幸福度を向上させるサービスマネジメント ~ISO/IEC 20000-1:2018 の国際規格について~

第四回 ISO/IECの組織、規格の構成について

概要

これからのサービスマネジメントは、企業価値を確実に高めるものでなくてはなりません。そのためには顧客価値や社会価値の創造が必要であり、これには企業や組織のパーパス、その組織に集う個人の「パーパス」そのものが問われているのです。企業が社会にその存在を認められ、その企業に集う一人ひとりの存在意義や参画意識を高めることこそ、幸福度の向上につながります。既存のビジネスにとっても、DX をはじめとしたビジネスイノベーションにも 「変革」 は必要ですが、この実現には組織や個人のカルチャーを「変化したい」という方向にチェンジした行動変容のマインドとサービスの最適化のためのフレームワーク=サービスマネジメントシステムが重要です。まさに「価値の提供」 から 「価値の共創(co-creation)」 へ進化したサービスマネジメント国際規格(ISO/IEC20000-1:2018)をご説明します。

 今回は、幸福度を向上させるサービスマネジメントの国際規格であるISO/IEC20000-1の規格名称の意味、ISO/IECマネジメントシステム規格と日本の国家規格との関連を一緒に確認していきましょう。

目次
1. ISOとIECの関係を確認しましょう
2.日本における国際標準化の体制
3.JIS(日本産業規格)とISO/IECとの関連
4.規格のコード体系について

1.ISOとIECの関係を確認しましょう

 ISOは、「International Organization for Standardization」の頭文字を取った言葉で、日本語で「国際標準化機構」と訳されています。ISOは、電気を除く工業規格を策定する民間の非政府組織で、世界最大の国際標準化組織となっています。1947年に18カ国で発足し、「国家間の製品やサービスの交換を助けるために、標準化活動の発展を促進すること」、そして「知的、科学的、技術的、そして経済的活動における国家間協力を発展させること」を目的に活動しています。2023年12月の数字ですが、会員数(国の数)は169か国、扱っている規格の数は、25,111規格ということですから、その規模も実績も世界一となります。
 次にIECは、「International Electrotechnical Commission」の頭文字を取った言葉で、日本語で「国際電気標準会議」と訳されます。ISOで取り扱っていない、電気・電子技術分野の国際規格を策定している国際標準化機関です。IECは1906年に13カ国で発足し「電気および電子の技術分野における標準化のすべての問題および規格適合性評価の関連事項に関する国際協力を促進しながら、国際理解を促進すること」を目的にしています。ISOと同様に2023年12月の数字ですが、会員数(国の数)は89か国、扱っている規格の数は、8,758規格となっています。


図1:ISOとIECの主な役割

 幸福度を向上させるサービスマネジメントの国際規格であるISO/IEC20000は、まさにISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)によって開発された国際標準です。なお、このようなIECとISOが共同で作成した規格でお馴染みなのが、情報セキュリティマネジメントシステムのISO/IEC27001があります。
 ここでISO規格の開発手順に触れておくと、ISO(IECも含む)規格は、国際規格案として提案されると、まず技術委員会と分科委員会により審議され、一定の賛成を得て、さらなる専門家のworking groupで規格化への検討が始まります。ここで作業原案が作成され、一定のコンセンサスを得ると、技術委員会と分科委員会で「委員会原案」としてまとめられます。この後に全加盟国の会員団体への意見照会がなされ、国際規格原案として検討されます。最終の国際規格案となった段階で正式な投票・承認を経て、国際規格として発行されます。ここまでが約3年ということなので、提案から厳格な審査を経たうえで、国際標準が誕生していることになります。このように多くの国々が参加して「標準」ができていることを知ることで、その開発の背景や目的に沿って、着実に活かしていかなければならないと気持ちを新たにすることができます。

 

2.日本における国際標準化の体制

 国際標準化機構(ISO)及び国際電気標準会議(IEC)に対する我が国唯一の会員として、国際規格開発に参加している組織・団体が日本産業標準調査会です。日本産業標準調査会は、JISC(英文名称Japanese Industrial Standards Committeeの略称)と呼ばれています。JISCは経済産業省に設置されている審議会であり、産業標準化法に基づいて産業標準化に関する調査審議を行うミッションを有しています。具体的には、JIS(日本産業規格=Japanese Industrial Standards)の制定や改正等に関する審議、産業標準、JISマーク表示制度など、産業標準化の促進を執り行う日本の標準において重要な機能を持っています。


図2:ISO/IECと日本国家規格との関係

 

