概要
データ駆動型経営が企業の重要な取り組みと位置付けられた現在、データを企業の宝とする仕組みと活動、つまりデータマネジメントを抜きにデジタルトランスフォーメーションを推進することはできません。最も信頼できるデータを保全し、タイムリーに活用の現場に提供するデータマネジメントの概要と施策をご紹介いたします。
企業活動における収益力の強化のみならず、新たな事業による価値創造を目指す経営戦略の重要なキーワードとして、「データ活用」が定着しつつあります。
データ活用自身はあくまでも手段に過ぎないため、単にBIツールや機械学習、データマイニングなどのデータ分析技術を導入しても、その取り組みだけではビジネス価値を得ることはできません。
うまくデータ活用ができている企業とそうではない企業の違いはどこにあるのでしょうか。
その違いは、データ活用云々の前に、経営にとって意思決定のスピードとその質の向上こそが強みであることを、企業として認識しているかどうかにあります。
そして、経営スピードと質の向上のためには意思決定プロセスや組織、企業風土そのものが変革されなければなりません。
近年、多くの企業が保有しているデータに改めて注目し始めました。新型コロナウイルスによる急激な経済活動の落ち込みに対応するために、データを活用して事業に役立てよう、新たなビジネスチャンスを創造しようとする動きが大きく加速したものと思われます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の波
冒頭に申し上げましたとおり、データを共有し、活用できる環境を構築するだけでは革新的で差別化されたサービスの創造は実現できませんが、新型コロナ以前から「モノからコト」への変革の波は認識されていました。
いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の波です。
図1.をご覧ください。System of Recordは、いわゆる従来の業務システムの効率化の世界です。RPAの適用などはこの領域のデジタル化になると認識しています。
System of Engagementは、お客様と直接つながることによって価値提供や収益を上げるためのシステムを指します。
図1
このSoR、SoEを連携させて、いろいろな分析や判断を行い、サービスの付加価値を上げていく、それが、真ん中のSoI、System of Insightになります。(図1.)
どの企業も「モノからコトへ」の変革の中で、消費者満足の最大化を、「データドリブン」で実現していく、そのサイクルに合わせて意思決定プロセスや組織、自社の企業風土も変わっていく…、これこそがDXによる変革の波の意味するところではないでしょうか。
データ活用による新たな収益の獲得を目指す大きな潮流の中で、「データ」はヒト、モノ、カネに続く第4の企業資産といわれるようになりました。
しかし、データ活用の取り組み結果としてビジネス価値の向上につなげるには、必ず乗り越えるべき壁があります。
企業情報システムを維持していくためには「システム管理」および「システム管理者」の役割は広範囲です。社内のITシステムや基盤の構築、保守やセキュリティ、ITリソースの管理やメンテナンスと多岐にわたります。
サーバー、PC、ネットワークや周辺機器などがITの関連資産といわれていますが、
高まるデータ活用ニーズを背景に、重要な資産といわれるようになった「データ」はどのように管理されているのでしょうか。
「使えるデータ」を誰もがいつでも活用できる資産として、管理されている状態を整備し、維持する。つまり「データマネジメント」を組織的に推進していくことを避けて通るわけにはいかないのです。
実は、データ活用の現場ではビジネス(業務)側、情報システム(IT)側双方にさまざまな課題が山積しているのです。
「データ分析結果を見てもインサイト(洞察)が得られない」、「何を分析すればよいかわからない」、「組織間の壁に阻まれ、データ活用の幅が広がらない」、「データの在り処がわからない、欲しいデータがすぐに取得できない」…。
今まで業務システム担当者のメインの仕事は、現場のオペレーションを問題なくまわせるように業務システムを運用・保守することであり、データの活用のサポートまでは担うべき役割ではなかったため、知らなくて当然なのです。なぜならば、今ある業務システムは、構築当時のビジネス課題を機械化(システム化)することで解決し、その後運用していくことを目的に構築されたからです。
