基幹システムデータを活用したパーソナライズマーケティング

第5回 データが語る成功の鍵!パーソナライズ施策の改善サイクル

概要

企業の持つ基幹システムには顧客に関する豊富なデータが蓄積されています。このデータをどのように分析し、オンラインマーケティングのパーソナライゼーションに活用するかを解説します。具体的なデータ分析手法や、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングメッセージの作成方法に焦点を当て、基幹システムの管理者がデータ活用のために知っておくべき最新のツールやプラットフォームについても触れます。

パーソナライズマーケティングは、顧客一人ひとりのニーズや嗜好に合わせたマーケティング施策を展開することで、顧客満足度の向上、エンゲージメントの強化、そして売り上げの拡大を目指す戦略です。しかし、パーソナライズ施策を実行するだけでは十分ではありません。施策の効果を適切に測定し、その結果をもとに改善を続けていくことが、パーソナライズマーケティングの成功には欠かせません。

本稿では、パーソナライズマーケティングにおける効果測定の重要性を再確認し、主要なKPIの設定方法や効果測定の手法について詳しく解説します。また、効果測定の結果をもとに、継続的な改善を行うためのプロセスについても触れます。事例を交えながら、具体的な効果測定と改善の方法をお伝えしていきます。

目次
パーソナライズマーケティングのKPI設定
効果測定の手法
パーソナライズマーケティングの改善プロセス
事例紹介
パーソナライズマーケティングにおけるシステム管理者の役割
まとめ

パーソナライズマーケティングのKPI設定

カスタマージャーニーマップや顧客データの分析を通じて、顧客一人ひとりのニーズや特性を理解したら、いよいよパーソナライズ施策の立案と実行のフェーズです。ここでは、適切なターゲティングと、パーソナライズされたメッセージ配信、ウェブサイトやアプリ、広告のパーソナライズが鍵を握ります。

主要なKPI

パーソナライズマーケティングにおいては、以下のようなKPIが主に用いられます。

売上、コンバージョン率

売上:パーソナライズ施策による収益への影響を直接的に測定する指標です。
コンバージョン率:サイト訪問者のうち、目標となるアクション (購入、会員登録など) を取った割合を示します。パーソナライズによる施策の効果を測る重要な指標の一つです。

エンゲージメント指標 (滞在時間、PV数、リテンション率など) 

滞在時間:ユーザーがサイトやアプリ上で費やした時間を示します。パーソナライズによってユーザーにとって関連性の高いコンテンツが提供されれば、滞在時間が増加すると期待できます。
PV数 (ページビュー数) :ユーザーがサイト内で閲覧したページの数を示します。パーソナライズによって、ユーザーが興味を引くページへの誘導が効果的に行われれば、PV数の増加につながります。
リテンション率: 一定期間内に取引を継続している顧客の割合。リテンション率の数値が上がるほど顧客との関係性も良好になり、継続的に利益を上げやすい状況であると判断できます。

顧客生涯価値 (LTV) 

 LTV(Life Time Value):顧客がその企業との取引を通じて生み出す利益の合計額を示します。パーソナライズによって顧客ロイヤルティが向上すれば、LTVの増加につながります。

顧客満足度 (CSAT) 、ネットプロモータースコア (NPS) 

CSAT (Customer Satisfaction) :顧客満足度を測定する指標です。パーソナライズによる顧客体験の向上が、CSATの上昇につながります。
NPS (Net Promoter Score) :顧客のロイヤルティを測定する指標です。パーソナライズによって顧客との関係性が強化されれば、NPSの改善が期待できます。

KPI設定の鉄則

効果的なKPI設定のためには、以下の点に留意する必要があります。

1. 事業目標と連動したKPIを設定する
2. KPIは具体的かつ測定可能なものにする
3. 短期的および長期的な指標のバランスを取る
4. 定期的にKPIを見直し、必要に応じて修正する
5. KPIの達成度を組織全体で共有し、アクションにつなげる

