ニューノーマルで悩む管理者の夜

第拾八夜 ロシアのウクライナ侵攻で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
緊急事態なロシアの侵攻
ロシアについて勉強しよう
日本企業の対ロシア・ウクライナ対策
ネットで話題の義勇軍
SWIFTについて勉強しましょ
ニューノーマルでも戦争は起こる

緊急事態なロシアの侵攻

今回のテーマは、2022年2月24日に開始された「ロシアのウクライナ侵攻」です。当初は、違うテーマを予定していたのですが、急遽変えました。やはり、時勢に合わせないとこのようなコラムは面白くないですよね。後々読んで、「あー、あの頃はこんな分析をしていたのか」などと感慨に耽るのも一興です。

ロシアについて勉強しよう

最初はロシアのIT事情などから。日本の企業と海外の企業、システム開発でのコワークというと代表的なものは、オフショア開発だったりするのですが、ロシアという国名はあまり聞こえてきません。
<図表18-1 希望するオフショア先ランキング2021  オフショア開発.comの「2021年最新のオフショア開発の現状・動向は?」(https://www.offshore-kaihatsu.com/faq/doukou.php)から>

図表18-1のランキングは、母数が不明ですし、かつ日本企業が希望する国なので、実際にどの国の案件が多いのか、エンジニア数の多寡なども考慮しなくてはいけないでしょう。それを前提にしても、中国やインド、ベトナムなどのアジア・東南アジアへのオフショアは多いです。ではロシアはというと、中国地方の島根県では前々よりロシアIT企業との連携・活用の可能性を探るために、ロシアのIT状況などを収集する調査活動(*1)を行っています。

【参考】島根県しまねブランド推進課 ロシアIT産業調査報告書
https://www.pref.shimane.lg.jp/industry/syoko/sangyo/boueki_sokusin/bizmtg/russiaITbusinessreport.html

以下、上記の調査報告書などからピックアップしますと、
『ロシアは欧米企業からのオフショア開発先として積極的に活用されており、18年度のソフトウェア開発市場に占める海外売上は6割を超える97億ドルだった。海外企業からの引き合いが多いのは、ロシアのサイバーセキュリティ分野の強みを発揮できるITインフラ・プラットフォームの開発や、先端技術の知見が求められるR&D開発の分野である』

また、「調査報告書」の概要には、
『注目に値するのは、同リスト(=IAOPが選ぶアウトソーシングのグローバルトップ企業100社)にロシアの隣国である、ウクライナ、ベラルーシからも多くの企業が選出されている点だ。この3カ国からは合計24社が選出されており、リスト全体のほぼ4分の1を占める。日本ではあまり知られていないが、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは民族的な観点からは同じルーツの末裔であり、また旧ソ連構成国として、文化的、経済的な結びつきが強く、一つのロシア語圏として見なすことができる。例えば5年連続で同リストに選出されているLuxoftは、本部はスイスに置かれているが、ロシアにルーツを持つ企業として、ウクライナに開発拠点を持っている。また米国に本社を置くEpamはベラルーシにルーツを持つが、ウクライナで大規模な開発を行っている。この3国の強みは豊富なSTEM系人材(*2)と安価な人件費という点で共通している。もちろん政治的に、この3カ国は友好的関係にあるとは言い難い。しかし現実には相互に連携しつつ、海外のアウトソース拠点として積極的に活用されている格好だ。』

ロシア・ベラルーシ・ウクライナは民族的には共通だけど、政治的には微妙なんですね、やはり。というか、調査報告書という公式な文書に「友好的関係にあるとは言い難い」と書かれている関係って、駄目じゃん。また、調査報告書に記載されていたIT企業などは注釈(*3)でピックアップします。
気を取り直して、ロシアのIT企業というと、セキュリティソフトのカスペルスキー(https://www.kaspersky.co.jp/)が有名です。マスコットはグリーンベアです。「赤じゃないのか」というツッコミは置いておきます。クマ(*4)は、、、熊です。くまか。

