ニューノーマルで悩む管理者の夜

第弐拾九夜 番外編 エンジニア本で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
今回のテーマはエンジニアとかSE
IT業界といえばデスマ
補足:デスマーチを呼ぶものは?
なれるかな?SEに
きたみさんの書籍の数々
こんなものもありました
しょせんは小説、現実はチートではありません

今回のテーマはエンジニアとかSE

今回は番外編です。番外編ではビジネス書以外の本を、ひとつのテーマで複数ピックアップして紹介します。当然、技術書も対象外です。そのような本は周りの新旧のエンジニアにどんな本が良いかを聞いてください。
過去の番外編は
・「第拾三夜 番外編 異世界で悩む管理者の夜
・「第拾七夜 番外編 三国志で悩む管理者の夜
・「第弐拾一夜 番外編 働く女性で悩む管理者の夜
・「第弐拾五夜 番外編 ねこ本で悩む管理者の夜

今回のテーマは「エンジニア本」です。主人公がエンジニアとかSE、プログラマな本などを抽出してみようと思います。この番外編では、読みやすさを考慮してラノベをピックアップすることが多いのですが、今回は昔むかしのSE本も紹介いたします。

 

 

IT業界といえばデスマ

まずは、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」(*1)です。アニメ化もされている作品です。主人公は異世界に転移?するのですが、前世はデスマしまくりのゲームのプログラマです。そして、異世界でもしっかり徹夜で魔道具やら装備やらを作っています。主人公の本名が鈴木でハンドル名=異世界名がサトゥというノリはなんとなく業界人としてわかります。でも、本編を読むと、「サトゥ」ってアレなんですよね。


<図表29-1 「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」>

この「デスマーチ」はIT業界でよく使われていた言葉なのですが、本来はナチス・ドイツによって行われた、囚人の強制移動に対して、歴史家が名付けたものだといわれています。しかし、IT業界におけるシステム開発プロジェクトの終盤、またはトラブルプロジェクトなどにおける極端な負荷・過重労働などをデスマーチと呼ぶことが多いようです。「デスマーチ」という言葉を広めたのは、エドワード・ヨードンとされており、その著書のなかで、デスマーチを「『プロジェクトのパラメータ』が正常値を50%以上超過したもの」と定義しています。プロジェクトのパラメータ? つまりスケジュールが半分以下だったり、コスト(というか使える費用)が半分以下、機能が倍、性能が2倍 などの条件がついたプロジェクト。あー、常態です。日々デスマーチしてますよね。そして、ヨードンは「公正かつ客観的にプロジェクトのリスク分析(技術的要因の分析、人員の解析、法的分析、政治的要因の分析を含む)をした場合、失敗する確率が50%を超えるもの」とも言い換えています。
そもそも、リスク分析(*2)なんてしない会社も多いし、リスク分析はかなり恣意的な要素も含んで実施されます。さらに、失敗の定義があいまいです。会社によって失敗の定義は異なりますから。

 

補足:デスマーチを呼ぶものは?

ヨードンによると、デスマーチを発生させる原因は以下としています。(「デスマーチ 第2版」の第1章から)

政治、政治、政治
営業部門、経営陣、プロジェクト・マネジャーの天真爛漫な将来展望
若者のカワイイ楽観主義:「土日に出てくればできますよ」
ベンチャー企業立ち上げ時の楽観主義
海兵隊方式:本物のプログラマは寝ずに働く!
市場の国際化による競争激化
新技術登場による競争激化
予期せぬ公的規制
予測不能の事件、事故。たとえば、ベースにする予定のハードウェアやソフトウェアのベンダーが倒産したり、中心となるプログラマ3人がペストで死亡するなど。

思いっきり、楽観主義がデスマーチの起因です。間違ってはいないでしょう。それに、政治、海兵隊方式。心当たりがある人も多いと思います。
さらに、ヨードンは、デスマーチプロジェクトの型を以下の4象限に分けています。詳細は書籍をお読みください。


<図表29-2 デスマーチプロジェクトのスタイル>

「自滅型」がイメージ通りなのですが、逆サイドの「スパイ大作戦型」もデスマーチです。でも、プレイヤーのヒーローな活躍やサスペンスな雰囲気に気を取られて、体感していないかもしれません。

 

なれるかな?SEに

「デスマ」本の次は、やはりラノベです。約10年前に流行ったSE本です。夏海公司「なれる!SE」シリーズ。SEといっておきながら、主人公はしっかりインフラ系ネットワークエンジニアです。でも、上司は美少女でチートです。同僚や顧客もなぜか美女なのがお約束です。

<図表29-3 「なれる!SE」>

第2巻「基礎から学ぶ運用構築」から登場する姪乃浜梢はシステム運用のプロフェッショナルです。でもかなりチートなエンジニアスキル持ちです。内容は、ま、ラノベです。実際の業界には、こんなに○○○はいないです。でも、ここまでブラックな会社は多々見かけます。
第2巻でシステム運用、第3巻では提案活動、第4巻ではプロジェクト管理の話になります。いや、本当にこのペースで仕事するのはブラックです。一般人ではたぶん無理です。第5巻ではカスタマーエンジニアの作業です。データセンターで機器設置やキッティング。ネットワーク機器のキッティングは専門家ではないと無理ですし、そもそもマシン室って寒いです。いったん入ると出れない、出るのが面倒なマシン室も多いですし。というような様々な職種を経験して、チート以外の経験値を積む話です。
この本、メーカーや機器名がガンガンでているんですよね、CISCOとかYAMAHAとかCatalystとか。まあ、デファクトスタンダードとしてのメーカー、機器名でしょうから良いのかな?

