DXを推進するにあたり、最も重要なことは「イノベーション」をいかに起こすかということです。
前回(第20回)の山口氏もそのことを丁寧に紹介してくれていますので、詳細はそちらをご参照ください。
そこで、今回はDXでイノベーションを起こす一例として、私が担当しています「ETロボコン」について紹介いたします。
「DXの波を乗りこなせ!」が今年のテーマだったETロボコン2023
ロボコンといえば、NHKで毎年11月末に放映される「アイデア対決・全国高等専門学校 ロボットコンテスト」が真っ先に思いつく方が多いことでしょう。私も30年前、高専生のときにこのロボコンに取り組み、予選一回戦で車輪が取れて敗退した苦い経験がいまでも良い想い出として記憶に残っています。世の中では、他にも多数のロボコンが開催されており、その中の一つが今回紹介する「ETロボコン」です。(公式HP: https://www.etrobo.jp/ )
「ET」とは「Embedded Technology」の略で、組込み技術を指す言葉です。家電製品や、車載システムなどに代表されるその装置そのものを制御するために、文字通りその装置内に組み込まれたコンピュータシステムが組込みシステムと呼ばれています。
2001年にUMLロボコンの名で始まり、2004年から一般社団法人組込みシステム技術協会が主催するとともに名称を「ETロボコン」に変更し、今年で22年目を迎えた歴史あるロボットコンテストです。他のロボコンにユニークなところは、全チームともに共通のハードウェア(ロボット)を用い、その上で動作するソフトウェアを如何に設計開発するかを競うコンテストである点です。今年は全国9地区で地区大会が開催され、193チームが参加し、概ね企業チームと学生チームが半々の割合で出場しています。
元々、組込業界の若手エンジニア育成という目的で取り組んできたものの、昨今はクラウド、IoT、AIなどを活用した複合的なシステム構成が重要となり、そのような要素を盛り込んだ競技内容になってきています。2023年度のテーマ「DXの波を乗りこなせ!」は、まさに複合的なシステムが重要となっているDX時代を反映し、IoTを使った無人化・自動化などの要素をETロボコンという舞台で学んでいただこうという想いがあります。
近年、組込み関連企業だけでなく、他業種からの参加もあり、さらに入賞するチームも登場しています。このことは、ETロボコンを通して、イノベーションが起こっている現状を肌で感じた一例です。
<図1.ETロボコン2023 テーマ (出典:ETロボコン実行委員会)>
コロナで加速したETロボコンのDX化?!
ロボットコンテストといえば、形あるリアルなロボットが競技会場内を縦横無尽に動き回り、対決をするものということが私自身もずっと当たり前に思っていた光景でした。
しかし、2020年のコロナ感染症拡大に伴って、一カ所に集合するということに制限が加わり、従来のロボットコンテストの形式が行えなくなりました。
世の中の働き方自体も、在宅勤務などのリモートワークが中心となり、複数人が同じ場所で共同作業を行うことがなくなりました。
「ETロボコンも行えなくなる・・・」
そのような状況を打破したのは、リアルに集合形式で実施するロボットコンテストから、シミュレータを用いたオンライン形式で実施するロボットコンテストへの変革です。
組込み業界では、以前から実際のハードウェア上で最初からソフトウェアのテストを実施しようとしても、テスト実施の準備に時間がかかったり、そもそもハードウェアも一緒に開発している関係上、ソフトウェアテストを実施する際にハードウェアがまだ完成していなかったりすることがほとんどであったため、エミュレータ環境やシミュレータ環境を用いる場面が多くありました。
そのシミュレータ環境を、ETロボコンの競技会場にすることで、オンラインでの共同開発作業なども行えるようになり、コロナ禍でもETロボコンを継続することができました。
まさに、物理空間を仮想空間に再現する「デジタルツイン」の考えを導入し、時代の流れを反映したETロボコンへとイノベーションした事例です。ETロボコンそのものが、DX化した瞬間ではないでしょうか。
(ことばでは簡単に書いていますが、実行委員のみなさん方の多大なる対応が、実を結んだことに、敬意を表さずにはいられません。)
<図2.ETロボコン2023 デジタルツインな競技会場 (出典:ETロボコン実行委員会)>
失敗を恐れずにイノベーションを経験するには?
DXでイノベーションを起こすということは、言葉では簡単に言えますが実際にやってみようと思うとなかなか難しいものです。
ましてや、実業務などビジネスに直結する部分で、いきなり取り組もうとすると、失敗したときの損失が。。。といった思考が強くなってしまうのも仕方ないことです。
自ら実際にイノベーションを起こすということを体験したことがないと、最初の一歩が踏み出しにくいものとなります。
本コラムのタイトルでもある「DXリーダー人材を育成するために・・・」という観点で、ぜひETロボコンのような対外的なコンテストに参加するということをお勧めします。
ETロボコンであれば、組込みソフトウェア開発というテーマではありますが、一種のミニプロジェクト活動として実業務に即した体験ができます。実際に、新人研修のプロジェクト活動としてETロボコンを採用している企業も多くあります。なんと言っても、実業務に即していながら、失敗が許されることが大きなメリットでもあります。失敗が許されると、大胆なイノベーションが思いついたり、何よりチャレンジングな行動が起こりやすくなります。
失敗したときは何がまずかったのかを、しっかり振り返り、その経験をもって実業務でのイノベーションに取り組めることは大きなアドバンテージです。うまくいった場合は、その成功体験を実業務でも活かせることでしょう。また、題材が非常に楽しいものなので、参加される皆さんが自発的に行動しやすいという点もメリットになるでしょう。
今回は、ETロボコンを題材にしましたが、検索すれば様々な業種で同様のコンテスト形式のイベントが開催されています。ご自身のドメインで、取り組みやすいものを見つけてチャレンジしてみましょう。
イノベーションという言葉に多少なりともビビってしまうことがあるかもしれませんが、失敗できる環境を見つけて、事を起こしていくことこそがDXでは重要であると考えます。
みなさん自身の意識のイノベーションから始めていきましょう!
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筆者紹介
1994年大阪府立工業高等専門学校電気工学科卒業。社内業務システムの開発、運用、IT系講習会の講師としてこれまで従事。
現在は、ETロボコン関西・北陸地区事務局局長、IoT検定ユーザー試験開発WGメンバー、EdgeTech+(旧ET & IoT)カンファレンス委員として、初級組込み技術者の教育支援を行う傍ら、 自らも資格取得を精力的に行い、2023年12月現在、資格試験通算434勝を達成。これからも、コツコツ「一生勉強」の精神で突き進んでいく。
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