パーソナライズマーケティングにおいては、セグメントやペルソナごとにKPIを設定することも効果的です。それぞれの特性に合わせた目標を設定し、きめ細かな施策の効果測定と改善を行うことが重要です。

 

効果測定の手法

A/Bテスト

A/Bテストは、2つの異なるバージョンを比較して、どちらがより優れた結果をもたらすかを検証する手法です。例えば、ウェブサイトのデザインや機能の変更による効果を測定する際に用いられます。
A/Bテストでは、ユーザーを無作為に2つのグループに分け、一方のグループにはオリジナルのバージョン (コントロール) を、もう一方のグループには変更を加えたバージョン (バリエーション) を表示します。それぞれのグループにおける目標達成率 (コンバージョン率など) を比較し、統計的に有意な差があるかを検証します。

 マルチバリエイトテスト (多変量テスト)

マルチバリエイトテストは、複数の要素を同時にテストする手法です。例えば、ウェブサイトのヘッドライン、画像、ボタンの色など、複数の要素の組み合わせを比較できます。各要素に複数のバリエーションを用意し、それらを組み合わせてテストを行います。マルチバリエイトテストでは、各要素の効果だけでなく、要素間の相互作用も評価できるため、より最適な組み合わせを見つけることができます。
A/Bテストが一度に1つの要素しかテストできないのに対し、マルチバリエイトテストは複数の要素を同時にテストできる点が大きな違いです。ただし、テストの設計と分析はA/Bテストよりも複雑になります。

ユーザーアンケート

ユーザーアンケートは、ユーザーの主観的な評価や意見を直接収集する手法です。パーソナライズ施策の効果を測定する上で、ユーザーの満足度や施策に対する印象を把握することは重要です。アンケートを通じて、パーソナライズ体験の良し悪しを評価し、改善点を見いだすことができます。

インタビュー

インタビューは、少人数のユーザーに対して直接話を聞く手法です。アンケートよりも詳細な意見や感想を収集できるため、パーソナライズ施策の効果をより深く理解できます。また、ユーザーの行動理由や心理的な側面も掘り下げることができるため、施策改善に役立てることができます。

ヒートマップ解析

ヒートマップ解析は、ユーザーのクリックやスクロール、マウスの動きなどを視覚的に表現する手法です。パーソナライズされたページにおけるユーザーの行動を分析することで、どの要素が注目を集めているか、どの部分で離脱が起きているかなどを把握できます。これにより、パーソナライズ施策の改善点を特定し、最適化を図ることができます。

以上のように、A/Bテスト、マルチバリエイトテスト、ユーザーアンケート、インタビュー、ヒートマップ解析など、さまざまな手法を組み合わせることで、パーソナライズ施策の効果を多角的に測定し、継続的な改善につなげることが可能です。

 

パーソナライズマーケティングの改善プロセス

パーソナライズマーケティングの改善プロセスは、PDCAサイクル (Plan-Do-Check-Act) に基づいて行われます。PDCAサイクルを回すことで、パーソナライズ施策の精度を高め、より高度な顧客体験の提供につなげることができます。

効果測定結果の分析

パーソナライズ施策の効果測定を行った後、その結果を詳細に分析することが重要です。設定したKPIの達成度を評価し、施策の成功要因や改善点を特定します。また、セグメントやペルソナごとの結果の違いを分析し、それぞれに適した施策の方向性を見いだします。効果測定結果の分析は、次の改善ステップにつなげるための重要な基盤です。

仮説の立案

効果測定結果の分析を基に、施策改善のための仮説を立てます。例えば、「あるセグメントに対してパーソナライズされたレコメンデーションを提供することで、コンバージョン率が上昇する」といった仮説を立てます。仮説はデータに基づいて立てることが重要です。また、仮説は具体的かつ検証可能なものである必要があります。

施策の改善

立てた仮説に基づいて、パーソナライズ施策の改善を行います。例えば、レコメンデーションアルゴリズムの調整、パーソナライズされたコンテンツの最適化、新しいセグメントの設定など、さまざまな改善策が考えられます。改善する際は、優先順位を決め、段階的に実施することが効果的です。また、改善施策は、KPIの達成に直結するものであることが重要です。

