基幹システムデータを活用したパーソナライズマーケティング

第1回 顧客の心をつかむ!パーソナライズマーケティングとは?

概要

企業の持つ基幹システムには顧客に関する豊富なデータが蓄積されています。このデータをどのように分析し、オンラインマーケティングのパーソナライゼーションに活用するかを解説します。具体的なデータ分析手法や、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングメッセージの作成方法に焦点を当て、基幹システムの管理者がデータ活用のために知っておくべき最新のツールやプラットフォームについても触れます。

デジタル技術の進化とインターネットの普及により、消費者の購買行動は根本から変わりました。今日の消費者は、かつてないほど多くの情報に即座にアクセスできるようになっています。この変化の中で、企業は個々の顧客に合わせたマーケティング戦略「パーソナライズマーケティング」が注目されています。
このコラムでは、デジタル時代におけるマーケティングの最前線、パーソナライズマーケティングの具体的な戦略とその実装方法について解説します。

目次
パーソナライズマーケティングとは?
パーソナライズマーケティングのメリット
パーソナライズマーケティングの進化
成功企業の事例分析
パーソナライズマーケティングの実装に向けて
まとめ

パーソナライズマーケティングとは?

パーソナライズマーケティングとは、顧客の行動や好みに基づいてカスタマイズされた体験を提供する手法です。顧客は自分に合わせた情報やオファーを受け取ることができ、企業はより高いエンゲージメントとコンバージョン率を期待できます。

従来のマーケティングとの違い

従来のマーケティング手法では、広告やプロモーションが一括りで行われ、全ての顧客に対して同じメッセージが送られていました。しかし、パーソナライズマーケティングでは、顧客の過去の行動、好み、興味などのデータを分析し、その情報を基に個々の顧客に合わせたカスタマイズされたメッセージや商品、サービスを提供します。これにより、顧客にとっての関連性が高まり、より効果的なマーケティングが実現します

 

パーソナライズマーケティングのメリット

パーソナライズマーケティングには、以下のようなメリットがあります。

1.顧客満足度の向上

顧客満足度を向上させるためには、顧客の期待に応え、それを超える体験が必要です。パーソナライズマーケティングでは、各顧客に合わせたコンテンツや製品を提供します。
例えば、オンラインショッピングサイトでは顧客が以前に閲覧した商品を元に関連商品をレコメンドします。顧客は自分のニーズにぴったり合った商品や情報を受け取ることができ、より満足度の高いショッピング体験が実現されます。顧客が自分の好みやニーズが理解されていると感じるとき、そのブランドに対する満足感や信頼感も高まります。

2.エンゲージメントの増加

エンゲージメントの増加とは、顧客がブランドと積極的に関わる度合いを増すことを指します。パーソナライズされたコンテンツは、顧客にとって関連性が高く興味を引きやすいため、顧客がコンテンツに長く留まったり、再訪したりする確率が高くなります。
例えば、ユーザーの過去の行動に基づいて個々の興味関心にマッチしたニュースフィードを提供するソーシャルメディアでは、ユーザーが自分に関連すると感じるコンテンツに対してより多くの「いいね」やコメント、シェアを行うことが報告されています。これにより、ユーザーとブランドの間のインタラクションが増え、エンゲージメントが向上します。

3.コンバージョン率の向上

コンバージョン率の向上は、経済的利益に直結する重要な指標です。パーソナライズマーケティングは、顧客の興味やニーズに基づいてタイミングよく適切な提案や特典を提供することで、購買決定を促進します。
例えば、顧客が商品やサービスについて検討している段階で、そのニーズにマッチした情報や割引を提供することで、購買に至る確率が高まります。また、購買プロセスを簡単にするためのパーソナライズされたガイダンスや、顧客が最も関心を持ちそうな製品を前面に出すことも効果的です。これにより、単に訪問者数を増やすだけでなく、実際に購入に結びつく顧客の割合を高めることができます。

