ニューノーマルで悩む管理者の夜

第六夜 OB訪問で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
はじめに
文系エンジニア
エンジニアって何をする職業
コミュニケーションは必要か?
インターンシップでやること
基本的な質問のあれこれ
人事さんの意味不発言
就職活動というもの

はじめに

このコラムも6回目です。たぶん来月も継続して同じテイストでコラムを書くと思いますので、よろしくお願いいたします。
さて、今回は、第三夜と同じように、あるキーワードにまつわるいろいろなことを、たくさん書いてみたいと思います。そのキーワードとは「学生からの質問」。時期的なものかもしれませんが、最近就活(*1)(*2)のOB訪問が多いです(*3)。当然WEB会議です。そして、なぜか毎回同じような質問が多い。その多い質問に対して、まとめて回答していきます。もちろん私見での回答なので、間違っているかもしれませんが、学生からはおおむね好感触、といいますかロジカルな説明で根拠も説明しているため、納得していただいております、たぶん。もし、文句がある学生諸君、私を探して、WEB会議で僕と握手(*4)。

文系エンジニア

一番多い質問は、「文系なんですが大丈夫ですか?」という質問。文系の方から毎回聞かれます。なんでそんな質問をいまさら?と思います。そこが心配・不安なら、まずこの業界を選択するのは間違っています。さらに、ン十年前ならともかく、君たちはデジタルネイティブ(*5)でしょう。なんで理系・文系で騒ぐのかわからなかったです。理由を聞くと「オンライン懇親会とかで理系にマウント(*6)されています」
おい、現場に出てもいない理系学生、まだ通用するかどうかわからんレベルでマウントするな。
そもそも理系といっても、IT業界とマッチングする学部はそれほど多くはありません。また、マッチングしてもその会社の主たる業務とマッチングできるかは運しだい。大学で学んだこととは違う業務になることがほとんどのはず。理系ですと、ゼミ・研究室経由で(その研究とシナジーのある)会社/組織に行けた方は、その大学や院の研究延長でいけます。しかし、それ以外の、文系と一緒のカテゴリで戦う理系は、あまり関係ない業務になります。
また勘違いしている学生が多いですが、企業、特に大手企業のシステム開発は、あくまでもお客様との契約でかつ(失敗してはいけない)仕事であるため、新技術てんこもりの開発はあまりやらない、というかやりたくない(やりたいけどリスクをヘッジしたい)。もし失敗した場合、いろいろお金がかかるし、赤字になった場合、IT業界だと倒産/合併の可能性があります。だから、そのような案件は、Poc(*7)とかプロトタイプ(*8)とかフェージング(*9)とかでリスクヘッジします。そして、学生に毛の生えたレベルでそのようなプロジェクト、つまりPocやフェージングで段階的に進める大規模な案件や先進的な案件にアサインされるかどうかは、難しい。会社によっては、たぶん社運を賭けるような案件になると思いますし。
何度もいいますが、勉強でもなく、バイトでもない「お仕事」であるため、学生時代の勉強はあまり役に立たないと思って下さい。もし、役に立つというなら、自己アピールで、そこをしっかりと「即戦力になるために努力しました」といえばいい。サークルで活躍しましたとか海外ボランティア(*10)をやってましたよりもアピールできます。
真面目に大学での勉強や研究に勤しんでいた人には申し訳ないですが、本当に即戦力となるような大学での勉強は、、、ありません。そもそも大学(研究)と企業(システム開発業務)って違います(*11)から。なので、文系・理系にかかわらず、素の頭が良い人間が一番役に立ちます。ただし、新人をすぐにプログラマやテスターとして派遣する会社は別です。「しっかり自宅でプログラミングってました」といえば、まず入社できる、かもしれない。
また、筆者の「IT業界の病理学」でも、「CASE 5-5 学生のキャリアアンマッチ病」というどストライクなテーマで、バラ色な会社説明と仕事の実態の乖離について記載しています。他にも、「CASE 5-4プログラマ→SE→プロマネのキャリアパス病」なども参考になるかもしれません。

