システム管理者が知っておくべき経営視点、戦略的な情シスになろう!

第7回 小規模なシステム部門も逃れられない「コスト」の問題

概要

企業のシステム管理・システム企画部門のビジネスパーソンを読者対象に想定。特に、いわゆる「一人情シス」「兼任情シス」「立場が弱い情シス」にウエイトを置いた内容にします。日々の業務とDX戦略を結びつける「手がかり」の視点や、手が回らないITの経営戦略業務への関わり方など、いわゆる「情シス」と「経営」のインターフェース領域の話を中心にして記事に汎用性を持たせます。

iPhone16eが、2025年2月20日に発表されました。この原稿が公開される頃には、大量の動画やブログが溢れているでしょうが、おおむね『高すぎる』の評価が大多数になるかと思います。

iPhone SE第3世代からiPhone16eの最低価格モデルを比較すると、大幅な価格上昇率ですから、円安を抜きにしてもApple社の戦略転換は明らかです。

法人契約スマホを一括導入している企業では、これからiPhone SE(第2世代)、iPhone12、iPhone SE(第3世代)が大量に更新期を迎える所も多く、スマホの入れ替えコストは頭が痛い問題になりそうです。

目次
記憶に新しいVMwareのライセンス料金値上げ
経済のファンダメンタルから考える
「目に見え難い人件費」の一例
システム部門の間接コストは見落とされがち
購入VSリース
 まとめ

記憶に新しいVMwareのライセンス料金値上げ

去年のVMware製品のライセンス変更でも、運用コストの問題で頭が痛かったシス管も多いと思います。VMwareのライセンス料金が10倍程度になった余波で、クラウドベンダーから請求される利用料金も2〜3倍に値上げされましたから、ほとんどのシス管の方が当事者になったことでしょう。

特に大企業のシステムで無くとも、新型コロナウイルスの時に仮想化サーバーを組んだり、デスクトップ仮想化などの仮想化環境を組んだりした会社は直撃を受け、コスト的に踏んだり蹴ったりになりました。

話の始まりのBroadcom社がVMware社を買収した2023年時点では、両社の事業領域が離れていることもあって「Broadcomは買収して何がしたいの?」程度の認識でした。それが、買い切り型永続ライセンス廃止とサブスクリプション型への移行、VMware製品のラインアップ簡素化や課金単位変更が通達されると、あまりのコスト増に困りまくった、記憶に新しい出来事です。

MicrosoftのOffice製品も、法人向けライセンスは2024年4月から買切り型もサブスク型も20%値上げされましたし、一般向けライセンスも2025年1月からAI機能統合を理由に30〜40%値上げされました。

Google Workspaceも、2023年4月に20%の値上げで前払い年契約に誘導したのに続き、2025年3月からAI機能の統合を理由に大多数の契約で2割前後の値上げが来ます。

経済のファンダメンタルから考える

大手テック企業はアメリカですので、日本価格の値上げ幅が相対的に大きくなるのは円安の影響も含まれています。しかし米国の中央銀行は利下げステージに入り日米金利差は縮小する方向性ですから、2025年の為替相場は円高に振れ易くなります。ただ米国の中央銀行は、コロナ期に供給したジャブジャブ資金を十分に回収出来ないまま利下げに入り、テック企業の株価は天井に張り付いたままAI投資の回収をしなければなりませんから、製品やサービス料金の値下げは考え難い状況が継続するでしょう。

日本企業では、経費増が企業収益を圧迫する状況になると、社内で「経費削減委員会」などを立ち上げ、コスト圧縮に動くのが通例です。シス管のように経費圧縮の余地が少ない部署では、結果的に人件費が対象になりがちですが、多くのシス管で時間と手間を取られている「目に見え難い人件費」を表に出す機会にもなります。

「目に見え難い人件費」の一例

・なんでも聞いたら答えてくれると思って、Excelの操作方法とかネットで調べればわかる一般常識をよく聞かれる。
・社員のPCに不具合が発生し、「何か押しましたか?」と聞いても「何もしてない」と答えるけど、だいたいそんなことはなく「何かしている」。
・システム対応で魔法のようになんでも解決してくれると思われている。(人為的ミスを「チェック機能が無い!」とシステムのせいにされ、トラブル対応に駆り出される。)
・やたらパスワードのリセット業務が多い(特に長期休暇後)
・プリンターの紙が詰まっただけで呼ばれる。
・処理の重さ(スピードが遅い)ことを愚痴られるが、設定でどうにかなる範囲は限られる。
・社内の問い合わせに対応しているだけでだいたい1日が終わってしまい、本業は業後から始める。
・機器入れ替えやレイアウト変更、組織変更等で細かい作業が発生し、土日出勤も避けられない。

システム部門の間接コストは見落とされがち

いわゆる『システム部門の間接コスト』というやつで、直接コスト(機器購入費やサービス利用料)に比べると見落とされがちです。全社的な取り組みが必要になるケースがほとんどなうえに、この辺の認識がある経営者は稀ですから、直接コスト削減より面倒かもしれません。上手く業務整理できれば本業に費やす時間を捻出できるかもしれないので、情シス・ヘルプデスクの方は積極的にテコ入れしたい課題です。

運用管理の自動化・社員のITリテラシー教育・ナレッジ共有、といった施策は当たり前のことですが、ベンダーの合理化余地が限られる昨今だと、「目に見え難い人件費」の部分の方が手を入れ易いかもしれません。

購入VSリース

「経費削減委員会」のような場で、過去の経験則から「機器投資は、購入よりリースで調達して費用対効果を上げよう!」と言う人が出て来ます。しかし、リース会計が導入された現在では、一般的な電算機器導入でリースの費用的メリットは無くなっています。資金繰り上の理由でリースを選択することはありますが、経費削減とは別の話と思って下さい。

まとめ

「コストセンター」である情シスは、働けど働けどコストは増大するものの直接的な利益を生み出すことはできません。そのため、どんな小規模事業者でも「コスト削減」「費用対効果」のような言葉から逃れることはできません。実態が見えにくいITコストをできるだけ可視化し、適切に見直しをすることが肝要です。

 

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筆者紹介

高階 修(たかしな おさむ)
1967年生まれ

大学卒業後、1995年に株式会社ジャックスに入社。バブル崩壊~金融再編の激動期を、上場ノンバンクの経理財務本部にて勤務する。投資家、経営コンサル、債権管理回収会社(サービサー)の運営を経て、2022年8月に経営コンサルティング会社「松濤bizパートナーズ合同会社」を設立、代表に就任。
数多くの企業の破綻再生事例を背景に、経営のヒントと実務ノウハウを伝授する。システムなどバックオフィス部門の経営や、営業などのプロフィット部門からの孤立化(サイロ化)を修正することを含め、財務諸表や事業計画を再構築し、生産性の向上を図る。
趣味は砥石を使って包丁を研ぐこと。過熱水蒸気調理は面倒なので使わない派。
著書に「小さな会社の経営企画」
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松濤bizパートナーズ合同会社 
 https://partners.shoutou.me/

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