概要
IoT/Industrie4.0に飛びつく前に、今の国内産業/自社におけるIT戦略/IT投資を省みた土台の強化から始めませんか!? 企業戦略として、IT戦略/IT投資は、永遠の命題である。高価なH/W投資の時代から、パッケージソフト、クラウドと個々に発展を遂げたIT技術が、今では、インターネットを介して繋がることで価値を発揮するIOTの時代となった。個別の対応で持ちこたえてきた時代から、名実ともに、全体を考える時代到来と言える。 では、今までのやり方で通用するのか?! 総務省から発表された「平成27年版 情報通信白書のポイント」を見るに、「今までもやり方では通用しない。」傾向が読み取れる。しかしながら、私は、斬新なやり方が必要だとも思わない。やるべきことを曖昧にせず、明確にし、迷ったら立ち返る回帰点を常に共有することである。ある人は、「当たり前なこと。」とか「ウォーターフォール開発=古臭い」と言うが、それは、目的・目標、やることが決まってからの話である。 ここで重要なのは、目的・目標、アプローチ方法・手段の決め方である。その必要性の提議と手順をガイドラインとして提案、提示する。
これまでの「IT投資」ガイドライン
これまで、経産省を中心に、提示された「IT投資」に関するガイドラインは、
- 2010年 経産省(JUAS)の「IT投資価値評価ガイドライン」
- 2015年10月27日、投資家に対し企業がIT活用戦略を伝える際の指針として、「攻めのIT-IRガイドライン」(原案)
はあるが、何故か?! 上流の「設計・開発ガイドライン」が見当たらない。
見当たらないのであれば、「実績と経験に基づいた有効な手法=”モデリング手法”」を提案するので、ガイドラインとして、取込んで欲しい。
「IT投資設計・開発ガイドライン」の核としたい”モデリング手法”提案
総務省が、自治体CIO研修資料として、「業務モデリング概論(PDF)」が公開されている。
ここにモデリングについて、図1のように紹介され、必要性が記されている。
図1(クリックして拡大)
解説を含め解り易く紹介されているが、あくまでも「企業内の業務定義~システム化」の範囲であり、本稿のテーマ・提案である『産業/企業/事業部門の間をIT技術で繋いでイノベーションする「寄与度」を高める』ためには、もう少し、上位の概念である
- 企業を構成する事業体
- 企業としての目標・中期経営計画、事業戦略、KPI(:業績評価指標)、リスク・課題
- 取引・事業毎のプロセスの俯瞰図
のモデリングが必要であり、この段階で、
- 冗長なプロセス
- 陳腐化したプロセス
- 付加価値を生まないプロセス
をそぎ落としてこそ、無駄なIT投資を抑制することはもとより、新たな発想の取引=ビジネスモデルを生み出せると考える。その上で、本題である
- 新たな付加価値を生むプロセス
- 既成概念に捉われない柔軟で多様な外部プロセスとの連携
- イノベーション
を組み込んだ新しいビジネスモデルを定義するのに必要な定石手順として、以下の”モデリング手法”を提案する。
モデリング要綱
モデリング手法自体は、既にいくつかの概念が示されているが、ここでは、テーマである「IT投資の寄与度を高めるための実践手法」を提案する。
先ず、図1にも記されている、「業務やシステムの関係を単純化して表現する(モデル)図」として、以下の5つの図を使った表現方法を提案する。
レベル1)事業構造図
文字通り、企業活動を構成する事業を表現するモデル図である。
事業については、システム導入時には、あまり意識していないか、もしくは、予算獲得時に触れられるくらいの感覚であるが、筆者は、必ず最初にここから確認をする。なぜなら、事業は、企業の業績を評価する単位であり、これから行う”IT投資”が、企業のどの事業にどれだけ”寄与”するか/したかを評価する指標と関係づけられる単位だからである。
会社の事業自体認識が薄ように感じるが、上場企業であれば、有価証券報告書の【事業の内容】として、明確に定義されているものであり、上場企業ならずとも決算書には、事業区分が記されているものなので、これを機会に認識を高めて欲しい。
レベル2)目標図
ITならずとも投資をする企業であるならば、「中期経営計画」が存在する。そこには、いくつかの大目標と、その達成を阻む課題・リスク、それを打ち破るための事業戦略が掲げられ、最終的には、数値目標が記される。
「中期経営計画書」を忠実にモデリングすることまでは課さないが、これから行う”IT投資”が、中期経営計画のどの事業戦略の一貫であり、どの目標に寄与し、結果数値目標としての「寄与度」が示されてしかるべきである。
予算答申時には、議論されるものの、明確な明示(モデリング)と結果のフォローがなされないのが、日本企業の弱点であり、IoTとなれば、エンドユーザへの「寄与度」は、建前としても、本音としての「各社/各部門の利害関係の認識合わせ」がスムーズに行われない限り、頓挫してしまう。そうならないための必要なモデル図である。
レベル3)取引関係図
業務フローを書き始める際、概要図とか概略図と称した図から書き始める。これもいわゆるモデル図と言えるが、実際は、各社各様である。折角書くなら、世の中で一般化されている表記が良い。そこで提案するのが、有価証券報告書の【事業内容】の中に記される[事業系統図]である。上場企業でなくとも、これに準じて描くことは、容易である。
ここには、顧客、取引先、関連会社との商流が示される。いきなり細かな業務フローを書いても、その業務の位置づけが解らなければ、余剰な検討、迷走、延いては、開発コストの増加、「寄与度の低下」に繋がってしまう。
業務フロー図の要となるモデル図である。
レベル4)プロセスチェーン図
