■はじめに
DX を推進しているものの、上手くいっていないとよく聞きます。
DX を成功させるためには、ポイントを押さえて進めていく必要があります。
今回は、DX の導入ポイント、そして成功事例をご紹介し、皆さんの「どのように実現していくのか?」の参考として頂ければと思います。
これまでのコラムでも記載されていますが、「DX」は単なるシステム導入ではありません。
社内業務であれば、業務フローを見直した上で作業の効率化・自動化を進めていかなければなりません。新たな製品・サービスを生み出す上では、ビジネスモデルの再構築や組織改革などを行うことも必要です。
社内業務の DX を実現するポイント、それに伴う社内体制の見直し、そして新たな製品・サービスを生み出すためのビジネスモデル構築の大きく 2 つに分けて説明していきます。
■社内業務の DX を進めるポイント
社内業務においては、どのように「DX」を進めていけばよいのか?
「はじめに」で書きましたが、DX を実現するためには、単なるツールの導入だけでは不十分です。段階的に進める必要があります。
① 業務棚卸し
まず、どのような業務があるのか整理していきます。
いきなり全社展開するのではなく、部分的に取り組んでいくことをお勧めします。
例えば、販売管理を行っている「管理部」を対象とし、業務棚卸しを実施していきます。
業務を大項目、中項目、小項目に分類し、業務工数、担当者なども記載していきます。
ここでは業務分析を行い、現状の業務の状況を知ることが重要です。
② 業務フローの作成とデジタル化
①で作成した業務棚卸し表を基に、業務ごとのフローを作成していきます。
作成経験がない場合は慣れるまで時間がかかると思いますが、それほど難しくはありません。作業の流れを見える化し問題点や課題を抽出しましょう。
抽出された問題や課題が、流れを変えるだけで解決できるのか?
デジタル化が必要なのかを見極めて、必要に応じて RPA などの IT ツールを活用して効率化や自動化を行っていきます。
ここでの注意点は、問題点や課題をすべてデジタル化の対象としないということです。
③ 他部署への横展開と組織化
業務効率化で一定の成果が上がったら、そのやり方を社内の他部署へ横展開をしましょう。
実行時に蓄積されたノウハウを活かし、他部門の業務もデジタル化を推進します。
業務によりやり方も違うので、そのまま活かせない場合がありますが、新たな経験を積み重ねることで、様々なケースに対応できるようになります。
ここで重要なのは、全社展開をするにあたり、組織化をしていくことです。
DX を推進していく部門を新たに作り、社内の業務効率化のパッケージ化を図り、同時に社内のさまざまなデータを活用してビジネスに役立てられるようにしていくことが理想的です。
■社内体制の見直し
業務フローを見直し、デジタル化が進むことで、新たなビジネスやサービスを生み出せるようになるのですが、ビジネスモデルや社内体制なども含めて、さまざまな見直しが必要となります。
例えば、今までのビジネスモデルを見直し、市場ニーズに合致した製品やサービスに転換し、新しい市場でビジネスを展開することも良いと思います。その場合、組織改編や評価制度等を抜本的に変更する必要があります。
テレワークで遠隔業務を導入した企業は、成果主義に評価基準を変更するところも現れています。
業務フローの見直しによって、働き方や成果物も変わるので、DX の推進中に不整合が発生しないように評価基準の変更が必要です。
■ビジネスモデルの定義・考え方経験
新たなビジネスやサービスを生み出すには、ビジネスモデルの構築が必要となります。
ビジネスモデルの定義・考え方を理解し、事例を参考にしてみましょう。
① ビジネスモデルの定義
ビジネスモデルは「利益を生み出す製品やサービスの事業戦略と収益構造」と定義できます。ビジネスモデルの目的は「企業価値を高めて事業で収益を上げること」で、企業においてそれを可能にする仕組みになります。ビジネスモデルを活用することで、独自で進めるよりも漏れがなく道筋を見つけることができるようになるため、事業戦略立案時などには活用していきましょう。
② ビジネスモデルの考え方について
ビジネスモデルは、企業がどの顧客に、どの様なサービスや製品を、どうやって提供し、利益をあげるかを考えてビジネスモデル構築していく必要があります。顧客の概念がないビジネスモデルはほとんどありません。自社戦略の立案の際に顧客に軸を置いて戦略を立てることは非常に大事な視点となります。
どのようなビジネスモデルでも顧客重視の考え方で描かれていますが、自社の顧客を定義し、その顧客へ上手く展開を図れるビジネスモデルを選択する必要があります。ビジネスモデルは複数あるため、最初は有効なビジネスモデルの判断は難しいので、いくつかのビジネスモデルの中で自社の顧客にあっているかの検証が必要です。
DX は既存システムによる展開にこだわらず、新しい展開方法の導入により社内業務そのものにも変更が必要となります。出来る限り、新しい考えを取り入れたビジネスモデルを選び、挑戦していくことが望ましいです。
