概要
データ駆動型経営が企業の重要な取り組みと位置付けられた現在、データを企業の宝とする仕組みと活動、つまりデータマネジメントを抜きにデジタルトランスフォーメーションを推進することはできません。最も信頼できるデータを保全し、タイムリーに活用の現場に提供するデータマネジメントの概要と施策をご紹介いたします。
前回はDXを背景にビジネス側である業務部門とIT側である情報システム部門の役割が変化し、データマネジメントを推進していくためには新しい組織が必要であるというお話をいたしました。
データマネジメントとはそもそも何かの本題に入る前に、今回はデジタルトランスフォーメーション、DXの本質とは何か、そのためのデータ駆動型経営の本質とは何か、をお話したいと思います。
DXの本質は企業文化と組織の変革
ご存じとは思いますが、デジタルトランスフォーメーション、DXとは、単なるデジタル化の取り組みではないということです。
私たちデータ総研は、そのデジタル化について、業務の効率化、最適化をデジタイゼーション、デジタル技術を活用することによる顧客起点の新たな価値創造、自社の変革に資する活動をデジタライゼーションとして、両者を使い分けし、DXの本質は企業文化と組織そのものの変革にある、と定義しています。
デジタルトランスフォーメーションが認知され始めた初期の頃は、そのデジタイゼーションとデジタライゼーションの違いがあまり明確になっておらず、例えば、RPAを導入すればDX、のような誤解もあったように思います。
デジタライゼーションが、デジタルによる単なる効率化ではなく、自社のビジネス変革を行う、顧客の体験価値を変えていくための取り組みだとした時に、大事なのは、企業組織がデータを活用して、変革に向けた意思決定していくプロセスにおいて、その企業における意思決定の判断基準そのものがDXによって大きく変わり、場合によっては組織そのものも大きく変化することになります。それがレガシー企業文化からの脱却なのだ、ということになります。古い基幹システムを新しい基盤に置き換えたとしても、企業文化が変わるわけではないのです。
デジタイゼーションとデジタライゼーションの違いについて、もうひとつのポイントは、視点の違い、主語の違いです。
デジタライゼーションは主語が顧客です。
デジタライゼーションは、お客様を起点にどう自分たちのビジネスやサービスによってお客様の体験価値を変えていくかを考えていくことになります。
デジタイゼーションの場合は、主語は「自社業務が」となっている状態です。まずは自社の業務を効率化していくことを優先しています。
自社業務中心、自社の視点で考えて、どういう商談をしたのか、在庫どれぐらいあるのか どれだけ販売したのか、また、それらをタイムリーに把握すること自体は、事業を運営していく上では非常に重要です。
しかし、顧客中心の思考、つまり主語が顧客に変わるということは、事業の施策としてやるべきことも変わってきますし、そうなれば、先ほど申し上げた通り、経営やマネジメントの意思決定の基準も変わるということです。(図3)
図3
顧客の満足度を起点に、お客様が満足しているのかどうか、課題は何かという、今までと逆の視点から見ていくことになりますので、企業の戦略としても単に良いモノを作って売ればよいという話ではなくなります。
デジタル化という技術的なHow toだけでなく、新しいか価値を創造する、新しいビジネスモデルを生み出すということに加え、DXは組織や行動の変革そのものだからこそ難しいのだ、ということです。
データ駆動型経営、データドリブン経営の重要なポイント
経済産業省のDXレポート2では、良い意味でも悪い意味でも話題になった最初のDXレポートから2年が経過した中で、DX推進の成熟度について自己診断をされた企業の集計と分析結果も公開されました。
そのレポートで私自身が驚いたのは、自己診断した企業の95%がDXにまったく取り組んでいないか、部門の単位で取り組み始めた段階である、という集計結果でした。
これは、新型コロナのような事業環境の変化があったにも関わらず多くの企業で危機感が高まっていない、全社的な危機感の共有、意識改革には至っていないということを表しているのでしょうか。
これは私個人の考え方ですが、この95%という数字は、デジタルトランスフォーメーションの本質とは何かを、実はこの自己診断をした企業の方々よく理解されている上での回答なのではと思います。
2年前のDXレポートでの「DXは古い基幹システムが足かせとなって進んでいない」という指摘によって、多くの企業経営者が「レガシーシステムからの脱却」イコール「DX」であるかような誤解に繋がった面もあったようにと思います。
今回の調査は、世の中の急激な変化に対して自分たちの組織が適応できるように、組織そのものが変革していくのがDXの本質であることを多くの経営者の理解し、その経営者の方々の認識としてはまだまだこれから取り組んでいく途中の段階である、と現状を正確にとらえた結果なのだと私は推察しています。
コロナ禍によってグローバル化の勢いが減速し、欧州におけるエネルギー供給をはじめとした各国の政情不安、利上げ政策に端を発した急激なインフレの発生、安全保障なども含めて世界的にめまぐるしい変化があり、企業活動にも大きな影響が出ています。
そういった想定できない外圧や変化に対して、企業もビジネスも適応できる組織をつくり、企業の変革をしていこう、組織の行動や考え方を変えていこう。それがDXの進むべき方向でもあると思います。
顧客中心の思考、お客様点がデジタライゼーションであるに考えるという冒頭の話に戻します。
一般的に「モノからコトへ」という言い方で表現されることが多いのですが、DX以前では、企業は良いモノをつくり、販売し、それを所有するというところにお客様の大きな満足があったといえます。
その時代は、製品やサービスの開発プロセスが企業の優位性を決めてきたわけです。
今の時代、デジタル技術が発展してきたことによってお客様のニーズがしっかりとらえられるようになると、常にお客様の不満を解消していき、売ったモノを使い続けていただくこと、それに付随したサービスで、顧客の体験価値を向上させていく、それが企業競争力の源泉となります。つまり、そのサービスの提供プロセスや、お客様の行動に即した情報提供などが重要視されていくといくことになります。
お客様を起点に考えてその後に自社のビジネスモデルとか 業務そのものを見直していくためには、客観的なデータが必要であり、そのデータに基づいて顧客のニーズを的確にとらえ、サービスを展開していく。それが、データ駆動型経営、データドリブン経営の重要なポイントといえます。(図4)
図4
いっぽうで、データサイエンティストの多くがデータ分析よりもデータの前処理に時間を費やしているというレポートもあります。なぜ欲しいデータをすぐに得ることができない現場が多いのか。次回はその現状を皆さんと考察していきたいと思います。
参考資料
「DXを成功に導くデータマネジメント」(小川康二 伊藤洋一著 翔泳社2021年)
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筆者紹介
佐藤 幸征(さとう こうせい)
1998年、ビジネスデータの設計と標準化に特化した方法論に基づくコンサルティングと教育研修を事業基盤とする株式会社データ総研に入社。営業グループ配属後、2019年8月代表取締役社長に就任。国内リーディングカンパニーを中心に人材育成や組織づくりの啓蒙活動を行い、新たな時代のデータマネジメントとデータの資産価値向上の支援に従事している。
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