DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力㉗

第27回 DXリーダー人材の育成に向けた情報システム部門の役割と課題-5つの基礎能力を軸にしたセキュリティ対策の推進-

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

 

目次
はじめに
デジタルセキュリティの確保力とは
情報システム部門におけるセキュリティ対策の推進
包括的なサイバーセキュリティリスク管理体制の構築
サイバーセキュリティ人材の確保と育成
一般業務におけるセキュリティ意識の向上
生成AIの活用によるセキュリティ対策の高度化
他部門との連携によるセキュリティ対策の強化
サイバーセキュリティ格付けとは
おわりに

はじめに

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルやプロセス、文化などを変革することです。DXは、企業の競争力や持続可能性を高めるために、必要不可欠な取り組みとなっています。
DXを推進するには、高いデジタルリーダーシップを発揮できる人材が不可欠です。DXリーダー人材とは、デジタル技術に精通し、変化に対応できる柔軟性と創造性を持ち、組織や社会にインパクトを与えることができる人材です。
DXリーダー人材を育成するためには、以下の5つの基礎能力を身につけることが重要です。

  • デジタルビジネスの理解力: デジタル技術がビジネスに与える影響や可能性を理解し、戦略的な視点で判断や行動ができる力
  • デジタルイノベーションの推進力: デジタル技術を活用して、新しい価値やサービスを創出し、顧客や社会のニーズに応える力
  • デジタルコラボレーションの促進力: デジタル技術を活用して、組織内外のステークホルダーとのコミュニケーションや協働を円滑にする力
  • デジタルセキュリティの確保力: デジタル技術の利用に伴うリスクや脅威に対処し、情報資産やシステムの安全性と信頼性を保つ力
  • デジタルエシックスの遵守力: デジタル技術の利用に伴う倫理的な課題や社会的な責任を認識し、適切な判断や行動ができる力

本文書では、これらの基礎能力の中でも、特に情報システム部門において重要となるデジタルセキュリティの確保力について、具体的な対策と課題を紹介します。

 

デジタルセキュリティの確保力とは

デジタルセキュリティの確保力とは、デジタル技術の利用に伴うリスクや脅威に対処し、情報資産やシステムの安全性と信頼性を保つ力です。デジタルセキュリティの確保力を持つ人材は、以下のような特徴を備えています。

  • サイバー攻撃の脅威を正しく認識し、その影響を最小限に抑えるための対策を立案・実施できる
  • セキュリティに関する最新の知識や技術を習得し、それを自分の業務や組織に適用できる
  • セキュリティに関するポリシーやルールを策定し、それを組織全体に浸透させることができる
  • セキュリティに関する問題やインシデントが発生した場合、迅速かつ適切に対応し、その原因や教訓を分析・共有できる
  • セキュリティに関する専門家やサービスプロバイダーと協力し、効果的なセキュリティ対策を推進できる

デジタルセキュリティの確保力は、情報システム部門においてはもちろんのこと、一般業務においても重要な能力です。デジタル技術の利用が日常化する中、セキュリティに関する意識やスキルを高めることは、企業の事業継続や信頼性の向上に欠かせません。

最近では、CIOが統括する情報システム部門(IT)とCISOが統括する情報セキュリティ部門を分離する企業も増えてきましたが、本稿では、情報システム部門が情報セキュリティにも責任を持つ前提でお話しします。

 

情報システム部門におけるセキュリティ対策の推進

情報システム部門は、企業のデジタル化を支える心臓部として、その安定稼働は事業継続に不可欠です。同時に、情報システム部門は、サイバー攻撃の脅威に直面する最前線として、セキュリティ対策の重要な役割を担っています。さらに、情報システム部門は、DXリーダー人材の育成も重要な使命としています。
情報システム部門がデジタルセキュリティの確保力を高めるためには、以下の5つの観点から、具体的な対策を推進する必要があります。

