アウトソーシングのポイント

第1回 ITシステム運用 アウトソーシングの目的と効果、実施時に考慮すべきポイント

概要

ITシステム運用のアウトソーシングを検討、実施する上での課題、確認事項、留意点、そして実施したユーザ企業で問題となっている点等の情報を掲載いたします。

目次
ITシステム運用 アウトソーシングの目的と効果
アウトソーシング実施時に考慮すべきポイント

ITシステム運用 アウトソーシングの目的と効果

最近の企業をとりまく環境は、あらゆる面で厳しさが増してきています。

急成長(右肩上がり)時代から安定成長の時代、そしてさらなる成長の時代
国際標準化の動き
情報技術革新のスピード加速
など。こうした中で、企業自身には「いかに本業に専念し、ビジネスを拡大確実なものにしていくか」が問われています。情報システムに関する業務は、一般に企業にとっては、本業とは異なる「別の専門領域」であることから早くからアウトソーシングが行われ、人材の本業へのシフトが行われてきています。
また、情報技術(IT)革新は高速にスピートをあげ、ますます専門性が求められるようになってきたことから、人材育成が非常に困難な状況になってきています。
さらに、阪神大震災、中越地震、大規模な自然災害等の経験から、コンピュータシステムのバックアップ体制などの安全管理に対する要望が一層強く求められるようになってきました。また、昨今発生する大規模なシステム障害による企業の基幹となる業務の停止による財物への直接的な被害も問題視されています。

こうした人材育成、コスト低減・抑制、新しい情報技術(IT)、事業継続のための安全性確保を目的とした、「アウトソーシング」への取り組みは依然として根強いものがあります。
また、「アウトソーシング」と同じような考え方で、企業の情報システム部門を分社化したり、コンピュータメーカとの共同出資でIT運用サービス会社を設立する動きもあります。企業の本業とは異なる別の専門領域をもつ情報システム部門は、最新の情報技術を有し、世の中の環境変化に迅速に対応でき、高収益体質のビジネスを期待され、独立採算の経営体質を前提とした分社化方針や新たな会社設立といった動きをとっています。そうしたIT運用サービス会社は、親会社1社や親会社のグループだけを顧客にもつには不安がつきまといます。そこで親会社関連以外の顧客確保に真剣に取り組み始めており、これが「アウトソーシング」市場を活性化させています。
そうした中、 「アウトソーシング」については、業務委託を発注している側も、受注している側も同じ悩みを抱えています。「アウトソーシング」は、発注する側にとっても、受注する側にとっても「本来の狙い」を充分に満たしているのでしょうか?
また、お客様から「アウトソーシングは本当に成功しているのか」、「アウトソーシングによって本当にコストは削減できているのか」といったご質問をよくいただきます。
しかし、明確な答えを示すことはできません。「アウトソーシング」をどんな目的でどのような方法で導入し、「アウトソーシング」後にどのような管理を行うかによって成功も失敗もあるからです。
また、「アウトソーシング」実施の目的、効果も明確にしておく必要があります。
表1に、一般的に言われる「アウトソーシング実施時のITシステム運用部門の課題とアウトソーシング実施の目的・効果」を示します。

表1.アウトソーシング時の課題と実施目的効果


アウトソーシング実施時に考慮すべきポイント

アウトソーシングを行うにあたって、以下のポイントを明確化することが重要です。それにより、かかるコストは勿論のこと、発注者側/受注者側の関わり方や発生する問題は、異なってきます。
発注者側として考慮すべきポイントとして、

委託先ではどのようなサービスがあるか、その内、どの部分をどのように利用するか
サービスのレベルをどこに設定するか
選択したサービスは、どのようにコストがかかるか(コスト増の要因はなにか)
を把握することが重要となります。


[1]ITシステム運用アウトソーシング サービスの例

表2として、サービスの種類、概要、内容例を示します。詳しくは、検討時に、複数の委託先候補からサービスメニューを取り寄せて比較されることをお勧めいたします。

表2.アウトソーシング サービスの種類、概要、内容例


[2]サービスレベルの設定の例

サービスの種類、概要、内容を理解したあとは、複数の委託先候補の中から、予め設定したいくつかの比較指標をベースに委託先を絞り込み作業になります。従来は、コスト主導型で「費用 対 効果」が第一のポイントでしたが、現在は、提供されるサービス品質の維持・向上(SLA)のプロセスを如何に実施していくかも重要なポイントとなっています。また、受託する側であるアウトソーサーにとっても顧客との良好な関係を築き、構築していくにあたって上記のプロセスは重要なポイントとなっています。
サービス品質の維持・向上(SLA)については、当サイトの別ページに掲載がありますので、詳しくはそちらを参照ください。具体的なSLA設計のポイント等が掲載されています。
当ページでは、具体例として、表3.アウトソーシングSLA基準値をご紹介いたします。

表3.アウトソーシングSLA基準値(例)


[3]選択したサービスは、どのようにコストがかかるか(コスト増の要因はなにか)

SLAの設定により、標準的なコストが算定されます。次のステップとして、現状の運用ヒアリングを受託者であるアウトソーサーは、発注者側に実施します。その際に、以下のチェックポイントのような内容が発見された場合は、コストが増加する要因(受託後の運用の手間がかかるため)となります。
発注者側は、事前に自社にての運用「カイゼン」を実施すべき項目と理解していただくことが重要な項目と理解いただければと存じます。
業務内容の詳細を把握する必要がある
運用作業が多い(データの受け渡し、帳票の仕分け・配送、処理前の準備作業)
トラブルが多い、対応に手間がかかる
オペレーション作業、ハンドリング作業が多い
処理が定例化されていない
処理の都度、組み立てや流れを調査しながらスケジュールをする必要がある
ドキュメントが不備なため、運用がわかりずらい
資源を多く使用する(CPU,デイスク、通信)
問い合わせが多い(ユーザ部門、開発部門、運用部門から)
業務の追加、変更が多い
トラブルを引き起こす要素が多い
時間的な拘束(時間外、休日、深夜等)が多い
以上のような、アウトソーシング実施時に考慮すべきポイントをしっかり把握し、委託先の選定、SA設定、コスト交渉を実施する必要性があります。

次回は、いよいよアウトソーシングを実施する段階に入り、

  • 発注者側、受注者側の役割
  • 実施にあたっての詳細ヒアリング項目(確認項目)
  • 実施後に発生する諸問題
  • について整理します。

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筆者紹介

株式会社ビーエスピーソリューションズ

運用プロフェッショナルサービスグループ

佐藤陽一

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