SLA設計のポイント

【第2回】 ITシステム運用 SLAに対する認識;SLA導入の目的;SLA導入

概要

ITシステム運用において、SLA導入を検討、実施する上での考え方、進め方、サービスレベル評価項目のサンプル等の情報を掲載いたします。

今回は、ITIL4のコンセプトをベースにした「アジャイルITSM変革アプローチ パート1」をご紹介したいと思います。

目次
ITシステム運用 SLAに対する認識
ITシステム運用 SLA導入の目的
【ITシステム運用 SLA導入】

ITシステム運用 SLAに対する認識

SLAについては、サービスの提供者と利用者それぞれの立場の違いや様々な思いにより、ITサービスについて共通した認識として捉えられていないのが実状としてあるように感じます。
サービス提供者側の立場から見たSLAでは、「高品質、安定的な運用の提供」という観点からサービスレベルを設定しようとしていますが、その反面、ハードウェアやネットワークを多重化するなどの設備的要素に重点をおいてサービスを提供するように焦点が向いているのではないかと思えます。
一方、サービス利用者側の立場でSLAを見ると、ITサービスに係るコストを、提供されるサービス内容に関係なく抑制するために、自分たちの立場を常に優位に保つためのサービスレベルを設定しているように思えます。当然のことながら発生するコストを如何に抑えるかは、利用者側では重要視されており、サービス提供者との溝が深まるひとつの要因になることがあります。
社団法人 電子情報技術協会(以下、JAITAと称します)が集計した企業アンケートの結果では、「SLAは必要と考えている」と答えた企業が約7割近くに上っていますが、必要と考えながらもSLAを導入する際の問題点として、以下のような阻害要因が挙げられています。


<提供者側の問題点>
・サービスレベルの定義が難しい
・SLAの効果的な測定方法/チェック体制など想像以上に時間と費用を要する
・現状のSLAは守れることしか規定していない

 

<利用者側の問題点>
・SLAの項目/レベル値の設定が難しく、提供者側とどのような協議をすれば良いかわからない
・提供者側の小回りがきかなくなった/サービスの融通がきかなくなった
・SLAの範囲規定が難しく、曖昧さがあったほうが良いと感じている

 

<両者の問題点>
・SLA契約は保守など基本の一部にとどまっており、現状でのSLAの真の評価が困難な状況である
・提供者側は業務目標を設定しやすいが、利用者側はメリットを感じない
・SLA導入での、コストアップやサービスレベル低下が不安である

 

上記の阻害要因からもうかがえるように、サービスの提供者と利用者間ではSLAに対する認識に大きな格差が生じています。

 

ITシステム運用 SLA導入の目的

第1回掲載の中で、SLA導入において以下のような文章を記述しています。
“SLAの導入において、サービス提供者と利用者の間でITサービスの内容、範囲、提供状況を測定・分析可能な単位で明確に規定することで、目指すべき目標や守るべき期待値の達成状況を管理することが重要となります。これによりSLAは、コスト及びリスクとサービスレベルとのバランスを最適化するための道具として機能します。”
ここで意識しておきたいのは、「リスク」とは、サービス利用者側における「ビジネスリスク」であり、サービス提供者はサービス利用者側のビジネスの一部を担っているということです。
サービスの利用者は、提供されるITサービスを活用することによって企業活動を行っており、提供されるITサービスの機能が停止した場合、利用者側のビジネスに直接または間接的に影響を及ぼすことが発生します。
サービス提供者はITサービスの停止によって、利用者側のビジネスに与える機会損失の度合いを、提供しているサービス内容ごとに考慮する必要があります。
最近では「企業のリスク管理」として、企業の事業継続性計画(Business Continuity Planning)の重要性が急速に高まっており、いろいろな取り組みが始まっています。
そのため、サービス提供者がSLAを導入するにあたっては、サービス利用者側の事業戦略や業務特性等を充分に理解し、サービスレベル設定を実施する上ではコスト及びリスクを常に意識しておくことが重要だということになります。
ただし、サービス利用者が不特定多数存在するような場合、例えばASP(Application Service Provider)やMSP(Management Service Provider)などのようなサービス形態(1:n型)の場合では、サービス提供者が自社の事業戦略にもとづいてサービスレベルを事前に設定し、サービスを提供することがほとんどであるため、サービスレベルを個別に設定することは困難となります。
そのため、サービス利用者側の事業戦略や業務特性を理解してもサービスレベル設定に反映できない場合もあります。
SLAを導入するうえで、サービスの利用者から提供者に「サービスへの対価」が支払われますが、サービスの内容と対価に見合ったサービスの価値として捉えられています。
利用者側から見たサービスの価値には以下の3つの要素があるとされています。

※ITサービスのマネジメント管理(ITSM)のサービスの項目は、ITILで提唱されている要素です。

SLA導入におけるサービスの価値はサービス利用者により選択され、サービスの利用目的を明確にしてサービスの内容と対価のバランス(適正化)を図ることが可能となります。
一方、サービス提供者は、ITサービスの付加価値を向上させる手段としてSLAを導入することにより、サービス利用者との間でWin-Winの関係を生み出すことができるようになります。
SLA導入の目的としては、サービス提供者とサービス利用者間の責任を明確にし、インセンティブやペナルティを課すものとして導入するものではなく、相互間のビジネス関係をより強固にするために必要なものだと考えます。

 

【ITシステム運用 SLA導入】

SLA導入の目的でも触れましたが、SLAには広義と狭義の使い方があるとされており、その関連は以下の”サービスの階層構造”として図1で表すことができます。

 


図1 サービスの階層構造

SLA導入の狙いは、サービス項目とサービスレベルを可視化して、サービスレベルとコストのバランスを適正化していくために、サービス利用者が主体的にサービスレベルとコストをコントロールするメカニズムを作り出すことだと考えられています。
SLAの導入要件として、次の2つのポイントに整理することができます。

ITサービスの仕様定義を行い、サービス利用部門の業務ごとにサービス料金を設定して課金する
サービス利用部門のサービスの利用目的、業務上または業務の目標などと適合したSLAとする
上記の2つのポイントの実現により、サービス利用者はサービスレベルとコストを自部門の目標に合わせて選択でき、その結果として投資対効果のコントロールが可能になると考えられます。
しかし、現状では業務委託形態による契約で、サービス提供者がサービスの内容やサービスレベルを決定している企業が多いようであり、突然サービス利用者に対して、SLAの導入を迫ることは非現実的であることはいうまでもありません。
SLAの導入にあたっては、部分的な導入からサービス範囲を徐々に拡大するなど、サービス利用者側の理解を得て、実現する必要があります。

次回は、SLAプロセスの進め方について、整理します。

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筆者紹介

庄司 憲(しょうじ あきら)
株式会社ビーエスピーソリューションズ
ITサービスマネージメントグループ

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