  • 包括的なサイバーセキュリティリスク管理体制の構築: 経営層のリーダーシップの下、リスクの可視化と評価、明確な責任分担、継続的な改善などを中核に据えた体制構築を行う
  • サイバーセキュリティ人材の確保と育成: 自社での育成と外部からの獲得の両面で、高度な専門知識とスキルを備えた人材を確保し、その能力を最大限に活用する
  • 一般業務におけるセキュリティ意識の向上: 全従業員に対して、定期的な教育や情報共有を行い、セキュリティに関する基本的な知識と脅威への対処法を習得させる
  • 生成AIの活用によるセキュリティ対策の高度化: 大量のデータを分析し、脅威検知やインシデント対応、脆弱性診断などのセキュリティ対策を自動化・最適化する
  • 他部門との連携によるセキュリティ対策の強化: 法務部門や広報部門などと連携し、セキュリティポリシーの策定やインシデント対応などのセキュリティ対策を組織全体で推進する

以下では、これらの対策について、詳しく説明します。

 

包括的なサイバーセキュリティリスク管理体制の構築

サイバーセキュリティリスク管理体制とは、企業の規模や業種に関わらず、組織全体で取り組むべき喫緊の課題です。経営層のリーダーシップの下、以下の要素を中核に据えた体制構築が必須となります。

  • リスクの可視化と評価: 潜在的な脅威を洗い出し、その影響度や発生確率を定量的に評価することで、対策の優先順位を明確化します。
  • 明確な責任分担: セキュリティ対策に関わる役割と責任を明確に定義し、担当者間での連携を強化します。
  • 継続的な改善: 定期的なリスク評価と対策の見直しを行い、変化する脅威に柔軟に対応できる体制を維持します。

特に中小企業では、限られたリソースの中で効率的な体制構築が求められます。セキュリティ専門部署の設置が難しい場合は、既存の情報システム部門が兼務することも有効です。外部の専門家やセキュリティサービスプロバイダーの活用も、専門知識やノウハウの不足を補う有効な手段となります。

 

サイバーセキュリティ人材の確保と育成

セキュリティ対策の要となるのは、高度な専門知識とスキルを備えた人材です。しかし、セキュリティ人材の不足は深刻な問題であり、企業は自社での育成と外部からの獲得の両面で積極的に取り組む必要があります。

  • 自社育成: 社内研修やOJT、外部のトレーニングプログラムへの参加などを通じて、既存の従業員のセキュリティスキル向上を図ります。
  • 外部からの獲得: セキュリティ専門の求人サイトや転職エージェントを活用し、経験豊富な人材を積極的に採用します。
  • 外部委託: セキュリティ専門企業への業務委託も有効な手段です。ただし、委託先の選定や契約内容の精査には十分な注意が必要です。

セキュリティ人材の確保と育成には、情報システム部門のリーダーの役割が重要です。リーダーは、セキュリティ人材のニーズや能力を把握し、適切な配置や評価を行うとともに、キャリアパスや教育プランを提示し、モチベーションを高めることが求められます。

 

一般業務におけるセキュリティ意識の向上

セキュリティ対策は、一部の専門家だけの問題ではありません。全従業員がセキュリティの重要性を認識し、日々の業務の中で適切な行動をとることが不可欠です。

  • セキュリティ教育: 定期的な研修やeラーニングを通じて、従業員に基本的なセキュリティ知識と脅威への対処法を習得させます。
  • 情報共有: セキュリティに関する情報を積極的に共有し、従業員の意識向上を図ります。
  • ルール策定と遵守: パスワード管理、アクセス権限の設定、情報持ち出しの制限など、具体的なセキュリティルールを策定し、全従業員に遵守を徹底させます。

セキュリティ教育や情報共有には、情報システム部門の主導が必要です。情報システム部門は、従業員のセキュリティレベルやニーズに応じて、適切な教育内容や方法を提供するとともに、最新のセキュリティ情報や事例を定期的に共有することが求められます。

生成AIの活用によるセキュリティ対策の高度化

近年、急速な発展を遂げている生成AIは、セキュリティ分野においても革新的な可能性を秘めています。

  • 脅威検知: 大量のログデータをAIが分析し、異常なパターンや兆候を早期に検知することで、サイバー攻撃の未然防止に貢献します。
  • インシデント対応: AIが過去の事例や攻撃パターンを学習し、迅速かつ適切な対応策を提示することで、被害の拡大を防ぎます。
  • 脆弱性診断: AIがシステムやアプリケーションの脆弱性を自動的に検出し、修正案を提示することで、セキュリティレベルの向上に寄与します。