再度の効果測定

改善施策を実施した後、再度効果測定を行います。これにより、施策の改善が成果に結びついているかを検証できます。再度の効果測定では、改善前との比較を行い、施策の有効性を評価します。効果測定の結果、改善が効果的であれば、その施策を継続・強化します。一方、効果が見られない場合は、さらなる改善策を検討する必要があります。

パーソナライズマーケティングの改善は、一時的な取り組みではなく、継続的なプロセスです。PDCAサイクルに基づいて、仮説検証と施策改善を繰り返すことで、顧客一人ひとりに最適化された体験を提供し、ビジネス成果の向上につなげることができるのです。

 

事例紹介

事例1:ECサイトのパーソナライズ施策の効果測定と改善

あるECサイトでは、ユーザーの行動履歴や購買履歴に基づいたパーソナライズされたレコメンデーションを導入しました。効果測定のために、A/Bテストを実施し、パーソナライズされたレコメンデーションを表示するグループと、従来の一般的なレコメンデーションを表示するグループを比較しました。

その結果、パーソナライズされたレコメンデーションを表示したグループでは、コンバージョン率が15%向上し、平均注文額も10%増加しました。一方、カテゴリーページでの離脱率が高いことが判明しました。

この結果を受けて、カテゴリーページのデザインを見直し、パーソナライズされたコンテンツを追加するなどの改善を行いました。再度A/Bテストを実施したところ、離脱率が20%減少し、コンバージョン率がさらに5%向上しました。

事例2:メールマーケティングにおけるパーソナライズの効果測定と改善

ある企業では、メールマーケティングにパーソナライズを導入しました。ユーザーの属性や行動履歴に基づいてセグメントを作成し、それぞれのセグメントに合わせたメールコンテンツを配信しました。効果測定のために、セグメントごとのメール開封率とクリック率を追跡しました。

その結果、パーソナライズされたメールを受け取ったセグメントでは、開封率が平均で30%向上し、クリック率も20%増加しました。しかし、特定のセグメントでは、開封率の上昇が見られませんでした。

このセグメントを分析したところ、メールの件名と本文の内容が、セグメントのニーズに十分に合致していないことが判明しました。そこで、このセグメントに対するメールコンテンツを見直し、より関連性の高い内容に改善しました。改善後、このセグメントの開封率は25%向上し、クリック率も15%増加しました。

事例3:モバイルアプリでのパーソナライズ施策の効果測定と改善

あるニュースアプリでは、ユーザーの閲覧履歴や興味関心に基づいてパーソナライズされたニュース記事をレコメンデーションするように設定しました。効果測定のために、パーソナライズされたレコメンデーションを表示するグループと、一般的な人気記事を表示するグループに分けて、エンゲージメント指標 (滞在時間、記事閲覧数など) を比較しました。

その結果、パーソナライズされたレコメンデーションを表示したグループでは、1ユーザーあたりの平均滞在時間が25%増加し、記事閲覧数も30%向上しました。しかし、朝の時間帯では、パーソナライズの効果があまり見られませんでした。

この原因を分析したところ、朝の時間帯はユーザーの行動履歴が少ないため、パーソナライズの精度が低下していることが判明しました。そこで、朝の時間帯には、ユーザーの属性情報を重視したレコメンデーションを行うようにアルゴリズムを調整しました。この改善により、朝の時間帯のエンゲージメント指標も15%向上しました。

これらの事例から、パーソナライズ施策の効果測定と改善のプロセスが、ビジネス成果の向上に直結することが分かります。継続的なデータ分析と仮説検証、そしてPDCAサイクルに基づく改善が、パーソナライズマーケティングの成功には不可欠なのです。

 

パーソナライズマーケティングにおけるシステム管理者の役割

A/Bテストやマルチバリエイトテストのためのシステム環境の整備

パーソナライズ施策の効果測定には、A/Bテストやマルチバリエイトテストがよく用いられます。システム管理者は、これらのテストを実施するためのシステム環境を整備する役割を担います。