このように、パーソナライズマーケティングは、顧客にとっての関連性を高める情報提供によって、広告やプロモーションの効果を向上させます。また、顧客が自分のことを理解し、価値を提供してくれると感じるブランドには忠実になりやすいため、顧客ロイヤルティも向上します。
買い物客の72%は、企業が自分を個人として認識し、自分の興味を理解してくれることを期待するというマッキンゼー社の調査結果は、これを裏付けています。

 

パーソナライズマーケティングの進化

パーソナライズマーケティングは、その原型となるコンセプトが数十年前から存在していましたが、現代のような形で広く認識され始めたのは2000年代初頭からです。この時期にインターネットの普及が進み、デジタルデータの収集と分析が可能になったことが大きな要因です。

初期のパーソナライズマーケティング

最初のパーソナライズマーケティングの形は、顧客の名前を使用したダイレクトメールや、特定の顧客グループに焦点を当てたプロモーションなど、比較的単純な形でした。しかし、これらは今日に見るようなデータに基づいたものではなく、主に手動でセグメント分けされた顧客リストに基づいていました。

デジタル時代の到来

インターネットが一般家庭に普及し始めた2000年代後半には、オンラインショッピング、Eメールマーケティング、ウェブサイトのカスタマイゼーションなどが登場し、パーソナライズマーケティングの新たな可能性が開かれました。企業はウェブサイト訪問者の行動データを収集し始め、個々の顧客に合わせた商品やコンテンツをお勧めするようになりました。

データ分析の進化がパーソナライズマーケティングの精度を向上

2000年代後半には、データ分析技術の進化とともに、さらに精密なパーソナライズが可能になります。ビッグデータの登場と機械学習の進歩により、企業は顧客の行動や好みをリアルタイムで解析し、個々の顧客体験を最適化することができるようになりました。

ソーシャルメディアとスマートフォンの普及がリアルタイム性を促進

2010年代に入ると、ソーシャルメディアの普及とスマートフォンの使用増加がパーソナライズマーケティングをさらに加速しました。企業はソーシャルメディアから得られる豊富なデータや、モバイルデバイスを通じて得られる位置情報などを活用して、よりリアルタイムなマーケティング施策を展開できるようになりました。
このように、パーソナライズマーケティングは時間とともに進化し、テクノロジーの発展とともにその方法と精度が向上してきました。今日ではAI (人工知能) 技術の発展により、企業は膨大な顧客データをより効果的に収集、解析し、理解することができるようになりました。これにより、企業は消費者の行動パターンや好みを正確に把握し、それに基づいたパーソナライズされたマーケティング戦略を展開できるようになっています。

 

成功企業の事例分析

以下に、成功している企業のパーソナライズマーケティング事例を紹介します。同じ業種業態の企業はもちろんですが、その他の企業にとっても参考になるでしょう。

アマゾンドットコム

アマゾンドットコムはパーソナライズマーケティングの先駆者です。顧客の購買履歴や閲覧履歴などのデータを活用し、協調フィルタリングという技術を駆使して個々の顧客に最適な商品をレコメンドしています。

このアプローチにより、顧客一人ひとりにパーソナライズされた購買体験を提供し、顧客満足度を高めるとともに、売上の大部分を占めるほどの効果をもたらしています。アマゾンはレコメンドシステムの精度向上のため、定期的にアルゴリズムを検証し改善を行っています。

ネットフリックス

ネットフリックスはユーザーの視聴履歴や評価データなどを基に、高度な機械学習アルゴリズムを用いて個々に最適な映画やテレビ番組をレコメンドしています。
このデータに基づいたアプローチにより、ユーザー体験を大幅に向上させ、エンゲージメントの増加や解約率の低下を実現しています。定期的なアルゴリズムの調整と検証を行い、継続的にサービスを改善しており、ビジネス成長に寄与しています。

スターバックスコーヒー

スターバックスはモバイルアプリを中心にパーソナライズマーケティングを展開しています。顧客の購買履歴や好みを分析し、個別にカスタマイズされた特典やプロモーションを提供する会員制度を通じて、顧客エンゲージメントとロイヤルティを強化しています。
また、ソーシャルメディアとの統合を進め、顧客との直接的なコミュニケーションを強化し、サービスの向上と売上増加に効果的に寄与しています。