3.JIS(日本産業規格)とISO/IECとの関連

 JIS規格とは、産業標準化法に基づき制定される「日本産業規格」のことで、Japanese Industrial Standardsの頭文字を取ってJISと呼ばれています。少し前にさかのぼると「日本工業規格」と呼ばれていましたが、「JIS規格」の基盤となっている法律が改正されたためです。これは令和元年7月1日の法改正によって 工業標準化法から 産業標準化法へ変更になりました。JIS(日本産業規格)は、産業標準化法に基づき制定される我が国の鉱工業品、データ、サービス等に関する国家規格となります。
 JIS規格で定められている製品は多岐にわたり、身近な存在ではガムテープやホッチキス、テレビやベビーベッド、文字コードといったITに関する規格などもあります。
 国際規格の原文は外国語で作成されていますが、世界と同様に日本にはこういった規格を扱うJISが存在しているのです。生産、販売、使用、サービスに関する技術的な分野、領域に対して定められている規格であり、認可された製品には「JISマーク」が付いているので、皆さんもご存じだと思います。
 では、ISO/IEC規格とJIS規格の関係ですが、各国が国内規格を制定する際に、ISO/IECが定めた国際規格が既にある場合は、整合させることが協定により義務付けられています。つまり品質や環境、情報セキュリティ、あるいは幸福度を向上させるサービスマネジメントのJIS規格は、外国語で作成されているISO/IEC規格を日本語に訳したものです。規格の内容も国際的基準・標準であるISO規格に準拠しています。つまりISO/IECとJISによる規格内容の相違はありません。今回のテーマであるサービスマネジメントの国際規格であるISO/IEC 20000-1:2018は日本の国家規格として、2020年度にJIS Q20000-1:2020という規格名で日本規格協会より発行されています。


図3:ISO/IEC・JISの番号体系

 

4.規格のコード体系について

 今回の最後に規格の番号体系を確認しておきましょう。
 まずはISO/IEC規格の番号体系です。幸福度の向上させるサービスマネジメントシステムの規格は、ISO/IEC20000-1:2018です。
これは、ISO/IECにより開発された規格であって、20000はサービスマネジメントシステムの規格に割り当てられた番号、“-1“はサービスマネジメントシステムの要求事項、”2018“は2018年に制定された規格であることを示しています。なお、”-1“は要求事項ですが、”-2“はサービスマネジメントシステムの手引きとなっています。そして、”2018“ですが、初版は2005年、2011年に第二版として改定され、最新版は2018年の第三版ということになります。
 次にJIS規格の番号体系について確認していきます。
JISの場合は、JISにより開発された規格であることを示し、そのあとに続く番号は、部門を表すアルファベット1文字となります。そして数字4桁~5桁の組み合わせと発行年が4桁で表示されます。
特徴的なのは、部門を表すアルファベット1文字で、その分野別の意味は以下の表1のとおりです。


表1. JISにおける分野別の区分一覧

 サービスマネジメントシステムの国家規格である「JIS Q 20000-1:2020」は、2018年に第3版として発行されたISO/IEC 20000-1を基に技術的内容及び構成を変更することなく作成された日本産業規格です。この規格書は、『日本産業規格 JIS Q 20000-1:2020 (ISO/IEC 20000-1:2018) 情報技術−サービスマネジメント− 第1部:サービスマネジメントシステム要求事項 Information technology-Service management- Part 1: Service management system requirements』として、日本規格協会から購入することができます。
 このようにISO/IEC、JISは、世界的・あるいは日本の「標準の規格」としてのポリシーが詰め込まれています。世界のボーダレス化が進んでいく中で、サービスや製品、そしてマネジメントシステムの国際化も進んでいます。そのことはISOやIEC、そして国家規格であるJISの重要性がますます高まっていると考えます。国際規格と日本の国家規格との整合を図ることにより、製品や技術、そしてサービスは国を越えて利活用できるようになり、国際的な取引やサービスの円滑化に寄与します。このあたりを知っておくことで、国際標準の目的である「国家間の製品やサービスの提供を支援し、標準化活動のさらなる発展を促進し、経済的活動における国家間の協力、人々の幸福度の向上に寄与すること」の実現につながります。

 次回からいよいよISO/IEC20000-1:2018の導入・適用に向けて、話を進めてまいりましょう。

 

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筆者紹介

岸 正之(きし まさゆき)
SOMPO グループ・損害保険ジャパン社の IT 戦略会社である SOMPO システムズ社に在職し、主に損害保険ジャパン社の IT ガバナンス、IT サービスマネジメントシステムの構築・運営を責任ある立場で担当、さらに部門における風土改革の推進役として各種施策の企画・立案・推進も担当している。専門は国際規格である ISO/IEC 20000-1(サービスマネジメント)、ISO/IEC27001(情報セキュリティマネジメント)、ISO14001(環境マネジメント)、COBIT(ガバナンス)など。現職の IT サービスマネジメント/人材育成・風土改革のほか、前職の SOMPO ビジネスサービス社では経営企画・人事部門を歴任するなど、幅広い経歴を持つ。

【会社 URL】
https://www.sompo-sys.com/

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