基幹システムデータを活用したパーソナライズマーケティング

第4回 顧客の期待を超える!パーソナライズマーケティングの実践

概要

企業の持つ基幹システムには顧客に関する豊富なデータが蓄積されています。このデータをどのように分析し、オンラインマーケティングのパーソナライゼーションに活用するかを解説します。具体的なデータ分析手法や、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングメッセージの作成方法に焦点を当て、基幹システムの管理者がデータ活用のために知っておくべき最新のツールやプラットフォームについても触れます。

前回は、収集した顧客データをいかに分析し、顧客理解につなげるかについて、さまざまなデータ分析手法を紹介しました。
今回は、これまでの内容を踏まえ、パーソナライズマーケティングを実現するための具体的な方法論について解説します。セグメンテーションやペルソナ設定、カスタマージャーニーマップの作成など、顧客一人ひとりに最適なアプローチを実現するための手順を詳しく説明します。また、パーソナライズ施策の立案と実行、それを支えるテクノロジーやツールについても触れます。
パーソナライズマーケティングは、企業にとって大きな転換点となる取り組みです。単なるトレンドではなく、顧客との長期的な関係構築に不可欠な戦略として捉える必要があります。本稿が、読者の皆様にとって、パーソナライズマーケティングの理解を深め、自社での実践につなげるための一助となれば幸いです。

目次
パーソナライズ施策の立案と実行
パーソナライズマーケティングのための技術とツール
成功事例と失敗事例
まとめ

パーソナライズ施策の立案と実行

カスタマージャーニーマップや顧客データの分析を通じて、顧客一人ひとりのニーズや特性を理解したら、いよいよパーソナライズ施策の立案と実行のフェーズです。ここでは、適切なターゲティングと、パーソナライズされたメッセージ配信、ウェブサイトやアプリ、広告のパーソナライズが鍵を握ります。

ターゲティングとメッセージ配信

ターゲティングの手法

ターゲティングには、ルールベースのターゲティング、機械学習を活用したターゲティング、リアルタイムターゲティングなどの手法があります。顧客の属性や行動データを活用し、最適なターゲットに対してアプローチを行います。

パーソナライズされたメッセージ配信

ターゲティングで絞り込んだ顧客に対して、パーソナライズされたメールやSMS、プッシュ通知を配信します。顧客の名前や過去の購買履歴を踏まえて、一人ひとりに最適化されたメッセージを届けることで、コミュニケーションの効果を高めます。

ウェブサイトとアプリのパーソナライズ

レコメンデーション

顧客の閲覧履歴や購買履歴を基に、その顧客に最適な商品やコンテンツをレコメンドします。協調フィルタリングや内容ベースフィルタリングなどの手法を用いて、顧客の興味関心に合ったアイテムを推奨します。

ダイナミックコンテンツ

顧客の属性や行動に応じて、ウェブサイトやアプリのコンテンツをリアルタイムで最適化します。例えば、新規顧客と既存顧客で異なるバナーを表示したり、地域や天候に応じてコンテンツを変更したりすることで、よりパーソナライズされた体験を提供します。

アプリのパーソナライズ

スマートフォンアプリでは、ユーザーの位置情報や利用履歴、端末情報などを活用して、パーソナライズされた体験を提供できます。例えば、ユーザーの現在地に基づいて、近くの店舗情報を表示したり、よく利用する機能を優先的に表示したりするなどの工夫が考えられます。

広告のパーソナライズ

リターゲティング広告

ウェブサイトを訪問したものの購入に至らなかった顧客に対して、訪問後に関連する広告を配信する手法です。ただし、近年はプライバシー保護の観点から、サードパーティCookieを利用したリターゲティング広告に規制が及んでおり、代替手法の検討が必要とされています。

ダイナミッククリエイティブ

顧客の属性や行動データを基に、広告のクリエイティブを自動的に最適化する手法です。例えば、顧客の年齢や性別、興味関心に応じて、広告の画像や文言を動的に変更することで、より説得力のある広告を配信できます。

