基幹システムデータを活用したパーソナライズマーケティング

第3回 顧客の心を読み解く!データ分析の力

概要

企業の持つ基幹システムには顧客に関する豊富なデータが蓄積されています。このデータをどのように分析し、オンラインマーケティングのパーソナライゼーションに活用するかを解説します。具体的なデータ分析手法や、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングメッセージの作成方法に焦点を当て、基幹システムの管理者がデータ活用のために知っておくべき最新のツールやプラットフォームについても触れます。

前回は、企業の基幹システムに蓄積された膨大なデータを、パーソナライズされたマーケティングに生かすための第一歩として、異なるデータソースからの統合と、その過程で生じる課題への対処方法を解説しました。
しかし、データを統合したからといって、すぐに顧客理解に結びつくわけではありません。統合されたデータから有用な知見を引き出すには、適切な分析手法を用いる必要があります。本稿では、顧客の属性、行動、嗜好などを分析し、ニーズや潜在的な購買意欲を把握するための、さまざまなデータ分析手法とその活用事例を紹介していきます。

目次
顧客データ分析の意義
統計的手法
機械学習の活用
顧客理解の基本:セグメンテーションとジャーニーマップ
データ分析の実践におけるシステム管理者の役割
まとめ

顧客データ分析の意義

なぜ顧客データ分析が重要か

顧客データの適切な分析は、ビジネスの成功に不可欠な要素となっています。昨今の顧客は多様化しており、一人ひとりの嗜好や行動パターンは異なります。このような状況下で、顧客一人ひとりのニーズを理解し、個別に最適なアプローチを行うことが求められます。企業が保有する膨大な顧客データから有用な知見を抽出することで、個々の顧客の深い理解が可能になり、的確なマーケティング施策を立案できるのです。

顧客ニーズの可視化

顧客データの分析を通じて、これまで見えていなかった顧客のニーズを可視化できます。購買履歴や行動データから、顧客の興味関心や潜在的なニーズを発見でき、新たな価値提案の糸口となります。また、顧客を適切にセグメント化することで、それぞれのニーズに合わせたアプローチが可能になります。こうした顧客理解の深化は、売上拡大や顧客満足度向上につながります。

マーケティング施策の最適化

分析によって得られた顧客理解を生かすことで、マーケティング施策の最適化が図れます。適切なターゲティングと、ニーズに応じたコンテンツ/オファーの提供が可能になり、マーケティングの効率が大幅に向上します。さらに、A/Bテストや行動データ分析により施策の効果を検証し、継続的な改善を行うことができます。こうした最適化サイクルにより、マーケティング活動の費用対効果が最大化されます。

新規ビジネスチャンスの発見

顧客データの分析は、新たなビジネスチャンスの発見にもつながります。顧客の嗜好や行動パターンから、会社が気づいていなかった新たなニーズを発見できる可能性があります。これは新商品・サービスの開発のヒントになり、新規事業への足がかりとなります。また、アップセル・クロスセルの機会の発見にもつながるでしょう。このように、データ分析は事業の新たな成長機会を提供してくれます。

顧客データの分析は、マーケティングはもちろん、商品開発や事業戦略の面でも大きな価値をもたらします。データから得られる顧客理解を武器に、企業は競争力の強化と収益力の向上を実現できるのです。

 

統計的手法

基本統計量の活用(平均、分散、相関係数など)

統計分析の基礎は、基本的な統計量の活用から始まります。平均値、中央値、最頻値などは、顧客データの全体的な傾向を把握するのに役立ちます。分散や標準偏差を計算することで、データのばらつき具合を知ることができます。また、相関係数の算出を通じて、2つの変数間の関連性を定量的に測ることが可能です。

このような基本的な統計量の分析を通じて、顧客の属性(年齢、居住地、性別など)と購買行動との関係性をつかむことができます。例えば、高年収の顧客は高額な商品を購入する傾向にあるか、居住地域によって嗜好に違いがあるかなど、マーケティングにおける重要な手がかりが得られます。

クロス集計、クラスター分析

クロス集計は、2つ以上の質的変数の組み合わせ状況を分析する手法です。例えば、顧客の性別と年齢層、商品カテゴリーと購入金額などのクロス集計を行うことで、顧客セグメントの特徴が浮かび上がってきます。