<図表18-2 カスペルスキーのグリーンベア>

日本企業の対ロシア・ウクライナ対策

次に、ロシアやウクライナ、特に戦地と化したウクライナに対する対応です。企業によっても異なるでしょうが、ある会社の事例です。ウクライナの現地企業に勤めている現地社員は、かなりの割合で出国拒否が多いようです。でもそのような方々に支援って、どうするんだろう。「がんばれー」っていうだけ? 「早く隣国へ避難を」という助言? お金の送金? 企業としては、現地社員への支援って難しいです。他国だしね。すっごくお金を持っている会社の場合は、ジェット機を調達というプランを立てるかもしれませんが、そもそも領空に入れるの? 近々の「コロナ対策」などを鑑みると、物資を送付とかにとどまる気がします。でも、千羽鶴とか古着は送ってはダメです。迷惑(*5)だから。
また、現地にいる日本人社員に対しては、そもそも出国指示が出ている、はず。でも、「仕事の都合上」出られない人もそこそこいます。そして、事態が緊迫し、「行動制限・移動制限」がかかって、もっと出られなくなる、というケースがあります。日本で、のほほんとネットだけの情報しかしらない本部社員と、現地でリアルタイムにヤバさを感じつつ働いている社員のギャップが確実に発生しています。某国際的な大企業の社員曰く「やばいときには、大使館より自社の支店のほうが安心」らしいです。でもそのような企業はほんの一部だけ。政府とガチで戦える大企業だけです。ヤバいと思ったら、会社の指示を無視して、さっさと退去すべきなんでしょう。

 日本の本部員 「Fくん、進捗はどう?」
 現地出張中社員「出社している社員が半分に減っているので、思わしくないです」
 日本の本部員 「うーん、それは困ったな。なんとか巻き返せそう?」
 現地出張中社員「難しいですね。そっちから増援できませんか」
 日本の本部員 「うーん、考えてみるが難しいだろう。国際的な問題が発生しているから」
 現地出張中社員「ですよね。こちらのニュースでも避難者で国境が封鎖されているみたいです」
 日本の本部員 「そうか、そうだよね。ところで、Fくんはプロジェクト的に一時的帰国できそう?」
 現地出張中社員「いや、いまプロジェクトが佳境なので帰れないですよ」
 日本の本部員 「うーん、なんとか調整できない?」
 現地出張中社員「頑張りますけど、そもそも人がいないので」
 日本の本部員 「うーん、そうか。本当に困ったな。また、定例進捗で報告してよ」

うん、いろいろとツッコミたいところが多いですが、困ったもんです。というか、中断しろよプロジェクト。砲撃の音とか聞こえているだろ(いや、防音部屋でのオンライン会議だから聞こえないかな)

ネットで話題の義勇軍

在日ウクライナ大使館が、義勇軍を募集した件。そして、それに応じ、日本から約70人が応募した件(2022年3月1日時点)です。

 

ウクライナ政府がロシアと戦う外国人「義勇兵」を募集しており、1日現在、約70人の日本人が志願している。在日ウクライナ大使館関係者が明らかにした。全員が男性で、元自衛官が多く「ウクライナの若い人が亡くなるぐらいなら自分が戦う」などと理由を語っているという。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月27日、志願者による外国人部隊を編成すると表明。在日ウクライナ大使館が同日、短文投稿サイト「ツイッター」を通じて「共に戦いたい方々」として募集した。
大使館から募集業務を委託された東京都内の企業関係者によると、1日夜までに約70人の志願の申し出があり、うち約50人は元自衛官だったという。かつてフランス外国人部隊に所属していた人も2人いた。
ウクライナ側は従軍させる場合には報酬を支払うことを視野に入れるが、ツイッターでは「ボランティア」として募集。問い合わせの際に「日本にいても大して役に立たないが、何か役に立つことをしたい」などと「純粋な動機」(大使館関係者)を語る人が多かったという。

以上、3月1日配信Yahooニュースから。
https://news.yahoo.co.jp/articles/276e419884f2ab0250d4614e0f11ae1c80128f60