生成AIの活用は、セキュリティ対策の効率化と高度化を実現する上で、今後ますます重要な役割を果たしていくと考えられます。

 

他部門との連携によるセキュリティ対策の強化

情報セキュリティは、技術的な対策だけでは十分ではありません。セキュリティポリシーの策定やインシデント発生時の対応など、他部門との連携が不可欠です。

  • セキュリティポリシーの策定: 経営層や法務部門、人事部門などと連携し、企業のビジョンや倫理観、法令遵守などを踏まえた上で、実効性のあるセキュリティポリシーを策定します。
  • インシデント対応: 情報システム部門だけでなく、広報部門や顧客サービス部門などとも連携し、迅速かつ適切な情報開示や対応策の実施を行います。
  • セキュリティ意識の向上: 他部門との合同研修や情報共有会などを開催し、組織全体のセキュリティ意識を高めます。

他部門との連携を強化することで、情報システム部門はより効果的なセキュリティ対策を推進し、企業全体の信頼性向上に貢献することができます。

 

政策への対応

サイバーセキュリティ格付けとは

近年、サイバーセキュリティに関する事故や脅威が増加しています。これに対応するために、企業のセキュリティ対策のレベルを可視化し、投資家や顧客に分かりやすく伝えるための重要な取り組みとして、サイバーセキュリティ格付けが注目されています。
サイバーセキュリティ格付けとは、専門的な格付け機関が企業のセキュリティ対策の水準やリスクを評価し、AからFまでのアルファベットで表現することです。格付けは、セキュリティに関する法令や規制、国際基準、業界のベストプラクティスなどを参考にして行われます。
サイバーセキュリティ格付けは、企業にとって以下のメリットをもたらします。

  • 投資家に対して、セキュリティ対策に真剣に取り組んでいることをアピールできる
  • 顧客に対して、個人情報や機密情報を安全に保護していることを証明できる
  • ビジネスパートナーに対して、信頼性の高い取引相手であることを示せる
  • 内部に対して、セキュリティ対策の弱点や改善点を把握し、効果的な対策を実施できる

 

情報システム部門としては、以下の対応が求められます。

  • セキュリティ対策の現状を把握する: 自社のセキュリティ対策の現状を把握し、格付け基準を満たしているかどうかを確認する必要があります。
  • 対策を強化する: 格付け基準を満たしていない場合は、対策を強化する必要があり>ます。具体的には、セキュリティ人材の育成、セキュリティ製品の導入、セキュリティポリシーの策定などが考えられます。
  • 格付け機関と連携する: 格付け機関と連携し、格付け基準を理解し、対策を講じる必要があります。

情報システム部門は、これらの対応を通じて、企業のサイバーセキュリティレベルを向上させ、格付けで高い評価を得るように努める必要があります。

 

おわりに

本記事では、情報システム部門におけるセキュリティ対策のポイントを紹介しました。セキュリティ対策は、組織全体で取り組むべき重要な課題です。情報システム部門の皆さんは、自らの役割と責任を認識し、最新の技術や知識を身につけ、他部門との連携を図りながら、セキュリティ対策の推進に努めてください。また、他部門の皆さんも、情報システム部門と協力し、セキュリティ意識を高め、適切な行動をとってください。企業のセキュリティは、皆さんの力で守ることができます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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筆者紹介

佐々木 豊(ささき ゆたか)

一橋大学商学部にて国際企業戦略を専攻。
NTTDATAに入社し、主として米国企業への投資や管理等を担当。
その後、データセンターコンサルティング企業の代表に就任し、業界団体の立ち上げ、運営に携わる。
同社からNTT東日本、NTTコミュニケーションズ(当時)に移り、データセンタービジネスの企画実施に取り組む。
2017年に合同会社SEEKERを設立し、現在に至る。
https://www.seeker.ventures/

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