ITシステム運用が貢献する地球温暖化問題

第2回 環境問題とグリーンIT

概要

本連載では、IT部門の視点で「環境問題」を考えると題し、
 ① 環境問題の背景
 ② 環境問題とグリーンIT概要
 ③ グリーンITの取り組み事例
 ④ IT部門としての環境問題解決の重要ポイント
 ⑤ 設備環境管理の推進
を順次掲載する。

前回は、世界を取り巻く地球温暖化による環境問題への影響について述べた。 産業革命以降、世界は驚異的なスピードで技術の発展と共に生活を豊かにしてきている。 その反面、地球環境は加速度的に悪化し、地球温暖化は深刻な事態を招く状況となった。 現在は今までの教訓を活かして、人為的な温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素(以下CO2)の削減を目指し、世界では様々な対策が取られ実行されている。

 

目次
法改正による新たな取り組み
ITも他人事ではない
グリーンITの定義
「ITによるグリーン化」
「ITにおけるグリーン化」

法改正による新たな取り組み

企業において、家電や自動車メーカーでは「エコ」「クリーン」「地球にやさしい」というキーワードで、地球環境に配慮した製品造りを推進しており、消費者へのアピールが盛んに行われている。
1997年の京都議定書議決や(注1)省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)の改正により、工場・事業場単位から企業単位(本社、工場、店舗など)に変わり、様々な対策と枠組みが義務化される方向へと進んでいる。
 
(注1)省エネ法(正式名:エネルギーの使用の合理化に関する法律)は、工場や建築物、機械・器具についての省エネルギーを進め、効率的に使用するための法律。工場・事業所のエネルギー管理の仕組みや、自動車の燃費基準や電気機器などの省エネ基準におけるトップランナー制度、運輸・建築分野での省エネ対策などを定めている。経済産業省は、産業部門に加えて、大幅にエネルギー消費量が増加している業務・家庭部門での対策を強化するため、省エネ法の改正法案を2008年の第169回国会に提出、2009年4月1日から施行されることが決定した。
 
改正省エネ法は以下の大きな変更点が挙げられる。
 
改正の概要
 1.年間のエネルギー使用量の集計単位が工場・事業場単位から企業単位(本社、工場、 店舗など)に変更される。
 2.新たにフランチャイズチェーン事業者も規制の対象となり得る。
 3.年間エネルギー使用量(原油換算値)が1,500k?以上であれば、特定事業者、 又は特定連鎖化事業者の指定を受けるため国へ届け出る必要がある。
 4.特定事業者、及び特定連鎖化事業者は、エネルギー管理統括者の選任等が義務づけられることになる。
 

ITも他人事ではない

ITの分野においてもこの動きに漏れることなく、エネルギー不足とエネルギー費用の高騰は現代の懸念事項のトップに位置し、データセンタやITエネルギー削減の動きは、世界的に加速している。その潮流の中で「グリーンIT」というキーワードが現在のIT部門を席巻しているのは今や誰もが知っていることであろう。
実際にCSR活動の一環として取り組む企業が増えてきている。企業が単に法律を守り、利益を上げるだけではなく、さらに一歩進んで社会貢献をすべきという考え方だ。CSRは倫理的な観点から重要であるだけではなく、マーケティングの観点からも重要であり、CSRの推進には、企業イメージを向上するという重要、かつ、現実的な効果がある。ITの多くの領域においてテクノロジ的な差別化が困難になるにつれ、企業イメージが重要な差別化要素になっている。
そして、良い企業イメージの構築には、長い期間をかけた地道な作業が欠かせない。グリーンITにおいても、精神的・倫理的な観点以上に、企業イメージの向上という実利的なメリットがあることを忘れてはならないだろう。
 
だが、ここ数年リーマンショック以降、世界は久々の経済不振に陥った。
CSR活動とはいえ、事業を優先して後回しにしている企業も少なくはないだろう。
財団法人日本エネルギー経済研究所は「このまま経済活動の不振が続くとCO2排出量が経る」という予測をまとめたが、同研究所は「景気低迷で省エネなどへの投資が縮小すると、温暖化対策が遅れる恐れがある」と指摘している。
省エネ法にあるように様々な対策と枠組みが義務化される以上、避けて通れないことはいうまでもない。何よりも急にやってできることではない、非常に困難なことである。
今、経済的に非常に厳しい環境下に置かれていると察するが…
改めてIT部門における温暖化対策「グリーンIT」の重要性を意識する必要があると考える。皆さんはどう思われているだろうか?
 
