ニューノーマルで悩む管理者の夜

第肆拾一夜 金融業務で悩む管理者の夜

概要

変化を体言するキーワードが、「ニューノーマル」。珍常態を、システム管理者目線でゆるーく語っ ていこうと思います。

目次
いま銀行や金融が暑い
代表的なシステム
メガバンクのシステムとセンター型
保険や証券会社のシステム
銀行員さんや保険のお姉さんの資格なFP
さいごに

いま銀行や金融が暑い

「地位なし権力なし怖いものなし」の花咲舞が、弱い立場の人たちのため、銀行内の悪事に真正面からぶつかっていく痛快爽快エンターテインメント作品というのは、2024年4月のドラマ「花咲舞が黙ってない」のキャッチフレーズです。半沢直樹などもありましたが、銀行などに代表される金融業界はこの令和においても古くさく、オールドノーマルでいっぱいの業界です。そこで働いている人たちもかなりアレです。サレ系でキレ系でソルジャーな獣人(*1)系です。

 

代表的なシステム

金融業界のシステムといいますと、やはり代表的なのは銀行の勘定系です。三度のシステムトラブルを引き起こしたみずほの勘定系システム(システム名称は「MINORI」)、三菱UFJ銀行の「DAY2プロジェクト」などメガバンクの勘定系システムは作るのにン億円、ン十億円、それよりもっと金額も期間もかかる超巨大システムです。さらに、地方銀行も大手ベンダーの提供している「Chance(三菱UFJ系)」「地銀共同センター(NTTデータ)」などが使用しています。その金額や利用費もかなりかかります。でも、一から作れないような非メガバンクは「一緒に費用を払おうね」という感じで近場や同じ規模の銀行同士で利用したりします。業務もあまり変わらないですしね。
勘定系以外では、情報系、対外系と呼ばれるものがあり、以下のようなカテゴリに分けられます。

種類 業務
勘定系 預金、融資、為替などのメイン業務
情報系 営業支援、経営管理、融資支援、顧客管理などの支援業務
対外系 外部のネットワーク(全銀、CAFIS、統合ATM)やシステムとの接続

あの「全銀」システムは銀行間の決済を行っている外部システム(*2)のため、複数の銀行に影響があったわけです。とはいうものの、個別の銀行の勘定系でトラブルが起こっても、その銀行の顧客だけでなく、振り込みを行っている他社などにも当然影響があります。

 

メガバンクのシステムとセンター型

前述しましたが、勘定系は
・メガバンク:独自に自行用のシステム構築
・地銀など:ベンダー提供のパッケージを利用、ベンダーのセンターを利用したり共用
です。
しかし、パッケージといっても他の業界や業態で流用できるものではなく、あくまでも同じ銀行業務内でのモノです。共同利用型も、ある独自のシステムをみんなで利用しよう形式ですし、メガバンクは一から作成の典型的なオンプレミス。たまに「銀行がクラウド利用」とニュースになることがありますが、あくまでも「勘定系」ではなく「情報系」。情報系って営業支援とか顧客管理なので他業界のシステムの流用がききますし、開発規模も小さいです。そもそもニュースになるくらいレアなケースです。勘定系のクラウドって、そもそも作っても利益が取れない気がする…。ソフト開発だけでなくハード費用や運用費など込みで勘定系システムの構築の見積もりをするでしょうし。

 

それ以外のいろいろなシステム

勘定系・情報系などいろいろありますが、他にも多数のシステムがあります。例えば「手形交換」系のシステム。銀行にある手形交換業務、つまり銀行と手形交換所間のやり取りのシステムなのですが、デジタル化の波に乗り、現物ではなく手形類のイメージデータの送受信で交換・決済を可能になったようです。
従来、各金融機関は、手形類を全国各地の手形交換所に持ち寄って交換をしてきましたが、2022年11月4日から、手形類のイメージデータを金融機関間で送受信して交換・決済を完結する「電子交換所」に移行しました(これに伴い、各地手形交換所は廃止されました)。

【参考】全銀協の電子交換所
https://www.zenginkyo.or.jp/abstract/electronic/

コールセンターなどもあります。証券会社や保険会社などでは、顧客情報などとリンクして、顧客の興味のありそうな金融商品をピックアップしたりすることはかなり前から行っています。最近では、ネット銀行やネット証券、ネット保険もありますので、電話やスマホで全ての取引を行うことが可能になってきています。また、クレジット会社/カード会社は、そもそもコールセンターが非常に重要な部門/部署であり、キャッシュレス社会での基幹システムともいえます。カードの紛失や盗難などで利用された方々も多いと思います。旅先でカードを紛失・盗難にあい、カード会社のコールセンターに電話をして、カードの使用を止めてもらう、またはカードの明細に不明な点がありコールセンターに電話してカードの使用を停止したりとよく利用します。ちなみに、クレジット会社の所管は金融庁ではなく経済産業省(*3)だったりします。

 

保険や証券会社のシステム

保険業界でのシステムは、主に顧客情報の共有などがメインになります。損保系は「保険契約管理」をメインに、他にも「代理店管理」や「顧客管理」などがあります。生保系も「契約管理」と「顧客管理」をメインにしています。他にも保険金の計算等を行う「保険数理システム」もあります。
証券系のシステムで有名なのは、富士通がメインで開発した株式売買システム「arrowhead」です。2010年に稼働した時には、各種のセミナーでどのようなシステムか、どれくらいの簡易度だったかの講演がたくさん開かれていました。そして、2024年11月5日に「arrowhead4.0」として3度目の更改が行われます。2020年10月に、機器故障でのシステムトラブルを起こし「全日の売買停止」を引き起こしましたが、今回の更改のタイミングではどうなんでしょうか?


