概要
データ駆動型経営が企業の重要な取り組みと位置付けられた現在、データを企業の宝とする仕組みと活動、つまりデータマネジメントを抜きにデジタルトランスフォーメーションを推進することはできません。最も信頼できるデータを保全し、タイムリーに活用の現場に提供するデータマネジメントの概要と施策をご紹介いたします。
事業部が主導するデータ活用基盤の導入など、事業部側でIT化がどんどん進んで、DXを推進する事業横断の組織やデジタル子会社が作られる一方で、過去から運用し続けている古いシステム群は、構築の経緯も、設計ドキュメントも、ベンダーもバラバラになっている状態がほとんどだと思います。
そして老朽化したシステムをどうしていくのかを踏まえつつ、事業部側のデータ活用ニーズの高まりに対して、高品質のデータをタイムリーに提供できるようにする。
そのためには、今までにないデータマネジメントの組織・役割とルールが必要になります。
特にルールに関しては、エンタープライズ規模で順守することが可能なガイドラインが必要になりますが、現実問題として、組織、人材を含めて個別最適のもとで運営されている現状では、エンタープライズ規模でのガイドラインの策定が追い付いていないのではないかと思われます。
本コラムの最終回は、データの管理、つまりデータマネジメントと、それをまわしていくための組織やガイドラインの考え方などを含めてご紹介いたします
データマネジメントとデータガバナンス
データマネジメントとは、文字通り、データを管理することですが、その内容は幅広く、主要な業務としては、データを登録・更新・活用することが挙げられます。
そして、それらの業務を遂行するために必要なさまざまな活動も含まれます。
例えば、
・データを蓄積しておく仕組みの構築や維持
・データ構造の可視化
・データの意味管理
・責任体制の確立
なども、データマネジメントです。特に仕組みについては、管理するためのシステム基盤やユーザインタフェースではなく、データマネジメントの規約やガイドラインといった、関係者が守るべきルールをつくり、維持するといった施策も認識しておく必要があります。そのガイドラインとはどういうものかというと、全社員が「守るべきこと、もの、チェックすること」の最低ラインを決めることです。
また、データマネジメントとよく似たニュアンスで使われるデータガバナンスというワードがあります。混同されがちなデータマネジメントとデータガバナンスの違いをお話しいたします。
データというものは、組織横断で利用してはじめて価値を創出するものになります。
そのため、各事業部門や業務部門の責任者が集まって、委員会形式でデータマネジメントの投資対効果の評価、会社の方向づけ、施策が実行できているかのモニタリングを、経営の視点で行う必要があります。これがデータガバナンスの機能です。
一方データマネジメント組織は、データガバナンスからの方向づけに基づいて、データの登録、更新、収集や蓄積、変換・加工、可視化のプロセスを経てデータ活用の目的に応じて必要なデータ、最適なデータをタイムリーに提供する機能を指します。その現場においてPDCAでまわしていく活動を通じて、データ駆動型による経営判断の支援をすること、それがデータマネジメントの役割になります。(図7)
データマネジメント推進施策の立案
それでは、データマネジメントを戦略的に推進していくための施策はどのように立案していけば良いのでしょうか。
私たちデータ総研がコンサルティング現場でご支援する場合の、おおまかな概要、Over Viewをご紹介いたします。
まず、データ要件の整理を行います。具体的には、経営戦略・事業戦略のビジネスニーズに基づいて、どんなデータが必要なのかを特定し、整備が必要であれば、事業戦略上いつまでにどのような状態になっていればよいのかを整理します。
その上で、データの現状はどうなっていて、ニーズに対してどのような問題やリスクがあるのかを考察し、その課題を整理するアセスメントを実施します。
その後で、データマネジメントの基本方針や組織を定め、データとデータの関係をデータモデル化、つまりデータ構造の最適化を検討します。
データマネジメントで最優先に実施すべき施策は、全体最適に関する施策になります。
全体最適とは、事業活動を俯瞰する企業全体の視点に立つことです。
エンタープライズレベルで守るべきルールをつくろうとしている一方で、部分最適・個別最適の限られた視点でデータを開発されては困りますので、データマネジメント活動の初期の段階で、データアーキテクチャのデザインを行う、という流れになります。
その上でデータを適切な場所に配置し、似て非なるデータや類似データを排除し、最も信頼できるデータが正しく流通するアーキテクチャをデザインしなければなりません。
このデータ構造の最適化は、データ統合基盤の検討と併せて進めていくことになるマスターデータやインターフェースなど標準化すべき対象の検討に役立ちます。
データ活用を推進している部隊へのサポートの仕方、優先順位の共有などを実施した上で、スケジュール化してスタートを切る、という全体像になります。(図8)
データ活用・データ駆動型経営のゴール
次にデータ活用・データ駆動型経営のステップについてお話ししたいと思います。
データ活用レベルが高い企業やDX先行企業は、「データマネジメント」の推進と併せて、図9にあるレベル4・5の視点で活動し、意思決定プロセス、組織そのもの、企業風土の変革を進めていると言われています。(図9)
データを個別業務の改善を目的に活用する限定的な取り組みのレベルから、業務横断でデータを活用し、その改善プロセスが継続的に実施されるレベルにステップアップするには、データマネジメントの推進が絶対に必要になります。
世の中一般的に言われているDX、デジタルトランスフォーメーションは、顧客との接点や情報提供の方法が変わることによって、新たなサービスを創出し、お客様への提供価値を最大化すること、と認識されています。
繰り返しになりますが、企業のDXのゴールとは実はその先にあります。新しいサービス提供をするためには、その企業の中での経営の意思決定のプロセスや組織といった企業風土そのものが変革されなければならない、それが目指すべきDXの最終ゴールなのだと、私たちは考えています。
最後に
石油という資源が、世の中の発展に寄与するようになるまでに、採掘され、精製され、様々な素材や原料として活用されるためのステップがあるように、業務の現場で生まれたデータの多くが、ビジネスで活用されるようになるまでに、データマネジメントのさまざまな施策を遂行するステップが必要になります。
その施策、ステップを経て、データの資産価値が向上し、初めてヒト、モノ、カネに続く第4の経営資産になるのだというお話しさせていただきました。
また、今回はデータマネジメントの推進施策のほんの一部をご紹介するに留まりましたが、この連載をきっかけに少しでもデータマネジメントに興味を持っていただければ幸いです。
最後に、本コラムを著す機会を与えてくださった「システム管理者の会」関係者の方々に感謝の意を表します。
参考資料
「DXを成功に導くデータマネジメント」(小川康二 伊藤洋一著 翔泳社2021年)
連載一覧
筆者紹介
佐藤 幸征(さとう こうせい)
1998年、ビジネスデータの設計と標準化に特化した方法論に基づくコンサルティングと教育研修を事業基盤とする株式会社データ総研に入社。営業グループ配属後、2019年8月代表取締役社長に就任。国内リーディングカンパニーを中心に人材育成や組織づくりの啓蒙活動を行い、新たな時代のデータマネジメントとデータの資産価値向上の支援に従事している。
コメント
投稿にはログインしてください