DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力㉝

第33回 “生成AI時代”の社内IT運用:システム管理者が果たすべき5つの新たな役割と、超知性時代への備え

概要

「DXリーダー人材を育成するために必要な5つの基礎能力」で紹介した内容について、 DX推進する上で欠かせない知識とマインドを8人の専門家がお伝えします。

 

目次
生成AIは“使うだけ”では意味がない:IT部門が考えるべき本質
社内展開を阻む“3つの壁”:ユーザーと経営層の誤解を解く
システム管理者が“翻訳者”になる時代
業務に“生成AIネイティブ”を根づかせる導入ステップ
AIは人間の創造性を奪うのか:システム管理者が理解し、警笛を鳴らすべき本質
10年後、AGIと共に働く未来に備える:「超知性」時代への招待

生成AIは“使うだけ”では意味がない:IT部門が考えるべき本質

ChatGPTをはじめとする生成AI(Generative AI、以下GAI)の登場により、文章やコード、画像、データ分析までも自動生成されるようになりました。かつては人間の手によってしか成し得なかった高度な知的作業が、今では短時間で処理可能となっています。しかし、社内導入の現場でよく見かけるのは、「使ってみたけど活用されなかった」「便利だが業務に結びつかない」といった声です。
その原因の多くは、GAIの導入を単なる”便利なツール”と捉え、業務全体の再設計やナレッジ管理の構造設計まで踏み込めていないことにあります。単にAIを活用するのではなく、それを業務や組織全体の中で“どう位置づけるか”という文脈設計こそが重要です。
情報システム部門が本当に注力すべきは、GAIを使う表面的なスキルではなく、GAIの能力を引き出し、組織の意思決定や業務変革に貢献するための“情報設計力”と“運用設計力”です。例えば「問い合わせ対応の自動化」を実現する場合、FAQの構造設計、ナレッジの分類と精査、ガバナンス設計、利用ログの蓄積と分析まで一貫して設計する必要があります。
システム管理者は、GAIを単なる実験や一時的な取り組みで終わらせず、社内で「意味ある変革」として定着させる仕組み作りを担う、中心的存在であるべきです。

 

社内展開を阻む“3つの壁”:ユーザーと経営層の誤解を解く

生成AIの活用はテクノロジーの話にとどまりません。組織文化や人材スキル、マネジメントの理解が伴わなければ、GAIは「期待外れの投資」に終わる可能性があります。とくに、以下の“3つの壁”は現場でよく見られる障害です。
(1) セキュリティの壁:GAIに社内データを入力した際に、情報漏洩のリスクがあるのではという懸念は多くの企業で見受けられます。確かに外部のパブリックサービスではリスクはありますが、オンプレミスやローカルLLM、セキュリティ制御可能なクラウドAIなど、代替手段は豊富に存在します。
(2) 理解不足の壁:経営層や現場ユーザーが、GAIを「なんでもできる魔法の箱」と勘違いしてしまい、現実とのギャップに失望するケースもあります。GAIはあくまで予測ベースの生成装置であり、正解を返す保証はありません。その前提を共有することが重要です。
(3) 学習コストの壁:新しい技術の導入において、日常業務に追われる社員が新たなツールを学ぶ時間を取れないことも障壁になります。学び方や活用法が定義されていないまま放置されれば、ツールが使われなくなるのは時間の問題です。
こうした壁を乗り越えるためには、IT部門が全社に対して“通訳者”として働きかける必要があります。適切な例示、成功事例の共有、FAQの整備、リスクベースでの説明が、誤解を解き、導入を加速させる鍵になります。

 

システム管理者が“翻訳者”になる時代

かつてシステム管理者といえば、ネットワークやインフラの運用、トラブル対応など、裏方としての役割が中心でした。しかし今、その役割は大きく変わりつつあります。GAIの導入は、業務そのものを再定義するような変化をもたらし、IT部門は「技術を業務成果に変える翻訳者」としての力を問われるようになっています。
GAIで何ができるのか、どこまで任せられるのか、どのように業務と接続するのか。この問いに答えられるのは、技術と業務の両方を理解している情報システム部門の人間だけです。
例えば、文章生成機能を使って報告書を作成する場合でも、そのまま出力を使えば済むというものではありません。社内の文体ルール、情報の正確性、適切な表現など、ヒューマンレビューが必要です。こうしたプロセス全体を設計・管理することが、GAI時代における“情報の翻訳力”です。
これからのシステム管理者には、ビジネス部門との共創が求められ、単なる”ツール管理者”から”文脈デザイナー”へと進化することが求められます。

