- 目次
- パワハラ・セクハラな話
- パワハラの定義
- システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その1
- システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その2
- システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その3
- パワハラってる会社の見分け方
- さいごに
パワハラ・セクハラな話
今回はパワハラ(*1)がテーマです。2019年5月29日に成立した「労働施策総合推進法」、通称「パワハラ防止法」が施行され、2022年4月からは大企業のみではなく、中小企業を含むすべての企業が適用対象になりました。「うちは大企業と違って、お金がないから」という言い訳は通じない時代になっています。また、「情シスはパワハラなんて関係ない」ということはありませんし、かなりパワハラに巻き込まれる部署でもあります。「情シス」とパワハラの関わり合いについて、事例なども挙げながら説明します。
【参考】厚生労働省パワハラ防止対策義務化の資料
(https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/000756811.pdf)
パワハラの定義
よく言われる「パワハラ」の定義を記します。だいたいどこの会社/企業でもこれに当てはまるものが「パワハラ」となるようです。
・優越的な関係に基づく
・業務の適正な範囲を超える
・身体的もしくは精神的な苦痛、もしくは就業規則違反
・継続的に実施
ただ、最近では最後の継続的の有無は関係なくてもパワハラとなることも多いです。
また、昭和なパワハラな社員は「身体的」な暴力のみをパワハラと勘違いしている向きもあります。「言葉の暴力」だけでなく、「精神的な苦痛」を与えた場合も「パワハラ」になるのが昨今の流行です。
厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントは、
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、「①から③までの3つの要素を全て満たすもの」と定義されています。「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません」としていますが、この客観的という定義も、実態的には関係者による恣意的な判断になっているケースが多いようです。
システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その1
パターン1:上長→システム管理者(ほぼ1人情シス)
情シス上司「Aくん。新入社員のPCのキッティングは終わった?」
情シスA「あ、まだです」
情シス上司「困るよ。目標は配属前までにキッティング完了、必達だから」
情シスA「難しいと思います。さっき人数を聞いたら、30人弱もいるそうじゃないですか」
情シス上司「キッティングは情シスの重要な職務です。頑張って対応してください。期待しているから」
情シスA「そんな」
情シス上司「まったくZ世代(*2)はこれだから」
【判定】優越的な関係に基づいてのハラスメントと過大な作業量、さらに否定的に使われた「Z世代」もグレーな言葉です。
【コメント】人がいない情シスで、やらなくてはいけない作業を期限内にやらされるのはハラスメントでしょうか。
さらに上司は「期待している」と言えば全ての発言はクリアされると思っていますが、よくある勘違いです。
システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その2
パターン2:ユーザー→システム管理者
ユーザー「情シス。このパソコンが立ち上がらない」
情シスB「ちょっと確認します」
ユーザー「さっさと直してくれよ。午後一に打ち合わせがあるから、それまでに何とかしてくれ」
情シスB「調査に時間がかかりそうです。もしかしたらメーカーに依頼することになるかもしれません。代替PCはございますか」
ユーザー「おい。このPCの中にプレゼン資料が置いてあるんだ。なんとかしろ」
情シスB「社内の資料は、共有サーバーに置いているのでは」
ユーザー「そんなとこにおけるか。ネット経由は遅いんだよ」
情シスB「電源入れても反応がないので、調査に時間がかかりそうです」
ユーザー「お前、コスト部門のくせにプロフィット部門の邪魔をするのか。早く直せ」
情シスB「…」
【判定】優越的な関係に基づいてのハラスメントと威圧的な言動
ネットワーク経由での作業が遅いのは仕方ないですが、ローカルに資料を置くのも問題ありかも。
「ユーザーは神様です」の勘違いモードが発動されています。
システム管理者が「パワハラ」に巻き込まれる夜 その3
パターン3:システム管理者→ユーザー
ユーザー「すみません。昨日連絡したのですが、『パスワードかIDが違っています』のエラーが出るのですが」
情シスC「アカウントロックがかかっていますね」
ユーザー「解除可能ですか」
情シスC「少し待ってくださいね。自分は今仕事が山積みでちょっと対応できないです」
ユーザー「いやいや、昨日メールで連絡しましたけど、対応可って言われましたよ」
情シスC「あ、それは一次受付の判断です。他の業務も溜まっているので時間がかかります」
ユーザー「他に人はいないんですか」