一方のクラスター分析は、データを類似した特徴を持つグループに分割する手法です。年齢、収入、居住地などの変数から自動的にクラスターを見つけ出し、それぞれの傾向を把握できます。クラスター分析を活用すれば、事前の前提なしに顧客セグメントを発見できます。

RFM(Recency, Frequency, Monetary Value)分析

RFM分析は、顧客の最終購買日(Recency)、購買頻度(Frequency)、総購入金額(Monetary Value)の3つの観点から分析を行う手法です。これらの指標から、顧客の価値と潜在的な需要を測ることができます。

RFMスコアが高い顧客は、継続的な購買が見込める重要顧客と判断できます。一方でスコアが低い顧客には、リテンション施策を講じる必要があるでしょう。このようにRFM分析は、個別の顧客対応の方針決定に役立ちます。

統計的手法の活用例

– 小売企業Aは、基本統計量の分析から、高額な買い物は主に20~40代の顧客が行っていることを発見。高級ライン製品のプロモーションを、この層に特化した。

– 飲食店チェーンBは、クロス集計の結果から、ランチ需要と夕食需要では顧客層が大きく異なることがわかり、時間帯別のメニュー編成を行った。

– ECサイトCは、RFM分析によってより価値の高い顧客を特定。優待制度の新設や、新商品の先行販売などのアプローチを実施した。

このように、統計的手法はさまざまな業種や局面で活用でき、顧客理解を深めるための強力なツールとなります。

 

機械学習の活用

機械学習は、プログラムによって大量のデータを分析し、そのデータ内のパターンや規則性を見つけ出し、新しいデータに対して予測や判断を行うことができるようになります。

教師あり学習(分類、回帰分析)

教師あり学習は、ラベル付きデータを用いてモデルを訓練し、新しいデータに対する予測を行う機械学習の手法です。具体的には分類と回帰分析があります。

分類は顧客データを用いて特定のグループに分ける分析手段です。例として、顧客がマーケティングキャンペーンに反応するか否かを予測することがあります。このプロセスでは、過去のキャンペーンデータから顧客の反応(反応する/反応しない)を学習し、新しいキャンペーンのターゲティングに活用します。

回帰分析は、過去のデータから将来の売上や顧客行動の数値予測を行う方法です。マーケティングにおいては、特定のプロモーションの影響を分析し、予測するのに用いられます。例えば、広告支出と売上の関係をモデル化し、予算配分を最適化するために回帰モデルが活用されます。

こうした手法を使えば、顧客行動の予測精度を高めることができます。顧客の需要や反応を正確に把握し、パーソナライズされたマーケティング戦略を効果的に展開できます。ターゲット広告の最適化や顧客満足度の向上に直結します。

教師なし学習(クラスタリング) 

教師なし学習は、ラベルのないデータセットを用いて隠れたパターンや構造を発見する機械学習の手法です。主なアプローチにはクラスタリングがあり、類似のデータポイントをグループ化します。この手法はデータの洞察を深め、新たな特徴を発見するのに役立ちます。

マーケティングでは顧客データを分析し、消費行動、好み、購買頻度などに基づいて、顧客を似た特性を持つグループに分類します。これにより、ターゲットとする顧客グループが明確になります。

既存の顧客セグメントとはまた異なる切り口でのクラスタリングが可能なので、新たな顧客グループの発見や、ニッチなターゲットの特定にも使えます。発見されたクラスターごとの特徴を分析することで、市場のトレンドや新しいニーズを早期に捉え、新たなマーケティング施策のヒントが得られます。

協調フィルタリング

協調フィルタリングは、教師あり学習でも教師なし学習でもなく、レコメンデーションシステムに特化した異なる種類の機械学習手法です。このアプローチは主に、ユーザー間の相互作用や評価から学習して、特定のユーザーに対して個別のアイテム推薦を行います。

代表的な手法に、ユーザー間の類似性に基づく手法と、アイテム間の類似性を利用する手法があります。ECサイトにおける商品レコメンデーションや、動画配信サービスでのコンテンツ推薦などによく利用されています。

