- 目次
- キャッシングではなくキッティング
- いまさらキッティングとは何か
- YRLのレポートから見る負荷
- キッティングの業務を細分化
- キッティングとセットアップ、アクティベーションの違い
- キッティング後の設定も大変
- sysprepという技
- さいごに
キャッシングではなくキッティング
今回のテーマは、情シスの密かな悩みとなっている「キッティング」です。「キッティング」という言葉自体は、前世紀(20世紀)ではあまり聞かれず、ここ数年~十年くらいに急激に普及してきた言葉だと思います。ここまで、キッティングという言葉が使われている背景には、業務の徹底的なIT化やPC/タブレットの低価格化に伴う全社員/作業員への配布、多種多様な機器/OSの作成などがあります。そこで、いまさらですが「キッティング」について語りたいと思います。
いまさらキッティングとは何か
キッティングとは、簡単に言うと「(社員に)すぐに業務ができる設定をしたPCを提供すること」です。簡単に説明・定義していますが、実際には簡単ではありません。また、会社→社員ではなく、不特定多数が使用するPCやタブレットに対する「キッティング」もあります。
さらに、キッティングする場所、つまりキッティングセンターの場所は、「社内」の情シスの場合が多数なのですが、作業自体を外部にアウトソース場合もあります。情シスに所属しているのに「キッティングをしたことがない!」「キッティングで苦労したことがない!」という情シスメンバー。それは不運というよりラッキーです。その会社には、よほどリテラシーやスキルが高い社員が多いのでしょう。
YRLのレポートから見る負荷
今回「キッティング」をわざわざテーマにした理由でもあるのですが、この「キッティング作業」、かなり手間がかかります。以下の図表42-2は、PCやタブレットなどのIT機器レンタルの大手、横河レンタ・リースなどが公開しているPC運用管理レポートです。情シス業務のなかの、「負荷の大きい業務」を複数選択する方式ですが、74.9%が「PC導入時の対応(キッティング)」を挙げています。「ヘルプデスク(問い合わせ対応など)」「障害対応(障害切り分け・障害復旧手配など)」などよりも10point以上多い回答です。意外でしょうか?
多種多様なOS(ver違いも含む)や一律ではないプリンターなどの設定を含めた「キッティング」は相当面倒ですし、トラブルも多いです。これが全機種同一ならばかなり楽なのですが、まずメーカー内の情シス(*1)(*2)でないかぎり、そのようなことはありません。
【参考】横河レンタリース
(https://www.yrl.com/)
キッティングの業務を細分化
「キッティング」の作業自体について、少し細かく説明します。「キッティングの作業」は大枠で以下のような作業が存在します。
・ハードウェアキッティング
・OS設定、NW設定
・アプリケーションのインストール
・アプリケーションの設定
・セキュリティ対策やOSを含めたupdate
まず、「ハードウェアキッティング」は PCの物理的な部品を組み立てることを意味します。筐体のなかにあるCPUやメモリ、HDDなどを組み立てます。「アキバ系以外は関係ない」と思われそうですが、メモリの増設やグラフィックスカード追加などを行うときに実施します。PCのバッテリー交換なども同じです。
「OS設定」「NW設定」などは、キッティングの基本です。かなりIT寄りの作業です。そして、OSのupdate、セキュリティパッチ当てなども必要ですし、これも面倒(*3)です。
「アプリのインストールや設定」は、こんどは業務寄りの仕事になります。Microsoft Officeではなく、業務で使用するガチなアプリケーションをインストール(最近ではクラウドなため、端末にインストールはあまりありませんが)したり、「各種設定」をしたり。また、ユーザー登録作業(法律面も含む)もキッティングに含めることがあります。
そして、最近重要性を増している「セキュリティ対策」。これがある意味、一番種類があって、かつローカルなプロセスや対策ソフトが多すぎて、共通化ができません。まず、会社や部門、個人によって様々なケースが多そうです。「全部サーバーで対処してくれよ」と言いたいのですが、そうもいかないのが現状です(*4)。
ここまで実施して、やっとPCやタブレットが業務で使用できるようになるわけです。ちなみに、ネット上ではこれら一連の作業を外注/手作業で行った場合の料金は、1,000円~10,000円と言われています。下限~上限で桁が違いますし、高いのか安いのかはわかりませんが、作業時間(*5)を考えると受託する側(外注)のリスクも高いと思います。でも、料金がコレだとエンジニアへ払われるのはもっと安いわけです。数をこなさないと利益が出ません。
キッティングとセットアップ、アクティベーションの違い
ここで、「キッティング」と類似用語について説明したいと思います。
・キッティング(=Kitting)
・セットアップ(=Setup)
・初期化(=initialize)
・アクティベーション(=activation)
まずは、キッティングとセットアップの違い。大枠で言うと。作業範囲が異なるようです。一部では、セットアップ=OSのインストールと初期設定(場合によってはユーザーアカウントの作成やソフトのインストールなど)、キッティング=PCを含めた各種機器を作業できるところまで整える、としています。
次は、「初期化」ですがPCを最初に使用するための設定になります。初期状態に戻す、ことです。さらに「アクティベーション」という言葉もありますが、基本ユーザー登録して、アプリを有効化することを言います。アクティベーションは、非有効化しているものを有効化することを意味します。
この手の用語は、感覚的なものもかなり多いので、もし作業を請け負ったり、委託されたりする場合は、しっかり文書で細かい作業範囲を明確にしないとかなりまずいことになります。絶対に、相手と自分の作業範囲の感覚に差異があるはずですから。
キッティング後の設定も大変
キッティング作業を行ったPCですが、そのPCの作業用途や受け取り手によって、以下に分けられます。
・不特定多数が使用するPCやタブレット
・会社の新入社員などの特定ユーザー
前者の場合は、個人情報などは設定せずに最低限の設定で、かつ「誰(使い手)がどんな設定をしても元に戻せるような仕組み」でキッティングしないといけません。
