DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力㉓

第23回 生成AIに詳しいだけじゃダメ?DXに使える生成AIの知識の定義とは

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

 

目次
生成AIを使える企業と使えない企業で二極化が進む
とはいえ「生成AIニュースオタク」ではダメ
ビジネススキルとしての力と、学び続けることが必要
生成AIを使える企業になるための社員教育として

生成AIを使える企業と使えない企業で二極化が進む

2023年、OpenAIから生成AIのChatGPTがリリースされました。GoogleやApple、Facebook(meta)、Amazonよりも早く登場し、そのクオリティの高さから彗星の如く現れたChatGPTは世界中の話題を独占。それ以来、生成AIは世界全体を席巻しビジネスのトレンドの中心にまで躍り出ました。また国内外問わず、生成AIを使ったサービスが雨後の筍のようにたくさん現れています。

ビジネスシーンにおける生成AIの立ち位置はどうでしょうか。実際、生成AIはビジネスとして使えているのか、について野村総合研究所が2023年10月に日本の就労者に対して 「AIに関するアンケート調査」を実施したところ

生成AIを「実際に業務で使っている」「実際に使えるかどうかを具体的に試している」と回答した人の合計は2023年10月の時点でも12%程度にとどまっています。

大手企業を始め、地方自治体など行政も各種リリースで導入の発表を行うなど、積極的に生成AIを業務利用する動きはあります。一方で生成AIの導入予定はない、導入検討も行っていないなど生成AIを業務で利用することをためらう企業が多数であることが実情です。

しかし、今のまま生成AIの未導入が続くと企業の成長が止まり、企業の競争力が弱っていく可能性が高いと私は断言します。

理由の一つが、既に欧米ではデジタルが前提の産業が登場し、すでに生成AIを導入する土壌ができていること。今後、生成AI利用を前提としたビジネスに変化するのは時間の問題でしょう。こういった「生成AIシフト」が起こると生成AIを導入できる企業とできない企業では差が開く一方になってしまいます。

もう一つがこれまでの歴史がすでに物語っている点です。古くはインターネットを始めSNS、ECそしてIoTなどいわゆるITが関わるプロダクトサービスは、いずれも日本では欧米をはじめ中国にも後塵を拝しています。生成AIもこれらに非常に似た状況・サービスであることから同じような歴史をたどるのは想像に難くありません。

競争力に負けてしまった企業の末路は取引されなくなる、価格競争にさらされる、社員の退職で人手不足に追い打ちをかける、といった負のスパイラルへ進むと予想できるでしょう。

 

とはいえ「生成AIニュースオタク」ではダメ

今や地上波のニュースでも取り上げられるようになった生成AI。先の同社による10月のアンケート調査結果では、生成AIについて「確かに知っている」「聞いたことがある」と回答した人を合わせると70.5%に達しています。このことからもわかるように生成AIの認知度は決して低くはありません。実際に毎日のように生成AIをテーマにしたニュースが溢れており、導入したニュースやサービスのリリースなど話題に事欠かない状況です。

しかし、生成AIをただ知っているだけではダメだと私はここで言います。これだけ生成AIのニュースに事欠かないので毎日ニュースをチェックしておき、いざ生成AIの導入で自社の状況が問われたときにどう応えていくか、いつでも準備しておかなければいけません。ですが、生成AIの状況を遠巻きに追うだけでは意味がありません。要はニュースオタクではダメということです。

生成AIを使用してどのように自社のビジネスに繋げるかが大事なのです。新規開拓・事業開発・顧客満足度向上・工数やコスト削減…どういった点で生成AIを活用できるか。マンパワーでは限界、だけど機械化ができる業務ではない。そういったところに自動化や効率化、またはドラスティックに変化させるなどをできるのが生成AIの肝となります。生成AIは決してお絵描きするためのソフトではないのです。(もちろんお絵描きするための生成AIもあります。)

人手不足、産業の変化は待ったなしで課題は大きくなる一方です。生成AIのニュースを追うだけではなく、使い倒してこそのAIとして考えていただきたいです。
ただしここでひとつお伝えしたいのは、生成AIはあくまでインターネットと同じツールのひとつに過ぎないということです。

「生成AIが人間の仕事を奪う?怖い!」などと言われますが、そんなことはありません。生成AIはあくまで道具です。たとえば料理で使う「おたま」を例に挙げましょう。

私たちがカレーライスを食べるために、おたまを使わないと熱いカレーはご飯によそえないですよね?おたまが勝手にカレールーを掬ってくれることはありません。

生成AIもこれと同じです。生成AIがあるから勝手に何でもやってくれる…のではなく、生成AIを使ったツールを私たちビジネスパーソンがどのように活用するか。そしてビジネスの先にある顧客への貢献に対してどう展開するかが問われます。このためにビジネスの現場で実践的に活用するためのAIの知識・知見が必要となるのです。
表計算をするためにそろばんを引っ張り出し、紙と鉛筆でにらめっこ、表計算ソフトが無い頃に戻りたくないですし、もどれない、これが人間です。では生成AIは?