まず、応募する以前に実際に何を募集していたかの混乱があったかと思います。「何が必要?」とか「私でもいい?」とか「専門スキルないけど可能ですか?」とか、少し考えればわかるレベルの質問が、多数以上寄せられます。だって、ツイッターだから必要なスキルの所持者以外にもメッセージは送られるんだもの。「何かしたい(=暇だし)」という人々の心を揺さぶるメッセージなんですから。何もできない人は、本当に何もしなくていいのが、この「非常事態」でのお約束です。主要な関係者が頑張っているのを邪魔するのは止めましょう。
そう、IT業界における修羅場、リリース直前とかシステム停止という緊急事態に、怒鳴り込んでくる経営陣と同じくらい邪魔なんです。やるべきことをわかって、必死にタスクをこなしているエンジニアにクソみたいな質問を投げるな。終わった後に、いくらでも話を聞くわ。
こういうときのベストアクションは、こっそり差し入れを置いて、去ることです。栄養ドリンクや個別包装のお菓子、片手で食べられるおにぎりやサンドイッチがベストです。猫の手も借りたいといいますが、特殊なスキルが必要な作業については、猫は邪魔です。外で「にゃー」とでもいってください。心配するのは勝手ですし、気持ちはよくわかりますが、その想いは発散させずに、内にとどめておくことが正解です。システム開発とかトラブル対応、軍事行動などは人海戦術ではどうしようもなりません。せいぜいテスターとか肉〇になるくらいです。文句があるなら、特殊なスキル(*6)を身に着けなかった自分を恨んでください。そして、いまからでも身に着ける努力をしましょう。

SWIFTについて勉強しましょ

さて、侵攻当初に対抗策(*7)として行われたロシアに対するSWIFT排除。SWIFTとは「Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication」の略で、1973年に設立された銀行間の国際金融取引を仲介する協同組合。で、システム屋さん的には、金融関係のシステムや海外送金などの対外系のシステムや銀行のマスターデータ、送信データなどで顔を出してくるのが「SWIFTコード」。いったいなんなのかというと、SWIFTコード(SWIFT/BIC)というのは、国際送金などの際に相手方の銀行を特定するための「金融機関識別コード」で、国際送金業務を行う世界の金融機関はすべて、SWIFTコードをもっています。もちろん、日本の銀行や信用金庫などもです。コード体系は、図表18-3。

<図表18-3 SWIFTコード体系 三菱UFJ銀行HP
https://www.bk.mufg.jp/request2/001/swiftbic_setsumei.html)から>

以下にいくつかの銀行のSWIFTコードを列挙します。

対外決済には、他にも「コルレス(銀行)」「仕向銀行/被仕向銀行」とか専門用語がたくさんあって面倒です。この際、この機会にある程度勉強すると、金融業務に強いエンジニアになって、次回のみずほトラブルの防止に役立つかもしれません。

ニューノーマルでも戦争は起こる

よもやよもやの戦争です。某国の緊急事態宣言、まん延防止等重点措置どころではありません。まん防発令でも、淡々と満員電車で通勤したり、しっかりマスクはずして大声で歓談しているのが日常な某国、オールドノーマルに戻りたいと叫んでいる高齢者が多々いる某国とは全く異なる世界です。さらに、2022年3月7日には、中華な国でも習近平主席が、海外派兵の根拠法の整備を指示するなど、キナ臭い動きです。そして、直近(2022年3月23日)には、日本でもウクライナのゼレンスキー大統領がオンライン演説(*8)を行い、対抗するロシアは日本への敵視を強めているらしいです。
本当の緊急事態に、日本は、エンジニアは対応できるのでしょうか。
では良き眠りを(合掌)。

「どこででも、必要な時間だけ眠れる。眠ることは何にもました武器だといえる。不眠は注意力を落とす。それは死につながるのだった」 by 西村寿行作「赤い鯱(*9)」(1979年)から

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*1 島根県とロシア連邦沿海地方は、1991年(平成3年)10月に「友好交流に関する覚書」に署名し、2021年で30周年を迎えます。

*2 Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取った造語。つまり情報系理工系人材。米国オバマ元大統領が演説で述べたことが有名。最近では、Art(芸術)を加えて、STEAM教育・人材ということもあります。