エンジニアって何をする職業

今年は「エンジニア」って言葉をよく聞きます。SEでもプログラマでも管理者でもなくて、「エンジニア」。流行りなんでしょうか。エンジニアとSE職、芸能人と芸人と違い(*12)と同じようなものかもしれません。でも、IT業界のエンジニアって、他の業界のエンジニアっぽくないと思います。油にまみれてモノつくりって感じがしません。モノ=形あるモノではないためかもしれません。
IT業界のエンジニアって何をするんですか?という質問もあります。難しいです。そもそもPMはエンジニア? システム管理や運用・保守はエンジニア? 営業はエンジニアじゃない。インストラクターもエンジニアじゃない。コンサルタントは? DBAは? セキュリティエンジニアは? 微妙なラインの職業がたくさんありそうです。作る=開発にタッチするのがエンジニアだとすると、設計以降プログラミングまでが範囲となりそうです。ではテスターは? 上流工程を担当したSEは? 
そのため、私は、エンジニアの仕事というよりも、システム開発の流れを説明することが多いです。それくらい、業界分析で調査してから面談に来てくれよ、と思うのですが。
筆者がかなり昔に、システム開発工程のあれこれを、客(システム部)・インテグレータ・外注などを含めて書いた小説らしきものがありますので、本当にわからない人は、参考にしてください。「観察系エンジニアの告白」(*13)というタイトルです。

図表6-1 観察系イラスト

今読み直してみたら、新卒学生がユーザー企業(通信/テレコム)、IT企業(大手、中小、営業と開発)などに就職し、システム開発にたずさわるという話です。テイストはラノベ調でしょうか。新人の日記、掲示板回、メール、報告書なども挟んでいます。章タイトルは、時代ですね。

図表6-2 「観察系エンジニアの告白」章タイトル

コミュニケーションは必要か?

学生から、「コミュニケーション力が必要ですか」、という質問もあります。というのは、SEはコミュニケーション力が必要だ、ということをよく言われるからです。でも、一部間違っています。コミュニケーション力は、どんな仕事でも必要で、逆にコミュニケーション力のみ高い「口だけエンジニア」は要りません。そんなにおしゃべりしたいのならば、セールスマンになってください。さらに、チームで仕事をするから、コミュニケーションが必要だ、という理由づけがされていますが、コミュニケーションだけでチームは廻らないです。「会議は踊る」状態で、「仕事は遅延して、言い訳のコミュニケーション」が発生することが多いです。

さらに、かなり専門的な話になりますが、プロジェクトマネジメントにおける「コミュニケーションマネジメント」は、ステークホルダー間の情報伝達の計画・実施・コントロールのことを指します。適切なタイミングで適切な情報・内容を伝達・周知、モニタリングやチェックする。決して、学生が使っているような「コミュ力」というものではないです。その「コミュ力」はソフトスキル(*14)のコミュニケーションのことです。

さらに、「コミュ力」が高いといっても、仕事レベルで本当に使えるか、つまりアピールできるものかどうかは、疑問です。学生君のコミュ世界はどこまでなんでしょうか?大学、サークル、バイト、ネット仲間。ダメです。全てあまり役に立たないです。それらはコミュニケーションの前提となる知識が、相手と合致しているからです。現場というか仕事で一番たいへんなのは、コミュニケーションの前提や立ち位置、価値観がずれているケースです。

 客先の担当者A「品質はどうでもいいから、まず新システムのリリースを優先してくれ」
 開発者X「わかりました。ではテストを削ってリリースを優先します。良いですか」
 客先の担当者A「とにかくリリースを優先。競合も同様のサービスを提供するとの情報がある。それより早くだ」
    ・・・サービス開始後・・・
 客先の担当者A「おい、なんでシステムがトラブってるんだ。原因を聞いたら、テスト不足らしいじゃないか」
 開発者X「すみません。ただリリースを優先とおっしゃっていたので」
 客先の担当者A「ふざけるな。いくらリリース優先でも、しっかりテストはやるもんだろ。お前らはそれで飯食ってるんだろ」

ま、極端ですが、現場ではよくあるこんな会話も「テストを削る範囲」とか「リリース優先」という言葉の解釈や前提知識の齟齬で発生します。これらの齟齬をマネジメントするのが、コミュニケーションマネジメントなのですが。学生のコミュ力のスキルでは解決ができないと思います。このようなケースは、徹底的に言葉をドキュメント化し、曖昧な境界を明確にし、関係者で合意を取るのが正答です。

