- 目次
- 10月10日の悲劇
- ゆうちょ銀行のトラブル?
- 優等生システムの初トラブル
- システム障害のタイムテーブル
- 今回のトラブルの影響
- システムのベンダーは現ベンダー?
- 運営元であり全銀ネットからの公開情報
- まだまだ続くか、システムトラブル
10月10日の悲劇
2023年10月10日、システム業界に衝撃。あの全銀システム(正式名称 全国銀行データ通信システム)でトラブルが発生。今回のコラムは、このシステム障害にフォーカスを当てます。
ゆうちょ銀行のトラブル?
2023年10月10日(火曜日)の8時、「ゆうちょのインターネットバンキングが使えない」という通報が入りました。いろいろと調べてみますと、ゆうちょ銀行の公式な発表で「10月10日の午前8時ごろからネット取引や複数のアプリが利用できない状態になっている」と公表。
さらに、午後1時時点でも「復旧のめどは立っていない」という報道発表。「これはまずい」と思いましたが、復旧作業を進めた結果、同日10日午後2時に「ゆうちょダイレクト」が、午後3時半に「ゆうちょPay」がそれぞれ復旧。
ほっと一息をついているところ、「全銀ネットでトラブル」との報告。「ゆうちょ?」「ゆうちょは解決したのでは?」などの情報が錯綜しましたが、ゆうちょのトラブルとは別のトラブルとして、「全銀システムがトラブル」というもっと大きなトラブルが発生していました。
優等生システムの初トラブル
銀行系/金融系のシステムのトラブルといえば、あのみずほ銀行のトラブルが有名です。筆者もコラムのテーマにしたことがあります。
そのような前科、それも前科三犯のみずほシステムとは異なり、全銀システムといえば、1973年(*1)の稼働以降、無事故で稼働していることで有名です。稼働後50年間で初めてのシステム障害です。50年も経過したシステムといえば、当然何度も機能追加や機器更改、システム自体の更改も越えてきています。しかし、このタイミング、3連休明け(*2)の「5・10日」にシステムトラブルが発生してしまいました。
システム障害のタイムテーブル
ここで、現時点(2023年11月末)での障害の状況を時系列で記述します。
【参考】日経コンピュータ誌 2023.10.26号「緊急版 動かないコンピュータ」
10月7~9日 | 中継コンピュータ(RC)の更改作業実施 |
10月10日午前8時30分過ぎ | 中継コンピュータ(RC)で不具合を検知。他行宛て振込ができず |
同日 午前9時30分頃 | 全銀ネットとベンダー(NTTデータ)がRCを再起動、障害解消せず |
同日 午後2時30分頃 | LTOテープ(*3)などを介した代替手段による振込を開始 |
同日 夜間 | 処理をスキップするパッチの適用、検証環境での試験を通過せず |
10月11日 夜間 | 別のパッチを作成 |
10月12日 未明 | 復旧対応を完了、オンライン処理を再開 |
10月12日午前10時50分 | 未処理分の振込処理対応の完了 |
中継コンピュータ(RC)は、全銀システムと各金融機関をつなぐものであり、10月7~9日の連休中の更改では、「RC17シリーズ」から「RC23シリーズ」へ移行して、そのRC23の一部機能で障害が発生したらしいです。
なんか非常に漠然、かつもやもやしています。現時点でもこのトラブルの真因(*4)などが全く公開されていないためでもあります。ただし、有識者からは「海外の決済インフラでもトラブルが発生することがあるが、多くは当日中に復旧する。2日かかるケースはあまり聞いたことがない」という意見も聞かれます。
今回のトラブルの影響
このトラブルの影響ですが、りそな銀行や三菱UFJ銀行などの10の金融機関で、他行への振込ができなくなる事態でした。両日にかけて振り込みの未処理や遅延などの影響が出たのは約506万件と言われています。
<図表36-3 被害件数 ニュースイッチ(https://newswitch.jp/p/38854)から>
そもそも全銀システムは、一般社団法人全国銀行資金決済ネットワークが運営するものであり、1130を超える金融機関(以下の図表36-4を参照)が参加し、2022年度の取引件数は約19億件、取引金額は3500兆円規模のとんでもないシステムです。個別の金融機関のトラブルではなく、中継するシステムでのトラブルです。渋谷の109での火災ではなく、スクランブル交差点に隕石落下のような事態です。巻き込み事故・巻き込まれ事故・遅延などによる逸失利益などを考えると、とんでもない金額になります。加盟銀行も、大手銀行だけでなく信金・外国銀行、PayPay銀行やセブン銀行などのネット銀行も含まれています。振込などをするためには当たり前といえば当たり前なのですが、シェア100%の勝ち組システムといえるかもしれません。
次期システムのベンダーは現ベンダー?
