今年はいたるところで「想定外」という文字が飛び交いました。
その年の流行語大賞(毎年12月頭に発表)にノミネートされるのでは、という声を聞いたことがありますが、大災害の犠牲者や被災者への配慮と、その言葉がもつマイナスイメージを考えると、おそらく受賞することは無いでしょう。今回は、本コラムの趣旨からは少し外れるかもしれませんが、最初に災害と「想定外」について考えてみたいと思います。
1.原発事故は想定外だったのか?
「想定外」という言葉が使われるとき、なんとなく、そうした事態を想定・想像・予測することすらできなかった、というニュアンスが伺えます。想定・想像・予測すらできなかったのだから、その結果は天災として諦めるほか無いのだと主張しているようにも感じられます。
もちろん、東日本大震災の強烈な揺れと同時に発生した巨大津波そのものは、天災に違いありません。人間にこの自然現象を止める方法はありませんから、起こってしまった時に備えて、建物の耐震化を進めたり、津波や火災から迅速に避難する方策をとっておくことで、被害者を減らす努力をするしかありません。なんとか天災から生き延びさえすれば、国や地方自治体からの救援を待つことができます。神戸が1995年に起こった阪神・淡路大震災から復興を果たしたように、いずれは元の地に戻ることもできるでしょう。自然災害の多い日本列島では、昔からそれを繰り返して来たのです。
注)ただし、今年の9月2~3日に和歌山県・奈良県・三重県を襲った台風12号による山間部の土砂崩れ被害では、田辺市本宮町で集落が壊滅し、住民全員が他所に移ることによって集落の「解散式」が行われた例はあります。
しかし、福島で起こった原発事故は、こうした自然災害とはまったく別の様相を呈しています。廃炉になるまでの30年を経過しても、地域に放出された放射性物質を完全に取り除くことは困難でしょう。また、廃炉工程で発生する高濃度の放射性廃棄物を一次保管するためにも、事故を起こした原発周辺に住民が戻ることは困難でしょう。おそらく、国内にある米軍基地のように、国が土地を借り上げるか、買い取った上で、東電に貸すしか方法はなさそうです。つまり、原発の周辺住民は元の地に戻ることができない可能性が非常に高い。
地震と巨大津波が襲った場合に、原発が最悪の事態である全電源喪失(SBO:Station Blackout)を起こす可能性があり、そこから炉心冷却の失敗、炉心溶融と放射性物質の大量放出という事態に陥ることは工学的には予測されていたはずです。とすれば、今回の原発事故は「技術的に予測はできるが、経営的に予防策へ投資することをしなかった」というリスクを、住民に説明しないまま、東電と国が受容していた事に他なりません。そして、そのリスクが現実のものとなった、というのが現在の状況です。
このような、電力会社と国が住民に黙ったまま勝手に受容しているリスクが、全国にどれだけ分散しているのか分かりません。ストレステストの結果などに書かれているのかもしれませんが、一般市民にはそれが平易に伝わっていないと思います。平易に伝えようとしても、すでに信頼が失墜してしまっている電力会社や国に説明能力があるとは思えません。
2.原発事故リスクは全国に残存している
かといって、今すぐ稼働中の原発を止めろ、などといった議論にあまり意味があるとも思えません。原子力発電所の稼動を停止しても、そこに燃料棒は残ります。圧力容器内の燃料棒も、プール内の使用済み核燃料も崩壊熱を出し続けますから、何年も冷却しつづけなければなりません。今すぐ原発の稼動を止めたとしても、何らかの自然災害や人為的ミスによってこれらの冷却に失敗すれば、福島と同様の事故が発生するリスクは残っているのです。
つまり、原発事故のリスクを減らしたいのであれば、原発を止めることよりも、「技術的に予測はできるが、経営的に予防策へ投資することをしなかった」というリスクを減らすことが必要なはずです。すでに燃料棒はそこに存在してしまっているのですから、その現実から目をそらしても意味はなく、自然災害が発生しても確実に冷却できる対策が求められているのであって、原発の稼動を止めるかどうかは、その後の問題でしょう。
結論から言えば、現在の日本列島には、まだまだ「技術的に予測はできるが、経営的に予防策へ投資することをしなかった」という原発事故リスクが、全国に残存している、ということになります。企業がBCPを考えるとき、1年前であれば、原発事故に関するリスクまで考えることは無かったと思います。しかし今や、これを無視することはできなくなりました。
3.全国に分散したリスクに対応するIT
自然災害などによる被害が生じ、企業活動が停止してしまった時、ビジネスの観点からは、社員の保護と同時に、一刻もはやく顧客への商品やサービスの提供を再開する努力が必要です。商品やサービスの提供が止まってしまうと、顧客は他の商品やサービスに移っていくでしょうし、従業員は仕事を失うことになります。これが最悪のケースです。
今後の大地震発生の可能性や、先に述べた全国に分散している原発事故リスクを考えると、ビジネスの拠点が一箇所、というのはあまりにも脆弱すぎます。このリスクに対抗するには、「ビジネスの分散化」が必要でしょう。
最低でも東西の2拠点や、北海道や沖縄、海外で業務を行う。時差や地震などの自然災害の少なさを考えれば、オーストラリアも候補地に上がってくるでしょう。部品や商品の在庫が必要であれば、東西2拠点での在庫を前提とした配送計画を作る。平常時はそれぞれの拠点に適した業務を担当し、災害に見舞われた場合は、生き残った拠点へ業務を集約した上でサービス提供を続行しつつ、被災地での業務再開準備を進める、という考え方になるはずです。これをスムースに進行させるためにも、複数の拠点で相互にデータのバックアップを行う事も必須となるでしょう。
ヒトには家族や生活のための住居があります。業務の拠点が移動したからといって、ヒトは簡単に移動することができません。非常時とはいえ、家族を残して単身赴任させることにも限界があります。
とすると、在宅勤務という形態をとらざるを得ません。
こうしたBCPの実行に必要なIT技術そのものは揃っているわけです。しかし2011年までは、実際に予算をかけ、具体的な準備をしている企業は少なかったはずです。2011年を境にして、私たちを取り巻く災害リスクが明確になってきた以上、業務を日本全国に分散化させる動きは一気に動き始めるだろうと予測しています。
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