組織横断で取り組むIT資産運用プロセス構築 ~クラウド・仮想化環境の全体最適化、ガバナンスの獲得~

第44回:ITAM/SAMツール導入プロジェクトは何故失敗するのか?
~成功と失敗の分界点を検証する~

概要

デジタル トランスフォーメーションへの期待が高まるなか、大手企業の IT部門への期待はますます高まっています。その期待に応えるためには今まで以上に IT環境のガバナンス、コントロール、セキュリティ対策などの成熟度が求められます。 ますます複雑化する ITインフラに対して、どうすれば成熟度を高めることができるのか? 欧米の大手組織では、その鍵は「全ての IT資産のコントロールである」として取り組みが進んでいます。 本シリーズでは、「IT資産運用プロセス」という組織全体で取り組むべき業務プロセスの設計やガバナンスの獲得により、「IT環境の全体最適化」を最終ゴールとして解説していきます。

「ITAM/SAMツールを導入したが上手く管理ができない…どうすればよいのでしょうか?」
というご相談を良くいただきます。
ITAM/SAMに関わるようになって20余年、IT環境は劇的に変化していますが、ITAM/SAMの課題は変わっていません。運用管理においては、管理対象はITテクノロジーが主体でした。しかし、ITAM/SAMはITテクノロジーの管理ではなく「IT資産管理という業務」の管理であり、戦略・方針、組織・体制、役割・責任、業務プロセス、そして自動化ツールが求められます。

つまり、問題は、「ITAM/SAMツール」の管理スコープと「ITAM/SAM業務」の管理スコープが異なるという点です。

ライセンス契約というビジネス契約に基づくユーザー毎に異なる使用許諾条件を管理コントロールする必要があるということです。

「同じソフトウェアメーカーの同じ製品であれば、管理すべき内容は同じでは?」
確かに、中小企業のレベルの購買規模であれば、ソフトウェアメーカーの標準的なテクノロジーメトリックを、標準的なライセンス契約に基づいて管理すれば良い、という可能性はあります。
しかし、多くの場合、ライセンス契約における交渉の結果やビジネスニーズにより、ユーザー企業ごとに異なる「ビジネスメトリック」が存在します。
前者を「標準的ライセンス管理」とし、後者を「ニーズ別ライセンス管理」とした場合、標準的ライセンス管理に収まるのであれば、これら標準的ライセンス管理のメトリックを網羅的に管理対象としているツールを運用することで管理成熟度を必要十分なレベルに向上させることが可能でしょう。
しかし、ニーズ別ライセンス管理が求められる場合は、そうではありません。

① 標準的ライセンス管理:標準的なテクノロジーメトリックを管理対象とし、構成情報をインベントリ情報として収集、標準的ライセンス使用許諾条件に基づいたライセンス割当情報と突合して現状のライセンスコンプライアンスを測定する。
② ニーズ別ライセンス管理:標準的なテクノロジーメトリックを管理対象とし、構成情報をインベントリ情報として収集、交渉されたライセンス使用許諾条件に基づいたライセンス割当情報と突合して現状のライセンスコンプライアンスを測定する。標準的なテクノロジーメトリックの対象外となる使用許諾条件の範囲は、個別に識別しビジネスニーズと運用環境に照らし、取得した使用許諾条件とのすり合わせした結果を測定する。

ライセンス契約においては、導入時、購買時のビジネスニーズに基づいた使用許諾条件の「交渉」が最も重要です。
そして、交渉された結果の使用許諾条件に基づいて、実際の運用環境においてライセンスの運用状態を把握し、コストの最適化や、導入後の契約の継続的改善に、これらの管理情報が利用されなければなりません。
ライセンス契約は、「ビジネス契約」であり、ユーザーのビジネスニーズに基づいた「契約交渉」がなされていなければなりません。さらに、ビジネスニーズの変化を捉えて、「最適化」されなければなりません。これらを実施するためには、「受け身」ではなく「主体的、能動的」に「ビジネス契約」を管理、運用する必要があります。

これらの実現には、前述のビジネスとしてはあたりまえではありますが
「戦略・方針、組織・体制、役割・責任、業務プロセス」が不可欠となります。
その結果としての自動化ツールによる自動化ですので、「自動化ツールの導入プロジェクト」は、ビジネス計画における最後の1ピースとなるのです。

ビジネス契約のガバナンス・コントロールが不足すれば、コスト上昇、ベンダーロックイン、コンプライアンス問題など、ユーザー企業にとってはITテクノロジーの運用における致命的な不利益を被ることになります。

不透明なコストの上昇や、ベンダーロックインの状態、コンプライアンス問題などの課題を抱えているユーザー企業は、今一度、ITAM/SAM のその取り組みの重要性を経営層がしっかりと見つめ直す必要があると認識することが大切ではないでしょうか。

 

日本ベンダーマネジメント協会では、ベンダーマネージャ育成や、新時代に求められるVMOの定義を可能とする「ソフトウェアライセンス契約管理講習:SLAM(Software License Agreement Management)」(https://www.vmaj.or.jp/archives/member)(Oracleライセンス契約管理オプションあり)を、 VMOやSLO管理ツールの運用アウトソーシングのためのRFP策定の定義の教育などを講習としても提供していますので、ご利用ください。

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筆者紹介

武内 烈(たけうち たけし)
1964年生まれ。
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
代表理事
ITIL Expert、IAITAM認定講師

IT業界では主に外資系ソフトウェアメーカにおいて約25年間の経験を持つ。
技術的な専門分野は、ネットワークオペレーティングシステム、ハードウェアダイアグノスティック システム、ITマネジメントと幅広い。大手外資系IT企業ではプロダクトマーケティングスペシャリストとして、ITマネジメントの分野で、エンタープライズJavaサーバー(WebLogic、WebSphere)、SAP、Oracle、ESB(Enterprise Service Bus)などからWeb Serviceテクノロジーまでの管理製品を手掛ける。
IT 資産ライフサイクル管理プロセス実装のためのAMDB・CMDB 製品開発プロジェクト、データセンターのCMDB およびワークフローの実装プロジェクト、IT資産管理(クライアント環境) MSP のサービスプロセスの開発・実装プロジェクト(CMS/サービスデスクを含む)、ライセンス管理のためのSAMプロセスおよび自動化テクノロジー (CMS/サービスデスク)の設計・実装プロジェクトなど多数のプロジェクト経験を持つ。
IT資産管理のポリシー、プロセスを、どのように自動化テクノロジーに結び、ITサービス管理戦略やロードマップとの整合性を取りながらIT資産管理プログラムを実行性の高いものにしていくのかのコンサルティングを得意とし、大手組織におけるIT資産管理プロセスとサービス管理プロセスの統合プロセス設計、自動化設計、実装プロジェクト、IT資産管理プログラムの運用教育の実績多数。

 

【ホームページ】
一般社団法人
日本ベンダーマネジメント協会
www.vmaj.or.jp/
【情報】
Twitter( @VMA_Japan)


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