システム管理者のためのBookCafe

Vol.20 今日の一冊:クラウドからAIへ

概要

書籍のインク独特の香りを感じながら、出会ったことのない世界、新たな発見、体験してみませんか?

目次
実はそれ、AIなんです
内容紹介
TAKAHIRO’s Review

実はそれ、AIなんです

「AI」という言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?


SFが好きな方であればタイトルにそのまま名付けられたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「A.I.」や「2001年宇宙の旅」のHAL9000を思い浮かべるのでしょうか。ゲーム好きの方であればコンピュータとの協力・対戦プレイができるタイトルを数多く思い浮かべることでしょう。ちなみに私はこのグループで、真っ先に連想したのはAI戦闘を採用した「ドラゴンクエストIV」でした。


ノンフィクションでは、AppleのiPhone 4Sに標準搭載された秘書機能ソフトウェア「Siri」や、プロ棋士との5番勝負で3勝1敗1分と勝ち越したコンピュータ将棋「GPS将棋」がいかにもAIらしい話題ですが、実は今IT業界を席巻している「ビッグデータ解析」のキーテクノロジーもAI技術であることをご存知でしょうか。


一見そうと判らぬよう巧みに隠されているものの、IT業界には既にAIブームがやってきています。では、AIは何故隠されるようになったのでしょうか。そもそも、AIとはなんなのでしょうか。本書ではそれらの疑問への解をはじめとして、AIに関して知っておくべき基礎知識がコンパクトにまとめられています。

 

内容紹介

「クラウドからAIへ」 小林雅一/著
朝日新書
秘書のように問いかけに応えるスマホ、自動運転車、ビッグデータ──。時代を読み解くキーワードは「クラウド」から「AI=人工知能」へ。人間が機械に合わせる時代から、機械が人間に合わせる時代が到来しつつある。IT、家電、自動車など各業界のAI開発競争の裏側を描きつつ、その可能性と未来に迫る。(朝日新聞出版社紹介より)

 

TAKAHIRO’s Review

IAの時代から、AIの時代へ
これまでのコンピュータはあくまで「ツール」であり、ツール側のUIも進化はするものの、ユーザ側でもツールに順応するための訓練を必要としました。キーボードやマウスといった入力装置や、GUIという考え方はこれにあたり、Inteligence Amplification(知的増強)、略してIAと呼ばれます。


しかし、ツールの利便性が研究されつくされ頭打ちとなりつつある今、人間と同等の知性を持ち、簡単な命令に従って勝手に仕事をしてくれる「召使い」としてのコンピュータに目が向けられるようになりました。これこそがまさにAIであり、既にiPhone4Sの「Siri」にはその片鱗を見る事ができます。IAの進化に限界が見えた今、AIの考え方は人々の注目を集めつつあります。


古くて新しい技術、AI
AIの歴史は古く、「AI」という言葉が生まれたのは60年ほど前にさかのぼります。初期のAIはルール・ベース、例えば人の言葉による命令であればまず単語に分割し、単語同士の繋がりを木構造で整理し、個々の単語の意味を解析するといった文法的なアプローチを用いていました。しかしこれは人間の持つ「曖昧さ」への対応力が弱く、AIの研究は長い事難航していたようです。長い「AIの冬」は「AI」という言葉に一種の胡散臭さを漂わせていき、これは現在AIに関する技術がそう呼ばれないケースがある原因となっています。


しかし1990年になって、ベイズ理論に基づいた確率・統計的アプローチが出現し、コンピュータの性能向上や技術革新によってこれが現実的になると、AIは急激な進化を遂げました。このアプローチは仮定と観測の繰り返しにより統計的に物事を判断する物で、「確率」という知性とは一見結びつかない判断基準を採用しているにも関わらず、得られる結果はかなりの精度を誇ります。根強い批判はあるものの、確率・統計的アプローチはAI実現に対するひとつの手段として多くの支持を得ました。


そして近年、「ディープ・ラーニング」という画期的な手法が生まれた事で一気に現実的になったのが、人間の脳組織をコンピュータ上でシミュレートする試み、すなわちニューラル・ネットワークです。この手法は学習速度が非常に速い事が魅力で、「Siri」はこの手法によりたった数カ月のスパンで音声認識の精度を格段に向上させています。他の手法と比較して不得手なケースもありますが、コンピュータが自ら進化する、無限の可能性を持つ手法として注目を集めています。


ビッグデータとAI
ビッグデータの解析に既に使われている自然言語処理、パターン認識、機械学習といった技術は全てAIにまつわる技術です。また、ビッグデータ解析の目的は大量データからの経営判断や価値創造です。この高度な判断をコンピュータが担う事はコンピュータが知性を獲得していく事を意味し、故にビッグデータ解析においてAI技術は欠かせません。


AIが生んだ「闇」
AI技術の発展はもはや加速度的に進んでおり、先述の「Siri」の登場やコンピュータ将棋の進化の他にも、医療用ロボットや自動運転車といった分野で実用化された、もしくはされつつあります。


一方でAIには大きな課題が二つあります。一つは「人間がシステムに依存し過ぎる事で生じる危険性」です。例えば金融市場ではボットによる株式売買がもはや当たり前になっていますが、これが原因で突然株価が200分の1に落ちる、という事が起こったそうです。とあるシステムが大量の売り注文をしたことがトリガーになったそうですが、システムは変化に敏感かつ対応も迅速である事が引き起こした例と言えます。


もう一つの課題は「人間の雇用や存在価値がシステムに奪われる事への不安」です。例えば、コンピュータ将棋が人間を超える事で、プロ棋士には価値が無くなる、などと言う人がいます。本当にそうなるかと言われれば、1997年にトッププレイヤーがコンピュータに負けた、チェスの人気が衰えていない事を見ると必ずしもそうでは無い気がしますが、今後様々な分野で同様の不安が生まれるようになるのは確かでしょう。


AIがますます発展していく中、これらの課題とどう付き合っていくかがポイントになりそうです。

 

本書では昔と今のAIの違いや、その基本的なメカニズムから抱えている課題までがコンパクトにまとまっており、通読する事でAIに関して最低限知っておきたいことが一通り得られたように思います。AIの時代が到来するにあたって、AIの基本やAIとの付き合い方について知る事は、大きな価値があるように思います。新書サイズで気軽に読むことができますので、是非読んでみてはいかがでしょうか。

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筆者紹介

“システム管理者のためのBookCafe” レビュアーのご紹介
●システム管理者の会 推進メンバー
システム管理者の会の企画・運営をする推進メンバ―が、会員の皆様にお奨めする本をご紹介してまいります。

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