インターンシップでやること

すっかり定着したようなインターンシップ。短期間のものから長期間のものまであるらしいですが、所詮はお遊びです。「これは仕事です、遊びじゃありません」と、担当している社員や学生はめくじら立てるかもしれませんが、お遊びです。だって、何か問題あった場合、困るでしょ。「インターンシップした学生の責任です」とは言えませんよね。「そんな仕事を学生にさせるな」という話です。
内容も、「アルゴリズム」「お客様の要件ヒヤリング」「スクラッチ(*15)でのプログラミング」「営業のまね」などなど。担当した社員の所属部署や通常業務、職種などを聞きつつ、やっぱりお遊び、だと思いました。第一線の部署ではないから。
インターンシップって、学生にとってメリットはあるのかを考えますと、仕事量の違いが大きいと思っています。学生から社会人、つまり「バイト」から「仕事」に代わって、一番大きな違いは、すべての時間を仕事に費やすこと。休憩時間以外は、基本仕事です。そして、仕事量はやはり多い。インターンシップで学生に振る作業はほんの一部、かもしれませんが。あるミッション(システム開発プロジェクトとは限らない)を達成するために、山ほどタスクがあり、それを完了させないとお金がもらえない、さらに想定外の問題が確実に発生し、それを対処するためのタスクもたくさんある、ということが日々続くのが仕事です。想定外のタスクが発生することを織り込んで、仕事するのがプロなのですが。さらに、想定外の事象を発生させないようにする、発生確率を下げるというのも大事です。

基本的な質問のあれこれ

Q:残業は多いですか?
A:山谷あります。また、会社や組織によります。ついでに言うと、大手会社だと「働き方改革(*16)」により、まずブラック的な残業は行っていません。なぜなら目をつけられるからです。

Q:メーカー、独立系、ユーザー系のシステムインテグレータの違い
A:メーカーの強み弱み、そして実態。独立系の強み弱み、そして実態。ユーザー系の強み弱みと実態。この「実態」を語れるのがOB訪問というか業界人としての武器なので、コラムでは書けないです。冷静に考えれば、強み・弱みは分かりますが、実態はそれなりに他と分析できないと難しい。その実態に陥っている理由もちゃんとあります。もし会えたら、しっかりレクチャーしますよ。

Q:営業やコンサルの仕事は?
A:会社・組織によって、営業やコンサルの仕事というか範囲は違います。営業については、たぶんソリューションやパッケージを販売する「ソリューション営業/パッケージ営業」と特定の顧客をカウンターにする「アカウント営業」に分けられるかと思います。あとは、企画屋さん。コンサルはシステム開発のどの工程を担当するか、何をアウトプットにしているかが肝かと思います。

Q:大手と中小のどちらが良い
A:大手は役割分担がはっきりしています。中小は担当する工程や範囲が広いからいろいろ学べます。メリット・デメリットありますが、どちらが向いているのかは、人それぞれです。誤解をまねく言い方をすれば「バカは大手に行け」(*17)です。大手のほうが使えない奴でも給料をくれます。さらに研修がしっかりしています。中小は研修はOJTで、いきなり仕事というケースもあります。でも、「仕事」のほうが、いろいろ覚えるんですよ。不安かもしれないですが。

Q:最先端の技術を使った仕事ができますか?
A:どこの会社でも「最先端の仕事」を売りにしていますが、そのような仕事はほんの一部です。例えば某自動車会社で、CMで宣伝しているようなコネクテッド(*18)な仕事はコネクテッドな部門でないと関係ありません。大部分の社員が他の非コネクテッドなモノの開発・営業・販売などの仕事をしているはずです。具体的なことを知りたい場合は、全社員数と最先端部門の社員数をヒヤリングして、割合を計算してみてください。大手ほど比率は小さいはず。身もふたもない回答で申し訳ない。

Q:新卒でないと大手に行けない
A:この質問もかなり多いです。変な都市伝説です。キャリア会社がそのように言っているらしいですが、業界関係者は皆否定しているはずです。一面正しいことは、「大手でも、スキルゼロレベル(加点無し)での学生間競争であるため入りやすい」ということだけ。つまり「運しだいで入社可能な時期」ということ。しかし、どこの会社でもいいから入社して力をつけたら(加点スキルを身に着けたら)、数年後にはどんな大手でも倍率が低く入社(転社)できます。この業界で力をつける、と覚悟を決めたら、どんな会社でも「スキルを伸ばせる会社」になります。

