 巨大なお金が動くので巨大な利権がうごめくことになる。 定額給付金が2兆円といわれたが、エコポイントは、どれだけの税金が投入されるか、判らない。 還元されるエコポイントは購入商品により異なるが、概ね製品価格の10-20%というところである。 仮に、2000万世帯が政府通販の顧客となったとすれば、一世帯あたり、5万円の買い物をすれば、およそ1万円のエコポイント金券が動くので、総計としては、2000億円の予算が消費される計算となる。 秒読みとなっている選挙であるが、地場の商品を交換対象商品に組み込むために議員は活躍したことは想像に難くない。 本来は、CO2の削減に活用すべきエコポイントであるが、それは、一次商品の購入だけの話である。

かつて、どこかの国の首相が、「民に出来ることは民に、地方が出来ることは地方に」と、叫んだ。 しかし、いまの政府は、民間では成熟した通販の仕組みを、素人の政府が真似するからこんな仕組みを作ることになる。 民に任せれば既存のシステムで素晴らしい簡単な対応が出来るのである。 最初から、販売店と国家の間でルールを決めておいて、顧客と販売店の売買で製品の購入時点で簡潔するようにして置けば、遙かに、利便性は高く、生産性も高く、エコであると思うのであるが、複雑で不便で、無駄なことをしていると思う。 e-Japan戦略は10年になるが、まるで、IT国家とは程遠い、日本のIT利活用であることを実感するのである。 このシステム設計はどこのIT企業が担当したのか知らないが、設計の基本的な発想が、お役所仕事のITによる置換であることに情けなくなるのである。 かつて不評であった、e-Taxの仕組みと同じである。 まるで学習していない。

これでは、面倒で、申請しない人が多発しそうである。 高額商品の購入者でない限り、こんな面倒な手続きをやるほど、今の現代人は暇ではないと思うのであるが。 そうしたことも計算に入れていると思われるし、この仕組みは、今後政府がなにかをやるときの実験であるかのように勘ぐられても仕方のないほど、お粗末な仕組みである。 e-Japan戦略の第3段階は、IT新改革戦略であり、企業と国家の生産性向上のためのIT利活用がテーマであるが、政府は、自らe-Japan戦略を展開していることを完全に失念している。 そしてこれまでの反省(?)に基づき、ここへきて、「三カ年緊急プラン」と「i-Japan戦略2015」(6月30日発表)を立て続けに発表し、e-Japan戦略の再構築を計ろうとしている。 その最大の反省として、国民にどんな利便が提供されるか、国民へのサービスとその効果という視点が絶対的に欠落していたと指摘している。これは反省(?)と呼べるレベルのものではない、根本的なコンセプトに重大な問題があったことを意味する。 国家として「真の目的の定義」をしていなかったことになる。 利便とは何か、サービスとはなにか、役人は、まずは、自ら、エコ家電を購入して、この一連の作業をみずから実体験した上で、実施に踏み切るべきである。 机上の設計のままに実施することがシステム設計ではもっとも失敗するケースであることは古くから実証されている。 目的と、目的を実現する、最初の基本コンセプト設計において、誤っていると思う。 「エコ」という言葉の意味は、「徹底した無駄の排除」なのである。

以上。
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これまで一年半にわたり、「玄マンダラ」をお読みいただき感謝申し上げます。 平成21年7月から、装いを改め、「新・玄マンダラ」として、新しい玄マンダラをお届けすることになりました。 ITの世界に捕らわれず、日々に起きている事件や、問題や、話題の中から、小生なりの「気づき」を、随筆風のコラムにしてお届けします。 執筆の視点は、従来の玄マンダラの発想を継承し、現在及び将来、経営者として、リーダーとして、心がけて欲しい「発見」を綴ってみたいと思います。 引き続き、お付き合いを御願いします。 職場で、あるいは、ご家庭での話題の一つとしてお読みください。

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筆者紹介

伊東 玄(いとう けん)

RITAコンサルティング・代表
1943年、福島県会津若松市生まれ。 1968年、日本ユニバック株式会社入社(現在の日本ユニシス株式会社) 技術部門、開発部門、商品企画部門、マーケティング部門、事業企画部門などを経験し2005年3月定年退社。同年、RITA(利他)コンサルティングを設立、IT関連のコンサルティングや経営層向けの情報発信をしている。 最近では、情報産業振興議員連盟における「日本情報産業国際競争力強化小委員会」の事務局を担当。

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