*3 「調査報告書」のなかで、ロシアの代表的なIT企業として以下の企業が記載されています。

社名 概要
ラニトグループ(https://www.lanit.ru/en/ 1989年創業。ロシア最大のシステムインテグレーター、ITコンサルティング会社。
リュクソフト(https://www.luxoft.com/ 1995年に前身となるIBSグループ(ロシア大手ITホールディング)の開発センターとして開所。世界中のグローバルカンパニー(ボーイング、フォード、ドイツ銀行など)を顧客にもつ。
 メイコール(https://maykor.com/en/ 2010年創業。創業以来、積極的なM&Aと地方進出を進め、ロシア国内に483箇所のサービスセンターを持つ。
ヤンデックス(https://yandex.ru/ ロシア最大の検索サービスを提供するコングロマリオット型IT企業。ロシアにおける検索エンジンの2019年度のシェアは、Google 55%、ヤンデックス 42%と両者でロシア市場をほぼ二分する
メイルルー(https://mail.ru/ ロシア語インターフェースを備えたwebメールサービスをロシアで初めて提供した企業であり、ロシア最大のSNSサイト「フコンタクテ」の運営企業。

ちなみに、2018年のIAOPの「The Global Outsourcing 100」
https://www.iaop.org/Content/19/165/4987)luxoftと
maykorは載っていますが、2021年
https://www.iaop.org/Content/19/165/5309)では消えています。

*4 「ゴミを出しに行くときや子どもを学校に送っていくときにクマにばったり会うことがあります。と思えば、家から出なくても、入り口で大きなクマが待ちかまえているということもあります」と世界自然保護基金ネネツ自治管区事務所のコーディネーター、セルゲイ・ウヴァロフさんは語っています。「ある日、町の中、クマさんに、出会った」がありえる国です。でも落とし物は拾ってくれません。
【参考】RUSSIA BEYOND記事から
https://jp.rbth.com/lifestyle/85595-kuma-hontou-ni-roshia-no-toori-wo-aruiteiru-no-ka

*5 「千羽鶴」を現地(戦地)に送るのは、かなり迷惑です。まずは、救援物資、というよりなんでも購入できる金とかがベストでしょう。「千羽鶴」を送っても、食べられないし、寒さ対策で燃やすことぐらいしかできない。在日ウクライナ大使館宛てでも、この状況では迷惑でしょう。どれくらい忙しい状況かも判断できないのでしょうか?


*6 特殊なスキル、戦争時では元自衛官だったり、システムトラブル時には当然システム屋さん。意外に、どんな時でも医療関係者って必要なのです。戦争・災害・コロナ禍。システム関係でも倒れる人とかいるかもだし。一部の資格試験会場でも看護師は待機していたりします。

*7 対抗策ではないのですが、3月11日に、スマートフォンアプリ「ポケモンGO」をロシアとベラルーシでサービス停止することを、ナイアンテック社が発表。エンタメ・ゲームでも制裁の波が起きています。

*8 ゼレンスキー大統領は、各国で演説を行っていますが、米国では「真珠湾攻撃」、ドイツでは「ベルリンの壁」、イギリスでは「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」など各国の歴史を踏まえたスピーチを行い、「ご当地演説」と呼ばれ評判をあつめています。今回の日本でも、「サリン」や「原子力発電」などの言葉を用いていました。ITサービスやシステムの提案なども、個々の企業に合わせた提案をして欲しいものです。毎回、同じPPTでご提案は意味ないでしょう。

*9 「赤い鯱」から始まる鯱シリーズ。西村寿行の代表作です。そのころ(1970~80年代)のロシア(旧ソ連)は仮想敵国でした、東西冷戦時代です。シリーズは「赤い鯱」「黒い鯱」「白い鯱」「碧い鯱」「緋の鯱」「遺恨の鯱」「幽鬼の鯱」~と続きます。チートな能力を持つ千石文蔵ら4人が活躍する国際冒険アクション小説です。
2022年のいま再読すると、ロシアへの敵視が凄い。ロスケ(=露助)という蔑称も使われています。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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