システム管理者のためのBookCafe

Vol.128 東京都同情塔

概要

書籍のインク独特の香りを感じながら、出会ったことのない世界、新たな発見、体験してみませんか?

目次
内容紹介
K’s Review

芥川賞受賞作であり、生成AIを活用した作品ということで、興味を持ったため読み始めました。

 

内容紹介

 

 

東京都同情塔

九段理江
 

ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。

新潮社 紹介ページ)

 

K’s Review

 きっかけは「生成AI」について、IT系の記事を閲覧している時でした。芥川賞の受賞作の中で「生成AI」を用いた作品が選ばれたという見出しに興味を惹かれたことが始まりでした。本作のテーマの1つとして「生成AI」が含まれており、作中では何度も登場人物が「AIbuilt(本作での生成AIの名称)」に疑問を投げかける描写が入っており、実際に作者が「ChatGPT」を用いて得られた回答をシーンの表現の一部としてそのまま引用していました。こういった最新技術を用いた文学作品というものに興味を持ちこの本を手にとってみることにしました。
 舞台は架空の未来の日本であり、建築家の女性が主人公の物語です。現実の日本との違いは、建築費がかさむなどの理由で建てられなかった、イラク出身の女性建築家であるザハ・ハディド氏が設計した新国立競技場が建設されているという点であり、この建築物と主人公の女性が設計する刑務所である高層タワーが物語の主要な部分の一つです。この刑務所が本タイトルにかかる「東京都同情塔」にあたるもので、「犯罪者は同情されるべき人々」という、作中に登場する幸福学者が提示する考えのもと、新たに新宿の公園に建築する話です。主人公は、建築家という芸術家であり、独特な考え方を持つキャラが印象的な人物であり、世間の考え方と主人公自身の考え方への違和感を覚えながらもそれを何とか言葉として吐き出しながら語られる文章は独特な世界観を作り出しており、私自身の考え方との違いに新鮮さを感じながら引き込まれる表現となっておりました。
 この本の詳細に関してはぜひ実際に読んで感じてほしいですが、面白いと感じたポイントとしては、作中のテーマである「言葉」と、現実の日本でも使用されている表現がそのまま出てくる点が印象的でした。私たちが普段発する言葉とAIでの言語との差は何か、「Twitter(現X)」というSNSでの発言がリリース当初の独り言を呟くサービスから、衆目を集めるために正しい発言を主張する場になっている背景などを例に、「言葉」とは何かを改めて考えさせられる表現・内容に注目して欲しいです。
 生成AIで得られた回答がなければ生み出されなかっただろう作品であり、今だからこそ生まれた内容と思います。ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか?

 

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筆者紹介

“システム管理者のためのBookCafe” レビュアーのご紹介
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システム管理者の会の企画・運営をする推進メンバ―が、会員の皆様にお奨めする本をご紹介してまいります。

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