ニューノーマルで悩む管理者の夜

第参拾ニ夜 ラブリー貧乏で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
「ラブユー東京」からの「ラブユー貧乏」
昔の技術で生きてます(でもゾンビ)
小さい会社の大きなやりがい
ぞろぞろ生えてくるエンジニア
ISOやプライバシーマーク、残っているのは維持するのみの組織
貧乏でも挫けない

「ラブユー東京」からの「ラブユー貧乏」

今回は、久しぶりに歌シリーズです。過去には以下のように、最新の流行歌で歌いました。

 

第三夜 香水で悩む管理者の夜

第拾六夜 うっせぇわで悩む管理者の夜

そう、「香水」と「うっせぇわ」です。今回も最新の売れ筋でも良いのですが、オールドファンが懐かしがる「ラブユー東京」(*1)、ではなく「ラブユー貧乏」です。オレたちひょうきん族(*2)で一時代を風靡したあの貧乏ソングです。
先日知り合いとの会話のなかで「最近の中小IT関連会社がヤバい」という話を聞きまして、独自に聞き込みやヒヤリングをしました。令和のビンボーなエンジニアの悲哀を聞いてください。

 

 

昔の技術で生きてます(でもゾンビ)

まずは、お金というより技術の話です。

「お金だけが生きがいなの
 忘れられない
 ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

私の仕事はプログラミング。会社の名刺には「エンジニア」って書いてあります。
COBOLの保守が仕事です。
COBOLって知っていますか。
歴史のあるプログラミング言語です。歴史しかない言語です。
でも、パイソンなんて言わないけれど、せめて組みたい、触りたいC言語。
JAVAでもスクリプトでもなんでもいいわ。
DIVISION(*3)なんて大嫌い。
さっさとこんなシステム使うの止めて欲しい。

「ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

あるあるな話です。COBOLからの移行は何か新しい技術やプラットフォームが生まれるたびに話題になりますが、思い切ってシステムを捨てることができないため、延命策を考えることになります。
もう、会社自体がなくなればシステムは使われないのですが。
でも、COBOLのシステムをマルっと他のシステムに切り替えるのは、現場からかなりの抵抗が生まれます。え、なぜかって。新しいシステムを覚えるのは面倒じゃないですか。いくら便利になろうとも、余程のことがない限り、感謝されることはありません。
そして、COBOL資産、死産?を活かして、新システムなんて、もう無理です。読める人もいないですし、個々のコードの意図を読める人はもっといません。捨てたいです、でも捨てられない。使われ続けているため、最低限の保守要員も必要です。

 

小さい会社の大きなやりがい

ガオー、次は会社です。

「明日からはお金なしで
 生きてゆくのね
 ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

やりがいMAX、スタートアップ。
ベンチャーなんて呼ばせない。
小さいけれど、チームワークは抜群だぜ。
だけどお願い。昼に電気消すのはやめて、せまいのと暗いのは怖すぎる。
裏紙利用も大丈夫だけど、チラシの再利用は少し哀しい。
あとあと、席のシェアは流行だけど、
席が少ないからシェアと言うの? 早いもの勝ちにしているだけ?
PCもシェア? スマホもシェア? 私の時間も雑用でシェア。
自分のPCやスマホの流用(*4)はOKです。
100円ショップの文具まとめ買い、しっかり常連で顔を覚えられました。
アスクル(*5)?なにそれ美味しいの?

「ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

スタートアップ企業といっても会社です。場所代、消耗品、電気代など様々なお金が掛かります。特に、ホームページなどに載せるようなきれいな事務所、開発現場、ワークルームだとかなりのお金がかかります。なので、現場ではコスト削減の嵐が巻き起こります。「こんなことしても大して削減できないよね」という反論は聞いてくれません。本当になんで裏紙なんて使うんだろう。あとコピーの失敗紙置き場とかね。もうないだろうと思っていたのですが、まだコピーの失敗紙を集めて、裏紙を使用する会社も多いです。「ちりもつもれば…」という話もありますが、小さい会社のちりは小さいです。人件費を削るのが一番早いでしょう。なので、正社員が少なく、派遣社員メインで構成している会社も少なくありません、というより多いです。そして、当然「残業代?実績給でしょ」という話になります。
物理的な場所を取らずにネットで起業という形式もありますが、お客さんというか顧客企業としては打ち合わせやその他の作業のために物理的な場所を要求することも多いです。それに、バーチャルなオフィスを信用しない企業も多いですから。「アッチ系のフロント企業」などと言われたり、「税金逃れのペーパーですか?」と勘違いされたりね。

 

ぞろぞろ生えてくるエンジニア

ガオガオー、虚構と実態には差があります。その差がビンボーになるのです。

「お馬鹿さんね
 お金だけを信じた私
 ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

ネットで流行っているお金持ちでフリーなエンジニア。
それにつられて、転職したぜ。
電話もメールも仕事も全くこない。何やってんだ、エージェント
ここにいるんだ、スーパーなエンジニアが!
暇すぎるからネットに書き込む、俺は優秀、俺は天才、分からん奴はリムってやる
目標は年収1000マン。起業してしゃちょーする。

「ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

他業種から転職してくるエンジニア。当然いままでの業務スキルは使えません。エージェントは「いままでのスキルを活かしてエンジニアに」と言っていますが、エンジニアに必要なスキルはテクニカルな内容が多いです。上流/下流という仕分けはあまり好きではありませんが、下流のエンジニアだと技術スキルは必須になります。では上流に転職といっても、それこそ経験が必要です。いままでのスキルが活かされない転職を勧めるのもひどい話ですが、それに乗るのもおバカな話です。
また、転職サイトなどをちらりと見ますと、「未経験での転職可能」「スキルを身に着けて再転職」と書かれているものも多数あります。「未経験でも可能です」は派遣さんを募集するときの常套句です。とりあえず人を募集して、たくさんのなかから稼げるエンジニアをピックアップしているのでしょう。その「稼げるエンジニア」になっても、儲かるのはピンハネして仕切っている会社です。

 

ISOやプライバシーマーク、残っているのは維持するのみの組織

ガオー、そして何回かコラムでネタにしてきたある組織の話です。

「靴下の穴の
 穴の気持ちが
 何故か無理なくわかる
 私の涙」

 

ワイはDXを推進している。
DXは花形、DXは時代。
でもなんでみんなDXしてくれない。
総論OKで、各論NG。
予算も通らないし、意見も通らない。
そうさ、ウチの部署はワイひとり。
天上天下唯我独尊だけど、異動したい。

「ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

DXやサステナビリティ。さらにはSDGs。そういえば、昔むかし個人情報保護とかISO9001とかISO14001(*6)なんてのも流行っていましたね。プライバシーマークってのもありました。頑張って認定マークを取って、あとは維持のみ。とりま、定期的に手順を整えて、その手順通りにやっておく。メンテナンスなんて面倒です。最後には、プロセスと維持組織だけがDXされずに残ってます。そして、そのような部署には人数はいりません。咳をしても一人(*7)な部署だけです。

「ビンボー ビンボー 涙の貧乏」

 

 

貧乏でも挫けない

技術ビンボー、会社がビンボー、仕事がビンボー。いろいろなビンボーがありますが、哀しい用語です。年末にみんなで遊んだ「桃鉄」のキングボンビーよりも恐怖です。

ボンビーで、さらに心もロンリー。財布も通帳も心も身体もいろいろと寒くなるのが貧乏です。
では良き眠りを(合掌)。

「ハーレムの死亡率は市のどこよりも高い。連中は我々に仕事をくれると約束したが、与えられたのは福祉手帳だけだった。我々は依然失業者であり、依然雇用されていない」by マルコム・X

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*1 「ラブユー東京」は1966年に発売されたロスプリモスの代表曲。この「ラブユー東京」の替え歌が「ラブユー貧乏」です。ちなみに、「ラブユー東京」は桑田圭祐、中森明菜他多数にカバーされています。

*2 1987年頃、フジテレビ系列「オレたちひょうきん族」で村上ショージ、Mr.オクレ、前田政二の三人が何人トリオとしてロスプリモス歌う「ラブユー貧乏」にのせて、貧乏ネタを披露するネタ。とても泣けます。ネタの間に明石家さんまが「ガオー」と言って、コメントをいれるのがお約束。

*3 COBOLは4つの段落で構成されます。IDENTIFICATION DIVISION(和名:見出し部)、ENVIRONMENT DIVISION(和名:環境部)、DATA DIVISION(和名:データ部)、PROCEDURE DIVISION(和名:手続き部)です。プログラム本体は、PROCEDURE DIVISIONに書きます。ちなみに、COBOLは「Common Business Oriented Language」の頭文字を取ったものです。

*4 スマホの流用=BYOD(Bring Your Own Device)です。ちなみに最近では、レストランなどにワインを持ち込むことを「BYO(
Bring Your Own)」ということが多いです。基本、持ち込みはワインのみで、「1本〇〇円」のように持ち込み料金がかかるケースがあります。

*5 アスクル(ASKUL)はオフィス事務用品や機器を販売する会社。大手会社では、よく事務用品を発注する会社で、事務所にカタログが転がっています。

*6 ISO 9001は、顧客に提供する製品・サービスの品質を継続的に向上させていくことを目的とした品質マネジメントシステムの規格。ISO 14001は、サステナビリティ(持続可能性)の考えのもと、環境リスクの低減および環境への貢献を目指す環境マネジメントシステムの規格。まだまだ、ISOとかプライバシーマークの取得を目指している古い会社が多いですよね。情報漏えいとかした場合に、さっさと認定をはがせばいいのですが。

*7 「咳をしても一人」は自由律俳句の代表的な俳人、尾崎放哉の句。他にも「入れものが無い両手で受ける」などの代表句があります。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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