きたみさんの書籍の数々

いまやIパス本などの情報処理技術者試験対策本の著者(キタミ式)としても有名なきたみりゅうじさんの著作。ラノベというよりコミックエッセイなのですが、非常に面白いです。

・SEのフシギな生態 失敗談から学ぶ成功のための30ヶ条
・SEのフシギな職場 ダメ上司とダメ部下の陥りがちな罠28ヶ条
・新卒はツラいよ!

あたりは読んで役に立ててください。特に「新卒はツラいよ!」は、就職活動から入社数年目で辞めるまで、中小ソフトハウスでの悲哀が見事に描かれています。ほとんどマンガなので、相当読みやすいです。
また、「新卒はツラいよ!」の中盤で
「もうだれか お願いだから 〇〇○ちゃってくんないかな?」というシーン。
わかりみ。このような経験をして、エンジニアは修羅となるのです。今だとここまで過酷な仕事はあるんですかね?あるんでしょうね、底辺だと。うん、深くは考えない。
さらに、「会社じゃ言えない SEのホンネ話」は文章が多めのエッセイです、4コマ漫画付き。さらっと読み直してみますと、「プログラマは芸術家?」ネタとか「24-TWENTY FOUR-」を見ての職業的考察とか、観測結果の改ざん(*3)な話。いまも全く変わらないように思います

 

こんなものもありました

まあ、昔むかしはネットで検索なんてことはなかったので、IT関連本などは書籍や雑誌連載がメインでした。定期的に雑誌を購入したり、会社の一角にはその手の雑誌(*4)が置かれていたような気もします。
そして、IT系な読み物はといいますと、神保町の書泉グランデ(*5)に書泉ブックマート(2005年に閉館)、アキバの書泉ブックタワー、池袋のジュンク堂などに出撃して、立ち読みからの購入をしていたものでした。「健康ソフトハウス物語」(1990年、山崎マキコ)、「その話はメールでしてくれ!―社内LANの愉快な毎日」(1995年、加納ラサ)などには、システム関連会社(LaTex(*6)での組版も含)の実情というかワーク環境(だいたいUnixベース)での共感を持ったりしました。
さらに、超堅い系の本として日本経済新聞社から「実用企業小説:プロジェクトマネジメント」(2004年、近藤哲生)が発売されていたりします。表紙が厚くて固くて、内容も堅いです(*7)。もちろんシステム管理者必携の「システム管理者の眠れない夜」(2000年、柳原秀基)も各所/各社で読まれていました。(*8)

しょせんは小説、現実はチートではありません

IT業界のラノベやら小説はそこそこの数がありますし、ネットにはそれより多くの情報やら宣伝、オレオレエンジニア事例や成功エンジニアの年収自慢などが転がっています。困ったことに、これらの情報ってフィクションが混じっていることが多いです。真実がそのまま公開されていることはありません。というより、設定を替えたり、不都合な情報を伏せたり、時代や時間をずらしたり。でも読者やフォロアーは信じます、「嘘に決まっている」と言われても信じます。
現実はそんなに甘くない。誰もがチートで天才で努力家になれるわけではないですから。事実は小説より事実です。
では良き眠りを(合掌)。

(『私は頑張って毎日卵を産んでいる』と主張するニワトリに対して)
ブタ曰く「キミも貢献していることは認める。でもボクはベーコンのために、死ぬほど頑張っているんだよ」 by エドワード・ヨードン「デスマーチ 第2版」から

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*1 狂想曲といえば、やはり弓月光さんの「エリート狂走曲」。よく間違えられるらしいですが狂想曲でも狂騒曲でもありません「狂走曲」です。ちなみに「信長協奏曲」は、コンツェルトと読ませます。

*2 リスク分析というか、リスク管理って「識別(特定)」→「分析」→「評価」→「対策立案」の流れです。「分析」が「定量」か「定性」に分けるかどうか、「対策立案」で「予防」と「対処」に分けるかぐらいです。あとリスクの対処方法としては「受容」「回避」「転嫁(移転)」「軽減」を覚えておいたら問題なし。ポイントは「受容」も対処の1つとすること。

*3 データの改ざんって最近よく耳にしますが、論文のデータ改ざんとかよく聞きます。2014年の「STAP細胞はあります」な人の論文で少し騒がれましたが、そもそもデータとかをチェックするのも身内ですから。性善説な業界なんですね。

*4 「日経コンピュータ」などを代表とする日経BP系雑誌(*9)や、もっとマニアックな「インターフェース(Interface)」「WindowsWorld」「Mac Fan」、大衆向けな「週刊アスキー」とか。「Dr. Dobb’s Journal」なんてのもありましたね。コアなところで「オフショアマガジン」とか「DBマガジン」なんてのもありましたが、すぐに休刊されました。いまでもたまにその手の雑誌は、ソフトハウスの休憩室のブックラックで見かけます。

*5 「書泉」グループは、2011年にアニメイトに買収され、子会社化されています。

*6 LaTex(ラテフ、ラテック)。レスリー・ランポートによって開発されたテキストベースの組版処理システム。

*7 「健康ソフトハウス物語」などの書籍が非きれいな紙?での製本だったので、という比較的な話です。

*8 「健康ソフトハウス物語(正・続)」、「その話はメールでしてくれ」、「実用企業小説:プロジェクトマネジメント」、「システム管理者の眠れない夜」などの本、電子化というかKindle版はないんですよね。手持ちの書籍もかなり焼けています。

*9 日経BP社系雑誌も結構休刊しましたね。「日経オープンシステム」は「日経SYSTEMS」に名称変更して2020年に休刊、「日経情報ストラテジー」も2017年に休刊。ややマニアックなところでは「日経コミュニケーション」が2017年、「日経ビジネス アソシエ」が2018年に休刊です。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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