DXに取り組む企業にとってその成功の鍵を握るのは、やはり「人」。DX人材を如何に育成するかが重要であるということが、本連載でもキーワードになっている。
リスキリングやリカレント教育という言葉が、DXを語る中でよく耳にするようになってきたが、この「学び」の観点で今回は筆者の見解を述べてみる。
ちなみに、私自身が現時点でも「学び」を日々意識して過ごすことになったきっかけは、中学生時代の担任の何気ないひと言であった。。。
(1) リスキリング&リカレント教育
冒頭にも挙げたように、DXという話の中で最近よく耳にするのが「リスキリング」と「リカレント教育」という言葉である。まずは、それぞれの言葉の定義を確認しよう。
リスキリングとは経済産業省の資料では、以下のように書かれている。
リスキリング:
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
一方、リカレント教育は厚生労働省の資料では、以下のように書かれている。
リカレント教育:
「学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくこと」
いずれも職業、仕事で必要とされるスキルを獲得、向上させるという意味合いでは方向性が一致している。しかし、取り組みの主体という点では、リスキリングは使用者・企業側に、リカレント教育は労働者側にある。
いままさに、大きな変革が求められる時代であり、リカレント教育をはじめとした個人の努力だけでは限界がある。組織として人材育成に取り組む仕組みが必要であり、リスキリングが注目されているのであろう。
ただ、企業側がリスキリングの仕組みを用意したとしても、最終的にスキルの獲得を実施するのは労働者本人であり、労働者自身が高い意識を持って取り組まないと時間とお金の無駄にもなりかねない。
そこで今回は、私自身の学びの取り組みについて紹介し、おひとりでも、「学び」について見つめ直すきっかけになることを期待したい。
(リスキリングやリカレント教育についての詳細はここでは割愛し、すでにネット上でもいろんな情報が紹介されているので、そちらをご覧いただきたい。)
(2) 「人生、一生勉強」 その意味は?
「人生、一生勉強」
この言葉は、中学生時代の担任が授業中に何気なく言ったものである。当時は、受験生の私たちに対して、「もっと一生懸命勉強しなさい」という軽い意味合いとして受け止めていた。
社会人になり、学生時代に学習した専門知識なども活用しながら仕事を進めていると、それだけでは太刀打ちできないということを早々に気づかされるのであった。学校教育は専門知識と思っていたものもあくまでも基礎レベルに過ぎず、より高度な技術スキルが必要とされた。そこで、学生時代から試験を受けることに抵抗はなかったため、資格取得を通して、専門スキルの向上に取り組もうと決意するのであった。高専4年生の19歳(1992年)のときに第2種情報処理試験を受験し、現在まで継続してきた受験状況は下図のグラフのような状況である。現時点(2022年12月4日現在)の通算は、合格を勝ち、不合格を負けと表現すると、
344勝94敗(合格率 .785)
という結果である。
受験数の多さは一旦置いといて、約30年間の学びの経過を振り返ってみると世代によって自らの意識の変化があった。
a.20代(1992~2003年頃)
仕事に直接関係のある専門スキルを向上させるために、関連する技術系の勉強を中心として取り組んだ。自らの担当業務を極めたいという意識が強かった時期である。
b.30代(2004~2013年頃)
これまで担当していた分野と少し業務が変化し、新たな分野の技術スキルを高めるための勉強を中心として取り組んだ.
c.40代前半(2014~2018頃)
2014年に初めて勝敗数が逆転し、自らの能力に危機感を持つようになった。また、前々から実感していた専門分野以外の知識、たとえばコミュニケーション能力なども低ければ、まともに同僚やお客様とも仕事を進めていくことができないということを意識し出したのである。そこで、専門スキルだけでなく、専門分野以外のスキルについても意識して学習し出したのがこの頃である。
d.40代後半(2019~現在)
DX時代の到来を肌で感じ、世の中に取り残されないためにはどうするかを考えるようになる。ひとまず、専門分野だけでなく、学生時代に学んだ一般教養も含めた学び直し(リカレント教育)を積極的に実施するのである。
「人生、一生勉強」。この言葉の意味は、その時代、時代ごとに求められるスキルは異なり、安住することなく、常に一生懸命に学んでいく姿勢が求められるということを中学時代の担任は示していただいていたのかもしれない。そこで、いままさにDX時代に求められるスキルは多種多様であると考え、40代後半の現在、2段階くらいギアを上げて取り組まないと世の中に取り残されるという危機感が募る一方であった。
(3) 流動性知能 vs 結晶性知能
前述のように、私自身が41歳の2014年は、資格の不合格数が合格数を上回った唯一の年である。この頃、以前に比べて勉強しても頭に入ってこない、残らないという感覚が現れるようになった。加齢とともに、物覚えは悪くなるということは、見聞きしていたが、それを自らで感じ取ることに愕然としたことを覚えている。なぜ、このようなことが起こるのか?このあたりはまったく専門ではないので詳細は述べられないが、調べてみると、概ね以下のように解釈できた。
流動性知能:
暗記力、計算力など、新たな情報をスピーディーに処理、加工する能力。20歳頃がピークで、60歳頃から低下が見られる。
結晶性知能:
洞察力、理解力、創造力など、経験や学習から獲得する能力。20歳頃から上昇し、60歳頃にピークを迎える。
20代のときに、テキストを読めばすぐに頭にインプットされたのは、ここでいう流動性知能が優位であったからであろう。きっとこの部分がいまや低下しているのである。この流動性知能を維持するためには、ポジティブ思考や二重課題に取り組むことがよいとされている。複数の課題に同時進行で進めることが二重課題であるが、40代後半から私自身もこれに取り組むべく、受験数を意識的に増やしている。ときには、同じ日に、2つの異なる試験をダブルヘッダーで受験することもある。
一方、これからもうしばらくの間、高めることができるのが結晶性知能だ。さまざまな経験をベースに、いま起こっている状況を的確に判断し、最適な対応をとることができる。そのためにも、たくさんの経験や知識を獲得することが重要だと考える。現在私が取り組んでいることが、成果を出すかどうかはもうしばらく時間が必要であるが、前向きに学習は継続していきたい。
企業側は、自社に足りないスキルは外部から獲得するという選択ができるが、従業員側は自らでスキルを獲得する地道な努力しかない。リスキリング、リカレント教育はあくまでも手段であり、それらを適用すれば無条件で必要なスキルが獲得できるわけではない。それらをうまく活用して、主体的に学習を継続していくこと、すなわち、「人生、一生勉強」の精神で取り組むことが重要だと考える。
さあ、みなさんも今日から「学び」を意識し、DX時代を勝ち抜きませんか?
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筆者紹介
1994年大阪府立工業高等専門学校電気工学科卒業。社内業務システムの開発、運用、IT系講習会の講師としてこれまで従事。
現在は、ETロボコン関西・北陸地区事務局局長、IoT検定ユーザー試験開発WGメンバー、EdgeTech+(旧ET & IoT)カンファレンス委員として、初級組込み技術者の教育支援を行う傍ら、 自らも資格取得を精力的に行い、2021年12月に資格試験通算300勝を達成。これからも、コツコツ「一生勉強」の精神で突き進んでいく。
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