人事さんの意味不発言

最後に、「オンライン説明会で人事が言っていた『これからわが社は新しいIT社会を創る』(*19)の意味がわかりません」、という質問。私もわからないです、本当に。というか、説明会で質問しとけよ。詳細を聞きますと、説明会で「これからわが社は新しいIT社会を創る」的なことを言ったらしいですが、さっぱりです。学生でなくてもわかりません。具体的に何をするのか、何をもって「IT社会を創る」みたいなことを言っているのか、曖昧すぎて困ります。たぶん、説明した社員もわかってないんでしょう。
そもそも、IT会社の人事(*20)って、いまいちな人が多いというのは一部で有名です。人事スタッフになりたくて、IT会社に入社した人ではないですし、それこそ人事のプロというほどのキャリアも持っていない。現場からスタッフ部門に異動したということは、現場で必要な戦力でない、と思われます。人事社員のスキル云々の前に、説明資料の読み込みぐらいはしっかり行ってほしい。学生を納得させるような説明や回答をしてほしい。そして、質問を許すような場を説明会で作ってほしい。

就職活動というもの

今回は学生との面談で、よく質問される内容について、書いてみました。今年は、「文系・理系」「エンジニア」という用語がとても多かったですね。昨年や一昨年は、グローバルがキーワードだったのですが。また、時期的なものかもしれないですが、業界研究していない方も多い。最近のIT関連のバズワードあたりはネットで調べて、チェックして欲しい。こちらがネタふりをして「ほら、あのCOCOA事件と同じ」とか「みずほは3度目だよね(*21)」とか言っても、「知りません」と返されると、少し悲しい。
志望動機を聞くのも勘弁してください。筆者の時代と社会自体が変わっています。まったく参考になりませんし、参考にしてほしくない。
前述の「観察系エンジニアの告白」は、仕事の流れがわかる本なのですが、それとは別に、筆者も大好きなきたみりゅうじさんの「新卒はツラいよ!」(*22)も良い本です。特に、就「職」活動のページを読んでください。学生の身分で業界の第一線で働く人たちとタイマンで話をできるのは、実は楽しい活動なのです。
そして、最後に学生へ。この業界は大変だけど、とても面白いです。いろんなことが起こりますし、想定外事象に対処するのは結構楽しい。お役所仕事やルーティンオペレーション、自分の趣味などが大事、な方には向きませんが、いろいろなことに向き合いたい方にはお勧めです。とりあえず、この業界のどこかに繋がって下さい。業界内にいったん入れば、転職などもやりやすいはずです。そして、幕張メッセで僕と握手!
では良き眠りを(合掌)。

「仮眠ができないような会社には来たくない」byスティーブ・ジョブズ

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*1 参考までに、2021年3月卒業予定者の「IT業界新卒就職 人気企業ランキング」。3年分提示しましたが、毎年同じような企業です。「NTTデータが10年連続で1位」らしいですが、この投票は、まず①ピックアップされている企業名から複数を選択。また②選択者は業界素人の大学生。となると有名企業をポチ、前年度のランキングをポチという結果になるのが当然です。業界人による優秀企業ランキングなどのほうが、良い企業ランキングの実態が出ていると思います。

図表6-3 新卒学生 人気企業ランキング
2021卒は、https://www.nikki.ne.jp/event/20200514/
2020卒は、https://www.nikki.ne.jp/event/20190514/
2019卒は、https://www.nikki.ne.jp/event/20180517/から1位~20位を抜粋
調査主体:楽天みん就

*2 今年(2022年卒学生)は、就活をすべてオンラインという学生も多いです。実際には、対面とWEB会議(Zoomなど)の選択みたいですが。都会在住のメリットがなくなりつつあります。これが、ニューノーマル。

*3 参考までに、筆者の学生とのWEB面談回数ですが、2020年12月は1回、2021年1月は4回(文系4/理系0,男0/女4)、2月は6回(文系3/理系3,男性6/女性0)、3月は4回(文系2/理系2,男性3/女性1)でした。多いのか少ないのかわかりません。出身大学だけでなく他大学の方もあります。だいたい時間は、1時間~2時間です。一番短い時間で37分というのがありました。 ちょうどこのコラムを書いているときに、面談した学生(女性)が内定もらったという連絡あり。嬉しいですね。地方大学の学生ですが、けっして都会・有名大でないと就職はきつい、というわけでない実例です。

*4 「〇〇で僕と握手」の元ネタは、「後楽園ゆうえんちで僕と握手」というテレビCMらしい。

*5 デジタルネイティブ(digital native)。生まれた時からインターネットが身近にある世代。だいたい1990年代以降という説が多い。Wikiによると、Marc Prenskyが2001年に出版された著書「Digital Natives, Digital Immigrants」内で定義した呼称であり、生まれながらにITに親しんでいる世代をデジタルネイティブ (Digital Natives) 、IT普及以前に生まれてITを身につけようとしている世代をデジタルイミグラント (Digital Immigrants) と呼んでいる。また、物心ついた頃から学生時代にかけて携帯電話やホームページ、インターネットによる検索サービスに触れてきた世代を「デジタル・ネイティブ第1世代」、ブログ、SNS、動画共有サイトのようなソーシャルメディアやクラウドコンピューティングを使いこなし青年期を過ごした世代を「デジタル・ネイティブ第2世代」と分類する意見もある。