一方でデータを活用していくためには、まずデータから事実や変化の兆しに気づき、分析やアクション(対策活動や改善活動)につなげること、そしてその定常化に向けた維持活動、ナレッジの蓄積のための運用フローと体制、業務設計が必須となります。今までのIT管理とは全く異なる知見が求められるのです
つまり、「データ駆動型経営」、「製品中心から顧客中心、サービス中心へ移行する新しいビジネスモデル」を、現在の組織を基に旧来のシステムや役割だけで実現すること自体、そもそも難しいといえるのではないでしょうか。
DX先進企業の多くが新たなデジタル子会社をつくり、今までのシステム子会社とはまったく違うミッションを持たせる動きが活発化しているのはこのためです。
データマネジメントのグレーゾーン
また、デジタル化という手段が先行する中で、データ駆動型経営の取り組みが「自社業務」が起点なのか「顧客」が起点なのか。そして、その目的が現行業務の改善レベルなのか、ビジネスモデルの変革を目指しているレベルなのか、似ているようで両者には大きな違いがあります。
企業活動のためには正しいデータがまずあって、そのデータが即時に活用できる状態にあるのかが重要です。ですが、先ほど申し上げました通り、必要なデータ、信頼できるデータを提供すること自体が難しい企業も少なくありません。
最も信頼できるデータとそのライフサイクルを一元管理し、その品質を維持し続ける役割は、すでに1970年代には重要な取り組みと認識されていました。
が、その役割を果たしていく機能を維持することは、ビジネス側にとっても情報システム側にとっても簡単には解決できない課題とされてきました。
今までは、情報システム部門側がシステムを構築し(データを格納する器をつくり)、ビジネス側がデータを登録し、修正、削除も行う、という役割分担が想定されていました。
その役割分担が前提にあったものの、1980年代のメインフレーム/汎用機が主流の時点でデータの品質に係る責任を情報システム部門側が担うべきか、いやそれはビジネス側の果たすべき役割ではないか、といった議論が既になされていたのです。そして、クライアントサーバーによる分散型システムやERPのブームを経て、クラウドリフトが当たり前となった現在も、答えの出ない永遠のテーマとなっているのも事実です。
そして現在は、DXによる変革の本質は「データ駆動型経営」の実践にあることは共通の認識となりつつあり、情報システム部門ではなく業務部門主導で、データ活用基盤が導入されることも珍しくなくなりました。そのため、情報システム部門、業務部門両者のデータ管理に関する役割分担が、更に不明確になってきたのです。私達はそれをデータマネジメントのグレーゾーンと呼んでいます。(図2.)
図2
DX推進が加速する今日、経営側はデータ活用によって何らかのインサイトが得られると思い、情報システム部門側にその成果を求めるようになりました。しかし、情報システム部門側はデータレイクのような器や基盤は用意できたとしても、業務で求められるデータ活用のニーズまでを詳しく共有している訳ではありません。
ビジネス側もITを活用しなければビジネスが回らなくなりますが、何のためのデータ活用なのか、そのアウトカムを共有できなければIT自体が宝の持ち腐れになってしまいます。
DXの取り組みが2周目に入ったとされる現在、これからもビジネス側である業務部門とIT側である情報システム部門の役割が曖昧なまま、時間が経過していくことは間違いありません。
そして、ワンチームとしてDXを推進していくための、データ管理、データマネジメントに関する新しい役割、組織がますます必要になっていくと思われます。
この連載では、新たな時代のデータマネジメントを推進していくための組織づくりをご紹介してまいります。
次回はその背景にあるDXとデータ駆動型経営についてさらに詳細に解説していきたいと思います。
連載一覧
筆者紹介
佐藤 幸征(さとう こうせい)
1998年、ビジネスデータの設計と標準化に特化した方法論に基づくコンサルティングと教育研修を事業基盤とする株式会社データ総研に入社。営業グループ配属後、2019年8月代表取締役社長に就任。国内リーディングカンパニーを中心に人材育成や組織づくりの啓蒙活動を行い、新たな時代のデータマネジメントとデータの資産価値向上の支援に従事している。
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