その他の顧客接点におけるパーソナライズ

店舗でのパーソナライズ

実店舗においても、顧客の購買履歴や嗜好データを活用して、パーソナライズされた接客やクーポン配信を行うことができます。デジタルとオフラインを融合させた、オムニチャネルでのパーソナライズ体験の提供が期待されます。

コールセンターでのパーソナライズ

コールセンターでの応対においても、顧客情報を活用したパーソナライズが可能です。顧客の問い合わせ履歴や購買履歴を踏まえて、最適な対応を行うことで、顧客満足度の向上につなげることができるでしょう。
パーソナライズ施策を立案・実行する際は、顧客体験の一貫性や、プライバシーへの配慮が重要です。チャネルやタッチポイントを横断して、シームレスなコミュニケーションを展開すること、そして顧客情報の適切な取り扱いと、透明性の高い運用を心がけることが求められます。
また、施策の効果検証を欠かさず行い、PDCAサイクルを回していくことも大切です。顧客の反応や行動変化を注意深く観察し、より効果の高い施策へと改善を重ねていくことが、パーソナライズマーケティングの成功につながります。

 

パーソナライズマーケティングのための技術とツール

パーソナライズマーケティングを実践するには、顧客データの収集・統合・分析から、施策の実行、効果測定に至るまで、さまざまな局面で適切な技術やツールを活用することが不可欠です。ここでは、パーソナライズマーケティングを支える代表的なソリューションについて解説します。

マーケティングオートメーションツール (MA)

マーケティングオートメーションツール (MA) は、マーケティング施策の自動化と効率化を実現するソフトウエアです。メールの配信、ソーシャルメディア上でのコミュニケーション、リードの管理など、さまざまなマーケティングタスクを自動化し、パーソナライズされたコミュニケーションを大規模に展開できます。
MAは、顧客の行動履歴やプロフィール情報に基づいて、最適なタイミングで最適なメッセージを配信するための機能を提供します。これにより、マーケターは、より戦略的かつ創造的な活動に注力できます。

カスタマーデータプラットフォーム (CDP) 

カスタマーデータプラットフォーム (CDP) は、企業が保有するさまざまな顧客データを統合し、一元的に管理するためのソリューションです。ウェブサイトの行動履歴、購買履歴、問い合わせ履歴など、複数のチャネルから収集されたデータを、個人レベルで統合・プロファイリングすることで、より精度の高いパーソナライズを実現します。
CDPは、データの収集・統合に加えて、セグメンテーションや配信先となるチャネルとの連携機能も提供します。これにより、マーケターはCDPを中心としたデータ基盤を構築し、オムニチャネルでのパーソナライズ施策を効率的に展開できます。

コンテンツマネジメントシステム (CMS) 

CMSの役割とパーソナライズへの活用

コンテンツマネジメントシステム (CMS) は、ウェブサイトやアプリのコンテンツを一元的に管理するためのシステムです。CMSを活用することで、マーケターや編集者は、記事やバナー、ランディングページなどのコンテンツを容易に作成・更新できます。
CMSは、パーソナライズされたコンテンツ配信の基盤としても活用できます。ユーザーの属性や行動に応じて、動的にコンテンツを切り替える機能を提供するCMSも存在します。これにより、ウェブサイトやアプリ上で、よりパーソナライズされた体験を提供することが可能です。

CMSとMA、CDPの連携

CMSとマーケティングオートメーション (MA) 、カスタマーデータプラットフォーム (CDP) を連携させることで、より高度なパーソナライズが実現できます。
例えば、CDPで統合された顧客データをCMSに連携することで、ユーザーの属性や行動履歴に基づいたコンテンツのパーソナライズが可能です。CMSとMAを連携させれば、ユーザーの行動に応じてトリガーされるメールの配信や、コンテンツ閲覧履歴に基づくスコアリングなども実現できます。
このようなCMS、MA、CDPの連携により、ウェブサイトやアプリ上でのパーソナライズ体験と、メールなどの他チャネルでのコミュニケーションを、シームレスに統合できます。顧客体験の向上と、マーケティングオペレーションの効率化の両立が可能になるのです。

