「Hello, Thank you for your greetings and message」
と入力を返すと、すぐさまオンラインの会議に切り替わった。
初めて聞くチームリーダーの声は新鮮だった。
大きな街の高校に入学した時、初めて他の学校から来たクラスメイトとあいさつをするような気持ちだった。
(あとで聞いた話だが、筆者が英語に不慣れと事前に聞いていたとのことで、日本語から会話を始めようという配慮があったとのこと)。
「こんにちは。今日からFujiwaraさんの担当となりましたAといいます。一緒に頑張っていきましょう」
オンラインとはいえど、その会話には血が行き渡る新鮮な感じがしている。
チームリーダー:「早速、明日から、簡単なお客様のケースから仕事を割り振りたいと思いますが、大丈夫ですか?」
筆者:「はい、もちろんです。お願いします。最初はいろいろ質問するかもしれませんがよろしくお願います。」
チームリーダー:「わかりました。では、明日の朝、チームメンバーへのあいさつがあります。その後に新しいケースを割り振りますね」
筆者:「はい、お願いします」
もう、新人などとは言っていられない歳だが、三流週刊誌でさえも特集するいわゆる「老害」にはなるまいと極めて冷静に、フレッシュに振る舞う自分がそこにいた。
しかし、その態度は手前味噌だが、正解であろう。
歳を経ただけで無条件にリスペクトされる、そんな誤解というトラップにひっかかる人を何人も見てきた。
これからチームの一員として、「最初は足を引っ張るかもしれない、戦力に数えられるよう早く結果を出したい」という気持ちは無意識に持っていた。
もちろん、そんなことは口には出さず、行動と結果として出さなければいけない。
ただ、一方では不安もある。
どんなにOJTの名のもとで管理されたパッケージを消化し、テストラボで操作し、同僚と勉強の会話をし、自主学習として参考書を読み漁っても。
その点は、歳のせいか「Out of Control」と割り切った。
だからこそ、どんなに簡単でも手を抜くという選択肢はない。
そう、クラウドエンジニアとて人間。
気づけば9月に入っていたと感じる朝9時。
まず、幾人かのチームマネージャーとチームマネージャーを束ねる統括マネージャーの、そういわば重鎮が集まってのあいさつの会議が始まった。
こちらは言うまでもなく、顔出しをするために「上の服装」だけはちゃんとして、その会議に参加をしてあいさつをした。
思っていた通り、フレンドリーに接してくれた。
「Welcome to our team! 」とこれから一緒に戦う同志への最高のエールをいただいた。
たまたま、隣のチームに知っているエンジニアがいたので、そのエンジニアの名前を出したところ、どよめきが走った。
どこかお互いの共通項を見つけようということでの行動だった。
それが、思っていた以上の効果があったようだった。(あとで、そのエンジニアにそのことを話すと大笑いをしてくれた)
次に、チーム内の会議に初めて招待された。
聞けば毎朝同じ時間にチーム全員が集まって、各々の現在もっている案件、相談事、なにかチーム内として共有すべき情報があれば伝えておく、そんな時間が15分ほど設定されている。
司会者一人が射てリレー形式で進められていく。
チームエンジニアたちが手慣れた形であいさつと情報を口頭で伝えている。
要点を簡潔にまとめていることが逆に「我々は他の時間を必要とする」ということが伝わってくる。
チームリーダーの二人は手短に話が終わったが、ここで初めてリーダーが二人いたことがわかった。
そして、チームマネージャーの手短な話の後、やっと、初めて筆者が紹介された。
そして、チームメンバーに対してのあいさつを始めた。
各国からやってきているチームメンバーも「この新人はどういう人だろう?」という雰囲気を出しているのはわかったので、顔出しであいさつをした。
ただし、忙しいチームメンバーの時間を多く取るわけにはいかない、という理解で手短にあいさつを済ませた。
何人かのチームメンバーから簡単なお祝いの言葉をいただいたが、すぐにその会議も終了し、臨戦態勢を整えていく。
「あれ、新しいケースも来ていない」と思い、チームリーダーへお伺いをしようかどうかと迷っている最中、やっと、ケース割り当ての部署から、初めて扱うケース番号がやってきた。
すかさず、チームリーダーからチャットで指示が入った。
チームリーダー:「今、ケース番号を受け取ったと思います。この対応をお願いします。お客様へ送信する前にレビューをしますので、ドラフトを書き終えたら教えてください」
筆者:「了解です。SLAに乗っ取り日本時間の夕方までに正式にお客様へ送信できるようにドラフトを書きます。書き終えたら連絡します」
今にして思い返しえてみれば、簡単な案件であった。
しかし、初めてのことばかりで素直に事を進めることはできない。
まずはルールブックが存在する。
ルールブックにはお客様の契約とそのケースの優先度から、サービス契約に乗っ取った進め方をしなければならない。
諸先輩方はルールブックを多少なりとも頭に中にはいっているであろう。
しかし、実際の仕事中のルールブック読みは、技術以前のルールである以上、ちゃんとルールブックを読む、という“クセ”をつけておかなければならないと自分に言い聞かせた。
このルールブックには有り難いことに、お客様へ返信する際のテンプレートがいくつか用意されている。
いくつかのテンプレートが今回使えそうなので、ブックマークに登録を済ませた。
次に、具体的な内容の把握である。
英語で書かれた内容を読んでみると、問題発生という緊急性があるものではなく「これはできますか?」という内容であった。
そこに書かれている内容のキーワードを基に、過去の類似ケースがあったかどうかの調査・確認をしてみた。
運良く、過去の類似ケースを見つけ、よく読んでみた。
昔、「I will」は使うな、と聞かされていたことを思い出した。
強い意志の意味をもつ「will」は「俺が」「私が」という自己主張が強いので、使わないほうがよい、というアドバイスだ。
しかし、この仕事では違う。
「Let me do」ではない「I will do」と強い意志ある行動を高らかに宣言することで、お客様に寄り添う気持ちを表していると解釈した。
「お客様は神様です」という精神は行き過ぎた表現ではあろう。
しかし、日本語だけではない。英語でもあらためてサービスへの対価として支払ってくれるお客様への配慮。
そう、一見フレンドリーに見えても、配慮されている文書が大袈裟といってもいいくらいの内容である。
基本、メッセージのやり取り、つまりは文字ベースのコミュニケーションは難しい。
直接に話すわけでもなく、電話等の声のやり取りでもなく、文字ベースは誤解等を招きやすい。
なおさら、文字ベースのやり取りには慎重にと、自分に言い聞かせた。
過去の類似ケースが示す、公式ドキュメントへジャンプし読んでみた。
公式ドキュメントも以外にしっかりしていて、安心できる。
あいさつから始まり、内容を把握し、その内容に対して道筋を立てて、ソリューションを提供する。
そして、結びのあいさつ「sincerely,」を書く。
まったくもって、教科書通りというべき内容を、過去の類似ケースを基にドラフトとして書いてみた。
気づけば、午後3時前。
初めてのケースが割り当てられて、ランチタイムをとるタイミングを忘れて4時間ほど没頭していたことに気づいた。
そのドラフト作成後、チームリーダーへレビューをお願いし、ランチタイムをとった。
そう、クラウドエンジニアとて人間、ランチタイムを必要とする。
2022年5月吉日
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