具体的には、テストを管理するためのツールを導入し、ウェブサイトやアプリにテストを実施するためのコードを設定します。
テストの実施には、ユーザーをランダムにグループに割り当てる機能や、各グループに対して異なるバージョンのコンテンツを表示する機能が必要です。システム管理者は、これらの機能を実装し、テストがスムーズに行えるようにシステムを最適化します。

効果測定ツールの導入と運用

パーソナライズマーケティングの効果測定には、Google AnalyticsやAdobe Analyticsなどの専用ツールが用いられます。システム管理者は、これらのツールを導入し、運用する役割を担います。

具体的には、ツールの選定、インストール、設定を行います。また、ツールを使って収集したデータを、マーケティング部門が利用しやすいように加工し、レポートを作成します。ツールのアップデートや、トラブルシューティングも、システム管理者の重要な仕事です。

マーケティング部門との連携

パーソナライズマーケティングの成功には、マーケティング部門とシステム管理者の緊密な連携が欠かせません。システム管理者は、マーケティング部門の要求を理解し、それを実現するためのシステムを設計・開発する必要があります。

具体的には、マーケティング部門からの施策提案に対して、技術的な観点からアドバイスを行ったり、実現可能性を検討したりします。また、マーケティング部門が効果測定のためにどのようなデータが必要かを理解し、そのデータを提供できるようにシステムを整備します。

マーケティング部門との定期的な会議を開催し、施策の進捗状況を共有したり、改善案を議論したりすることも重要です。システム管理者がマーケティングの戦略を理解し、マーケティング部門がシステムの制約を理解することで、より効果的なパーソナライズマーケティングを実現できます。

以上のように、システム管理者は、効果測定に必要なデータの収集と管理、テスト環境の整備、ツールの導入と運用、そしてマーケティング部門との連携を通じて、パーソナライズマーケティングの成功に重要な役割を果たします。

 

まとめ

本稿では、パーソナライズマーケティングにおける効果測定と改善の重要性を解説しました。

効果測定のためには、売上、コンバージョン率、エンゲージメント指標など、適切なKPIを設定することが不可欠です。A/Bテストやマルチバリエイトテストなどの手法を用いて、パーソナライズ施策の効果を詳細に分析します。

効果測定の結果をもとに、PDCAサイクルを回すことで、継続的な改善を実現します。仮説の立案、施策の改善、再度の効果測定を繰り返すことが重要です。ECサイト、メールマーケティング、モバイルアプリでの事例を見ても、効果測定と改善のサイクルが成果につながっています。

パーソナライズマーケティングの実践において、システム管理者は、効果測定に必要なデータの収集と管理、テスト環境の整備、ツールの導入と運用など、技術的な側面からマーケティング部門をサポートする重要な役割を担います。

効果測定と改善は、パーソナライズマーケティングの成功に直結するプロセスです。マーケティング部門とシステム管理者が連携し、データドリブンな意思決定を行うことで、顧客一人ひとりに最適化された体験を提供し、ビジネスの成果につなげていくことが求められます。

 

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筆者紹介

石原強
株式会社アーチャレス 
代表取締役社長 / デジタルマーケティングディレクター

インターネット黎明期である1996年から20年以上、多数の企業Webサイト構築、運用を手がけてきました。成果を出せるWebサイトへの変革を目的としてデジタル戦略の立案からコミュニケーション設計、サイト構築、オンラインマーケティング施策の企画、運営、効果測定までトータルで支援。
企業の担当者と二人三脚でオンラインマーケティングの成果を伸ばしてきました。
2019年に企業のマーケティングDXを支援する株式会社アーチャレスを立ち上げました。理想的なマーケティングを実現するためのプラットフォーム「tovira」を自社開発し、デジタルマーケティングの導入から成果向上の伴走支援をしています。
株式会社アーチャレス 
https://www.archeress.co.jp/

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