 

業務に“生成AIネイティブ”を根づかせる導入ステップ

生成AIを現場に定着させるためには、段階的かつ柔軟な導入が不可欠です。一度に全社導入を狙うのではなく、小さな成功から始めて、フィードバックと改善を重ねながらスケールアップする「スモールスタート×エビデンス主義」が最適です。
(1) PoC(概念実証)フェーズ:まずは小規模な業務で試験運用し、効果と課題を明らかにします。例:議事録の自動生成や契約書ドラフト作成。
(2) 業務適用フェーズ:PoCで得た知見をもとに、特定業務への正式な導入を進めます。ツール選定、ワークフロー統合、役割分担の明確化がポイントです。
(3) 制度設計フェーズ:ツールを定着させるには、社内規定やルールの整備が不可欠です。プロンプトのテンプレート化、検証プロセスの設計、利用履歴のログ管理が求められます。
(4) 教育・展開フェーズ:最後に、全社への展開と継続的な教育です。eラーニングや社内セミナー、ヘルプチャットの整備など、全員が“生成AIネイティブ”になれる環境を作ります。
この4段階を設計し、運用のPDCAを回し続けるのが情報システム部門のリーダーシップです。

 

AIは人間の創造性を奪うのか:システム管理者が理解し、警笛を鳴らすべき本質

GAIが生み出す成果物は、確かに早くて便利で、ビジネスの現場では非常に役立つものです。しかしその裏で、ユーザー自身が「考えなくなる」リスクが静かに広がっています。なぜなら、人は便利さに慣れると、本来発揮すべき創造力を使わなくなるからです。
特に若手社員にとっては「最初の壁」である、自分で考え、悩み、表現するというプロセスを経験する機会が減っていきます。それは、育成や成長の機会が失われることと同義です。AIが答えを出してくれる世界では、自分で考える意味を見失いやすくなります。
このような危機に対し、システム管理者こそが「技術の提供者」であると同時に「創造力の守り人」として、社内に警鐘を鳴らすべき立場にあります。何をAIに任せ、何を人間が担うべきか。その線引きとルール設計に、IT部門の意志と哲学が必要です。
GAIを賢く使いこなすには、むしろ人間の“考える力”と“問いを立てる力”が前提になります。AIが創造性を拡張する道具になるか、それとも創造性を奪う脅威になるか。それを決めるのは、使う人間の姿勢に他なりません。

 

10年後、AGIと共に働く未来に備える:「超知性」時代への招待

生成AI(GAI)は現在のビジネス変革に強力な影響を及ぼしていますが、その先にあるのがAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)です。これは、人間のように複数の知的タスクを横断的に処理できる知能を指し、さらにその先にはASI(Artificial Super Intelligence:超知能)が控えています。
ASIは、人間の知的能力を大きく上回り、科学・芸術・経済・政治などあらゆる分野での革新を可能にする存在とされており、2035年頃にこの「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れるとも言われています。
この未来はもはやSFではなく、現実的なビジョンです。だからこそ、我々は今から「AIと共にどう働くか」「どんな役割を担うべきか」を見据える必要があります。単にAIを使う人から、AIと協働し、共に成果を出す人材へと進化する時代です。
その準備として、IoT検定制度委員会では『超知性ASI検定』**を新たに立ち上げました。これは、未来社会で求められる知的スキルや倫理観、創造力を測るための新しい枠組みです。
まだ存在しない未来を見据え、共に学び、共に築く。その意志が、10年後の組織を分ける最大のカギとなるでしょう。

▶ 超知性ASI検定はこちら、ぜひチャレンジしてください。

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筆者紹介

近森 満(ちかもり みつる)
DX時代の人材育成・教育支援を行う株式会社サートプロ代表取締役CEOとして、IoT検定制度委員会 事務局長、経済産業省地方版IoT推進ラボ・メンターとして、中小企業・製造業向けにIoT人材育成の啓蒙活動を行う。

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