AIと機械学習の活用

人工知能 (AI) と機械学習の技術は、パーソナライズマーケティングにおいて大きな役割を果たします。AIを活用することで、膨大な顧客データから、個々の顧客の興味関心や購買確率を高精度で予測できます。
例えば、AIベースのウェブ接客ツールは、ユーザーの行動履歴や嗜好データを分析し、最適な商品やコンテンツを自動的に推奨します。また、AIを活用した自然言語処理技術により、チャットボットやカスタマーサポートの自動化が可能です。
機械学習を活用したセグメンテーションにより、従来の手法では見落とされがちだった顧客グループを発見し、新たなマーケティング機会を創出できます。
このように、AIと機械学習は、パーソナライズマーケティングの精度と効率を飛躍的に高めるための重要な技術要素と言えるでしょう。

ツールの選定と導入におけるシステム担当者の役割

パーソナライズマーケティングを実行するためには、MA、CDP、CMS、AIなど、さまざまなツールが必要です。システム管理者は、これらのツールの選定と導入をリードします。マーケティング部門の要件を理解し、それに適合するソリューションを見極める必要があります。
また、導入後のツールの運用やメンテナンス、トラブルシューティングも、システム管理者の重要なタスクです。マーケティング部門が円滑にツールを活用できるよう、技術的なサポートを提供することが求められます。

 

成功事例と失敗事例

パーソナライズマーケティングは、多くの企業にとって大きな可能性を秘めた戦略ですが、その実践にはさまざまな課題も伴います。ここでは、パーソナライズマーケティングの成功事例と失敗事例を紹介し、それらから得られる教訓について考えます。

パーソナライズマーケティングの成功事例

ノードストローム (米国の高級百貨店)

ノードストロームは、顧客データの分析とパーソナライズされたサービスで知られる小売業者です。同社は、オンラインとオフラインの購買履歴を統合し、売場担当者がタブレット端末で顧客の嗜好を把握できるシステムを導入しました。これにより、来店客一人ひとりに最適な商品提案を行い、顧客満足度と収益の向上を実現しています。
参考記事: Nordstrom’s Strategy for Success, 6 Key Elements

スターバックス (コーヒーチェーン)

スターバックスは、モバイルアプリを中心としたデジタルマーケティング戦略で成功を収めています。同社のアプリは、ユーザーの位置情報や購買履歴を活用し、パーソナライズされたクーポンやおすすめ商品を配信します。また、AIを活用した音声注文機能なども提供し、ユーザーの利便性を高めています。
参考記事: Starbucks: Using Big Data, Analytics And Artificial Intelligence To Boost Performance

アドビ (ソフトウエアメーカー)

プロフェッショナル向け画像編集ソフトウエアを提供するアドビは、重要なアカウント(企業)をターゲットにしたアカウントベースマーケティング (ABM)においてパーソナライズ施策を促進しました。各アカウント向けにカスタマイズされたコンテンツの提供により、ウェブサイトのエンゲージメントを4倍に高め、クロスセル、アップセルの機会を増加させ、売上の向上に大きく貢献することができました。
参考記事: ABM Success Stories and Key Benefits

パーソナライズマーケティングの失敗事例

ターゲット (米国の大手小売業者) 

ターゲットは、購買データ分析に基づいて、ある女性客が妊娠していると推測し、ベビー用品のクーポンを送付しました。しかし、その女性はまだ家族に妊娠を伝えていなかったため、プライバシー侵害として大きな批判を浴びる結果となりました。
参考記事: How Target Figured Out A Teen Girl Was Pregnant Before Her Father Did

ヤフー (インターネット関連サービス)