<図表41-1 昔懐かしい立会場>

 

銀行員さんや保険のお姉さんの資格なFP

ここでちょっと休憩なネタですが、銀行員さんや保険外交員たちがよく取得している資格があります。略称で「FP(ファイナンシャルプランナー)試験」。このFPはソフト開発で使われるファンクションポイント(Function Point)の略称と同じなんですよね。でも、知名度はファイナンシャルプランナー(ファイナンシャル・プランニング)の方がずっと上。FP試験は郵便局の局員から保険のお姉さん、金融業界に入社が決まった大学生や新入社員も受験している知名度抜群な資格です。
「FP試験」には、FP(ファイナンシャル・プランニング)技能士試験(3級、2級、1級)、AFP(アフィリエイテッドファイナンシャルプランナー)、CFP(サーティファイドファイナンシャルプランナー)などがあります。名称はいろいろですが、以下の表のような区別があります。また、受験要件なども様々です。どれも、学科と実技があり、それぞれ別々に受験することになります。また、FP試験は金融財政事情研究会(きんざい)と日本FP協会の2つの団体が実施する「複数指定試験機関方式」であり、かなり珍しい資格試験です。でも、どちらかの試験に同格すれば資格取得です。試験日も同一日になります。詳細は、各試験のページでご確認ください。

資格名 要件 維持・その他
FP3級 特になし CBTで受験
FP2級 AFP認定研修修了 or
3級FP技能検定合格 or
実務経験2年以上 など
2025年4月よりCBT
FP1級 2級FP技能検定合格 or
実務経験5年以上のFP業務実務 or
厚労省金融渉外技能審査2級and実務経験
 
AFP 2級FP合格 and AFP認定研修の修了

2年毎の更新が必要。日本FP協会のみ実施で、会員登録要。

CFP AFP認定者 6科目の合格が必要。 2年毎の更新が必要。 日本FP協会のみ実施で、会員登録要。

他の資格と比べますと、FP3級がエントリー資格、業界人であればFP2級、特化したプロがAFPやCFPといった感じでしょうか。金融業界に入社したタイミングで3級や2級を受験するパターンみたいです。「私はFPなんですよ~。プロなんですよ~。相談に乗りますよ~」といってしつこく絡んでくる保険系おばさんに対しては、しっかり「持っている資格はAFPですか、もしくはCFP? まさか合格率が高い3級だったりしますか。もっと上位資格を獲得してからセールしてください」と切り返してみましょう。


<41-2 FP協会認定CFPのバッチ(R)>
このFP技能検定試験は、厚生労働省指導に基づく試験なのですが、金融関連なのに金融庁でもなく、情報処理のように経産省でもない。なぜ厚生労働省かというといろいろな事情(*4)があります。

【参考】
きんざい FP技能検定
https://www.kinzai.or.jp/fp
日本FP協会 FP技能検定
https://www.jafp.or.jp/exam

 

さいごに

今回は金融系のシステムについて語ってみました。勘定系だけがクローズアップされることが多いのですが、他にも多数システムがあります。特にarrowheadなんかは有名です。でも働いている方々、SEの仕事はあまり評判がよくありません。金融の業務知識って横展開/流用できないノウハウなんですよね。セキュリティ的というよりも特殊すぎるので。なので、金融業界に入ったら、スキル継続して転生はできずに、ノンスキルでの転生となることが多いのです。
では良き眠りを(合掌)。

「記憶にないで済むのは国会答弁だけの話です」by「半沢直樹」第2期最終回での主人公:半沢直樹のセリフ

 

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*1 獣人というか社畜と呼ばれて喜ぶ方々が多いです。

*2 全銀システム=全国銀行データ通信システム。全国銀行資金決済ネットワークが運営しているシステムです。
【参考】ぜんぎんネット
https://www.zengin-net.jp/

*3 クレジット会社は、割賦販売法に基づいて監督されています。銀行などは金融庁なんですが。

*4 厚生労働省の職業能力開発促進法に基づく技能検定は、「労働者の有する技能を一定の基準によって検定し、これを公証する技能の国家検定制度」で、労働者の技能と地位の向上を図ることを目的としています。技能検定に合格した方には、国家資格である「技能士」の称号が付与されます。なので、FP技能「検定」なのです。漢字検定とか英語検定とは少し検定の意味合いが異なります。

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筆者紹介

司馬紅太郎(しば こうたろう)
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。

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