アジア、世界を牽引しつつある中国の現在や如何に?

第4回 IT企業における働き方

概要

「スマホ決済」「キャッシュレス」「顔認証」など、近年、中国では、ITが人々の生活に大きな影響を与えています。現金レス(買い物時にスマホ決済、顔認証決済)、交通移動、銀行・病院・役所の手続き、仕事など、ほとんどスマホで済ませており、日常の生活と仕事にとってスマホが切り離せない存在になっています。しかし、便利な面がある一方、スマホへの過度依存にリスクがあり、アプリを使えないと、何もできなくなってしまいます。今回の連載内容では、こういった利用状況などを紹介します。

今回の内容は、中国の「IT企業における働き方」について紹介したいと思います。

目次
全体の状況
働く環境
在宅勤務とリモートワーク
長時間労働の問題
自己啓発

全体の状況

 中国工業・情報省の統計では、中国のIT企業の社数は3.5万社(2022年時点)、就業人数が809万人(2021年時点)とされています。また、毎年1,100万人の大学卒業生の中で、新卒30万人がIT業界に就職しています。IT企業は他の業界より年収が多い傾向にあるので、今後も、新規参加の人を含めて増加の見込みです。
 そういった状況から、IT業界には若い世代が多く、若い人の生活スタイルに合わせるために働き方の多様化、個性化への対応が企業側に求められています。IT業界では、人材の流動性が高く売手市場ですから、人材を引き留めるためにIT企業は自社の業務状況によって、働く環境の改善、柔軟な勤務体系・評価制度を工夫しなければなりません。

働く環境

 各都市ではIT産業を育成するために、地方政府が主導してソフトウェアパークを設置し、IT企業を誘致しています。ソフトウェアパークに入居すればオフィス家賃が安く、一部の地域では3年間オフィス家賃を無料にするものもあります。また、ソフトウェアパークに入居している会社向けの法人税免除、税制優遇、奨励金制度など、多くの優遇制度が設けられているため、IT企業、特にベンチャー企業にとってはかなりの魅力・利便性を感じることができます。

 ソフトウェアパークは、市内中心部から離れるところが多く、交通アクセスを便利にするために運営会社は駅からの無料送迎バスを提供しています。また、ソフトウェアパークの中に従業員向けの生活施設(社員寮・社員食堂)、スーパー、コンビニ、映画館、公園などの設備が充実し、生活も便利です。

 このようにIT企業は、政府の誘致政策に応じてソフトウェアパークに入居しています。入居している会社は、ソフトウェア開発、SI、人材派遣、データセンターサービスなどさまざまです。

 しかし、コロナ―禍の後、リモートワークが進み会社に行くことが減ったため、オフィスをソフトウェアパークから小さな事務所に移転し、分散的に業務を執行するケースが増えています。そのため、ソフトウェアパークは全盛期に比べて空き部屋が増え、人も減ってきました。今まで毎日通っていた人達は、自宅勤務か地方移住かで通勤しなくなり、業務の分散化が進んでいます。


上海浦東ソフトウェアパーク

 

在宅勤務とリモートワーク

 コロナ―禍の影響で、IT業界の勤務形態は大きく変化しています。ロックダウン期間中のリモートワークを経験したため、いかにリモート・分散的に業務を遂行できるかが課題で、IT企業はさまざまなリモートツール、ネット会議、資料共有、クラウドを利用し始めました。ロックダウン解除後も、一箇所に集中しなくなり、分散型・リモートワーク方式を継続しています。出社も必要最小限になり、メンバーが集まらなくても良い状態になっています。そのため、事務所返却・縮小が多く見られます。自宅勤務期間中のリモートワークの仕組み、書類電子化、クラウド環境の共有など、業務効率化を進めています。社内会議、業務報告などは、チャットグループで済ませ、毎日の朝礼もなくなりました。

 これまで、お客さんと打ち合わせ・デモ・商談の時は、オンサイトが基本でしたが、今はリモート会議が常態化し、お客様もその方式を受け入れています。リモートワークが浸透し、リモート接続ツール、ネット会議システム、文書共有、共同開発ツールの利用が増えています。

 長期的に在宅勤務が継続しているために、IT技術者が都市部から地方に移住し、地方からリモートで業務遂行するケースも増えています。出社の必要性がなくなり、リモート対応で支障がなければ、住宅費・生活費・交通費の高い大都会に住む必要がなく、むしろ地方都市・田舎に戻ったほうが経済的にも精神的に良いのです。例えば、上海・北京では、人口が減りはじめていますが、特にインターネットによるリモートワークを活用できるIT技術者の人口減少が大きいのではないかと思われます。

 地方に移転する人にとっては、いろいろメリットがあります。たとえば、「通勤時間がなくなる」、「家賃が安くなる、或いは無くなる」、「地元に戻って、親孝行ができる」、「プライベートの時間が増えて家族サービスができる」、「自由な時間が増え、勉強ができる」などです。