ヤフーは、ユーザーの同意なしにメールの内容をスキャンし、広告のパーソナライズに使用していたことが発覚し、批判を受けました。これは、透明性の欠如とプライバシー侵害の問題を浮き彫りにしました。
参考記事: Yahoo is still reading some of your emails

事例から学ぶ教訓

パーソナライズマーケティングに取り組む企業は、テクノロジーの力を活用しつつ、顧客視点に立った倫理的な配慮と、創造性豊かなアプローチを心がける必要があります。

顧客データの倫理的な取り扱いの重要性

パーソナライズマーケティングを進める上では、顧客データの適切な取り扱いとプライバシー保護が何よりも重要です。データの利用目的を明確に示し、顧客の同意を得ることが不可欠です。倫理的な配慮を欠いたデータ活用は、ブランドへの信頼を大きく損ねる可能性があります。

パーソナライゼーションの適切な範囲の見極め

パーソナライゼーションは、顧客体験の向上に寄与する一方で、行き過ぎると不快感を与えたり、差別的であると受け取られたりするリスクがあります。個人のプライバシーに踏み込み過ぎない、適切な範囲でのパーソナライズ施策の実行が求められます。

透明性とユーザーコントロールの確保

パーソナライズマーケティングにおいては、データの利用方法や、パーソナライズの仕組みを顧客に対してわかりやすく説明することが重要です。また、顧客がパーソナライゼーションのレベルを自分でコントロールできる選択肢を用意することも、信頼関係の構築に役立ちます。

テクノロジーと人間の調和

AIなどのテクノロジーを活用したパーソナライゼーションは大きな可能性を秘めていますが、人間的な配慮や創造性を欠かせば、時として冷たい印象を与えかねません。テクノロジーと人間の感性を調和させ、共感を生むパーソナライズ体験を設計することが求められます。

 

まとめ

ウェブサイトやアプリ、広告、店舗、コールセンターなど、あらゆる顧客接点でパーソナライズを追求していくことが、これからのマーケティングに求められる姿勢だと言えるでしょう。先進のテクノロジーを活用しながら、顧客一人ひとりに寄り添った体験を提供していくことが、企業の競争力を高める鍵です。
また、MA、CDP、CMSなどのツールや、AI、機械学習のテクノロジーを戦略的に活用することで、より高度で効率的なパーソナライゼーションが可能です。企業は、これらのソリューションを有機的に連携させ、データドリブンなマーケティングオペレーションを構築していくことが求められます。

一方で、パーソナライズマーケティングを進める上では、顧客データの適切な取り扱いやプライバシー保護、倫理的な配慮も欠かせません。成功事例と失敗事例から学び、顧客視点に立った誠実なアプローチを心がけることが重要です。

パーソナライズマーケティングは、一朝一夕に実現できるものではありません。継続的な改善と最適化を積み重ねていくことが不可欠です。次回は、パーソナライズマーケティングの効果測定と改善について詳しく解説します。PDCAサイクルを回し、施策の有効性を検証しながら、段階的にパーソナライゼーションのレベルを高めていく方法論を紹介する予定です。

連載一覧

コメント

筆者紹介

石原強
株式会社アーチャレス 
代表取締役社長 / デジタルマーケティングディレクター

インターネット黎明期である1996年から20年以上、多数の企業Webサイト構築、運用を手がけてきました。成果を出せるWebサイトへの変革を目的としてデジタル戦略の立案からコミュニケーション設計、サイト構築、オンラインマーケティング施策の企画、運営、効果測定までトータルで支援。
企業の担当者と二人三脚でオンラインマーケティングの成果を伸ばしてきました。
2019年に企業のマーケティングDXを支援する株式会社アーチャレスを立ち上げました。理想的なマーケティングを実現するためのプラットフォーム「tovira」を自社開発し、デジタルマーケティングの導入から成果向上の伴走支援をしています。
株式会社アーチャレス 
https://www.archeress.co.jp/

バックナンバー