コンピュータの歴史を見ると、進化するハードウェアの性能に合わせて様々なオペレーションシステムが開発されていく中で、ソフトウェアはより多機能化、大規模化の道をたどり、その結果として開発後のシステム運用がより複雑化することとなった。それを「バッチ、ジョブ」というシンプルな機能を組み合わせることにより、異なるプラットフォーム間のシステムにおいても連携を可能にしたのが「ジョブ管理」機能である。「システムが統合されればジョブ管理はいずれなくなるだろう」と長らく言われながらも、ジョブ管理は依然としてプラットフォームの違いを乗り越えて連携することが可能な、システムの自動運用を支える重要な機能である。
では社内で管理するサーバを廃止して、社外のシステム運用サービスを利用する「クラウドコンピューティング」が進むと、ジョブ管理はいよいよ衰退していくのだろうか?いや、むしろ従来のシステム運用の視点を超えて、クラウドそのものの利点を充分に引き出だす新たなジョブ管理に挑戦する試みが、国外のベンダーにおいて始まりつつある。
サービス視点で手続きを自動化する「Workload Automation」
メインフレームの時代から存在したジョブ管理システムは、「機能視点」でみると文字通りシステム上で動作するバッチ、シェルなどのジョブ実行の手順を定型化、自動化することがその目的であった。しかし現在のジョブ管理システムは「サービス視点」において、ある役割を担うシステムに対する処理の流れを自動化し、かつ期待されたパフォーマンス、実行結果で終わること証明させることが主な目的となっている。ゆえにジョブ管理システムは単なる連続したジョブのスケジュール機能以外にも、メッセージ受信時などに合わせてジョブを起動するイベントドリブン機能、処理時間の終了予測をするシミュレーション機能、そして適切な運用状況を把握するためのパフォーマンス解析機能、などといった、ビジネスサービスを効率的に継続するための機能が強化されてきた。ジョブ管理機能は「Job Scheduler」ではなく「Workload Automation」を実現するためのシステムである。
クラウドコンピューティングの世界において異なるシステム間の連携を実現するためには、現在多くのシステムが基盤としているWebアプリケーションと連携するための機能が必須である。近年はSOA(サービス指向設計)に対応するために多くのWebアプリケーションがSOAP、WSDL、RESTなどによる外部インターフェースを用意しており、またsalesforce、amazonのように独自のAPIを提供する。従来のバッチ・シェルによるプロセス制御のみならず、Webシステムとの連携可能なインターフェースに柔軟に対応できるかが、「クラウド・ジョブスケジューラ」実現の鍵となる。
クラウドサービスとの連携を強化 ―UC4のケース―
既に動き出している例をここでいくつか見てみよう。
◆UC4 Agent for Web Services (UC4 Software GmbH社、Austria)
IBM i/OS, z/OS, Unix, Windows, Linuxといったプラットフォーム間のジョブ連携をする従来のジョブ管理機能を持つ傍ら、2009年よりクラウドサービスとの連携を意識した機能を順次公開している。
Salesforce.comに代表される主要なWebサービスとの連携を可能とするためのインターフェースを用意した同社の製品は、社内システムとクラウドサービスのジョブ連携を自動的に行うことを可能とする。また従来より拡張してきた、SAPやOracleなど主要なERPシステム、Vmwareのサポートなどとも合わせて、「より多くのサービスとの自動連携を可能とし、かつ異なるシステム運用環境に柔軟に対応できる」ことを謳っている。
クラウド上でジョブ実行を分散 ―RightScaleのケース―
ジョブ管理システムそのものをクラウドサービスとして提供する、Amazonのパブリック・クラウドサービスを利用したシステム。ジョブ実行をコントロールするサーバ機の機能を複数台に分散させることが可能であるため、「1サーバのジョブ管理で100時間かかっていた処理を、クラウド上の100サーバへ処理を分散して1時間で終了させる」、ということが可能である。ピーク時の処理を想定してサーバ機の性能設計を行っていたシステム管理者は、サービスの契約だけで自分でシステム構築する必要なしにグリッドコンピューティングの環境を手にすることができるようになる。
また利用したいOS、ジョブのスクリプト、PHPで作成された機能も50種類のテンプレートから選択できるためインプリメントが容易である。特にRightScriptsとよばれる予めパッケージ化されたジョブのテンプレートの利用したり、もしくはカスタマイズすることが可能であるため、例えば顧客のシステム運用の基準に合わせたサーバメンテナンスの手順をテンプレート化し、管理するシステム全てに展開する、ということが可能である。
なお日本では2010年4月より、既に日立システムが販売代理店として同社のサービスの国内販売とサポートを進めている。
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複雑化したシステムの制御をジョブというシンプルな機能単位で連携を実現したジョブ管理システムは、姿を変えながらも異なるシステム間の連携・自動運用を行うための重要な基盤技術である。今度は複雑化するサービス提供の形態の流れで、新たなつながりの役割が期待されるのかもしれない。
参考:
UC4 Extends Job Scheduler to
SaaS and Cloud Apps (IT Jungle.com : February 9, 2010)
C4 Offers Automated, Remote Job
Agent (InformatioWeek : February 19, 2010)
http://www.informationweek.com/news/software/soa/showArticle.jhtml?articleID=223000216
ntegrating Web Service
Applications into Your Automation Strategy (UC4)
http://www.uc4.com/products-solutions/automation-engine/cloud-automation.html
ight Scale Software
http://www.rightscale.com/products/cloud-computing-uses/grid-computing.php
irst-ever test of public cloud
management wares (Network World : May 10,
2010)
http://www.computerworld.com/s/article/print/9176464/First_ever_test_of_public_cloud_management_wares?taxonomyName=SaaS&taxonomyId=172
ow to Use Dynamic Automation
Tools to Improve Batch Processing (eWeek : 2009-04-28)
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筆者紹介
研究会メンバ:
・K谷リーダ
わが研究会の頼れるリーダ。
NYでの営業経験を持つ技術者。もうすぐ2歳になる息子にぞっこん。
・K玉
お客様のシステムを支えるサポート技術者。
スペイン留学時に学んだパエリア作りをメンバに教えてくれるなど、社内にスペインの風を運ぶ。
・U田
大学・院と情報システムを専攻した生粋の技術者。
在学時と就職後に海外プレゼン経験あり。
研究会での的確なアドバイスはさすがとメンバをうならせる。
・W田
アメリカ留学での語学を活かし、海外営業担当に。
興味深い記事や面白いニュースを研究会に持ってきてくれる。
たしなむお酒も国際派?
・N村
サポートから転部した新米マーケティング担当。
小さい頃から観ていたSound Of Music のビデオのおかげで発音だけはいいが、英語の記事を読むのにいつも一苦労。
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