 もちろん、職場で拘束されることなく、自宅勤務やリモート勤務など、もっと自由にできるようになったことは良いのですが、自己管理が難しく生産性が落ちるなどデメリットもあります。そのために各社は、明確な成果主義評価、ジョブ型評価、期間ごと評価など、評価制度を厳しくしています。毎日の作業進捗報告、作業の見える化、などの管理ツールを導入し管理を厳しくしています。

 今後もリモートワークの継続は、業務対応の柔軟性だけでなく、世界中から人材を採用可能にすることにも繋がります。従業員は自分の好みやニーズに合わせて柔軟なスケジュールを選択でき、従業員の仕事の満足度と生産性を高めることができます。そのために、IT企業自身のDX化で、社内連携システム、クラウド利用などを整備し、そのための投資・リソース投入が必要です。

 

長時間労働の問題

 長時間労働の問題ですが、事象として、「残業・休日出勤が多い」、「プライベートの時間が少ない」などがあげられます。中国では、特に法的に勤務時間の制限がないために、会社の判断で残業させたりすることは可能です。そのため、プロジェクト納期・開発進捗に合わせて、深夜まで残業し、帰りは終電に遅れ、タクシー(自腹)で帰宅することもあります。また、休日出勤もよくあります。そしてこれらは常態化しています。

 なかでも、大手IT企業ほど残業が常態化している傾向です。IT業界に996という言葉がありますが、「毎日9時出勤、夜9時退社、週に6日間働く」という意味です。特にゲームソフト開発の会社は、毎週1回のバージョンアップがあり、その時間に合わせるために深夜まで開発作業を継続する事はよくあり、ブラック企業とまで呼ばれています。これを繰り返しずっと続けていくと、社員の健康管理・私生活に影響を及ぼします。

 高い報酬が貰えて仕方なく我慢している技術者もいれば、飽きて転職してしまう技術者もいます。辞めた理由は、残業時間が長いだけでなく、技術者として最新技術を習得する時間の余裕もないことが挙げられます。

 このような状況下で、人材を引き留めるために、進んで働く環境改善の努力に取り組んでいるIT企業も見られます。具体的には、フレックスタイムの制度を導入したり、労働環境・待遇を改善したりしています。労働環境・待遇の改善の例では、オフィスの快適性、24時間無料社員食堂、無料送迎バス、無料タクシーなど、また、手当、社員資格取得の補助金制度、社員旅行などがあります。

 今後も、プロジェクトの繁忙期・納期に合わせて残業などは避けられないでしょうが、これも長期的に見るとIT業界の大きな問題の一つです。

 

自己啓発

 沿海地域の人件費上昇で、IT企業はコスト削減を図るために、営業・設計・サポートのごく上流の部分だけを沿海地域で行い、製造工程など下流の部分は内陸企業に外注するといった分業を進めています。そのため沿海地域のIT従業員にとっては、ますます上流を目指すためのスキルアップが求められます。
 AIによるプログラミングが進化していますので、単純なPGレベルでは職がなくなりつつあります。PGは年齢的に、35歳を超えてSEかPMにレベルアップしないと評価が下がっていきます。そのため最新技術の取得も不可欠です。成長性の高いAI技術、ビッグデータ技術への転身も選択肢の一つです。

 このように、IT技術者は常に新技術の取得が必要となりますが、そのためにはやはり、働き方の改善でプライベートの勉強時間を増やす必要はあります。

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コメント

筆者紹介

巴音 都仁(バイン トジン)
内モンゴル自治区・オルドス市 出身

学歴
大 学:国立・大連外国語大学日本語学部・観光学科 卒業
大学院:日本亜細亜大学経済学研究科・大学院2年 卒業

職歴
1986年:中国国際旅行社に入社、内モンゴル支社所属、日本人観光客案内のツアーガイド
1994年:ソフトウェア・エージーに入社、企画部所属
2007年:ビーコンIT上海に出向、総経理
2015年:ユニリタ本社営業部に帰任、営業職
2016年:BSP上海に再出向、総経理


<名前について>
モンゴル系で少し変わった名前ですが、地元では4文字5文字の名前が多いのです。

 

<出身地について>
オルドスと言えば、石炭・天然ガス・カシミヤの産地として知られています。
面積8.7万平方キロメートル、人口216万人と人口密度がかなり低いのです
ジンギスカンの陵があり、古くからモンゴル系の人々がよく祭りに来るところです。
産業はエネルギーが多いため、一人当たりのGDPが中国1位(2022年、3.8万米ドル)です。

 

<趣味>
大した趣味はありませんが、読書・水泳・サイクリングが好きです。
毎日仕事帰りに40分くらい水泳をします。
土日も時間があれば、自転車で浦東空港へ往復します。(往復約70キロメートル)

 

<自分が今やっていること>
毎日営業活動が中心ですが、周りの変化が激しいため、お客様の業務を吸収しながら課題解決できるソシューションなどを組合わせて、試行錯誤で市場開拓をしています。

 

<これからやってみたいこと、目指すビジョン>
ビジネスが上海周辺に集中していますが、中国の内陸部へもっと自社製品・ソシューションを広げたいと思います。
また、一日系IT企業として技術力・サービス力・営業力を工夫し、現地の優秀なIT企業に肩を並べられる会社を目指しています。

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