情シスC「あのね、なんなら自分で直したらどうですか? こっちに頼むならこっちのルールを守ってよ」
ユーザー「ルールって…。だから昨日の返信では…」
情シスC「それは一次受付の返信だ、と言っている。話をちゃんと聞いてください。持ち込みPCの調査をしたところ、アカウントロックがかかっていて、その解除に時間がかかります。また、対応できる要員がいないため、時間がかかります。以上です」
【判定】優越的な関係に基づいてのハラスメント
情シスはもう少し丁寧な対応をとったほうが良さげです。あと、作業のプライオリティのつけ方も問題。
たぶん、その点を指摘されても「マニュアル通りに対応しました」(*3)と回答するんでしょうね>情シスC
一次受付のせいにしていますが、部門として受領した場合は部門としての目線での対応が必要。
ルール的には〇なのですが、ハラスメント的には×ですね。
パワハラってる会社の見分け方
よく学生、特に就活学生と話しをすることがありますが、「『パワハラ』とか『セクハラ』ってありますか?」と聞かれることがあります。
2019年に改正された労働施策総合推進法において、職場におけるパワーハラスメントについて事業主に防止措置を講じることを義務付けています。そのため、「ハラスメント対策室」とか「ハラスメントLINE」のようなものがありますが、あるだけです。ほとんど機能していないことが多いです。なので、それをもって「働きやすい会社」であり、「ブラック」ではないと自慢する会社はアレです。経験的な話ですが、歴史の長い会社や団体ほどセクハラ、パワハラが多いようです。そのような会社は
・最近のハラスメントに敏感な昭和世代が自分の経験でハラスメントを定義している(ので、暴力のみがパワハラと思っている)
・ルールや仕組みは形式のみ。実際に発生しても、それを評価/判断する人が、そもそもパワハラ世代であり、「事なかれ主義」
・ハラスメント申請しても、(法的には守られているはずなのだが)、申請者が守られることはない。
上記の3番目ですが、「ハラスメント」した側の処罰って明確に規定されていません。企業の義務は、社員への教育ぐらいなんです。そのため、もしパワハラが発生したとしても「叱責」「譴責」「始末書」あたりで済むことが多いでしょう。当然、パワハラした社員は恨みますよね。パワハラったーは、意識してパワハラをしていないでしょうから。そして、パワハラったーと被パワハラったーとの間に変な因縁が発生し、ほとんどの被害者は「人間関係」を理由に退社→転職の道を歩むことになります。
本当は、パワハラ教育などを徹底しており社風が変わればよいのですが、昭和な会社ではまず無理でしょう。もし、学生が希望する会社の「パワハラ度」を知りたい場合、処罰がどのようなものか聞いてください。もし、自分が入社してハラスメントを受けたときに、相手は「そのような処罰」で済んで、自分に仕返しをしてきます。それでも良ければ、入社を志望しましょう。
さいごに
今回は「パワハラ」がテーマでした。本当に気づかれないパワハラは多いです。法改正された現在では、正規雇用労働者のみならずパートタイム労働者や契約社員なども対象になります。でも、非正規雇用だと「契約切り」とかありますからね。パワハラ/セクハラが日常にある会社には注意しましょう。さらに、自分たちがハラスメントを行わないように注意することも大事です。
では良き眠りを(合掌)。
「人間は寝ることによってかなりの病が治る。私は『睡眠力』によって傷とか病気をひそかに治し、今日まで無病である。私は『睡眠力』は『幸福力』ではないか、と思っている」 by 水木しげる
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*1 職場のパワーハラスメントについては、2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した者は31.4%、つまりほぼ3人に1人です。都道府県労働局における2020年6月の労働施策総合推進法施行後の「パワーハラスメント」の相談件数は1万8千件、「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2020年度には約8万件です。この手の調査は氷山の一角と考えると、もはや「パワハラ」は日常茶飯事といえるかもしれません。
*2 Z世代は1990年代半ばから2000年代にかけて生まれた世代で、2024年時点で12歳から28歳前後の人々です。「ゆとり世代」とか「Z世代」とかの言葉は良いのですが、ネガティブに使ったらアウトです。Z世代は生まれた時からインターネットや携帯電話が有った世代です。「団塊」や「昭和」とは話が合いません、絶対に。
*3 「マニュアル通り」はよくあるパターンです。「マニュアル以下」の対応も多々あります。
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筆者紹介
大手IT会社に所属するPM兼SE兼何でも屋。趣味で執筆も行う。
代表作は「空想プロジェクトマネジメント読本」(技術評論社、2005年)、「ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング、2009年)など。2019年発売した「IT業界の病理学」(技術評論社)は2019年11月にAmazonでカテゴリー別ランキング3部門1位、総合150位まで獲得した迷書。
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