*6 相手よりも上のポジションをとり、優位性を自慢したり威圧的な態度をとったりすること。ネットでよくあるのですが、自説を批判された場合、すぐに「マウントを取られた」って返すのは何か違うと思います。

*7 Proof of Concept、「概念実証」。「実証実験」などというものもありますが、使われるタイミングが違うように思います。たいてい、Poc → 開発 → 実証実験 → 本サービス開始 という流れ。まず、その技術やコンセプトが実現可能か、想定している効果をあげられるのか、コスト内で収まるかなどを部分検証して(フィードバックして)、開発に着手。そして、商用の一部や特定地域・店舗などで実際に使用してみる(=実証実験)。その結果をフィードバックして、本格的に商用スタートというような流れです。Pocは実現可能性の検証という意味合いがかなり高いといえます。

*8 prototype、デモンストレーション目的や新技術・新機構の検証、試験、量産前での問題点の洗い出しのために設計・仮組み・製造された原型機・原型回路・コンピュータプログラムのこと(Wikiから) エヴァシリーズの零号機(EVA-00 PROTO TYPE)、そして初号機(EVA-01 TEST TYPE)、弐号機(EVA-02 PRODUCTION MODEL)のように、プロトタイプ→テストタイプ(実験機)→製品機(先行量産機)のイメージ。安定感よりも特定の機能・技術にとんがっていたり、いままでにないコンセプトの製品であったりすることが多く、当然品質はいまいち(と思う)。でも一点モノなので価値はあるかも。あ、価値があるのは、エヴァシリーズです。システム開発におけるプロトタイプは、さっさと捨てることが多いです。

*9 フェージング契約。システム開発の工程毎に契約を締結すること。システム開発を要件定義/異本設計までの工程と以降の工程(設計~試験)に分割し、前半を時間契約やSES契約、後半を請負契約などにすることが多い。前半のアウトプットをインプットにすることによって、不確定要素を減らし、見積もり精度を高めたりする。SESと請負などの契約形態についても誤解や勘違いが多いので、どこかのタイミングで書きたいテーマです。

*10 本当に多いです。海外ボランティア、サークル活動でのリーダー。筆者も、面談する人(学生)の自己アピールを毎回事前にさらっと読んでいるのですが。たぶん海外ボランティア=グローバル+協調性、サークル活動のリーダー=リーダーシップをアピールしていると思うのですが。サークルではなく勉強に力を費やした、とかいうアピールはできないんですかね。たまに「ゼミ長してました」という人もいましたが。

*11 大学と企業の違いはあります。本文でも書きましたが、大学=研究、企業=ビジネスです。また、品質というか信頼性も企業では重視します。また、作られたシステムは「使われる」ことが前提なので、メンテナンス性も高くないとダメです(=誰でも修正しやすい、機能追加しやすい)。特定の専門家しかメンテできないのはアウトです。この点が例のCOCOA事案でもネックだったらしい。特定の技術(AndroidとiOSで共通に稼働するコードを開発するツール「Xamarin」で開発)を使用していたからエンジニアを確保できなかったという噂もあります。ここらへんのテーマもコラムで書きたいですね。

*12 芸人と芸能人の違いは、国語辞典などの定義上ではほぼ同じ意味を持つ言葉らしいです。実際には【芸能人】映画、演劇、歌謡など大衆芸能を行うことを職業とする人。【芸人】大衆芸能のうち演劇や映画を除く講談、落語、浪曲、漫才、曲芸、手品を職業とする人。芸能人=タレント、そして芸人は芸能人のなかの特定分野という感覚かもしれません。

*13 「観察系エンジニアの告白 みんなのシステム開発青春物語」。2004年8月発売。タイトルに「青春」と入っているのが恥ずかしい。監察医朝顔とは関係ありません。章タイトルは、思いっきりドラマ・映画・アニメのタイトルです。執筆時期が2003-4年あたりなので、そのころ流行ったものが多いです。一応、章柱に章タイトルは何をもじったかを書いてあります。全部わかった人は、僕と握手! 表紙/本文内イラストはもりいくすお氏(https://www.kusuo.com/)です