では「グリーンIT」とは何か、今一度、改めてそのキーワードについて探ってみたいと思う。
 

グリーンITの定義

グリーンIT、アメリカでは「グリーンコンピューティング」(Green computing)と呼ばれていることもある。地球環境への配慮を情報技術に適用した思想とされているが、この思想は辞書的には明確な定義がないのが現状である。
「Green」という単語には「環境保護活動」、「環境問題への関心をもたせる」という意味があり、環境問題には酸性雨、地球温暖化、オゾン層破壊、放射性物質汚染、獣害・鳥害、水質汚染、生態系破壊、土壌汚染、ヒートアイランド、森林破壊、ごみ問題、大気汚染、悪臭、電波・電磁波公害等の様々な要素がある。グリーン化は「ペーパーレス、電気使用量削減によりCO2を削減することである」というのが一般的なイメージであるが、それだけにはとどまらず広範囲に及ぶものである。
 
著者も「グリーンITとは?」と聞かれても、明確にその定義を説明するのに困ることがある。そこで調べてみたところグリーンITとは…
大きく分けて2つに分類される。
ITを活用することによる省電力化など、地球環境への負荷を低減する取り組みを指す、「ITによるグリーン化」とIT機器の消費電力低減による地球環境への負荷を低減する取り組みを指す「ITにおけるグリーン化」に分けられる。(図表1を参照)
図表1. グリーンITの二つのアプローチ
 

「ITによるグリーン化」

Green by IT…「ITによるグリーン化」は、実際問題、IT機器による消費電力と発熱の削減であるといっても過言ではない。 「地球温暖化問題への対応に向けたICT政策に関する研究会報告書」(2008年4月総務省)によると「Green by IT」には8項目の取り組みがある。に取り組み項目とそれぞれの具体例を記す。(図表2を参照)

図表2. ITによるグリーン化8項目の取り組みと具体例
上記事例はあくまでも一例である。 今日のIT機器による消費電力と発熱の削減の大部分は、データセンタ環境が占める。さらに細分化すれば、データセンタそのものの設備とサーバ、ストレージ、ネットワーク機器等データセンタに配置されている機器に大別される。オフィス環境とデータセンタ環境の両者の追及が肝要であるが,近年までほとんど適切な対策がなされていなかったという点で、昨今、特にデータセンタ環境に対するアプローチが求められている。
最後に忘れがちであるが重要な点が、製造・廃棄の観点である。マニフェスト(産業廃棄物管理票)等により正しく廃棄されていることをトレースすることは、コンプライアンスの観点からも重要である。IT機器の製造・廃棄段階のグリーン化には、3R(Reduce,Reuse,Recycle)の考え方が重要である。IT担当者にとって、最重要ポイントは、機器利用におけるグリーンITであるのは否めないが、機器の製造から廃棄にいたる一連のITライフサイクルすべてにわたってグリーンITを考えることが必要である。
 

「ITにおけるグリーン化」

Green of IT…「ITにおけるグリーン化」は、さらにIT機器の製造段階・利用段階・廃棄段階におけるそれぞれの環境配慮という点で細分化される。(図表3を参照) 企業のIT部門が最も直接的に関与すべきものは、利用段階における環境配慮である。IT機器が温室効果ガスを直接的に排出するということはあまり考えにくいため、利用段階の配慮において最も考慮すべき点は、消費電力を可能な限り削減するということである。 これには,IT機器から発生する熱を冷やすための空調機の消費電力を削減するという観点も含まれる。消費電力を減らすことは,間接的に火力発電所での化石燃料の使用を削減するということにつながり、ひいては温室効果ガスの削減,地球温暖化問題の解決に寄与する。

図表3. ITにおけるグリーンITの区分と具体例
以上、調べてきたように「ITによるグリーン化」、「ITにおけるグリーン化」と定義されており混在しているため注意が必要だ。エネルギー消費量削減の効果は削減数値と増加数値の差し引きであり、製造段階、利用段階、廃棄段階のライフサイクル全体での考え方「ITにおけるグリーン化」が重要である。 
 
株式会社ビーエスピーソリューションズ
「IT部門の環境管理」検討グループ
荷軽部 学

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