 

ビジネススキルとしての力と、学び続けることが必要

私たちビジネスパーソンがビジネスの現場で生成AIを活用していくためには、ビジネススキルとして使えるAIの知識・知見が欠かせません。とはいえ「ビジネススキルとして使えるAIの知識・知見」と言われても、そもそもどういった基準で「ビジネススキルとして使える」と判断できるのか、難しいところでしょう。

そこでビジネススキルとして使えるための基準・指標を紹介します。もっともわかりやすい指標は、経済産業省がリリースしている「デジタルスキル標準」です。

ビジネススキルとして使えるための基準・指標はあなたの会社内だけではありません。取引先をはじめとした社外、そしてその先にある国内そして世界企業まで通用できることが必要となります。その上での客観的な基準がデジタルスキル標準なのです。

デジタルスキル標準はさらに、ビジネスパーソン全体がDXに関する基礎的な知識やスキル・マインドを身につけるための指針である「DXリテラシー標準」と、企業がDXを推進する専門性を持った人材を育成・採用するための指針である「DX推進スキル標準」の2種類のスキル標準で構成されています。

そう、ここで気がついたあなたは素晴らしい。「DXが前提であること」がデジタルスキル標準となるのです。デジタルが使えることや一定の知識・知見があることを前提として、社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要なマインドをベースに、データや技術を活用してDXを推進していくことがデジタルスキル標準の根幹として定められています。

このデジタルスキル標準に、2023年に生成AIの内容が加わりました。デジタルスキル標準における2023年8月の改訂によれば、ベースとなるマインド部分に生成AIの機能とビジネスパーソンの考え・スキルを掛け合わせることと、倫理的な問題などに注意をはらいながら生産性向上やビジネスの変革に利用していくことが明記されています。

改訂資料では、生成AIをデジタル・DXをもとにした三段目のレベルとしてではなく、すべてのビジネスパーソンが生成AIの知識や向き合い方を念頭におかなければならないよう記されています。その上でデジタル・データに加え、生成AIを活用して将来に向けてビジネスを変革・発展・向上させていくべきであると説いています。

さらに、改訂資料には「近い将来に身近なアンテナを張りながら、変化をいとわず学び続けること」と記されています。
生成AIの発展に合わせてビジネスシーンは変化し、むしろインターネットやスマートフォン使用が前提となっている今のビジネスシーンと同じように、生成AI使用が前提になり「生成AIを使える企業」だけが生き残るようになるでしょう。

こういった背景から「生成AIを使える企業」として認められるようにするためには、業務・職種問わずあなたを始め貴社の社員全員が、デジタルやDX、生成AIを正しくかつビジネス推進のために使えるよう恒久的に学び続けることが大切なのです。

 

生成AIを使える企業になるための社員教育として

これまで生成AIを使える企業になるために、ビジネスパーソン全員がデジタルやDX、生成AIについて正しくかつビジネス推進のために使えるよう恒久的に学び続けることが大事であることをお伝えしました。

貴社ではいかがでしょうか?生成AIを使える企業として進んでいる実感はありますか?生成AIの知識どころかDXもままならない…もしかしたらそういった状況であるかもしれません。数年前から叫ばれ続けている「リスキリング」がまさに今ここで必要とされています。

私が事務局長を務めているIoT検定制度委員会では、ビジネススキルとしてのDX推進の知識・知見と生成AIの知識・知見の両方をカバーできる認定試験「+DX認定」をご用意しています。
「+DX認定」は時代の変化に合わせてこの2月よりリニューアル。本記事でも紹介した経済産業省の「デジタルスキル標準」に対応。さらに生成AIの基礎力を測る内容を試験に追加いたしました。ビジネススキルとして実践できるデジタル・DX・生成AIのスキルのすべてを網羅いたします。

+DX認定、ビジネススキルの新基準を設定:経済産業省のデジタルスキル標準対応と生成AI試験を追加
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000082328.html

 

生成AIを使える企業として貴社が成長していくための最初の足がかりとして、自社の研修制度にぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
「+DX認定」につきましては下記URLからお問い合わせください。

http://www.iotcert.org/plusdx/

 

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筆者紹介

近森 満(ちかもり みつる)
DX時代の人材育成・教育支援を行う株式会社サートプロ代表取締役CEOとして、IoT検定制度委員会 事務局長、経済産業省地方版IoT推進ラボ・メンターとして、中小企業・製造業向けにIoT人材育成の啓蒙活動を行う。

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