概要
データ駆動型経営が企業の重要な取り組みと位置付けられた現在、データを企業の宝とする仕組みと活動、つまりデータマネジメントを抜きにデジタルトランスフォーメーションを推進することはできません。最も信頼できるデータを保全し、タイムリーに活用の現場に提供するデータマネジメントの概要と施策をご紹介いたします。
前回はデータ駆動型経営のポイントをお話しました。経験や勘とかの推測によってビジネスを推進してきたKKDといわれた従来のビジネスモデルから、お客様が何を望んでいるのか webの検索結果や、お客様の行動に伴うデータから潜在的なニーズ、WANTSを想定し、そのためのリコメンドやサービスを提供していくというデータ駆動型経へのシフトが進んでいます。DX以前との大きな違いは、お客様のニーズを客観的に、データから判断するというところが大きな違いです。
スマートフォンの普及に代表される技術的な発展によって、企業はわれわれ自身を取り巻くデータを集め、分析した上でビジネスを考える方向にシフトしていく、という変化は、日常の一部であるが故にその変化を感じづらい面もありますが、 企業とその事業、経済活動そのものへのインパクトは絶大なものがあります。
データはヒト、モノ、カネに続く第4の経営資産
では、活用されるデータにはどのようなものがあるのかといいますと、大きくはビジネスデータという括りになりますが、ビジネスを推進する上で必要なデータがあります。この中には企業の基幹業務を支えるシステムで使っているような、自社の業務を運営するために使われる構造化されたデータもあれば、契約書類などに代表されるテキスト化されているデータなどがあります。
それらに加えてセンサーからのや音声によるデータ、画像など多岐にわたるを積極的に活用している業界もありますので、継続的な企業活動で生み出されるデータの種類と量は十年前の何十倍といった増え方をしているはずです。
しかし、日々生み出されるデータのうち、実際に活用されているのは全体の1割にも満たないというレポートもあります。
また、誰がどのような目的で使っているのかがわからなくなっているデータや、使える状態にないデータも数多く発生しているといわれています。
ヒト、モノ、カネに続く第4の経営資産と認識されているはずのデータが、なぜ有効に使われるどころか、ほとんど使えない状態にあるのでしょうか。
データは他の経営資産とは異なり、簡単にコピーされ、加工され、拡散することができてしまうからです。
最近では逆に聞かなくなりましたが、ビッグデータと言う言葉がいろいろなところで使われ出したのが2010年、10数年前だったと記憶しています。
当時は役に立つかもしれないデータを、とにかく保持しておこうということからスタートをしていましたが、今や利用目的が不明で廃棄せずに残しているデータは増大する一方です。そのようなデータはダークデータと呼ばれています。その結果、本来使いたいデータの使い勝手が悪くなることも含めて、企業にとってデータ活用促進の足枷となり、悪影響があるということになります。
データの管理は属人化しやすい
データは新しい石油である、21世紀の石油である、という言い方をよく耳にします。
ネットで検索すると「データのマネタイズ」を表現するためのメタファーとして多くのメディアで使われています。
手つかずの資源、掘り起こして有効に使うべき資源として、データは石油と同じか、それ以上の価値を生む可能性を持っているという肯定的な意味合いもありますが、逆に、そのまま採掘したばかりの状態では何の価値も生まない、役に立たない、それは石油もデータも同じ、という皮肉もこめられています。
データの管理は属人化しやすく、深刻な問題でありながら放置されがちです。
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- ・データがまともに登録されていない
- ・データの形式がバラバラ
- ・似て非なる類似データが大量発生している
- ・データ分析のために似たような目的のデータマートが乱立
- ・不正アクセスのリスク
データが使いづらい状態にあり、タイムリーに提供できないことも多く、それらのデータを分析しても、そもそも気づき、インサイトが得られないのではないでしょうか。
どんなにコストをかけて、データ連携基盤を構築し、多くのデータをインポートしたとしても、そのデータの品質や信頼度が低ければ、その先のデータ分析の結果、アウトプットに期待できるはずはありません。(図5)マスターデータの問題も、私たちがコンサルティングしている中ではよくある相談事項です。
それぞれの事業部門やシステムで独自にマスターを持ち、それらの間で、顧客や製品のコード体系やデータの粒度(粒さ細かさ)、定義が異なっているために製品や顧客の識別が困難となり、同じ製品として判断してよいのか、顧客として違うのかなどをシステム上で判別できなくなっています。(図)
変換テーブルを介して変換、あるいはベテラン社員の方が目で見て、これはこれと同じであると判断し、対応付けすることによって組織横断、グループ横串で情報を連携している運用も散見されます。
システムがサイロ化された環境下で、業務個別の事情を優先せざるを得なかったというのが理由でしょう。
そのため、解決しようにも、手間ばかりがかかってしまうので、長年の課題として解決を先送りにしている企業も少なくありません。(図6)このように、データの管理レベルがエンタープライズ、全体最適ではなく、それぞれが個別最適になってしまっているわけです。
が、好きでデータをバラバラに管理している組織や業務はありません。
個々にその現場その現場で業務上の理由があってそうなっているはずですので、それらの理由をきちんと紐解いて全体最適の対策を出さないことには、解決しない問題であるわけです。
信頼できるデータの品質を維持し、タイムリーに活用現場に提供するためには、この連載の第一回「データ品質の責任は誰が担うべきか」での考察と同様に、従来の組織の責任範囲では解決しづらい側面があります。
情報システム部門の人たちからすれば、データは業務の現場で発生しているわけですし、業務部門からすれば、必要なデータをもっと早く提供してほしいし、情報システム側が現場の業務を十分に理解していないことがその原因だという言い分もあります。このお互いの主張、そしてどうすべきかについては、何十年も前から答えのない責任範囲の議論と、お互いに対する不信感につながっている企業が多いテーマです。
この背景には、日本固有の事情というか、IT業界、システムユーザー企業の関係性に起因している部分もあります。
データ駆動型経営が求められる今、このどちらの責任かというグレーゾーンの押し付け合いではなく、データを新しい役割・組織の施策と活動によって企業の宝とする仕組み、つまりデータマネジメントが必要になります。次回は、データ活用を推進するにあたり、最も信頼できるデータをタイムリーに提供するために必要なデータマネジメント、その戦略的な進め方をご紹介いたします。
DRIブログ「データマネジメントとは何か」
http://jp.drinet.co.jp/blog/datamanagement/oldxmsgcebbvw -
連載一覧
筆者紹介
佐藤 幸征(さとう こうせい)
1998年、ビジネスデータの設計と標準化に特化した方法論に基づくコンサルティングと教育研修を事業基盤とする株式会社データ総研に入社。営業グループ配属後、2019年8月代表取締役社長に就任。国内リーディングカンパニーを中心に人材育成や組織づくりの啓蒙活動を行い、新たな時代のデータマネジメントとデータの資産価値向上の支援に従事している。
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