ユーザーの潜在的ニーズを的確に捉えられるので、効果の高いパーソナライズとエンゲージメント向上が期待できます。

機械学習の活用例

– 自動車メーカーAは、過去の購入履歴から顧客を複数のセグメントに分類。シミュレーションによりそれぞれの将来の価値を算出し、重点施策の対象を選定した。

– 家電量販店Bは、回帰分析で顧客の離反リスクを予測。高リスク層に対してはリテンション向けのメール配信を実施した。

– 動画配信サービスCは、協調フィルタリングで未評価の映画に対する視聴ポテンシャルを推定。ユーザーごとにお勧め作品をレコメンドすることで解約率を改善した。

– 保険会社Dは、クラスタリングを実施。発見された新規セグメントに対して、それまでになかった新しい保険プランの提供を開始した。

機械学習を活用すれば、統計的手法以上に高度で複雑な分析が可能になります。企業はデータから発見された洞察を活用し、常に最適なマーケティング施策を展開することが求められます。

 

顧客理解の基本:セグメンテーションとジャーニーマップ

顧客セグメンテーションの重要性と方法

顧客セグメンテーションとは、顧客を共通の特性を持つグループに分割することです。年齢、性別、地理的情報、購買履歴、行動パターンなどの基準でセグメント分けを行い、グループごとのニーズや嗜好の違いを明らかにします。セグメンテーションにより、マーケティング施策をより効果的に展開できます。

セグメンテーションの方法としては、これまでご説明した、RFM分析やクラスター分析などのデータ分析手法が活用されます。これらの分析で、優良顧客、休眠顧客、離反リスクの高い顧客など、セグメントごとの特徴を把握します。

ペルソナの設定

セグメンテーションの結果を活用する上で、ペルソナの設定が効果的です。ペルソナとは、セグメントを代表する架空の人物像のことで、実在する顧客データに基づいて作成されます。年齢、職業、家族構成、趣味、購買習慣など、具体的なプロフィールを設定します。

ペルソナを念頭に置くことで、ターゲットに響くメッセージやクリエイティブを作成しやすくなります。また、新商品開発や顧客体験の設計においても、ペルソナの視点から検討を行うことで、顧客ニーズにマッチしたアウトプットを生み出せます。

カスタマージャーニーマップとは

カスタマージャーニーマップは、顧客が商品やサービスを認知してから購入、アフターサービスに至るまでの一連の過程を可視化したものです。顧客の行動、感情、痛みポイントなどを時系列で整理し、マップ上に表現します。

従来のカスタマージャーニーマップは、一般的な顧客像を想定して作成されることが多くありました。しかし、セグメントごと、あるいは個人ごとに最適化されたカスタマージャーニーマップを作成することで、よりパーソナライズされた顧客体験の設計が可能になります。

カスタマージャーニーマップの作成方法

セグメントやペルソナ別のカスタマージャーニーマップを作成するプロセスは以下の通りです。

1. セグメントやペルソナの定義
2. 各セグメント・ペルソナの行動データ、インタビューデータなどの収集
3. 顧客の行動ステップと接点のリストアップ
4. 各ステップでの顧客の行動、感情、課題の整理
5. マップの可視化とストーリー化

作成されたジャーニーマップは、顧客体験の改善や施策立案に活用します。

施策立案への活用例

ペルソナとカスタマージャーニーマップは、さまざまな施策立案に活用できます。例えば、ECサイトでは、ペルソナごとに異なるレコメンドや特集ページを用意したり、カスタマージャーニーの各ステップに合わせたメールマガジンを配信したりすることで、パーソナライズされた顧客体験を提供できます。

また、実店舗においても、ペルソナに合わせた接客や店舗レイアウトの工夫、カスタマージャーニーのペインポイントを解消するためのサービス改善など、さまざまな施策に活用可能です。

システム管理者は、これらの施策を支えるデータ分析基盤の提供や、マーケティングオートメーションツールなどの導入・運用を通じて、間接的に貢献することができるでしょう。顧客理解を深めるための土台作りは、パーソナライズ・マーケティングの成功に欠かせない要素なのです。

 

データ分析の実践におけるシステム管理者の役割

データ分析基盤の設計・構築・運用

システム管理者は、パーソナライズ・マーケティングに必要な顧客データを効果的に収集・統合・分析するためのデータ基盤の設計、構築、運用において中心的な役割を果たします。