ユニクロ

ユニクロは顧客の購入履歴やオンライン行動を分析し、個々のニーズに合わせた商品推薦やパーソナライズされたメールマガジンを提供しています。また、オンラインデータを活用して実店舗での販売戦略を最適化し、オムニチャネルの顧客体験を向上させています。
ターゲット広告やソーシャルメディアを通じて、顧客の関心に基づいたマーケティングを展開し、定期的に効果検証して戦略を調整しています。

ナイキ

ナイキはデジタルを駆使して顧客一人ひとりに合わせた製品と体験を提供しています。ナイキメンバーアプリでは、顧客のフィットネス活動を追跡し、パーソナライズされたランニングや、トレーニングプランを作成します。
また「Nike By You」を通じて、顧客自身がカスタムシューズやアパレルをデザインできます。デジタルマーケティングとソーシャルメディアを活用し、顧客との対話を強化しています。

 

パーソナライズマーケティングの実装に向けて

パーソナライズマーケティングを実施するには、まず保有するシステムやデータベースから適切なデータを収集し、分析する能力が必要です。このプロセスには、IT技術とマーケティングの知識が組み合わさるため、多くの企業ではIT部門とマーケティング部門の間で緊密な協力関係が求められます。

データプライバシーとセキュリティへの取り組み

消費者のプライバシーに対する意識が高まる中で、パーソナライズマーケティングを行う際には、データ保護とプライバシーの問題を慎重に取り扱う必要があります。顧客に対してデータの使用方法を透明にし、明示的な同意を得ること、データの暗号化とセキュリティ対策を強化すること、そして顧客が自身のデータを管理できるようにすることが重要です。これにより、顧客の信頼を築きながら、プライバシーを守ることができます。

基幹システムデータの活用が鍵

パーソナライズマーケティングには、顧客データが最も重要な要素です。基幹システムには、顧客の購買履歴、行動ログ、顧客情報など、貴重なデータが蓄積されています。このデータを活用することで、パーソナライズマーケティングの精度を大きく向上させることが可能です。例えば、顧客が過去に購入した商品のデータを分析することで、将来的に興味を持ちそうな商品を推測し、その情報をもとにカスタマイズされたメールを送信できます。

 

まとめ

結論として、パーソナライズマーケティングは単なるトレンドではなく、顧客一人ひとりのニーズに深く応えることで顧客関係を根本から強化する、戦略的に重要な手法です。基幹システムから得られる豊富なデータを活用することで、企業は顧客にとってより価値のある体験を提供し、結果としてビジネスの成長を実現できます。

しかし、これを実現するためには、データ分析、プライバシー保護、マーケティング担当とIT担当の協力体制など、多くの要素が絡み合います。適切にこれらの課題を管理し、全社で顧客中心のアプローチを取ることが、パーソナライズマーケティング成功の鍵です。

このコラムを通じて、システム担当者が、管理している基幹システムのデータを最大限に活用し、パーソナライズマーケティングをどのように実現していくべきかの理解を深めることができれば幸いです。

 

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筆者紹介

石原強
株式会社アーチャレス 
代表取締役社長 / デジタルマーケティングディレクター

インターネット黎明期である1996年から20年以上、多数の企業Webサイト構築、運用を手がけてきました。成果を出せるWebサイトへの変革を目的としてデジタル戦略の立案からコミュニケーション設計、サイト構築、オンラインマーケティング施策の企画、運営、効果測定までトータルで支援。
企業の担当者と二人三脚でオンラインマーケティングの成果を伸ばしてきました。
2019年に企業のマーケティングDXを支援する株式会社アーチャレスを立ち上げました。理想的なマーケティングを実現するためのプラットフォーム「tovira」を自社開発し、デジタルマーケティングの導入から成果向上の伴走支援をしています。
株式会社アーチャレス 
https://www.archeress.co.jp/

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