実は、この「全銀システム」ですが、更改も計画され、それを構築するベンダーも2023年9月に決定しています。候補となったベンダーは、以下の6社です。
・NTTデータ 【現行ベンダー】
・日本アイ・ビー・エム
・日本電気
・日立製作所
・BIPROGY(旧 日本ユニシス)
・富士通
いずれも、大手のSIerとして有名な会社です。金融関連のシステム実績も充分な会社ばかりです。
そして、2023年9月の全銀ネット理事会において、次期全銀システム(ミッションクリティカルエリア)の構築ベンダは、現行業者のNTTデータに決まりました。
【参考】次期全銀システムの構築ベンダの決定について
(https://www.zengin-net.jp/announcement/pdf/announcement_20230914.pdf)
今回のシステムトラブルの発生元?かもしれない開発ベンダーが次期システムも構築することになりました。もちろん、このシステムトラブルが発生したのは10月であり、ベンダーが決まったのは9月ですから、関係はありませんが。
運営元であり全銀ネットからの公開情報
以下に、10/18時点での障害や原因についての情報が公開されています。興味のある方はご参照下さい。
・【プレスリリース】全国銀行データ通信システムの復旧後の対応状況について(
まだまだ続くか、システムトラブル
また、今回は「全銀システムトラブル」について語りました。まだまだ原因/真因が不明瞭であり、調査中?でもあるのですが、久々の金融関連の大トラブルでかつ影響が大きいトラブルです。最初に書いた「ゆうちょのトラブル」ですが、これは「全銀トラブル」とは関係なかったようですが、そちらの原因は何だったのでしょうか。それにしても、4月にはANAやNTT、半年経った10月には全銀システム。半年に1回のトラブルはコラムのネタ(*5)にしかなりませんね。さてはともあれ、この後の経緯を生暖かく見守りたいと思います。
では良き眠りを(合掌)。
「怠情は心の眠りだ」byリュック・ド・クラピエ・ド・ヴォーヴナルグ
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*1 1973年といえば、オイルショックの年。さらに五島勉氏の著書「ノストラダムスの大予言」が11月に出版、ブルース・リーが死亡した年です。まさに昭和の真っただ中で、バブル前の状況。桜田淳子の「わたしの青い鳥」がくっくっくっくして、チューリップが「あ~だから今夜だけは~」で心の旅をしたころです。
*2 3連休明け、GW明け、年末年始明けなどの連休明けは、システム関係者にとっては鬼門な日です。というのは、大きなシステムを入れ替えたり、修正したりするには、時間がかかるため、連休に作業を行うことが多いからです。連休中には基本窓口は閉まっていますし、取引量は減りますから。でも、翌営業日の取引量が半端じゃないんですけどね。
*3 LTO(Linear Tape-Open)テープは、簡単にいうと磁気テープ。バックアップなどで利用されることがあります。
「第参拾五夜 バックアップで悩む管理者の夜」でも、少しだけテープバックアップに触れています。ネットワークを介さない大量データの移動にも、テープは使われることが多いのです。
*4 今回の障害の原因は、RCでメモリ不足が発生し、金融機関名などを格納するインディックスに不正な値が混入し、チェック機能でエラーが発生したため、と言われています。RC自体は冗長化されていましたが、ソフトウェア機能自体の不具合であったため、 効果がなかったようです(機器故障であれば効果はあったが、同じ機能が冗長化されていたため)。
*5 2023年4月のシステムトラブル(ANA、NTT、Suica)については、「第参拾一夜 システム障害で悩む管理者の夜」で書いています。
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筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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