具体的な業務としては、DMPやデータウェアハウスの構築、システムやデータベースの連携、収集したデータのクレンジングや統合などが含まれます。また、セキュリティ対策の実装、パフォーマンスの最適化など、データ基盤の運用管理全般にも携わります。これらの活動を通じて、マーケティング部門がデータを活用しやすい環境を整備することが求められます。

分析結果の可視化と共有のための環境整備

データ分析の実践において、分析結果を可視化し、関係者で共有することは欠かせない工程です。システム管理者は、分析結果を効果的にビジネスに生かすための、可視化と共有の環境を整備する役割を担います。

可視化においては、Tableauや、Power BIなどのBIツールの導入・運用が主な業務になります。ツールの選定においては、分析目的や、データ量、ユーザーの習熟度などを考慮し、適切なツールを選ぶ必要があります。また、ダッシュボードの設計においては、UIの使いやすさや、パフォーマンスの最適化なども重要な要素です。

分析結果の共有においては、ポータルサイトの構築や、レポート配信システムの開発などが含まれます。関係者が分析結果にアクセスしやすい環境を整備し、データに基づく意思決定を組織に定着させることが求められます。

以上のように、システム管理者は、データ分析基盤の設計・構築・運用、データ品質の確保とデータ前処理の実施、分析結果の可視化と共有のための環境整備など、データ分析の実践において極めて重要な役割を果たします。これらの業務を通じて、マーケティング部門のデータ活用を支援し、パーソナライズ・マーケティングの成功に貢献するのです。

データ分析人材の重要性

データ活用を推進し、プライバシーにも配慮しつつAIの恩恵を最大限に受けるためには、高度なスキルを持つ人材が不可欠です。データエンジニア、データサイエンティスト、AIエンジニアなどの専門人材の需要が今後さらに高まっていくことが予想されます。

しかしながら、そうした先端的な分野の人材は既に不足している状況にあります。企業がデータ活用を成功させるには、社内で積極的に人材の育成に取り組む必要があります。

特に読者の皆さんであるシステム管理者の方々は、ビッグデータ基盤の構築や、データパイプラインの管理など、データ活用の中核を担う重要な存在です。データエンジニアリングやデータガバナンスの知識を身につけ、データサイエンティストやAIエンジニアと協力して総合力を発揮できる人材へと成長することが期待されます。

企業が積極的に社内人材の育成を図り、データ活用を組織化していくことが、マーケティングを成功に導く鍵となるでしょう。システム管理者の皆さんには、今後ますます重要な役割が期待されています。

 

まとめ

本稿では、企業が保有する顧客データを活用し、パーソナライズされたマーケティング施策を実現するためのデータ分析手法について解説してきました。

顧客データの適切な分析は、一人ひとりの顧客ニーズを深く理解し、満足度の高いカスタマイズされた体験を提供するために不可欠です。統計的手法から機械学習、行動データ分析に至るまで、さまざまな分析アプローチを組み合わせることで、顧客理解を深化させ、マーケティングを最適化できます。

今後、AIやビッグデータ技術の進化により、データ分析はさらに高度化し、リアルタイムでの精密なパーソナライズが可能になるでしょう。その中で、システム管理者には、データ活用の中核を担う重要な役割が期待されていくこととなるでしょう。

次回は、セグメント分けされたターゲットに対して、パーソナライズをどのように実施していくかについて解説します。

 

 

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筆者紹介

石原強
株式会社アーチャレス 
代表取締役社長 / デジタルマーケティングディレクター

インターネット黎明期である1996年から20年以上、多数の企業Webサイト構築、運用を手がけてきました。成果を出せるWebサイトへの変革を目的としてデジタル戦略の立案からコミュニケーション設計、サイト構築、オンラインマーケティング施策の企画、運営、効果測定までトータルで支援。
企業の担当者と二人三脚でオンラインマーケティングの成果を伸ばしてきました。
2019年に企業のマーケティングDXを支援する株式会社アーチャレスを立ち上げました。理想的なマーケティングを実現するためのプラットフォーム「tovira」を自社開発し、デジタルマーケティングの導入から成果向上の伴走支援をしています。
株式会社アーチャレス 
https://www.archeress.co.jp/

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