後者は個人の設定/ユーザー情報を設定しないと作業や業務が始まらないものも多いため、その手の情報は、別途本人が設定することが多そうです。でも、こんな会話が聞こえます。。
社員A 「おーい、情シス。このPC使えないんだけど」
情シスB「はい。詳細を教えてください」
社員A 「これだよ。社内経理システムにアクセスできない」
情シスB「同封したマニュアルに、ユーザー情報の設定が書いてありますので、その手順通りにオペレーションすれば設定されます」
社員A 「おま、ざけんな。ちゃんとアクセスできるようにしてから、PCを配れや」
情シスB「、、、申し訳ありません」
世知辛い時代です。昔は、ユーザー情報まで設定していたかもしれませんが、コンプライアンスというか個人情報にうるさい昨今、個人情報はしっかり本人が設定しないと危険です。。。そして、そのような設定シートに書かれている情報が間違っていたり、足りなかったりして、無駄なやり取りが発生しますこともあります。
「そんなの社内ネットにUPしておけば良いじゃん」という声もありそうで、実際にあるのですが、そのネットに接続するための「キッティング」(*6)だったりするので、あまり意味がありません。結局横目で別のPCを見ながら、対象PCを設定したりすることになります。
sysprepという技
情報システム部が一台一台キッティングするのは大変です。図表42-3でも書かれているように、マスターを作成し、クローニングで対応することが多くなってきています。
マスター&クローニングは、マスターPCを作成し内容を検証、それを他のPCに反映する方法です。そして、クローニングの後、PCを微調整していく方法です。手作業はお金がかかるオーダーメイド、マスター&クローニングはイージーオーダー補正あり、という感じでしょうか。そして、このクローニングを行うときに、windowsで使用するtoolが「sysprep」です。sysprepとは、端末の固有の情報を初期化、そのイメージを別の端末で再利用するためのツールです。端末固有の情報は、SID(Security Identifier)(*7) 、CMID(クライアント マシン ID)、さらにSusClientID など。そして、すべてのシステム復元ポイントがクリアされ、イベントログが削除されます。
【参考】microsoft社 sysprep (システム準備) の概要
(https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/manufacture/desktop/sysprep–system-preparation–overview?view=windows-11)
キッティング手法は徐々にこのクローニングで行うようになっていきますが、機種や接続環境などによって補正が必要なのも現実です。スーツなどでいうと単なるLサイズの吊るしの服なら買いやすいし、修正も楽ですが、超Lサイズな体型のスーツはもうフルオーダーメイドしかないのです。でも、そういう差分をAIで判断して「上手く」クローニングする時代も近い、かもしれません。「王様の仕立て屋」(*8)なスーツ職人などは現実には、、、いますが、すべての服装店に配属させるのは無理でしょうから。
さいごに
今回は「キッティング」がテーマでした。キッティングといっても、昔のようにハードウェアやOSのインストールだけして、「あとはよろしく」では済まなくなってきています。情シスの負荷も大きくなってきています。情シスミッションとして、「経営とITの結びつきを検討する」ことが大事という前に、「キッティング」の負荷を減らすことが、最重要事項ではないでしょうか? だって、PCがないと仕事できないでしょ>ALL。
では良き眠りを(合掌)。
「眠りは死のいとこ」by Nas
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- 商標について
*1 メーカーでは、基本その会社で製造している商品を使用するのが原則です。でも、SIerを兼務する場合は、他社製品を使用することも多いですかね。動作検証しないとまずいので。
*2 メーカー内の情シス、、、たぶん相当スキルが低いです。なぜIT専門の会社に情シスがあるかは不明ですが、トップレベルのエンジニアは現場か研究部門に配属されているので、情シスにはいません。そもそもIT専門会社のエンジニアが、自分のPCの設定できないのは恥です。
*3 社内で作成したアプリによっては、わざとVerupしなかったり、パッチを控えたりすることがあります。
*4 エンドポイントセキュリティという概念があり、サーバーやPCなどの「エンドポイント」上で防御や監視を行う必要がある。
*5 キッティングの時間は、作業が少ないものは1時間、長いものは半日~2日以上かかるものがあります。例えば、よくある長くかかるケースは、「ユーザー登録や権限設定をした場合に、社内システムの夜間バッチでの反映が翌日以降の場合」。だいたい社員数が多い会社ではリアル反映はありません。そのため、キッティングの作業の順番を段取りしないと余計に手間がかかります。
*6 キッティングをしないと何もできないことが多いです。特に社内システムへは確実に接続できません。もし、接続できた場合、その会社のセキュリティはかなり甘いといえます。
*7 SIDって、他にも「Safer Internet Day(セーファーインターネットデー)」の略語だったりします。
【参考】ユニセフのセーファーインターネットデー説明
(https://www.unicef.or.jp/saferinternetday/)
*8 「王様の仕立て屋」は2003年~2024年まで連載されていた大河原遁によるマンガ。「王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜」「王様の仕立て屋〜サルトリア・ナポレターナ〜」「王様の仕立て屋〜フィオリ・ディ・ジラソーレ〜」「王様の仕立て屋〜下町テーラー〜」とシリーズが続いています。主人公は日本人ですが、舞台はイタリアがメイン(第4部からは日本です)
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筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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