取引関係図全体の商流の中で、今回の「IT投資」の対象となる範囲(スコープ)の商流部分を(やや詳細に)分解する表現として、「会社/部門(このレベルでは、物理的な会社/部門ではなく、機能単位で表現)が担うビジネスプロセス間の”商流”を具体的な情報媒体(電子データ、メール、紙)で表すと共に、”物流”と”お金の流れ”を加えたモデル図」である。
レベル5)業務フロー図
いわゆる一般的に記される”業務フロー図”である。但し、
- 業務担当者視点での分岐条件の明記(⇔フローチャートで見受けられるひし形のYes/Noは、実際の運用を表現しきれないことが多いので、推奨しない)。EPC(Event-driven process chain)記法を推奨。
- 5W2H(※ここでのHは、How muchとHow many)
- 担当だけでなく、その担当が手作業で行ういわゆる”ヒューマンオペレーション”と、システムを使って行う”システムオペレーション”のスイムレーンを明確に分けること。
モデリング・コンテンツ
図2に、各モデル図の表記方法のコンテンツを示す。
尚、このモデリングの概念は、現在、IoT活動の一環として、ドイツで推進しているIndustrie4.0のワーキンググループのリーディングカンパニーの1社であるScheer Consultingの会長であるDr. August-Wilhelm Scheer氏が提唱するARISメソッドに準じたものであり、筆者が、実践適用をする中で、ブラッシュアップしてきた実用手順である。
図2 モデリングガイドラインの提案コンテンツ(クリックして拡大)
モデル図テンプレート
コンテンツをサポートする各モデル図のテンプレートを合わせて紹介する。
レベル1)事業構造図(クリックして拡大)
レベル2)目標図(クリックして拡大)
レベル3)取引関係図(クリックして拡大)
レベル4)プロセスチェーン図(クリックして拡大)
レベル5)業務フロー図(クリックして拡大)
企業単体の”モデリング”が、何故、情報産業の底上げと、寄与に繋がるのか。
図3に示す通り、単体の企業構造は、産業構造全体の縮図と言っても良い(これもいわゆるモデリング)。各企業が同じガイドラインに従って、”モデリング”することで、IoTのビジネスモデルの設計に取り組み易くなると考える。
図3(クリックして拡大)
「寄与度」を高めるためのモデル図の見方・活用のノウハウ
きれいな図を描くことが目的ではなく、抜本的問題を突き止め、投資に対して”採算性”と「寄与度」を達成するビジネスモデルを見出すことが目的である。俯瞰して、連関性のあるモデル図にすることで、より高い「寄与度」に繋がる答えが見つかるはずである。
図4(クリックして拡大)
モデル図のメンテナンスノウハウ
“モデリング”は、一度描いたら終わりではなく、何度も見直し、整合を図り、より「寄与度」を高める対策を導くために、必要な加筆・修正を加えることが重要である。
図(クリックして拡大)
整合性を維持し、必要な修正を加えて、解を導くために
図2で示した各レベル間で、同義のシンボルの属性を含めた同期・関連の維持は必須で、メンテナンス性や必要なレポート出力をサポートするツールが、効率化はもとより、QuickWinの達成に、必要なアイテムとなる。ツールといっても、汎用的なDrowingToolよりも、専用のModelingToolを推奨する。私は、IDS-Scheer社(現在のSoftware-AG)が提供するARISで、実績・成果を上げているが、本提案をより多くの皆様に実践頂き、効果を享受頂くためにも、ガイドラインに則った安価で、使い易いクラウド環境の登場を切に願っている。
「IT投資設計・開発ガイドライン」の実行責任者と実行者
「ガイドライン」の徹底、定着には、”要綱”や”コンテンツ”を正しく理解し、徹底させる統制力が必要である。
海外では、ずばり、CPO(Chief Process Officer)が担う。CPOは、ビジネス活動全体の統括責任者で、そのために、”モデリング”は、必須のことである。
日本では、今でもって、CPOと検索すると、たくさんの意味が出てくる。
提案者としては、事の重大さから、法的な統制力・強制力迄求めたいところだが、整備が整うまでの間は、海外に倣うしかない。
実践適用し、成果を享受するには、”要綱”や”コンテンツ”を正しく理解した”モデラー(モデル図を描く人)”以外に、モデル図で設計した内容が正しいことを”レビューする人”、正しいことを以て改革/新規ビジネスモデルを”推進する権限を持った人(CPO)”が、必要となる。
“推進する権限を持った人(CPO)”は、間接要員(Cost Center)ではない。社内はもとより、グループ会社、社外へ寄与し、自社に収益をもたらす立派な、”直接要員(Profit Center”である。
その責任ある判断を下す際の根拠として、複雑なビジネス活動を単純化して表現した”モデル図”が、必須となる。
「IT投資」において、ビジネス、会社全体を見て、判断する”モデル図”と、”モデリング”を実行する体制、権限の整備と徹底が、『産業/企業発展の核として情報産業/IT部門の寄与度を高める』ための最重要成功要因と考える。
第3回では、提案ガイドラインに則って実行した適用事例・成果一覧を紹介する。
連載一覧
筆者紹介
日本経営システム学会会員・BPMコンサルタント
一般社団法人 日本OMG BPM主席研究員
1988年 日本電信電話(株)入社
2002年 IDSシェアー・ジャパン(株)(現、ソフトウェア・エー・ジー(株))へ転職。以降、BPM(Business Process Management)コンサルタントとして活動する中で、50社以上で、業務改善・改革、システム導入プロジェクトで成果を上げている
2014年 独立
http://www.bpm-navigator.com/
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