■DX 導入事例
DX の導入事例として、3 社の事例を紹介します。
① 大手タクシー会社の事例
ある大手タクシー会社は、タクシーの配車を行うアプリを提供し、どこよりも早くDX を推進しています。全国のタクシーアプリは利用者と乗車の履歴など膨大なデータを蓄積できる点が特徴になります。ユーザーはスマホでタクシーをすぐ呼ぶことができるので、非常に便利になっています。
この企業では配車アプリで蓄積したデータを活用していくために「AI 配車」のPoC(実証実験)を行い、乗車履歴、場所、天候、季節、イベントなどいろんな条件から需要が多い場所を予測し、売上向上に繋げようとしています。
タクシー会社は、ドライバーにアプリから需要予測を提供し、ドライバーはその情報を基に客を取りに行くことで、生産性を高めようとしています。そのような展開から社内業務においても、今後は労務管理においても AI を活用していくことを計画中です。
② 電機会社の事例
ある電機では、組織を再編成し、システムごとに散らばっていたデータを一元化し、経営判断の向上を目指しています。
既存のシステム間のデータ統合は、それぞれのデータを紐づける必要があり、顧客や製品に特定コードを割り振ってコードを使ってそれぞれのデータを繋げています。
そうすることで、社内のデータが全て繋がって集計しやすくなり、売上高や利益、経費、工場の稼働や品質などの情報を経営層がリアルタイムに確認し、瞬時に経営判断が出来るようになりました。
会社として、DX 導入の目標を明確にしたことで仕組み構築が進んだ事例になります。
③ 建設機材販売会社の事例
ある建設機械販売会社は、建設機械の IoT 化を進めて顧客の利便性を向上させた結果、売上が増加しています。
20年ほど前、機材を盗んで犯罪に使われるということが多く発生していました。
この会社では、機材に GPS と通信機能を搭載し、その機材のある場所をいつでも確認できるようにした結果、「この会社の機械は盗んでもすぐ見つかる」と知られ、被害が減少しました。
位置情報だけではなく、燃料の残量、エンジン稼働中の実際の作業時間、機械の交換時期などのデータも集めて、機材のシステム上での管理や顧客へのサービス提供に活かしています。このようにサービスを充実させたことで、値上げも顧客から理解を得られ、システム開発のコストも問題なく回収できているそうです。
■まとめ
DX を成功させるためには、「どのように実現していくのか」、そして「どのように計画を立てて進めていくのか」が重要です。
大きく、社内業務と製品・サービスの展開に分かれますが、社内業務においては、まず、「現状の姿」を知ることが重要で、そこを飛ばしてツール導入をしてしまうと失敗に繋がる可能性が高いです。
「社内業務を進めるポイント」でも説明しましたが、業務棚卸し⇒業務フロー⇒フローの見直し⇒必要な箇所にツール導入の順で進めていく必要があります。
その新しいフローで業務を進めていくために、組織改編や評価制度等を抜本的に変更する必要も出てきます。
製品・サービスの DX 化については、新しい考え方を取り入れたビジネスモデルを構築し、そのビジネスモデルに対応できるように社内体制を見直していかなければなりません。
そこまで実施しなければ、DX を実施したとは言えません。
社内体制を大きく変えていくこと、それは大改革になりますが、その大改革を成し遂げられなければ、企業が DX を成功させることは不可能です。
非常に大変な作業となりますが、昨今の変化の激しい時代に生き残るために DX 推進は避けて通れないものです。
現在、様々な日本企業で DX の取り組みが行われていますが、残念ながら DX で大きな成功を挙げている企業はまだまだ少ない状況です。特に中小企業では、これからのところが多いです。
人材が不足、これまでのやり方を大きく変えられない、どこから手を付けていけばよいのかわからないなど、DX を進める上でさまざまなハードルがありますが、是非、今回のポイントを確認して頂き、DX 推進の参考として頂ければ幸いです。
連載一覧
筆者紹介
M&S Innovation Consulting代表。
事業再生・承継、M&A、DX推進で多くの企業価値向上に貢献。IT企業のエグゼグティブアドバイザー就任や、行財政改革、都市計画など、自治体の審議会委員を複数務めるなど幅広く活躍。近年は特に、持続可能な企業にする為のDX(IoT・AI)ビジネス推進に力を入れ、総合的な企業支援を行う。
中小企業の事業承継にはDXの取り組みが必須である。単なるIT化ではなく、ビジネスモデルを見直し、新しい考え方を取り入れた事業運営を試みることが重要で、その支援には評価を得ている。
【主な著書】
「図解即戦力 IoTのしくみと技術がこれ1冊でしっかりわかる教科書IoT検定パワーユーザー対応版」
(共著:技術評論社)
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