概要
企業の情報システムにおいて、適切なシステム運用設計を行うことは、業務の安全稼働のみならず、ビジネスの効果を最大限に引き上げるために、非常に重要な役割をもつ。 長年製造業のシステム管理に携わってきた著者が、実体験をもとに、「システム運用設計」に織り込むべきことや、運用管理とシステム開発の関係などについて語る。
皆様こんにちは、伊藤です。
昨今マスコミには「標的型攻撃」とか「本人なりすまし」という言葉が氾濫しています。なにやらインターネットを使うと危なくて仕方がないような風潮です。我々システム運用を行う人間はどうすればいいのでしょうか。
そこで、今回から2回、情報セキュリティとそれを考慮した運用とはどういうことかについてお話しいたします。まずは情報セキュリティについて整理してみましょう。
そもそも情報セキュリティとは
本コラムの読者の皆さんは、様々な企業や組織の方がいらっしゃいますので、一言で「情報セキュリティ」といっても思い浮かばれる内容はそれぞれ違ってまいります。
ちなみに、総務省のサイト※1では、情報セキュリティとは「企業・組織における情報資産全般の機密性、完全性、可用性を確保するという意味で使われている言葉です」 と説明されていますので、本コラムではこれに従ってまいります。
ここで、情報資産とは、企業や組織などで保有している情報全般のこと。顧客情報や販売情報などの情報自体に加えて、ファイルやデータベースといったデータ、CD-ROMやフロッピーディスクなどのメディア、そして紙の資料も情報資産に含まれます。紙の資料も対象である。というところに留意してください。
また、機密性とは、情報にアクセスすることが認可されたものだけがアクセスできることを確実にすることで、Confidentiality(コンフィデンシャリティ)の訳語です。
完全性とは、情報及び処理方法の正確さおよび完全である状態を安全防護することで、Integrity(インテグリティ)の訳語です。
可用性とは、認可された利用者が、必要なときに情報にアクセスできることを確実にすることで、Availability(アベイラビリィティ)の訳語です。いずれも国際標準化機構(ISO)が定める標準に定義されるものです。
※1総務省の「国民のための情報セキュリティサイト 情報セキュリティって何 他」
情報漏洩事故防止やUSBメモリーの暗号化など、機密性の確保を情報セキュリティの的とする考え方もございますが、システム内のデータが改竄されれば正しい処理が行われなくなり、処理結果の信頼性が損なわれ完全性の不備を招きます。また、特定のWEBシステムに同時に大量のアクセスをかけることでそのWEBサービスを停止させることにより可用性を阻害され、この結果利用者の利便性を損なったり、経営へ影響も発生してきます。
つまり、情報セキュリティの確保とは、機密性、完全性、可用性の確保をすることなのです。
セキュリティの輪について
皆さんは、「セキュリティの輪」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか。もともとは、A chain is no stronger than its weakest link. といって、鎖の強さは、もっとも弱い環によって決まる。たとえ一つでも弱い環があれば、そこからちぎれることになるから、鎖の強さはその弱い環によって決まる。要はなにごとでも効力は弱い個所によって決定されるという比喩的な意味で引用されます。有名なイギリスの探偵小説作家コナン・ドイルのことばから出たものです(「英語のことわざ」秋本弘介、創元社)。セキュリティの専門家であるブルース・シュナイアーも自著「セキュリティはなぜやぶられたのか」(日経BP社、井口耕二訳)で「鎖はいちばん弱い輪以上に強くなれない」と引用しています。つまりセキュリティ対策において、大部分の項目は高レベルの対策を行っていても、ある項目への対策が不充分な場合、全体としてのセキュリティレベルは、最弱の項目に依存してしまう訳です。
例えば、自宅のセキュリティを考えてください。玄関の鍵を2重ロックにし、さらにチェーンをつけていても、バスルームの窓を換気のために夜間開けたままだった場合、こそ泥は、バスルームから容易に侵入できてしまいます。情報セキュリティでも話は同じです。従って、情報セキュリティ対策を実施する場合は、それぞれの企業や組織で想定される脅威に対して、何をどうすれば対応が図れるのかを俯瞰し、網羅した上で、穴の無い様に対応策を実施すること。つまり、一部の対策をレベルアップしたあと、次の対策に移るのではなく、バランスのとれた進め方をすることが重要です。
これは、対策項目毎にも言えますが、大きな組織では、拠点ごとのバランスも必要です。末端の営業所や、海外の拠点ではどうしても専門の人材を確保することが難しくなってしまいます。一方、情報ネットワークの普及でどこからでも容易に本社へアクセス可能になっています。したがって、情報セキュリティに関しては同じレベルの対策が必要になるわけです。
参考:「セキュリティの最も弱い輪は海外拠点」、NRIセキュア
機密性を確保する
次回予告
次回は、「運営設計と情報セキュリティ」についてお話をしたいと思います。
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筆者紹介
トヨタ車体株式会社 情報システム部 ITマネジメント室 参事補
自動車製造業でのシステム管理、運用部門の管理者をはじめ、IT予算管理、J-SOX、セキュリティ対策対応など、企業の情報システムにおける様々な経験をもつ。
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