*14 ソフトスキルとハードスキル。ソフトスキル(ソフトウェアスキルではない)とはコミュニケーション能力とかリーダーシップ、想像力などの「測ることが難しい」スキル。ハードスキルは、テクニカルスキル・プログラミング能力などや業務知識などです。資格などはハードスキルですね。

*15 スクラッチ(Scratch)は、プログラム言語。Scratch財団がマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ ライフロングキンダーガーデングループ(MIT Media Lab Lifelong Kindergarten Group)と共同開発する、8~16才のユーザーをメインターゲットにすえた無料の教育プログラミング言語及びその開発環境(Wikiから)。最初、学生からインターンシップで「スクラッチで開発しました」と聞いて、目が点になりました。詳しく訊くと、プログラム言語でした。さらに、詳しく調べるとキッズ用。スクラッチって、業界的にはパッケージ開発の逆、つまり全部プログラミングすることを意味するから、勘違いするよね。スクラッチ(scratch)はそもそもゼロからというような意味があり、スクラッチ開発=ゼロから開発する、という意味で使われます。 「ひっかく」という意味もあり、コインで削るスクラッチくじのスクラッチです。

*16 働き方改革関連法。正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」。日本法における8本の労働法の改正を行うための法律の通称。2018年に成立、2019年4月1日から順次施行。(Wikiから)。時間外労働の上限規制、年次有給休暇取得の一部義務化などにより、IT業界のブラックな就業時間環境は外形的には改善されています。でもサービス残業とかすると形骸化します。

*17 「ドラゴン桜」のキャッチコピー「バカとブスほど東大に行け!」から。ちなみに、ドラマ「ドラゴン桜」(2005年放送)の続編(原作はマンガ「ドラゴン桜2」)が、2021年4月からTBS系日曜劇場枠で放送予定です。当初は、2020年夏からだったのですが、延期されていました。阿部寛(役:桜木健二)、長澤まさみ(役:水野直美)が再登場。 「バカは大手に行け」の意味は、業界全体として人手不足ですが、大手のほうが非IT的な総務的な仕事もあり、「仕事」を振られる/見つけてくれることも多いから。

*18 コネクテッド(connected)。コネクテッドカーとか。コネクテッドって接続の意味なのですが、どこと接続するか? インターネットに繋がるという意味なんでしょう。GPS(地図情報)、車同士、信号や道路情報、緊急時のコール、いろいろな情報をやり取りできるようになります(なっています)。

*19「IT社会を創る」「イノベーションを起こす」でも何でもよいですが、どういうことなのか(なぜそのキャッチコピーなのか、仕事とどう結びつくのか)は周知したほうが良いです。会社の本業で真逆のことをやっているのに、臆面もなく語っている人(社員)も多いですから。というより、それが採用人事の仕事でしょ。日程調整だけやっていればよいと勘違いしているスタッフ社員も多いです。

*20 人事スタッフ、特に採用の窓口(管理職レベルではない)となるような方は、派遣さんの可能性も高いです。特に中小規模の会社の場合は、社員=開発・営業戦力なので。派遣さん識別方法としては、例えば、本人確認のため氏名や大学名を本人に復唱要求したりするような人は、確実に派遣さんです。社員の場合、まず学生だろうと他社の人であろうと、次のお客様になる可能性があるので、そんな失礼なことはさせません。でも派遣さんの職務はまずオペレーション通りに間違えないこと、つまり訪問者や問い合わせ者の名前間違いを嫌います。なので、本人に復唱させたりします。失礼ですよね。ある会社に面接に行ったとき、そのような対応をされて、面接終了後に「受付でそんなことされたんですよ」と話したら、「だから毎回面接者の機嫌が悪いのですか」と話してました。 それとは別に、人事系は社員タンでも能力(ITリテラシー)よりは外形で選んでいる向きがあります。なので、最新IT技術とか聞いちゃだめです。

*21 2021年2月28日に発生したみずほ銀行のシステム障害のこと。3度目というのは、2002年4月、2011年3月に大規模システム障害を起こしていたからです。この一連のトラブルについては、次回以降コラムでテーマとして書きたいと思います。

*22 「新卒はツラいよ!」再度読んでみましたが、就活時代、新卒時代、本業以外の作業、プログラミングへの欲求、偽装名刺/派遣など、なかなか面白いです。私も2人分働いたことありますねー、つまり残業160H(8H×20日換算)ということですが。慣れればなんとかなるもんです。いきなり、はだめです。60H→100H→160Hと段階を踏むことが大事です(爆死)

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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